このページは国際安全衛生センターの2008/03/31以前のページです。
国際安全衛生センタートップ国別情報(目次) > アメリカ 喘息はなぜ流行病になったのか

喘息はなぜ流行病になったのか

資料出所:「Family Safety and Health」Spring, 2001 p.14-15
(訳 国際安全衛生センター)


カルロス・マラビグリアさんとキンバリさん夫妻が、息子のアンダース君を喘息のために初めて病院の救急治療室に連れて行ったのは、アンダース君が生後まだ 13カ月の時だった。アンダース君は軽い風邪を引き、呼吸が困難になっていた。ワシントンDCのジョージタウン大学病院で酸素テントの中で一晩を過ごした。

アンダース君がなんども喘息の発作を起こした後、マラビグリア夫妻は息子の病気で生活が支配されてしまわないように努力した。しかしそれは大変な仕事だった。両親はベッドに時計を持って入り、息子の呼吸の率を計り、薬を与えるべきか、それともまた病院に連れて行く必要があるのか、判断しなければならなかった。

「パニックに陥らないことが最初の教訓でした」と妻のキンバリーさんは言う。「私がパニックを起こせば、夫もそうなる。すでに呼吸困難になっている幼い子どもにとって、それは最悪の事態ですもの」

現在はアンダース君の喘息はうまくコントロールされている。6歳になって元気を取り戻した彼は普通の生活を送り、サッカーを楽しみ、発作が起きる前兆も分かるようになった。喘息は気管の炎症、さらには呼吸困難を引き起こす病気だが、家族はそれについてよく理解している。残念なことに、マラビグリア家のように喘息に苦しむ人々は、急速に増えており、各地で見られるようになった。

全国で1730万人を超える(子ども500万人弱を含む)が喘息にかかっている。疾病対策予防センターによると、喘息に苦しむ人の数は1980年から1994年までの間に75%も増えている。特にゼロ歳から4歳までの子どもの発症率が、同期間中に160%も上昇した。よい薬も作られ、治療法も進歩しているが、過去10年間に喘息による死亡者は3倍になり、年間50万人の喘息関連の患者が病院を訪れている。

患者は貧困層やマイノリティの子どもたちに最も多い。喘息は都心部で最も増えており、アフリカ系米国人児童の発症率は白人児童の2倍に達している。喘息による死亡率でも、アフリカ系米国人児童は白人児童の2倍から 5倍も高い。

科学者たちはすべての先進国で喘息が急激に増加していることを、遺伝学では説明できないと言う。われわれの生活環境またはライフスタイルの何かが、喘息を急増させている。主立った喘息研究者たちは、その原因はいくつもの要因が複合している可能性が高いと見ている。一般に次のような説明が行われている。


我々はあまりにも衛生的環境の中で成長しているのでは?

医師たちは幼い頃の感染が児童の喘息のリスクを高めていると考えていたものだが、最近ではむしろ逆の見方が支配的である。「幼児期に感染症に接触すると、アレルギーや喘息の発症が予防されると考えられる」と、国立衛生研究所の免疫学者、カルマン・プルシン博士は言う。

最近の「ニューイングランド医学雑誌」に掲載されたある調査によると、他の子どもたちと接触の多い児童は、乳児と同じように風邪を引きやすく、ぜいぜいという呼吸音(喘鳴)をさせることが多い。医師は喘鳴から喘息になると考えていたが、最近の研究では喘鳴を持つ乳児はむしろ小児喘息にはかかりにくいことが分かってきた。

抗生物質や抗菌性石けんなどが豊富な最近の生活では、結核や麻疹などの危険な病気はほとんど姿を消した。多くの国で、健康、衛生のレベルが向上し、家族数が少なくなるのにともなって、喘息が増えている。われわれの免疫システムが細菌や子どもの病気と戦う機会が少なくなったために、われわれは穏和なアレルゲン(アレルギー抗原)に過剰に反応するようになったのだ、と科学者たちは考えている。


室内がかえって危ない

今日の気密性の高い、カーペット敷き、高湿度の住宅は喘息の誘因を育てる場所、貯蔵庫でもある。ほこりダニ、ペットの羽毛、ゴキブリ、カビ、花粉、たばこの煙などがいっぱいある。そして科学者は喘息と家庭内にある物質、クリーナーやプラスチックとの関係を突き止めようとしている。しかし、喘息持ちの人々がアレルゲンのために喘息発作を起こすことは分かっているが、アレルゲンが実際に喘息の原因になっているかどうかは、確実ではない。家庭にペットを飼うことが子どもを喘息から守るという調査もあるほどである。

「もし接触するアレルゲンのレベルが非常に低いか、逆に非常に高い場合、アレルギーの発症から守られることになる。平均値程度のアレルゲンと接触した場合に、アレルギーのリスクが高くなる」と、全国ユダヤ医療研究センターの肺学者、サリー・ウェンゼル博士は言う。


