このページは国際安全衛生センターの2008/03/31以前のページです。
国際安全衛生センタートップ国別情報(目次) > アメリカ 業務外での安全性を高めるには
業務外での安全性を高めるには
米デュポン工場の体験から

資料出所:NSC発行「SafetyFocus」2000年5,6月号
(訳 国際安全衛生センター)

 1970年代のことだが、オレゴン州オレンジにあったデュポン社の工場(従業員2,500人)では、業務上の要休業事故1件について、業務外の要休業事故が30件に達した。

 「どうして職場外での生活の方が職場より危険なのか。この工場では15,000ポンドの高圧を使ってプラスチックを製造している。平方インチ当たり550ポンドの蒸気圧があれば、人間は引き裂かれてしまう。また工場では大量のシアン化水素を製造しているが、それをちょっと吸い込んだだけで、酸素の吸入ができなくなり、即死してしまう。また数百万ガロンの可燃性の液体を作っており、温度が数度違っただけで爆発する触媒も使っている。こうした危険な作業を行いながら、工場では年間に1人の負傷者を出す程度なのに、業務外では30件以上にもなる。どうして職場の外の方が危険なのか」

 だれもが不思議に思うこの疑問が、私を含む5人からなる委員会を発足させた。われわれの目的は職場内と同じ水準の安全性を家庭でも維持することであった。

 労働者の多くは家庭内の問題にまで介入されることを嫌った。そこでわれわれは労働者の家族に直接に働きかけることにした。職場でパンフレットを配るのを止め、奥さんたちに郵便で資料を送ったのである。

 肌合いが違うものは意外に引きつけ合うことが多い。なんでも反対する戦闘的な労働者たちが天使のような奥さんを持っていることもその一つの例である。天使たちは家族の安全を深く心に掛けている。われわれは各家庭に家庭や週末、休暇の安全を高めるためのあらゆる種類の資料を送った。

 子供たちにも接触した。子供たちの好きなことに賞を出した。たとえばスローガンを作ってもらい、工場の掲示板に張り出した。ポスターや作文を作ってもらった。賞には特に安全な自転車、安全なキャンプ用品、2階の寝室から脱出する救難はしごなどを揃えた。

 職場では多くの安全衛生コースが実施されている。そこで子供たちのために救急訓練、人工呼吸、家庭での防火訓練や簡単な電気の安全などのコースを設けた。コースでは飲み物やお菓子を準備し、時にはカフェテリアで食事も出した。子供たちの参加者は毎年倍増した。

 われわれが予想したように、子供にアピールすれば、母親も父親もついてくる。それは多くのファストフード・レストランで実証済みのことだ。

 職場での安全衛生の水準を家庭で達成するのはむずかしいとよく言われる。職場で使う足場、釘打ち機、水圧ジャッキなどの安全用具が家庭では使えないからである。しかしわれわれはその問題に対して、用具を従業員に貸し出す方法を取った。ぜひ必要な工具を会社であまり使わない時期に家庭でも使えるようにしたのである。

 この工場では現在、毎年業務外の要休業事故が1件あるかないかである。5人の委員会はメンバーを変えながら今も引き続き活発に機能している。目的は昔と少しも変わっていない。職場の中でも外でも事故をゼロにして、生活の質を向上させることである

(ウィン・スチュアート、ウィン・スチュアート・アソシエーツ、石油部門エディター)