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リスクを有する特定集団

資料出所:National Institute for Occupational Safety and Health(NIOSH)発行
「NORA(National Occupational Research Agenda) news」
Volume 6, Spring 2003 page 1 - 4
(仮訳 国際安全衛生センター)


1996年、NIOSHと500以上の関係者・関係団体がNational Occupational Research Agenda(NORA)(国家職業研究課題)を制定した。これは、高いリスクを有する分野を優先的に研究することに的を絞った、労働安全衛生に向けての努力を導く枠組みである。NORAには、外傷、喘息及び慢性閉塞性肺疾患(COPD)、混合暴露、並びに規制技術などの21の最優先分野が含まれている。これらの最優先分野は、NIOSHの政府、又は非政府関係者の広範囲に渡る協力を得て認められた。1996年以来、NIOSHは、NORA最優先分野への出資を増やすために内外ともに、一致協力して研究を行っている。

リスクを有する特定集団

労働力は、過去20年間大きく変化した。その人口統計学上の構成は、人口構成と労働力参入率の変化により、いろいろな人口層に渡り変化し続けている。例えば、

  • 2010年には、労働力のかなりの割合が46から64才の年齢層になるであろう。中高年労働者は、高い死亡率、高い負傷率、そして負傷後の長い回復期間に見舞われるかもしれない。
  • 若年労働者は、労働市場に参入し続けるだろう。彼らの仕事上の知識、トレーニング、技術はしばしば未熟であるため、作業関連の負傷の危険性が高い。アメリカでは、毎年約70人の10代の若者が業務上の負傷で死亡しており、約77,000人が病院の緊急治療室に運ばれるほどの重症を負っている。
  • ほとんど全ての年齢層において、女性の労働力参入率は増す見通しである。女性の労働力はさらに急速に増えており、2000年の47%から、2010年には、48%になるであろう。女性は、又、低賃金労働の大部分(59%)を占めている。
  • アジア人・ヒスパニック・アフリカ系アメリカ人の参入により、労働力は益々多様化するであろう。
最新の人口調査によると、2000年、労働力の6%が1990年代に移住した外国生まれの労働者によって構成されていた。これらの労働者は、傷病率がより高い低賃金の仕事や産業にかたよって従事している。

 死亡に関する労働統計局の年間レポートによると、死亡総数は2000年には低くなったが、ラテン系アメリカ人労働者の死亡数は、1999年の730人から、2000年には815人とかなり増加した。この死亡者の増加は、ラテン系アメリカ人労働者を含む建設業における死亡者が24%増加したことによるものである。

チームリーダー

Sherry Baron, MD, MPH
 学内の共同チームリーダー

Rosemary Sokas, MD, MOH
学外の共同チームリーダー

Baron博士は、クリーブランドのCase Western Reserve大学医学部を卒業、イリノイ州立大シカゴ校公衆衛生大学院で修士号を受けた産業医です。彼女は、過去15年間に渡りNIOSHの健康有害要因評価プログラム(Health Hazard Evaluation Program)のために働き、労働衛生研究プログラム作成に関しメキシコ政府機関との仕事に2年を費やした。最近の研究の関心は、移民労働者の安全衛生問題である。

「国内の仕事・労働力における急速な変化は、労働衛生の研究者にとり新鮮で刺激的な挑戦であります。このチームは、これらの問題に取り組む研究者達に新しいアイデア、情報、アプローチを提供しています。」と彼女は述べている。
Sokas博士は、イリノイ州立大シカゴ校公衆衛生大学院の環境・労働衛生科学部門の部長である。
彼女は、ボストン大学の医学部を卒業し、ハーバード公衆衛生大学院で修士号を受けた。プエルトリコのラスマリアスにあるLas Marias Migrant Health Center とニューヨークのDr. Martin Luther King Jr. Health Centerにて、プライマリーケアを実践した。最近では、NIOSHの診療所長(Lead Medical officer)と科学部門の副部長(Associate Director)の職にあった。

「私は、日頃からチームメンバーの専門性と彼らがもたらす情熱に目を奪われています。一つ一つのミーティングは、統一され集中した努力により他とは明確な違いを出すことができるようなアイデアの強化に役立っています。」と彼女は述べている。


NORAの、リスクを有する特定集団を調査するチーム(NORA Special Populations at Risk Team)は、職場で負傷・疾病の高い危険性に暴露されている可能性のある労働人口に関する調査を進めている。これらの特定集団は、年齢・性・人種・障害・教育・言語・識字能力・文化・収入・国籍・市民権を含む生物学的、社会的、あるいは経済的特性によって定められる。チームは、NIOSHの研究者並びに外部の学問上のパートナー・州の衛生部門・労働組合・支持団体・国際衛生機関・及びその他の政府機関からのメンバーで構成されている。過去において、研究が不十分であったグループを調査し、効果的な防止介入策を研究することを目的としている。

