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US/EU 労働安全衛生マネジメントシステムワーキンググループ報告

(資料出所:安全衛生マネジメントシステム ワークショップII
US/EUサンフランシスコ会議の発表 2000年11月)

(訳 国際安全衛生センター)

原文(英語)はこちら


議長 − ジェラルド・スキャネル 米国、 コード・ジョーンズ 米国
副議長 − ピーター・クラフェ(Peter Claffey) EU
書記 − トム・メリッシュ(Tom Mellish) EU


アメリカ/EUの安全衛生システムの方向

セッションは、各代表の紹介から開始された。

EU代表でUKの安全衛生庁(HSE)の代表から、UKの経験に基づく報告がなされた。
EU代表のノーマンは、主としてイギリスの経験に基づき、EUの法律制定者の視点にたった論文を提出した。

ノーマンによると、イギリスの初期の法律制定は、特定の危険に対処する必要から行われたが、現在は、目標設定を重視したアプローチへと変化しているという。ノーマンは、「米国は、依然として安全衛生を特定の危険を管理する手段にしているように見受けられる」と感想を述べた。

一連の災害発生により、イギリスの安全衛生法と安全衛生へのアプローチは変化していった。安全衛生への取組みをより強力で活発にし、安全衛生を他のビジネスの側面と同様に考え、ライン・マネジメントの責任を明らかにし、安全衛生に対して体系的なアプローチをとることが、安全衛生の向上の鍵となるのではないかと考えられるようになった。

ノーマンは、安全衛生を管理する手段として分類体系的な構造と集団的防止方法(collective prevention method)を導入するきっかけとなった1986年の単一欧州議定書と1989年の枠組み指令の影響について説明した。イギリスにおいてこの枠組み指令は、労働安全衛生マネジメントに関するガイダンスの枠組みのモデルとなる、いわゆるHGS65に変換された。

次いでノーマンは、安全衛生マネジメントシステム分野におけるルクセンブルグ委員会の取組みについて説明した。同委員会発行のガイダンスは、労働安全衛生マネジメントシステムを標準化すべきでないこと、とりわけ、任意に設定された基準を強制的な監督対象とすべきではないことを明言している。あらゆる基準は、労働安全衛生マネジメントを実行するための一つの方法にすぎないというのである。

英国労働組合会議の安全衛生政策担当幹事であるトム・メリッシュは、EU労働組合の見解について記した論文を提出した。

トムは、組織やビジネスの構造上の変化、そして過去20年間でワーキングライフや労働パターンがいかに変容したか、概略を述べた。そして、こうした変化により、労働そのものや労働組織の変質に伴って生じた新たな脅威に対抗していくことができるように、安全衛生管理方法を再考する必要性が生じてきたと語った。

働き方の多様化は、不規則な労働形態を生みだし、それによって健康調査などの問題の取り扱いが一層困難になった。

失業者の増加により労働者の立場は一層不安定になり、労働者側は安全衛生に関する問題を提起しにくくなった。そして、危害の報告が、監督当局と同様に労働組合から行われるようになった。

彼は、安全衛生管理の失敗による損失額を概算し(イギリスで180億ポンド、ドル換算すれば261億ドル)、事故の70%以上は安全衛生システムの欠陥が原因で発生していると強調した。

そして、安全衛生の管理が適切で、財務収益を上げたビジネス例を列挙した。

彼は、適切な安全衛生マネジメントが健全なビジネス経営をもたらすことを強調した。

また、いかなる安全衛生マネジメントシステムにも労働者と労働組合の参画が必要であることを述べ、参画がシステムの実行段階だけでなく、設計段階においても必要であることを強調した。

彼は中小企業の問題をとりあげ、中小企業が抱える財政上、構造上の欠陥を指摘し、それに対処していくための方法を示唆した。

続いて彼は、三者構成であるルクセンブルグ委員会の労働安全衛生マネジメントシステム・モデルの基本的条件について説明した。(報告書のコピーが添付されている)

