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9時から5時まで?

資料出所:National Institute for Occupational Safety and Health(NIOSH)発行
「NORA News」
Volume 10 Winter 2005 p.2-3

(仮訳 国際安全衛生センター)


交代制勤務と時間外労働を検討

 アン・フェルドマンは朝、7時15分に家を出る。勤めている大手保険会社の就業時刻の9時までに職場に着くためだ。ハイウェイは常に交通渋滞で車は遅々として進まず、毎日の40マイルの通勤は大仕事だ。10時間後、彼女は再び渋滞のなかを帰宅。今度の組織再編を心配する同僚たちからの電子メールに返事を出すうちに、夜が更けていく。こうして金曜日には、すっかり疲労困憊となるのである。

 通信機器の発達や、生産性向上を促すプレッシャーの高まり、そのうえうんざりするような通勤や長時間の交代制勤務によって、労働者の多くは、以前より高度な仕事と、より長い勤務時間が求められるようになってきている。米国の平均的な夫婦が職場で過ごす時間は、年間で700時間増えており、これは日本や西ヨーロッパをもはるかに上回っている。労働時間が長いだけではない。医療関係や警備関係、24時間稼動の製造業や交通機関、サービス業などでは、多くの人が夜間勤務についている。

 そこでNORAの長時間労働チーム(Long Working Hours team)は、このようなきつい勤務体制が健康や安全に与える影響への理解を深めるため、メリーランド大学と提携し、<長時間労働、安全、そして健康:全国的調査事項について(Long Working Hours, Safety and Health: Toward a National Research Agenda)>を開催した。2004年の4月29日と30日の両日、メリーランドのボルチモアで行われたこの会議では、長時間労働が健康や社会、そして経済にどのような影響を与えるかが話し合われた。JAMAは2004年7月7日号でこの会議の様子を報じており、2005年の会議では事務局が会議の論文を発表する予定だ。

 NORAの会議が開催されたのと同じ頃、NIOSHは、『時間外労働と長時間の交代制勤務(Overtime and Extended Work Shifts)』を出版した。これは、長時間労働および、疾病や傷害、健康にかかわる行動と業績との関係を調査した52の最新報告書をNIOSHが論評したものだ。研究者たちは、もっと多くの調査をしないと確定的なことは言えないとしているが、これまでの調査結果は、長時間労働には懸念を抱くにじゅうぶんな理由があることを示唆している。

長時間労働が安全と衛生に与える影響

 NIOSHの論評は、労働者自身が感じる不健康度や、傷害率、疾病率、死亡率の上昇と時間外労働のあいだには関連性があることを示している。また、12時間労働の二交代制に、高温の労働環境や、膨大な仕事量、あるいは早朝の就業時間、といった条件が組み合わされた場合も、労働者たちの病気は増え、業績も作業ペースも落ちる傾向にある。職場でのミスや事故は、眠ることのできなかった夜に増えるため、前回の調査では、労働者のなかでも交代制勤務で働く者たちにとりわけそのような影響が出やすいことが明らかになっている。

生体時計と睡眠の必要性

 正看護師の資格も持つNIOSHの研究者、クレア・カルーソ博士によれば、勤務スケジュールが健康や安全性に与える影響を理解するには、まず人間の生体時計と睡眠に関する基礎科学を知る必要があるという。「生体時計について科学的にわかっていることから言えば、人間とはもともと昼間に活動をする生き物であり、私たちの体は、日中に活動し、夜間は眠るようにできているのです」と、博士は語る。

 人間のからだは毎日、「睡眠と起床の周期や、体温やホルモンのリズムなど、さまざまなリズム」を絶妙に「調和」させている。からだは、日の出や日没といった外部からの合図に反応して、これらのリズムを調和させているのだ。このような24時間周期のリズムによって、私たちは、朝になると目覚め、活動や食事の準備をし、夜になると眠りにつく。しかし、仕事で夜間に活動をしなければならない場合、その勤務スケジュールは人間の生理と逆行するため、それが疲労や、傷害や、仕事に対する満足度の低下につながる、とカルーソ博士は語る。

 睡眠もまた、勤務スケジュールを考えるうえでは重要だ。人間の体は寝ている間に、悪いところを修復し、病原体と戦い、日中に学習したことを記憶に刻み付けるといった重要な仕事を行っているため、そのような仕事を片付けるには十分な睡眠が必要だからだ。労働時間が長いと、睡眠時間が限られてしまうために睡眠不足となり、それが安全上のリスクや衛生上のリスクにつながることになる。

 「<やる気>の問題ではありません。やる気だけで解決するような問題ではないのです」と、カルーソ博士は説明する。「ですから私たちは、勤務スケジュールと生理機能の矛盾を認識し、社会のニーズを満たしつつ、睡眠や休息に対する人間の基本的ニーズと矛盾しないように、勤務体制を組み立てる方法を考えなければなりません」

 NIOSH ストレス・ページ(NIOSH Stress Page)には、長時間労働の調査に関する詳しい情報が紹介されている。詳しくは、http://www.cdc.gov/niosh/topics/stressを参照。

 チームについてもっと知りたい方は、NORAのウェブサイトhttp://www2a.cdc.gov/noraで、Organization of Work Teamをクリックしてください。

アドバイス

 国立労働安全衛生研究所(NIOSH)は、健康や安全性へのリスクを考慮し、交代制勤務に代わる勤務体制を考えるよう推奨している。NIOSHの発行する出版物、『Plain Language about Shift Work(交代制勤務について)』は、交代制勤務がどうしても必要な場合の対応策として、以下のような提案を行っている。

  • 連続夜勤は最低限に抑える:連続の夜勤は2日から4日に抑え、その後は2〜3日の休みをとるべきだ、と主張する研究者もいる。そうすれば、サーカディアンリズム(概日リズム)を大幅に乱さずにすむうえ、睡眠不足も抑えることができる。

  • 急なシフト変更は避ける:研究によれば、早朝勤務から夜勤に切り替えるときは、その間に24時間から48時間の休息をとる必要があるという。シフトとシフトの間隔が10時間に満たない場合、ほとんどの労働者は極度の疲れと眠気を感じる。

  • 仕事のない週末をつくる:週7日間勤務が必要な場合は、毎月1度か2度はまるまる休める週末をつくり、労働者が家族や友人と過ごせるようにする。

  • 数日間の連続勤務後に、4日から7日の「ミニ休暇」をとる、といった勤務体制は避ける:数日間連続で働き、その後の数日間は非番、という勤務体制は疲れるし、年配の労働者には特に疲労がたまる。

  • シフトごとに勤務時間を変えることを検討する:勤務時間と仕事量の調整を心がける。きつい肉体労働や頭脳労働、あるいは単調で退屈な作業は、夜間のほうが日中よりも体への負担が大きい

  • 始業時間と終業時間を検討する:育児中の人や、通勤時間が長い人にとっては、始業・終業時間に融通がきく<フレックスタイム>が便利である。始業・終業時間をラッシュアワーからずらすことを検討してみること。しかし、早朝勤務の場合は、睡眠時間を切りつめてしまいがちなため、午前の始業時間が早すぎないように(朝の5時や6時にならないように)注意すること。

  • 休憩を見直す:ランチタイムやコーヒーブレークといった標準的な休憩では、疲労が十分に回復しないこともある。反復的な肉体労働や、極度の集中力を要する仕事での筋肉の疲労をとるには1時間ごとに短い休憩をとるのが一番である。


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