非常に多くの人々が不利な状況にあり、彼らの必要性に応じることはやりがいのあることであるとチームは考えている。中高年労働者と移民労働者が必要としている調査に関し、この2グループの資料を含む、特定の人々に的を絞った結果を出すように進めている。その資料により、これらの労働者が雇用されている場所、彼ら特有の安全衛生に対する必要性、最も適切な研究方法を議論する。

チームは、たとえば社会疫学的調査において特定の人々こそ重要であるという事を強調するような、様々なグループの調査を容易にする、分野を越えたアプローチのしかたを考えている。メンバーは、多種多様な人々の労働問題を比較する上で役立つ調査手段の確立方法を討議している。NIOSHが資金を提供したUniversity of Massachusetts Lowellにおける研究は、労働衛生調査において、差別、調和のとれた家族や仕事、及び人種差別問題を一体化して調査する方法を模索している。調査ツールの概要は、調査結果から公表されることが期待されている。グループは、調和のとれた仕事・家庭生活、健康と幸福がもたらす影響(特に低賃金労働者にとって)に関する会議を、国立衛生研究所(National Institute of Health : NIH)と協力して開催する計画だ。


中高年労働者

新しい協力関係


NIOSHは、中高年労働者を取り巻く固定観念を取り除くことに役立つ調査を行うために、Experience Worksとの協力関係を検討している。Experience Worksは、熟年労働者達にトレーニングと雇用サービスを提供する国立の非営利組織である。1965年にGreen Thumbとして設立され、2002年にExperience Worksと改名し、毎年、50州とプエルトリコの熟年者125,000人以上に手をさし伸べている。グループは、働くことは健康と長寿に良い影響を与えるという考えを提唱しており、協力可能なアイデアには、最優良事例を特定するために事業主に協力する企画、中高年労働力に関するシンポジウムの開催、合同の公的サービスの案内などが挙げられる。

優れた高齢労働者

Ed Burroughs(77才)は、ニューメキシコ州 Albuquerqueにある建設会社Sundance Mechanical & Utility Corpの安全部長であり、Experience Works' 2002年の優れた高齢労働者賞の受賞者である。Burroughs氏は、約140名の労働者の安全プログラム責任者であり、そのプログラムは、掘削、シリカ暴露、有害な騒音、閉塞空間での作業に対処するものである。毎週行われる安全会議は、労働力の25〜30%を占める会社のヒスパニック系労働者に対応できるように、英語だけでなくスペイン語でも行われる。Burroughs氏は、NIOSHの出版物や資料が、労働者に効果的に手をさしのべるための主な情報源であるとしており、NIOSHは、優れたアイデアや事実に基づく事例を提供してくれると言っている。彼は、スペイン語による資料がさらに充実する事を期待している。



仕事、加齢、認知能力に関する新たな研究

国立高齢化研究所(National Institute of Aging : NIA)は、加齢による変化は、技術とうまく付き合うにあたり、高齢者の能力にどのように影響するかということに関し、3つの大学で研究を行っている。この研究の一環として、作業上の記憶、空間技能、一般的な健康情報、人口統計学上のデータを記録するために、約1,500人の参加者に"core battery"と呼ばれる研究が行われている。NIAの協力を得て、NIOSHは、この"core battery"に追加する補足部分を作成するために、さらに資金援助を行った。この補足は、職歴、仕事の性質、仕事で使用する技術に関する調査で、これから得たデータにより、認識力と健康状態における年齢による損失と職業・産業上のデータとを結びつける機会をNIOSHは得るであろう。

研究の第2段階は、高齢労働者が、技術の使用を要求される仕事をどのように行うかを調査する。たとえば、参加者がコンピューター上で一連の問いに答えるというシミュレーションを通して、在宅勤務が研究されている。調査結果は、自己報告と実績評価である。研究から得た結果は、技術に基づいた仕事を、いかに高齢労働者の作業を容易にしストレスを減らすようにデザインできるかという事に関し、より深い理解を与えるだろう。


少数民族の労働者

農場経営者

白人の農場労働者に比べ、様々な人種や少数民族の農場労働者にはあまり一般的でない疾病がある一方、逆に彼らの間により広く蔓延している疾病もあるということが、NIOSHの最近の研究により明らかになった。
2002年11月に開催されたアメリカ公衆衛生協会年次大会(American Public Health Association's Annual Meeting)で、NIOSHとアメリカ農務省(USDA)国立農業統計サービス(National Agricultural Statistics Service)によって行われた調査結果が報告された。この調査は、農業に関するUSDAの人口調査から抜き出したものを使用した。この研究は初めて、性別、人種、民族的背景による農場労働者の健康状態の分析のための膨大なデータを、研究者に提供している。

