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女性の労働衛生
M. H. Fulekar(インド)

資料出所:ILO/フィンランド労働衛生研究所発行
「Asian-Pacific Newsletter on Occupational Health and Safety」
2000年第3号(第7巻「Service sector」)

(訳 国際安全衛生センター)
原文はこちらからご覧いただけます
http://www.occuphealth.fi/e/info/asian/asindex.htm


「健康とは、病気にならないというより、個人が肉体的、精神的、社会的環境に適合することと定義できる」

世界中で、女性が家庭外で働く機会がますます増えている。インドでも、以下のデータが示すように働く女性の比率は一貫して増加している。

〈働く女性の比率〉
1930年−11%
1970年−50%
1983年−63%

インドの女性は労働力の一部であり、最下層の仕事に従事し、また危険な業種に就労することも多い。各種の職業性の、または環境に起因する疾病にかかるリスクが高い。多種多様な業種で働くインド人女性の死亡率は高く、平均寿命は短いことが確認されている。1991年のインドの国勢調査によると、8億3,860万の人口のうち、女性は4億340万人である。家庭外で働いている女性は約23%である。このうち34.6%が開墾、44.2%が農業労働、5.9%が家内工業、15.3%がその他の業種に従事している。インド労働省によると、1994年には約497,000人の女性が工場、56,000人が鉱山、558,000人がプランテーションで働いている。


各産業における女性の労働

女性が働いているインドの主な産業と、そこで女性が直面する職業上の危険要因の一部を以下に記載した。

スレート産業

石筆は、インドのマディア・プラデシュ州で、ビノタ・シェールと呼ばれる自然石から製造されている。合計116の小規模製造所に約1,250人の労働者が雇用されているが、その多くが女性である。石筆作りは伝統的な村の仕事である。採掘、石工、溝付け、分類、梱包の作業は、いずれもけい酸粉じん(シリカダスト)を生成し、これにスレート労働者が長期に暴露すると珪肺の原因になる。珪肺は暴露が止まった後も進行する疾病で、発症までの潜伏期間は約10年である。しかし、遊離けい酸を含む粉じんが過度に集積した状態に暴露すると、わずか3年で発症する場合がある。遊離けい酸を含む粉じんに暴露した労働者は、珪肺により若年で死亡する。Mandsaurには40歳を越える男性はきわめて少なく、ほとんどの家庭に未亡人がいる。多くの女性は再婚しても、また未亡人に逆戻りしている。児童は母親を助けるために働かねばならず、同じく珪肺で死亡するケースも多い。

メノウ産業

メノウ産業は、グジャラート州のKhambhat地区とその周辺村落の家内工業である。3万人を上まわる人々を雇用し、その多くが女性である。メノウは、過熱、切削、研削、穿孔、艶出しの工程をへて、宝石など装飾品用のビーズに加工される。工程で生成される鉱物粉じん、とくに石の研削工程ででるけい酸は、じん肺、結核、気管支炎、肺気腫、肺炎など、呼吸器疾患の原因になる。

石英製造産業

クォーツ・パウダーは、堆積岩を原料として小規模の工場で製造される。ラジャスタン州のジャイプール、アジメル、ベアワール周辺に、登録された65の小規模製造企業があり、約650人の労働者が雇用されている。1製造所当たり5人から10人の労働者が雇用されており、そのうち60%から90%が女性である。各企業は、1日平均4トンから6トンの製品を製造する。主な工程は石の粉砕、研削、ふるい分け、選別、混合、貯蔵、袋詰めである。各工程で生成される粉じんには、高濃度の遊離けい酸が含まれている。石英労働者がこの粉じんに長期に暴露すると、珪肺の原因になる。

マッチ箱および花火産業

この産業はインド南部のシバカシに集中しており、10万人を上まわる労働者を雇用し、その80%が女性である。これらの工場の労働条件はきわめて危険性が高い。火災と事故に加え、原料から生成される粉じんと蒸気(塩化カリュウム(KCl)、三硫化四燐(P4S3)、四三酸化鉛(Pb3O4)など)、また砂とガラス粉末はきわめて毒性が強く、目の炎症、咽喉炎、頭痛、むかつき、嘔吐、下痢などの症状を引き起こす。

コーヒーおよび紅茶産業

インドは、コーヒーと紅茶の主要産出国である。これらの産業には多数の女性が雇用されており、主として肥料と農薬の散布、紅茶とコーヒー豆の収穫に従事している。これらの作業は、たいてい保護衣をつけずに行われる。紅茶を収穫する女性の手の平と指には、十字型の裂傷ができる。また光線過敏症、指の付け根のたこ、手のひらの裂傷などの皮膚障害もでる(注6、9)。

