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強力、公正、効果的な監督指導

(資料出所:OSHAホームページ
Job Safety & Health Quarterly (JSHQ) Volume 14 Number 2 Winter 2003
(仮訳:国際安全衛生センター)
原文(英語)はこちら


OSHAの監督官は監督する事業場数を増加し、多くの危険を特定して、
職場環境をより安全で衛生的なものとする取り組みを続けている。

ドナ・マイルズ(Donna Miles)

 強力、公正で、効果的な安全監督指導。これは労働安全衛生面でOSHAが全米の産業を指導するにあたってジョン・ヘンショー(John Henshaw)長官が提唱する3つの戦略のうちのひとつで、その第1が「OSHAの行動理念の基盤となるもの」と主張する提言である。

 ヘンショーは、事業者が労働者の安全衛生を自発的に保護することを推進する共同プログラムを強く支持するが、共同プログラムだけでは全ての事業者に効果があるわけではないことを彼は認識している。昨秋の全米安全大会(National Safety Congress)においてヘンショーは、「監督を実施して、事業者の注意を喚起する必要がある場合は、我々は今後そのように取り組んでいく。」と語っている。

監督事業場数の増加、効果的な目標を設定

 OSHAは次のような安全監督実施対策を強く推進している。すなわち、さらに多くの事業場で監督を実施し、さらに多くの危険事例を特定し、特定の職種や危険に目標を定めた全米規模または地域ごとの重点プログラムを幅広く実施することである。

 OSHA計画推進局長リチャード・フェアファックス(Richard Fairfax)によると、2002年会計年度には、OSHAの安全衛生監督官約1,100人が36,400の事業場監督を実施する予定としていたが、実際の監督数はその目標を1,000以上も上回った。今会計年度ではさらに増やし、37,720件を予定しているという。

 フェアファックスは、「OSHAはもっと多く監督を実施できる。なぜなら、我々が必要と考える事業場に目標を絞り、もっとも重大な危険に注視して監督をより効率的に実施しているからだ」と語っている。

 一般産業の特定事業場に目標を定める(site-specific targeting : SST)監督プログラムにより、負傷・疾病発生率の最も高い事業場に絞って監督官がその時間とエネルギーを投入することができるとフェアファックスはみている。彼は、「このプログラムによって、労働者が負傷するような、危険度が最も高い職場にOSHAは資源を集中投入できるようになる」と語っている。

 SSTプログラムには別の長所があるとフェアファックスは語る。毎年、労働災害発生率の最も高い13,000の事業場にOSHAが是正勧告書を送付すると、その直後に多数の企業がOSHA後援の監督相談事務所に相談の電話をかけてくる。フェアファックスは、「事業者の多くが是正勧告書を重視し、職場環境の見直しを始めていることは明らかである」としている。

 「ときにはこのような事業者から、『労働災害発生率がこんなに高いことに気づいていなかった。是正勧告書をもらってそのことに気づき、何らかの対処を講じることができた。OSHAに感謝したい』という書状を実際に受けている。」

 ヘンショーは10月の全米安全大会で、OSHAは、OSHAの強力な指導が必要であると考えている建設業に対して同様の目標絞り込み方式による監督の実施を考えていることを明らかにした。

 OSHA建設業局は米国の大手建設業の約14,000社に、労働災害データを提出させるために依頼通知を送付した。H・ベリーン・ゼットラー(H. Berrien Zettler)建設業局次長によると、OSHAは提出されたデータから企業を災害発生率の高低でランク付けし、発生率の高い企業を特定することで、特定した企業へさらに集中して監督を実施する予定である。ゼットラーによると、来年はこの建設業に対するデータ収集の範囲を25,000企業にまで広げる予定であるという。

 一方、OSHAのプログラムに則した安全衛生監督 −−− 申告、照会、死亡事故などにより実施するのではない監督 −−− は、OSHAの戦略プランまたは全米規模・地域ごとの重点プログラムで規定されている特定危険または危険性の高い産業に集中して実施されている。一般産業で監督が集中しているものは、珪肺、身体の一部損傷事故、および鉛中毒災害、ならびに造船所、食品工場、および老人ホームなどの養護施設で、これらが監督対象の60%以上を占めている。建設業で監督が集中しているものは、鉛中毒災害、珪肺、土砂崩壊災害、ドッジ・レポート(Dodge Reports:全米現役建設事業場調査)に規定されている建設事業場からランダムに選定された事業場、ならびに地域ごとの重点企業および主要企業で、これらが監督対象の70%以上を占めている。

 監督対象の絞り込み戦略は、奏功しつつあるように見られる。2002年会計年度にOSHA監督官が確認した安全衛生違反は78,000件以上にのぼった。安全衛生違反があった事業場では、違反に対する勧告の75%が重大違反、繰り返し違反、または、故意の違反であった。フェアファックスは次のように語っている。「これで、我々は正しい方向に進んでおり、絞り込み作戦が正しいことがわかった。我々は効率的な監督を行っているということだ。重大な違反がもし見つからないとすれば、それはOSHAの絞り込み方法が誤っているということだろう。」

 26の州では、OSHA認可の安全衛生プランに基づいた独自の監督を実施している。2002年会計年度に実施された58,000以上の監督で、州監督官は144,000以上の安全衛生違反を指摘し、その43%は故意の違反、繰り返し違反、重大違反のいずれかであった。

 昨年の連邦OSHAの監督で最も多く是正勧告書が発行された安全衛生違反は、当然とも思える結果だが、建築事業場の足場、危険・有害性の周知徹底、墜落・転落防止、呼吸器の保護、ロックアウト/タグアウトの手順にかかわるものであった。これらと同様の違反がOSHAの過去5年間の違反リストの上位を占めてきた事実をフェアファックスは気にしてはいない。「OSHAの監督官が事業場で公正に監督指導を実施している証拠だ。つまり、手続き違反ではなく、重大な労働災害の原因となる安全衛生違反に注目しているということだ。」と彼は語った。