呼吸する空気の質が問題

1996年にアトランタで夏のオリンピックが開かれた時、いつもはスモッグで一杯のアトランタで交通量が激減した。人々は公共交通機関を使い、オフピーク時に外出し、あるいは家にこもっていた。当然ながら大気汚染は劇的に低下した。CDCのマイケル・フリードマン博士と他の研究者は、オリンピックの前、最中、後における喘息関連患者の病院来院数を調査した。その結果、長期にわたってオゾンその他の汚染物質のレベルが低下したため、緊急に喘息治療の必要のあった児童数が10〜45%も減少したことがわかった。これとは別に、ハーバード公衆衛生大学院のレポートでは、43,000件の児童、成人の喘息発作が2基の石炭火力発電所による汚染に関係があることを明らかにしている。このような調査は、大気汚染が人々の喘息に悪影響を与えていることを示している。だがそのことは喘息の劇的な増加の原因になっているのだろうか。

この場合も明確な証拠はない。実際に過去20〜30年にわたって、米国やその他の先進国では大気汚染は全般に改善され続けているのである。

「一部の空気汚染物質のレベルは減少しているものの、自動車の排気ガスの暴露は急激に増えている。ただこれが喘息の発症や悪化の原因かどうか、立証するのは非常に困難だ」とフリードマンは言う。人々が農村から都会に出てくると、喘息の発病率が高くなる。従って汚染が要因である可能性はある。真犯人はわれわれがまだ突き止めていない、ある種の汚染なのかもしれない。

フリードマンは、大気汚染は肺を他のアレルゲンに対して過敏にするため、汚染に接触していた子どもが次にネコの毛に触れて、喘息を起こすことが考えられると言っている。「大気汚染が人間の肺に与える長期的な影響を調べた研究はまだ少ない。病変を起こした肺にそれが見られるだけなのだ」と同氏は言う。


不明な要素がまだ多い

すべての喘息研究者が声を揃えて強調するのは、もっと多くの調査研究が必要だという点である。最近の研究は、食事内容、肥満率、母乳、理由は分からないが、喘息発症率が非常に低い農村、などをキーワードとして、進められている。最近では喘息を一つの病気としてより、症候群として捉えている医師も多い。同じような症候群や兆候を見せるが、原因は異なる複数の病気なのだという見方である。ウェンゼルは「明確な見解を示すには、こうした問題についての理解がまだ十分ではない」と言っている。

喘息が社会に及ぼす影響はしだいに高まっている。喘息は児童の入院、学校欠席日数の原因の中で最も多く、年間のコストは全国で 126億ドルに達している、と米国肺学会は言っている。ピュー環境衛生委員会は2020年までには2900万人が喘息に苦しむことになると予測している。

喘息を持つ人々は現在、註1)ヘパフィルターの掃除機、註 2)ピークフロー・メーター、ステロイド吸入器などを使い、普通の生活を送ろうと努力している。「喘息に生活を支配されるのはごめんです。もちろん、よく注意していますし、アンダースから目を離しません。しかし喘息に彼の人生を決めさせるのものですか」とキンバリー・マラビグリアさんは言う。

註1)ヘパフィルター:高性能微粒子ろ過フィルター

註2)ピークフロー:努力して息をはき出す時の最高の流量。喘息等閉塞性障害の指標となる。

アレルギー、喘息ネットワーク/喘息患者母の会のホームページは、慢性的な喘息の子供を持つ両親のために情報を提供している。



どうすれば喘息に対応できるか

家族から完全に喘息を遠ざける確実な方法はない。しかし、以下に述べるような手段を取れば、喘息の発症や苦痛のリスクを軽減することができる。

  • 母乳で育てる:粉ミルクで育った子どもは喘息になりやすい。

  •  喫煙を避ける:妊娠中の喫煙や家庭での二次喫煙は子どもの喘息のリスクを高める。

  • 屋外で遊ぶ:研究者の中には肥満の増加、屋内で過ごす時間が非常に長くなっていることと、喘息の増加に関係があると指摘している。

  •  家庭内を清潔に: NIHは2200万の家庭に喘息を引き起こすのに十分なほこりダニがいると言っている。別の要因であるゴキブリの抗原も6%の家庭にいる。もし家族の中に喘息やアレルギーが出たら、ゴキブリを徹底的に駆除し、マットレスや枕をプラスチックのカバーで覆い、工業用の掃除機を使うこと。

  •  窓を開ける:ほこりダニやゴキブリは湿度を好む。新しい、絶縁度の高い家では湿度が高くなる傾向がある。

  •  天然繊維を使う:人口繊維の枕はほこりダニ、ペット抗原の率が羽毛枕より高い。

  •  ストレス、抑鬱症を減らす :ある調査によると、抑鬱症や不安は成人の喘息発症率を3倍も高めると言っている。





関係ホームページ集

National Heart, Lung, and Blood Institute(国立心肺血液研究所)
www.nhlbi.nih.gov

National Center for Environmental Health(国立環境衛生センター)
www.cdc.gov/nceh/asthma/default.htm

American Academy of Allergy, Asthma and Immunology(米国アレルギー・喘息・免疫学アカデミー)
www.aaaai.org

Asthma and Allergy Foundation of America(米国喘息・アレルギー財団)
www.aafa.org

American Lung Association(800)LUNG USA (米国肺学会(800)LUNG USA)
www.lungusa.org

National Jewish Medical and Research Center (全国ユダヤ医療研究センター)
www.nationaljewish.org

Allergy and Asthma Network Mothers of Asthmatics, Inc.(アレルギー・喘息/喘息患者母の会)
www.aanma.org