レンガ産業

この産業には地方の女性が雇用されており、練土塊から生レンガを作る際に粉じんに暴露している。レンガを窯で焼く際、材木、乾燥した落ち葉、牛の糞、灯油(ケロシン)、その他のガスを燃料として使う。レンガ産業で働く女性には、呼吸器疾患、肺がん、筋骨格および関節の障害(10時間から12時間もしゃがむため)、婦人科系の障害、耳鼻咽喉の障害、真菌類感染、アレルギー性皮膚炎が発生している。

建設産業

1993年の国勢調査によると、建設産業には650万人が雇用されており、このうち15%が女性で、そのほとんどが未熟練労働者として、コンクリートとレンガの運搬のために採用されている。インドでは機械化が遅れているため、これらの労働者には手と指の麻痺や腰痛など、大きな肉体的ストレスが生じている。また聴力損失、腸の障害、呼吸器疾患、皮膚アレルギーなども発生している。重労働の影響で、女性には月経障害と流産が多く、その子供は幼児の段階で死亡するケースが多い。

ジュートおよびコイヤ産業

ジュートはインド南部の主要産業であり、南部産のロープと麻糸は世界中で高く評価されている。この産業で働く女性は、皮膚アレルギー、マラリア、フィラリアなどの媒介体による疾病、ジュートの粉じんと繊維への暴露による綿肺(byssinosis)などの慢性的呼吸器疾患にかかっている。

電子産業

電子産業には、出産可能年齢を含め、あらゆる年齢の女性が多数雇用されている。電子産業の危険要因は、電離放射線、有機溶剤、カドミウムや鉛などの重金属、生殖機能に有害なアルシン(ヒ化水素)、ホスフィン(リン化水素)などへの暴露を原因として発生する。これらの女性には、流産、早産、子宮内成長遅延の発生率が平均より高いことが判明している。その子供たちには出産時の体重不足、精神遅滞、先天性欠損症が発生している。

香料産業

インドは世界的な香料産出国である。チリ・ペッパー、コリアンダー、黒胡椒、パプリカ、シナモン、パセリなど、毎年200万メトリックトンの香料を産出している。もっとも古くから女性を雇用している産業のひとつである。これらの女性には呼吸器疾患が多く、また香料へのアレルギー反応が皮膚、胃腸、神経などの障害を引き起こす。

ビディ製造

巻きタバコの一種であるビディは、スラム地区の女性と児童が収入を補うために製造している。ビディ製造につきものの深刻な健康問題としては、タバコの粉じんとニコチンによる気管支炎や喘息などの呼吸器疾患、目の痛み、結膜炎、職業性皮膚炎、そして皮膚からのニコチン吸収を原因とする「緑タバコ病(green tobacco sickness)」がある。また月経不順、流産、新生児の死亡多発も共通してみられ、タバコへの暴露に関係している可能性がある。最近の調査の結果、マハラシュトラ州でビディを巻いている労働者の血流中のニコチン濃度は、喫煙者より多いことが明らかになった。これらの女性は、肝臓中のニコチン代謝産物の量も喫煙者の8倍を上まわることが判明した。

掃除人およびごみ拾い

港ではハッチと岸壁の間を、硫黄、燐灰土(おもにリン灰鉱物からなる堆積岩)、肥料、農薬、アスベスト、鉄鉱石、食用穀粒、くず鉄などの資材が積み込み、積み降ろしされている。どこの港でも、作業中にこぼれた資材は、女性労働者が保護具を付けずに手作業で掃除している。これらの女性は臨時労働者である。そして掃除中に空気中の粉じんに暴露している。

女性の掃除人とごみ拾いは、インドの社会的カーストの最下層に位置する、もっとも顧みられることのない人々である。こうした「不可触賎民」の女性は、毎日、竹の籠を引いて各家を回り、ごみと排泄物を回収している。極度の貧困からくる不健康状態に加え、貧血、ウィルス性感染症、病原菌媒介体による疾病にかかっている。


女性の労働衛生

家庭外で働く女性が増えるにつれ、その職業性疾病も増加している。女性は、一般的には産業のなかで男性と同種の危険に直面する。しかし、生物学的な特質による女性特有の疾病もいくつかある。こうした疾病と関連するのは以下のようなものである。