研究結果

  • 白人や非ヒスパニック農場労働者に比べ、糖尿病を除く健康問題を報告したヒスパニック農場労働者は少数であった。より多くのヒスパニック系の男女が糖尿病に罹患していることが報告された。
  • 白人農場労働者に比べ、男女とも糖尿病と女性の皮膚炎を除く健康問題を報告したアジア系アメリカ人農場労働者は少数であった。アジア系アメリカ人の多くが、糖尿病と皮膚炎に罹患していると報告されたが、統計的に深刻な割合ではなかった。
  • 白人農場労働者に比べ、アフリカ系アメリカ人農場労働者は、性別・健康問題のタイプによって多種に渡る健康問題を報告した。
  • 白人農場労働者に比べ、アメリカインディアンとアラスカ先住民族の農場労働者は、呼吸器疾患、高血圧、糖尿病により高い罹患率を示した。彼らの多くが、筋骨格系障害にも罹患していることを報告した。

研究は、上記に加えて、これら職種の多種多様な疾病が職業に起因するものかどうかを決定し、増え続ける少数民族・女性農場労働者の安全衛生を守る方法を決定するために、的を絞ったさらなる調査が必要な分野を示している。

新規の出版物

NIOSHは、農場労働者を腰部の傷害(back injuries)やその他の筋骨格系障害から守る、簡単で用途の広い効果的な方法を提供する以下のような新しいスペイン語の冊子を発行した。
"Soluciones Simples; Ergonomia Para Trabajadores Agricolas(Simple Solutions; Ergonomics for Farm Workers)" この冊子はスペイン語を話す農場労働者・彼らの事業主・安全の専門家・その他の人々のために、イラスト入りの容易に読めるガイドラインと説明を提供している。

農場労働者は、他のどんな職業性の健康問題よりも、腰部の痛みや肩・腕・手の痛みに苦しんでいる。カリフォルニアだけでも、農場労働者の間で毎年、3,000件以上の職業を起因とする腰部の傷害が報告され、それらにかかる費用は2,200万ドル以上と予想されている。アメリカ国内の1,800万人の農場労働者のうち、ほとんど英語を読むことが出来ない、又は全くできない者が75%で、84%は、彼らの主たる言語はスペイン語であると報告している。

この冊子は、多くの具体的な仕事や道具に対するヒント同様、繰り返しの多い仕事に対する優良事例を盛り込んである。その情報は、事例研究、現場での調査、アプローチがうまくいったと思われるその他の運用例に基づいている。

この冊子はすでに利用されている。ノースカロライナ州労働省農業安全衛生局(Agricultural Safety and Health Bureau of the North Carolina Department of Labor)のFrank Castillo調査官/教官は、メキシコ出身の320人のサツマイモ農場労働者に対し、適切な持ち上げ方法に関するトレーニング講座でそれを使用した。彼は、「彼らが使用している技術についての一連の質疑応答の後、私は誤りを指摘し、私が用意した資料の中に適切な方法があることを示した。パンフレットは、よくある問題に対処する一方、容易に実行できる解決法を示しているという点で、非常に役立つと思う。理解しやすく、視覚を通して学ぶ人々にとって役立つため、他のグループにもこのパンフレットを薦めるだろう」と述べた。

障害を持つ労働者

最近、NIOSHが資金を提供している研究は、労働者の身体障害による職業上の制限に対する彼らの認識調査を行っている。この研究は、現在は働いているが継続的な健康問題・機能障害・身体障害により、仕事の種類や量を制限されたと報告した851人の回答者から得た情報に基づいて行われた。その回答者達は、米国疾病予防対策センター(Center for Disease Control and Prevention : CDC)の国立衛生統計センター(National Center for Health Statistics)によって実施された「全米健康面談調査(Disability Supplement to the National Interview Survey)」から選ばれた。調査は、アメリカの人口の代表サンプルとなるようデータを収集する。

以下は、アメリカ公衆衛生協会2002年度年次大会で報告された結果である。

  • 回答者の5%は、過去5年間、健康状態のために昇進・異動・トレーニングを断られたと報告した。
  • 身体状態のみにより制限を受けている労働者に比べて、精神状態のみにより制限をうけている労働者は、6倍も機会をせばめられていると報告した。
  • 身体状態のみにより制限を受けている労働者に比べて、身体・精神状態の両方で制限を受けている労働者は、8倍も機会をせばめられていると報告した。


この結果は、不条理な機会の制限を認識することは、労働者にストレスと健康問題をもたらすかもしれないということを明らかにするとともに、さらなる研究や介入が雇用と身体障害に取り組んでいる科学者やその他の人々に役立つであろう分野を特定する。

助成金を得る機会

NIOSHは、国立環境保健センター(National Institute of Environmental Health Sciences : NIEHS)と共に、環境的公正と特定の人々に重点を置いた助成金集めを始めた。このプログラムの目的は、アメリカ国内における社会経済的に不利で、医学上不当に扱われている人々のための、環境的公正の達成を目指した研究のために、NIEHSとNIOSHの支援を強めることである。プログラムは、環境上、職業上のストレスに暴露されている低収入・移民・少数民族の人々に報いる方法を改善する、健康調査・教育・介入プログラムを推進する。



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