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最近の各国の労働安全衛生プログラム - フィンランド

(資料出所:ILO発行「Promotional Framework for Occupational Safety and Health」
International Labour Conference, 93rd Session, 2005, Report IV (1), Annex I, pages33-48)
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(仮訳 国際安全衛生センター)
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 社会保健省(Ministry of Social Affairs and Health)は2000年、各種事業者団体および労働者団体との議論を経て、「災害へのビジョン・ゼロ・アプローチ(Vision zero approach to accidents)」と名付けた労働災害防止のための行動方針を策定した。これをうけて作成されたのが、2001〜2005年の5か年プログラム「労働安全の優先(Prioritizing occupational safety)」である。この労働災害防止プログラムの目標は、労働災害の件数および重篤性を着実に低減させることであり、これによって人々の健康と身体機能の増進、職場の成果・生産性・質の改善、および国民の福祉の向上を図るのがねらいである。高水準の安全文化の導入、ならびに労働生活のすべての分野における「ビジョン・ゼロ」アプローチの推進が、このプログラムの考え方の基本になっている。実際、プログラムの目標を達成するには、職場における種々の効果的措置と、職場を支援するための集中的な国の行動の両方を通じて、労働安全を継続的に改善することが前提条件になる。

 安全の原則は、組織のあらゆる活動において、生産性の一要因として認識されている。安全の原則は、官民両組織の評判と生産性、および製品とサービスの品質にとって重要であると考えられている。これらの要素は、国内外における企業の競争力を強化するものである。労働災害防止のための国家プログラムでは、労働生活の質および市民の福祉の重要な要素として、労働安全の重要性が強調されている。また、高水準の安全文化を推進するための職場におけるベストプラクティスについても取り上げられている。このプログラムでいう高水準の安全文化とは、職場の価値に基づき、職場の安全衛生をとりわけ重視する行動様式が、労働集団において確立されていることを意味する。

 プログラムの背景には、2000年と2001年の調査で、フィンランドおよび広く欧州において、労働条件の改善が予想されたほど速やかまたは実質的ではなかった事実が示されたことがある。毎年約1,800人の死亡が発生しているのは劣悪な労働条件が原因であるとされ、2000年には約120,000件の労働災害および疾病が労災給付の対象となった。業務上の災害のうち、約60%は3日を超える休業、10%は1か月を超える休業に至っている。労働災害のコストと職場が被る損失に注目すると、災害の直接コストそのものはコスト全体のわずか20〜50%を占めるにすぎない。間接コストとしては、超過勤務または代替要員による休業者の埋め合わせに要する費用、救護・修理・清掃などのその他の人件費、生産の停止と納品の遅延、財産の損失、保険料の上昇などがある。2000年に保険会社が労働災害と職業性疾病の補償に支払った金額は、合計で5億ユーロにのぼった。

 プログラムは、労働形態および労働関係の変化に起因する労働安全衛生問題について言及している。今日の職場における作業の大半を担っているのは下請労働者であり、そのため今ではさまざまな事業者から派遣された労働者や自営業者が従業員として一緒に働いている職場が多い。下請業者が実施する納入、保守、および修理はしばしば非常に短時間で終わるので、職場の労働者は頻繁に入れ替わる。こうした状況は、業務の調整と管理、および情報の流れの面で、非常に難しい問題を突きつけている。死亡災害の調査では、職場における災害のほぼ50%で、組織の作業手順の何らかの要素が災害の原因であったり、災害を助長する要因になっていることが示されている。

 プログラムは、高齢労働者および職場の福祉に関する各種プログラムと並行して進められ、ばく露評価、健康リスク評価、リスク管理、および教育と情報の4つのモジュールに分けて実施される。

ばく露評価モジュールは、化学的、物理的、生物的要因への職業性ばく露を評価し、さまざまな労働環境におけるリスク特定のモデルを開発すること、また、企業、ヘルスケア専門家、関係当局向けに、ばく露条件の評価と労働衛生のための方法およびモデルを確立することをねらいとしている。

健康リスク評価モジュールは、専門家向けのリスク管理プログラムを推進し、職業性疾病、とりわけ免疫機構にかかわる皮膚疾患とその他の疾病のためのリスク評価方法を開発することをねらいとしている。

リスク管理モジュールは、工業生産および製品開発における労働衛生を推進し、専門家向けのリスク評価・管理プログラムを開発し、調査研究にもとづく管理技術の産業への応用を促し、さらに職場における適切な保護具の使用を推進することをねらいとしている。

教育と情報に関するモジュールは、労働衛生および毒物学の専門家教育の提供、企業、当局、および消費者向けの労働環境プロファイルの作成、リスク評価の訓練方法の開発、さらにリスク管理に関するデータネットワークの開発をねらいとしている。