以上の2つの開会演説に続いて討議が行なわれた。

米国には、ヨーロッパに存在するような法的枠組みがないことが明白になった。OSHAは、労働者が仕返しを恐れずに危険を報告できるようになる規則の制定を推進したばかりである。

安全衛生に関する法律制定には多様なアプローチがあり、安全衛生管理に関する明確な要件を設定している州もある。

また、連邦政府事務局も、州職員との契約に安全衛生に関する要素をもりこんでいると報告されている。そして大企業もまた、安全衛生を管理する企業責任を認めていることが明らかになった。これは数社のアニュアルレポートにも掲載されている。

対照的にアメリカの鉱業では、鉱山という現場の性質上、年2回ないしは4回連邦による調査が実施されたり、労働組合と労働者に安全衛生管理プロセスへの参画を要求するなど、厳重な規制が設けられている。

現行の法律制定を超えて、海外の契約事業の安全衛生実績を詳しく調査することに参加する企業もでてきている。

その後、ディスカッションは、アメリカにおける労働者の参画をいかに増加させていくかという話題に至った。アメリカの企業は組合の影響を受けないように専心しており、そうした企業では、労働者の安全衛生管理への参画を組合による不法介入と見るむきもあった。

経営者に対して危険の認識と管理を要求する法制度の推進と、労働者が危険を特定できるように訓練するOSHAの試みには、これまでいくつもの障害があった。これらの提案がもたらす効果と影響に関する研究は現在進行中であり、実現まであと数年はかかるであろう。

次いで議論は、EU加盟諸国における労働安全衛生マネジメントシステムの進展に焦点が注がれた。安全衛生指令の導入と実行において、EU委員会の果たす役割について説明が行われた。各国が取組むEC指令の実行と監督に関する評価を、他の加盟国の労働調査機関が行なった。調査は、政策、評価、労働者の参画に主眼を置いて行われた。

そして、スカンジナビア諸国でのOSHMS(労働安全衛生マネジメントシステム)の実施事例が紹介された。ノルウェーでは、オフショワー産業(offshore industry)での経験に基づき、1992年に自主的管理システムを導入した。企業の80%が必要条件を遵守し、50%の企業が条件を満たしている。

その後、化学工業とOSHMS参画の可能性について討議が行われた。話題は、環境基準のISO14000と、実績測定が基準内に収まっているかを確認する必要性に及んだ。基準という言葉に、「法的必要性」から「ベストプラクティスの事例」まで、さまざまな解釈が可能だという話題になった。

続いて会議では、安全衛生管理と安全衛生プロセスへの労働者の参画の法制化をめぐり、アメリカとEUの間に存在する文化の違いについて討議された。つまり、個人の選択を最も重要と考えるアメリカ文化に対して、ヨーロッパでは、社会全体の幸福のために働くという価値が広く受け入れられている。

アメリカは、現行の場あたり的なアプローチではなく、安全衛生マネジメントに体系的なアプローチでのぞむような文化を育てていく必要がある。


2000年11月16日木曜日

OHMSセッションの結論:概観

国際労働機関職員の町田静治は、OHSMSに関するILOプログラムについて発表した。

ILOはこのセミナーを利用し、現在ILOが開発中のOHSMSガイドラインについて、各代表者の助言を求めた。2000年10月5日付の現行の提案書の草稿コピーが会議で配付された。町田は、2001年4月の専門家会議で最終決定する予定の、現行の提案書の進捗状況とその背景について発表した。この最終草稿を2001年6月のILO理事会に提出して、公示(publication)を行う運びになっている。

町田は、これらのガイドラインが、地域レベル、国レベル、地方レベルでも適用でき、特定の産業部門に合わせて調整可能なように立案されていると説明した。

このガイドラインの背景となるキーコンセプトは、「絶え間ない進歩」、「使用者のリーダーシップ」、「労働者の参画」、「責任の所在の明確化」、「説明責任」である。

ガイドラインの草稿で特定された重要課題は、「アセスメント」、「パフオーマンスの測定」、「業種別、規模別ガイドライン」、「中小企業」、「監査」、「認証(certification)」、「推進手段」である。
参加を希望する企業や加盟国の証明によってガイダンスが立案される可能性もある。