職業意識

2002年会計年度のOSHAの監督実施活動

連邦* *
監督総数 37,493 58,402
安全監督 29,463 45,638
衛生監督 8,030 12,764
プログラム外の監督 16,982 23,050
プログラムに則した監督 20,511 35,350
建設現場監督 21,347 27,539
造船所監督 360 44
製造業現場監督 8,270 11,116
勧告書を発行した違反 78,433 144,048
勧告書を発行した重大違反 54,842 59,417
* OSHA認可の安全衛生プランに準拠する26州と準州

 常に変化し続ける事業場の状況と産業慣例に遅れまいと、OSHAの監督官が躍起になっていることをフェアファクスは認めている。変化する技術や慣習に監督当官が追いつけるように、地方行政長官の多くは毎年2週間以上、OSHAの研修機関(OSHA Training Institute : OTI)、教育センター(Education Centers)、その他の研修施設での研修を監督担当官に受講させている。さらに、すべての安全問題の専門職員は産業衛生学に通じ、逆にすべての産業衛生の専門職員は安全問題に通じるよう研修を受けている。

 フェアファックス自身も認定インダストリアル・ハイジニストであるが、彼はOSHA内の認定専門職、特に安全衛生分野での認定職数を増やすべきであるというヘンショーの提案を強く擁護している。フェアファックスは次のように語っている。「監督官にとって専門的資格を有することは、より世間に認められ、信頼を得ることにつながるので、真にプラスとなることと思う。」

 「つらいが、がんばらねばならない。監督官の仕事は厳しいものだ。監督官が職場にいることをたいていの事業者は実際は疎ましく思っているものだが、監督官は、一日中、彼らと一緒に仕事をする。専門の認定書があれば、監督官はその専門性に対する外部組織からの認定証明を携えて監督事業場に入っていくことができる。彼が自分の指導内容をよく理解しており、現状を変えられるということを実証できる格好の武器だ」とフェアファックスは語っている。

OSHAの影響力拡大

 フェアファックスは、監督官が訪問先事業場でもっと効果を上げる---単に危険を特定するだけではなく、事業者が危険を低減し、解消するのを支援する---ことを期待していると語っている。「OSHAの監督官は多くの事業場を見ているので、職場の安全衛生を推進するのに何が効果的な対策で何がそうでないか、よくわかっている。監督官が事業者の法令の遵守に力を貸し、その専門技術を教えることを通じて、危険の低減にもっと力を入れてほしい。監督官は安全衛生プログラムを検討し、事業者を指導することができる。監督官は何が効果的に働くかを承知している。彼らの専門知識をもっと多くの事業者に活用してほしい」

 フェアファックスは、OSHAの監督数を増やす方策と、絞り込み戦略の改善の方法を常に考えていると語るが、OSHAが新たに重点を置く共同プログラムについては高く評価している。「これら共同プログラムは、OSHAの監督プログラムと協調して効果を発揮するものだ。どちらか一方だけの実施では良い結果は得られない」

 「安全衛生改善の取り組みの基礎となる監督を実施することで、事業者が労働者保護のための必要処置を講じられるようにしなければならない。しかし、すべての事業場を監督することは不可能であるから、監督の実施だけでは効果はない」

 「OSHAと協力して安全衛生改善に取り組もうとする事業者がいる職場では、OSHAはその事業場に監督に行くのではなく、安全衛生職場をつくるために事業者がすることを手助けするために行くべきだ。」

 全米安全大会の演説で聴衆を前にして、ヘンショーは、より適切な絞り込み監督の実施とは、すなわち適切な事業場に赴くということに限定されず、適切な教訓をOSHAが与えるということを具体的に示しているのであると語った。「我々の目的は、事業場を訪問し、勧告書を発行して罰金を国庫に貯めることではない。我々の仕事は、必要な場所に改善をもたらし、安全衛生職場を確保することである」

建設業における監督の実施

 建設事業場は絶えず変化し続ける作業環境である。プロジェクトの進行段階によって、今日特定されている危険は、先月特定され、または来週特定されるものとは異なることもある。プロジェクトの進行に伴い、異なる下請業者が出入りする。

 H・ベリーン・ゼットラー(H. Berrien Zettler)OSHA建設業局次長によると、OSHA監督官はそのときどきで進行中の無数の建設プロジェクトへの監督の実施に手一杯の状態となっている。

 ゼットラーによると、問題をいっそう大きくする要因は、全建設業者の約85%はその従業員数が11人以下であるため、労働災害記録の保管が義務付けられていないということである。さらには、従業員数が11人を越える建設業者は、単に自社が請け負ったプロジェクトで生じ、自社がかかわる労働災害のみを記録している。個々の建設業者が自社独自の記録を別々に保管しているため、1つの建設プロジェクトで発生した労働災害のすべてを網羅する集中記録簿が存在しない。

 建設業を対象とした絞り込み監督は、その他の産業のように簡単には進められないかもしれないが、ゼットラーは、「OSHAにとって絞り込み監督は、監督実施のための資源を最も有効利用するために重要である。建設業は労働災害発生の高さから見ると農業、鉱業に次ぎ、第3番目の水準にある。また、死亡率は非常に高い」と語っている。

 「結論は、我々OSHAが引き続き建設事業場を訪れ、危険を特定し、労働者を保護する手助けをしなければならないということだ。我々の目標は勧告書を発行することではない。人の命を救うことだ」とゼットラーは語った。