  • 女性の生殖器官
  • 胎児と胎盤の障害
  • 幼児と児童の成長障害

このように、女性の職業性疾病は現在だけでなく未来の世代にも影響が及ぶため、より危険なのである。

労働者、とくに女性労働者に有害な化学物質は次のとおりである。

  • DDTなどの農薬。母乳に浸透し、子供に毒性が及ぶ。また胎児にも影響し、死産や流産を起こすおそれがある。
  • 酸化エチレン。器具の殺菌に使用され、突然変異や染色体損傷の原因になる。
  • エストロゲンおよびスチルベストロール。製造工程で吸収する可能性があり、疾病の原因になる。
  • エストロゲン:月経過多、子宮外妊娠、早産
  • スチルベストロール:線疾患(婦人器官)

化学療法物質。これらの物質を取り扱う看護師は、製造工場の労働者と同様、影響を受けやすい。そうした労働者、看護師が妊娠している場合、次の可能性がある。

  • 細胞の壊死
  • 突然変異
  • 染色体異常による障害児
  • 二硫化炭素、トルイジン、キシレン。これらは、あらゆる種類の月経障害の原因になるおそれがある。
  • 麻酔ガス。とくに看護師、医者、技術者、歯科医が影響を受けやすい。
  • 麻酔ガスは流産の原因になるおそれがある。
  • 出産直後、これらの物質は母乳に蓄積し、新生児に目の障害、皮膚の黒み、神経障害を引き起こす。
  • 鉛および水銀。体内に蓄積すると(血液中の鉛濃度が40マイクログラム/100ml以上が有害)流産の原因になる。
  • 水銀は中毒を引き起こし、成長傷害の原因になる。


都市部の女性

インドの女性のがんでは子宮頸がんがもっとも多いが、都市部の女性では乳がんの発生件数が増えてきた。ムンバイでは、女性の12%が乳がんに罹病している。

家系的に乳がんのリスクが高い女性のなかには、発症する前に両乳房の切除手術を希望する人がいる。これにより、乳がんのリスクは約90%低下する。メイヨー・クリニックの研究者の調査(注13)では、1960年から1993年の間に乳房切除手術を受けた500人を上まわる女性に質問し、手術による心理的影響を調べた。その結果、70%の女性が手術に満足していると回答し、11%がどちらでもない、19%が不満足だと回答した。

女性とストレス

ストレスの多い条件で働き、家庭環境も快適ではない女性の場合、大きな心理的ストレスが生じ、その結果、あらゆる種類の病気にかかりやすくなる。世界中の働く女性は、家庭内の仕事と職場および産業での仕事という二重の負担に耐えなければならず、つねにストレスにさらされている。ストレスや心理的プレッシャーが大きいと、女性の肉体的、精神的健康を害する。

高血圧の女性は、性に関する問題が生じる場合がある。高血圧が女性の性的機能に与える影響についての研究は、男性の場合に比べると遅れている。ニューヨークとコロンビア特別区の研究者が行った最近の調査では、107人の健康な女性と、104人の軽い高血圧(血圧140/90から160/110)の女性の性的機能を比較した。対象者は閉経前の白人女性で、自身の社会的および医学的背景、性生活のいくつかの面に関する質問表に回答した。その結果、高血圧の女性は、そうでない女性と比較して、性交中の潤滑液分泌量とオルガスムが少なく、痛みを感じることが多いことが明らかになった。高血圧薬を使用している人と使用していない人で差はないことも分かった。これは高血圧およびその治療と、女性の性的問題との関係を調べたはじめての調査である。

肥満についての最新情報

ある調査の結果、高齢の女性の場合、ウエストとヒップの比率は健康上のリスクの重要な指標になることが示唆された。体重は健康状態を知る重要な手がかりだが、それをもっとも正しく測定する方法は何だろうか? 総体重か? ウエストの外周か? 体質量指数(BMI:体重(kg)を身長(m)の2乗で除したもの)か? それともウエストとヒップの比率(体形がリンゴ型かナシ型か)か? このうちいくつかは、とくに人生後半の健康問題を予測するのに適している。閉経後の女性を対象とした今回の大規模な調査では、ウエストとヒップの比率から、あらゆる種類の死亡、冠状動脈性心臓病やその他の心臓血管疾病とがんによる死亡をもっともよく予測できることが分かった。ミネソタ大学とメイヨー財団の研究者は、32,000人近くの女性を約12年間にわたって追跡調査した「アイオワ女性健康調査」を基に、今回の結果を得た。肥満と疾病との関連についての研究のほとんどは、男性または若い女性に焦点を当てたものである。今回の調査では、高齢女性を対象に肥満の傾向を検証した。


健康と共通の疾病

労働衛生上の危険要因を認識するには、多数のストレス要因と、それが労働者の健康に与える影響の両面についての知識と理解が必要である。多くの場合、職業性の疾病と非職業性の疾病の症状を区別するのは、きわめてむずかしい(注16)。

