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労働安全衛生に関する第三者の責任について

資料出所:American Industrial Hygiene Association (AIHA)発行
「The Synergist」 2002年 6/7月号 p.26

(仮訳 国際安全衛生センター)



リック・グリーソン(RICK GLEASON)

 アメリカがここ数十年来掲げてきた原則として、労災補償(workers' compensation)における無過失損害賠償制度(no-fault principle)がある。経営者側に過失が無く、労働者側の過失によって事故が発生したと証明できても、労働者は、事故による労働時間損失への補償と医療補償を受けることができる。その代わりに経営者側の過失によって発生した事故でも、被災者である労働者は、経営者に対して訴訟を起こす権利を放棄しなければならなかった。つまり、職場での事故や傷害に対する救済は、労災補償のみという状況だったのである。唯一の例外は、経営者側の故意による作為的で犯罪性の高い重過失を、法廷で立証できる場合には、経営者に損害賠償を求めることが出来るのみであった。 

 しかし、このことは職場で発生する傷害事故に関する訴訟がなくなることをも意味している。職場の災害や疾病に関する問題で、最も簡単に訴訟沙汰になりやすいのは、労働者と使用者以外の第三者の責任に関するケースである。例えば、ある塗装業者の労働者が建築現場の足場から墜落・転落したとする。事故現場が所在する州の状況にもよるが、入院中にその労働者は普段支払われている賃金の約3分の2にあたる額を受け取ることになる。通常、その労働者は使用者である塗装会社を訴えることはできないが、最近では、事件当日の現場の関係者のうち、十分な資力を備えている第三者を相手に訴訟を起こす事例が多くなっている。

 工事を請け負った元請け会社は、現場を管理していたという理由で告訴される。足場を架設した下請け会社は、危険を管理すべきだったという理由で告訴される。足場のレンタル会社は、危険を発生させたという理由で告訴される。事故現場を担当していたフリーの安全衛生コンサルタントは、危険を予知すべきだったという理由で告訴される。現場の土地の所有者は、その土地を所有しているという理由で告訴される。

 ちなみに、労災補償を取り扱っている保険会社は、補償の請求を訴訟にて行なう。その事故が経営者や労働者の過失によって発生した場合、保険会社が補償金を支払う。しかし、法廷が経営者や労働者以外の第三者の過失責任を問うた場合、保険会社は支払った補償金の返済をこの第三者に要求する。

 労働者に対する損害賠償金は、労働者自身が安全に対する妥当な注意を怠ったという点において、被災者である労働者側の過失割合に応じて削減される可能性がある。しかしながら実際には、残りの人生を車椅子ですごすことを余儀なくされた労働者に対して、過失責任を問うことに陪審は消極的である。

 職場において、このような労災に関する責任追及を免れるために、一体何ができるだろう。この種のクレームに対する最善の防御は、効果的な攻撃(いつでも対応できる準備をしておくこと)である。

 防衛のためにまずは強力な労働災害防止対策の計画の作成と実施が必要である。手はじめに、最低限の必要事項として、OSHAの法令にもとづく対策を実施し、やがてOSHAが要求するレベルを上回る対策を行うことが大切である。そして、すべての労働災害防止対策の計画の作成と実施に当っては、あなたは必ず「発言し、実行し、記録に残す」ようにしなければならない。もし、事故原因を究明していく過程で少しでもOSHAの法令に違反していたことを立証されてしまったら、相手側の弁護人が大挙して現われ、あなたを法廷に引きずり出す機会をうかがって、競い合うことになるのである。

 すべての安全対策は、最低限以下に挙げる事項が含まれていなければならない。
  • 経営側の意欲的な対応
  • 労働者の参画
  • リスク分析/現場での徹底したチェック
  • リスクの修正と管理
  • 安全衛生の実現のための自主規定の作成
  • 安全衛生教育
 その他の防衛手段は、信頼のおける保険会社に十分な保険担保を所有することだ。訴訟では、保険担保は会社の救世主となりうる。

 監督では不服の申し立てをして最後の最後まで抗議し、決して「故意の」違反があったと認めてはならない。ひとたび故意の違反を認めてしまうと、信じられないほどの量の法律上の問題を提起させてしまう可能性がでてくるからだ。
リック・グリーソンは、シアトルにあるPrezant Associatesの上級安全衛生コンサルタント。