このガイドラインの草稿は、http://www.ilo.org/safeworkでアクセスできる。そして、この草稿に関するコメントは、Eメールアドレスsafework@ilo.orgに送信すること。

討議の席上、ガイドラインは国際協定ではないので、法的要求事項とならないことが確認された。このガイドラインがもつ自発的性格について、更なる議論が続けられた。

会議は引き続き、マネジメントシステムの効果測定と、国境をまたいで発生した災害や事件の報告方法が不統一であることから生じた問題についての議論が行われた。多国籍企業は、組織全体に浸透する結合力に富んだアプローチをとるために、自社に適したシステムを構築せざるをえなかった。

欧州共同体は、1990年以降、この見方と災害統計について熟慮を重ねてきた。共同体は、統計情報、とりわけ災害原因に関する情報の収集に努め、現在は、比較対照するのための手段として使用可能な独自のシステムを開発中である。

「他の企業や国々と比べることが、企業にとって必ずしも有益ではない」と多くの代表者たちが強調していた。自社のOHSMSの向上を測定する手段として、自社組織の記録を検討することのほうがよほど有効であるという意見が出た。

OHSMSの構成要素:労働者のコンサルテーション

EUの経営者を代表してギリシャ出身のエリアス・サモウソポロスは、経営者のOHSMSに労働者を参加させることの意義についての論文を提出した。

システムが実施される前段階から労働者を参画させることが、特に重要であるとした。また、コンサルテーションの好機は、システムや労働環境に変化が起ころうとしているまさにその時であると述べた。

エリアスは、経営者にとって大切なことは、「労働者が最初に否定的な反応を示したとしても、彼らを参画させようとする姿勢をとりつづけることが何よりも重要である」と明言した。

欧州枠組み指令は、労働者のコンサルテーションと参画を要求していたが、これは国の法律に則って実行可能であった。コンサルテーションの性格は加盟国の状況によってさまざまである。コンサルテーションに関するギリシャの最初の法律は1985年に施行されたが、この法律も何年もの間に変化してきている。

次いでサモウソポロスは、自身が安全マネージャーを務めている企業における労働者参加の導入について語ったが、組合側が経営側の動機に不支持を表明し、組合幹部が不信感を露わにしたために、抵抗にあった経緯を説明した。

しかし、労働者をOHSMSに参加させることは、安全衛生実績の向上だけでなく、労使関係全般の改善にもつながった。

デンマーク労働組合連盟(the Danish Confederations of Trade Unions)の環境アドバイザー、 ジャン・タフト・ラスムーセンは、組合側の観点からの労働者の参加に関する論文を提出した。

デンマークの労働界に関する情報を提供するため、ジャンはデンマークの人口500万人のうち250万人が働いていると述べた。デンマーク労働組合連盟には150万人が加入していると述べた。デンマークの労働人口の90%近くが組合に加入していると語った。

そして、デンマークにある労働者5人以上の企業では、スタッフに安全代表を選ぶ権利を与えている。しかし、これは経営者側に課せられた義務ではなく、40%の企業が安全代表を選出していない。システム、手順、日常業務など、参画にもさまざまなレベルがある。スタッフが20人以上の事業所では、安全委員会の設立が義務づけられている。

労働者は、自分たちの仕事を自主的に管理することができ、日常業務に関する意思決定はグループごとに行われる。それゆえ安全代表は、変革する能力を持つだけでなく、責任、役割、権限を与えられていることが重要である。

安全代表には、職務を遂行できるだけの十分な時間が与えられていなければならない。しかし、安全代表の多くは、経営者に妨害されたからではなく、自らの選択で自分の時間を使っているのが実情である。