職業性の可能性がある共通の疾病としては、以下のものがある。

  • 筋骨格
-腰痛
-腱鞘炎
-上肢の障害
  • 皮膚
-皮膚炎
-アクネ(座瘡)
-めまい
-色素過剰
  • 呼吸器
-上部気道の刺激
-喘息
-気管支炎
-肺気腫
  • 心臓血管
-虚血性心臓疾患
-レイノー現象
  • 神経
-神経障害
-パーキンソン病
-痴呆
  • 聴覚障害
  • がん
-肺がん
-腎臓がん
-肝臓がん
-白血病
-膀胱がん
-皮膚がん
  • 精神的
-ストレス
-不安感
-鬱状態
-恐怖


地方の女性と労働

何百万という女性が、くる日もくる日も収穫と種まき、料理と洗濯など、山のような仕事をこなしている。男女間の不平等な関係は、部分的には改善されたが、こうした仕事はいまも主として女性の役割とされている。地方の女性の大半は、出産と家事だけでなく、子供の頃から多様な生産活動を担っている。皮肉なことに近年の農業生産の革新は、いまだ手作業が中心の地方の女性の役に立っていない。女性に割り当てられた重い肉体労働と貧しい食事のため、インド人女性の栄養失調は悪化している。生産活動の重荷がもっとも過酷なのは妊婦で、必要な休憩や食事もとらず、おなかの子を抱えて妊娠後期まで働いている。出産後の女性は、十分に回復しないうちに労働を再開し、しかも短期間でまた出産する。そのたびに母性機能は低下し、肉体的活力が奪われ、効果的に作業する能力が低下する。

農業における女性

農業はインドの主要産業である。女性は耕作、種まき、移植、収穫、脱穀、穀物の貯蔵、家畜の飼育、燃料と水の供給といった作業をこなす。これらの作業は、若年層を含む栄養不良の女性に深刻な悪影響を及ぼす。骨格が完全に発達していないにもかかわらず、重い荷物を運んだり、長期にわたって不自然な姿勢をとらなければならない場合があるからである。労働者には、さまざまな呼吸器疾患やがんの発症がみられる。

これらの女性が各種の農薬に暴露した結果、流産、早産、出生児の体重不足、出産障害が発生してきた。いまも農薬の適切な使用法に対する無理解がある。そのため農薬が環境に、次いで食料に浸透する。市場から無作為に抽出した各種の食品サンプルを分析した結果、高い濃度の残留農薬があることが判明している。

これとは別に、台所の火から出る大量の煙への暴露の問題がある。この煙は、さまざまな呼吸器障害の原因になる。また女性は、強姦、火傷、殴打などの肉体的攻撃の的になるケースも異常に多い。

健康状態が劣悪なため、インド人女性の生産性は、家庭だけでなくインフォーマル/経済およびフォーマル/経済部門でも低下している。女性の健康改善は、社会的発展と経済的発展の両面で必須の課題になっている。また、そのことは経済的にも効率化を促す。女性の生殖機能の健康改善のための措置は、もっとも費用効率がよいからである。

貧困は女性の人生全般を悪化させる場合が多いが、社会経済的な最下層では、女性の幼児と子供の待遇がよくなる場合がある。女性は生産的な労働者として重宝されるからである。豊かな家庭より極貧家庭の方が、食事と育児面で男の子と女の子の差が小さい場合が多い。しかし、こうした家庭の少女は小さいうちからお金を稼ぐよう圧力がかかる。両親とともに野外での労働に駆り出されたり、内職労働に参加するケースもあり、健康と肉体的成長に悪影響が生じている。

有機燃料による料理がもたらす健康上の危険要因

推計では、世界の半数を上まわる家庭が未加工の固形燃料、つまり有機燃料や石炭を毎日の料理に使用している。グジャラート州での調査(注20)で、薪、家畜の糞、穀物のごみなどの燃料は、石炭や天然ガスなどの化石燃料に比べ、浮遊微粒子、ベンゾピレン、一酸化炭素、多環式有機汚染物質の全体的排出量が多いことが明らかになった。この調査によると、医学的にみて、1日平均3時間を料理に費やす女性は、1立方メートル当たり700マイクログラムの微粒子に暴露し(許容レベルは75マイクログラム未満)、タバコ400本分に匹敵するベンゾピレンを吸収している。また研究では、女性は13歳から料理作りを任され、化学物質に長期にわたって暴露していることも明らかになった。


