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労働災害について
(資料出所:国際安全衛生センター海外調査)



労働災害統計

ベトナムの労働災害は、1995年に施行されたLabour Codeによって国等への報告が義務づけられています。もちろん労働法施行以前から労働災害の報告の義務はありました。報告の対象となる労働災害は次の通りです。
  • 負傷等の災害 … 休業3日以上及び死亡災害
  • 職業性疾病 … じん肺、騒音性聴力障害、鉛中毒、ベンゼン中毒等と職業性疾病として認められている21の疾病

報告は、安全関係の労働災害はMOLISA(労働傷病兵社会省、Ministry of Labour, Invalid and Social Affairs)に、衛生関係の災害はMOH(保健省、Ministry of Health)になされます。なお、安全関係の労働災害については、provinceレベルの労働組合の労働保護部(Dept.of Labour Protection)をとおしてVGCL(ベトナム労働総連合)にも報告されることとなっています。
労働災害統計を所掌する部門
  • 負傷等の災害 … Div. For Technical & Occupational Safety Inspection( MOLISAの技術労働安全監督課)
  • 職業性疾病 … National Institute of Medical Expertise (MOHの医学研究所)

労働災害統計については、ベトナムに限らず各国とも統計の数字の信頼性に問題があります。後述するように、ベトナムの災害の把握率は30〜40%と見られますが、災害の全体的傾向はある程度反映していると考えられます。




負傷等の災害 発生状況


1993年から98年の労働災害発生状況は別添資料のとおりです。被災者数、死亡者数とも過去3〜4年で大きく増加しています。死傷者数は約2倍に、死亡者も50%以上の増加になっています。1986年に正式に採用された「ドイモイ政策」による市場経済化が10年近く経過して軌道に乗り始め、高い経済成長に伴って、労働災害も大幅に増加していると考えられます。労働災害の発生のデータからは災害防止対策の強化の必要性が窺えます。

報告のあった死亡災害についてNILP(国立労働保護研究所)が災害の要因分析を行った結果では、死亡要因としては、高所からの墜落18%、水死15%、崩壊10%、電気ショック10%、爆発・火災7%となっています。更に、NILPが独自に調査した産業別の労働災害発生状況のデータによると、鉱業、建設業、金属製品製造業、農業、機械器具製造業、電気機器製造業、建築材料製造業などで災害発生の頻度が高いことがわかります。




職業性疾病 発生状況

ベトナムで職業性疾病(Occupational diseases)という用語は災害補償の対象となるものに限定的に使われています。現在、じん肺等21の疾病が認められています。職業性疾病の発生状況は1993年から97年の5年間の累計で3,252人となっています。疾病別ではじん肺が2,833件と全体の87%を占め、続いて、騒音性聴力障害318件(9.8%)、皮膚潰瘍・皮膚炎等24件(0.7%)、職業性結核20件(0.6%)、ビシノーシス20件(0.6%)、鉛中毒17件(0.5%)、トリニトロトルエン中毒17件(0.5%)となっています。


労働災害統計の問題点と考察

労働災害統計の基本的な問題として、データの信頼性の問題があります。別添資料をみると、全災害に占める死亡災害の割合が24%となっていますが、わが国の経験を持ち出すまでもなく、この数値は非常に大きいと言えます。NILPの行った調査では、休業1日以上の災害と死亡災害の発生比率は、死亡災害は休業災害の十分の一から数十分の一の発生頻度です。この調査では、休業1日以上を対象としていることを考慮しても、24%という数値はかなり高いと考えられます。死亡災害については、現在、警察、MOLISA, 労働組合の合同の災害調査が行われていることを考えると、死亡災害の把握率は比較的高いと考えられ、このことから、休業災害の把握率(報告率)が低いと判断されます。

NILPが労働者に対して行ったアンケート調査では、調査対象期間が1988年から93年と、やや古いですが、全産業の平均で20.5となっており、これに対して、災害の報告を担当する企業の管理者に対して行った調査では、この数値(Kで示される。)は1990年から96年前半までの期間で、年によって違いはあるものの、5.45から8.41となっており、両者には3倍程度の開きがあり、報告されない災害がかなりあることを示唆しています。

また、NILPの所長によれば、1970年代のベトナムの南北統一以前、北ベトナムだけで年間2万件の労働災害が報告されていたとのことであり、このことを裏付けています。

以上から、NILPは、政府の災害統計データの信頼性は30−40%程度ではないかと思われます。災害の報告に関する問題として、労働法に基づき事業者にその報告の義務が課せられていますが、国営企業以外の企業の場合、報告の義務があることを知らない、知っていても法令を遵守しない等の問題があります。

また、就労者の70%を占める農業部門では、災害の発生頻度がかなり高いにも拘わらず、災害の報告は、ほとんどなされていません。一般的には、農業部門の従事者は雇用労働者ではなく、自営の者がほとんどであると見られているますが、NILPの所長によれば、自営農でも賃金労働として他人の農地で農薬散布等の作業に従事するケースが広範に行われており、作業中に農薬中毒に罹ったり、水死したりする事故があるとのことです。

職業性疾病についても、いくつか問題があります。まず、対象となる職業性疾病が21に限定されており、実際に発生している職業性疾病の実態を反映するようにはなっていないこと、事業者の職業性疾病に関する知識、報告義務についての認識が十分でないこと、更には、現場での職業性疾病の判定は、判定に関わる専門家の専門知識、経験に左右される、といった問題です。

しかし、災害統計にはこのような問題があるとしても、報告率がほぼ一定であるとすれば、災害統計は実際の災害発生の傾向をある程度反映していると見てよく、全体的な災害の動向、問題業種等を検討するうえでの貴重な参考資料として活用できると思われます。