安全衛生を十分に実施するための特定の動機付けは、安全衛生の失敗が起きた際に社会的パートナーに対して罰金を支払うことである。これは労働者参加を大幅に増加させる理想のシステムのように思えるが、1999年に転職した労働者の27%が安全衛生上の問題で離職していることも特筆すべき事態である。

木曜日の午後:労働者の参加

議論のなかで、アメリカに、合同委員会の設立を禁ずる条項がないことが話題になった。しかし、そうした委員会は労働者の発起で設立すべき類のものである。それゆえ、経営者が、本来独立性を保つべき委員会を設立すること自体が違法と判断する州もある。

USWAの産業ハイジニスト、ジム・フレデリックは、全米自動車製造労働者連盟安全衛生理事(United Autoworkers Director of Health and Safety)、フランク・ミラーが提出した報告書に言及したが、この報告書は、代表者が打ち出した政策(pack)にすでに包含されていた。ジムは、経営者側による威嚇や彼らに対する恐怖が、労働者参画の大きな障害になっていると述べた。

ジムは、以下に掲げた基本的な権利を労働者に付与するべきだと述べた。危険を察知して理解する権利。安全でない仕事を拒否する権利。安全衛生に関する問題を提起した時に、損害を受けることなく利益を享受する権利。

事故だけでなく疾病をも含んだ調査プロセスに、労働者を参画させなければならない。

全米労働関係法(the U.S. National Labor Relations Act)において、安全衛生は、必須の集団的交渉項目であると記された。

議論の中で、当初、OHSMSに失敗した企業の安全衛生プロセスに参画していたという理由で、組合が訴えられるケースが発生したことが明らかになったが、この状況はすでに改められている。また、組合員と非組合員の共存する企業で、組合の働きかけによって得た利益を非組合員が享受するような事態が発生した州があったとも記録されている。組合は非組合員に対しても義務を負っていたのである。しかし、組合員と非組合員の違いは、組合員は組合から守られているがゆえに、安全衛生に対してより積極的であったということであった。

会議は引き続き、安全衛生管理がもたらす利益とかかるコスト、そして「なぜ企業が安全衛生上の優良規範に参画せねばならないのか」について議論が行われた。

安全衛生は産業の両面を結びつけ、「人は人、私は私」といった姿勢の克服に役立っているように見える。よい安全衛生マネジメントは、よいビジネス経営に直接的な影響を与えた。しかし、「貧弱な安全衛生が経営者個人にどのような損害をもたらすのか」という問いに、依然として明快な答えが用意されていないことが会議で認められた。「商品」ツールとしての安全衛生を、管理しきれなかった場合にかかるコストを算定することは重要である。経営者が知りたかったのは、安全衛生に対する投資の見返りとして、何が得られるかということだったのである。

また、会議は、安全衛生を推進していく他の方法についても着目した。そして、若者が労働界について知り、安全に働く方法に対する心構えができるように、学校や大学が行うべきことがたくさんあるということが示された。

巨大組織は、下請け業者や供給者側に影響力を及ぼすことのできる方法にも注目していた。

安全衛生を「商品化する」ためには、より創造性のあるアプローチをとることが必要だと参加者は痛感していた。


結論

会議では、この議論の成果について話し合われ、総会に報告すべき、鍵となる要素を特定した。結果は以下のとおりである。

  • 職場で発生した事件・災害を記録、報告する全世界共通アプローチの開発
  • OHSMSへの労働者参画の重要性
  • 主要な指標を含め、あらゆる規模の企業内でベンチマーク化できるようなツールの開発
  • OHSMSの実行プロセスの時間規模とその実用性
  • あらゆる事業規模で使用可能なツール/ツールキットの選定
  • 労働生活への準備としての教育の効用
  • 安全衛生マネジメントシステムを一定の企業で実施させる。安全衛生マネジメントシステムの発展のため、大西洋の両岸でベストプラクティスについて論じ、ベストプラクティスを特定する。
  • 以下にあげる要素は、効果的なOHSMSを実現するための実践項目だと、意見が一致した。

    −政策
    −組織
    −計画と実行
    −実績の測定
    −評価
    −再検討