女性の教育状況

ラジオとテレビの普及により、かつてなかったほどの低コストで、ますます多くの人にますます多くの情報が伝わるようになったが、印刷物はラジオやテレビと違った方法で、読者に力を与える。世界の9億6,000万人の非識字成人に教育プログラムを普及させることが緊急課題だが、彼らの3分の2は女性である。識字率は向上しており、インドの識字率は女性が39%、男性が64%である。しかし国内の地域ごとの識字率の差も根強く残っている。ビハール州、ウッタル・プラデシュ州、ラジャスタン州、マディア・プラデシュ州の北部広域4州はとくに識字率が低く、1991年時点で他州の平均48%に対し、約25%である。

インドの他州と比べ、人口統計学的変遷が25年は進んでいると思われるケララ州をみると、女性の地位が人口増加の抑制に大きな役割を果たしていることが分かる。ケララ州のように、女性がより平等な地位を享受し、教育を受けることが容易になると、出産時期が遅くなり、家族計画がより効果的に活用されるようになる。Repettoは、ケララ州では「女性が芸術家、哲学者、詩人として歴史的に高い地位を享受」し、他の州と違って権力と財産が母系に継承されてきたことを指摘している。1917年には、ケララ州のトラバンコール地域の女性支配者が、少女と少年の両方に無料の義務教育を施す命令をだしている。

しかしインドの他の地域では、娘より息子を好む強い風潮が残っている。女の子は医療面で差別されることが多い。1994年にWTOの機関紙に発表された、西部マハラシュトラ州のプーン地区での医療における男性偏重についての調査で、少年は少女より医療を受ける回数が多く、治療時間も少年の方が大幅に長いことが明らかになった。

広い意味での健康改善にとっては、多産の抑制だけでなく、女性の地位も重要である。女性は石油危機悪化の影響をまともに受ける。料理用の薪を集めるため、さらに遠くまで歩かなければならないからである。労働量の増加は慢性疲労と貧血の原因になり、したがって新生児の健康にも影響するおそれがある。


変化するその他の要因

公衆衛生問題の解決に取り組むインドにとって、社会的、文化的環境は別の形でも影響を及ぼしている。全国的に初等教育は義務化されておらず、政府の支援は第3次教育に集中しているため、富裕家庭が優遇される結果になっている。地方では少年の75%、少女の50%しか初等教育を受けていない。カースト制度の最悪の影響は除去されてきたが、障壁はあちこちに残っている。

技術革新のおかげで、企業は環境基準を順守しやすくなった。工業部門の企業は、インドの環境問題をめぐる議論がスケープゴートにされているとの主張を繰り返してきたが、新技術の開発に取り組み、新しい環境基準の順守コストの低下を目指している。

現代的なコミュニケーションは、教育のなかで大きな役割を果す可能性がある。テレビの台数は、1971年の25,000台から1994年はじめには約470万台に膨らみ、いまや国民の90%を上まわって普及した。テレビ番組で避妊技術、健康法、家族計画について放映すれば、非識字と地理的な障壁を打破できるはずである。しかし実際には娯楽番組が重視されているため、官民の放送業者はその力を生かしきれていない。


変化のための戦略

女性の健康改善のためには、強力で持続的な取り組み、適切な政策的環境、資源の有効活用が必要である。戦略では官民の役割を調整することで、資源を最大限に活用し、政府の政策が行き届かない女性にまで手を広げるべきである。

公的部門は、今後も家族計画、母性保護、感染症の抑制など、平等と経済効率を促進し、恩恵を広範囲に及ぼすためのサービスを提供しつづける。力を入れるべき課題は、民間が提供するサービスに対して、適切な規則を制定し、そのサービス内容を健康促進と予防、ならびに治療にまで拡大するよう促すことである。

既存のサービスを拡大、強化すれば、生産性の損失など疾病がもたらす負担と関連コストを低下できる。これらの改善を持続させ、女性の不利益をなくすためには、医療制度のなかで男女差別への対処を強め、また教育と雇用の機会を拡大しなければならない。効率的で良質なサービスは、長期的にはみずから需要を生みだすものだが、需給両面への検討を考慮する必要がある。

インド政府は、労働環境のなかの女性と子供の問題を解決するための、政策と法律の策定に着手した。労働省内の特別チームが、女性の労働条件、賃金、技能の向上を目指している。「均等報酬法」(Equal Remuneration Act)に基づき、政府委員会が女性の雇用について中央政府に助言を行っている。また人的資源開発省の女性児童開発局(Department of Women and Child Development)は、2000年を通じてこれらの問題に対処するための全国的な将来計画を発表し、科学技術省は労働衛生のための保護対策を改善する研究を支援している。