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タイの交通警官
Traffic police in Thailand

資料出所:ILO/フィンランド労働衛生研究所(FIOH)発行
「Asian-Pacific Newsletter on Occupational Health and Safety」
2001年第1号(第8巻「Risk Surveys」)
(訳 国際安全衛生センター)

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はじめに

人間と環境に危険な影響を及ぼす車両による大気汚染(1)の実態は、一酸化炭素、炭化水素化合物、鉛(Pb)、窒素酸化物(NO、NO2)、二酸化硫黄(SO2)、粉じんである。車両による騒音公害も、人間をいらだたせる。これらの要因は、聴覚障害、高血圧、筋肉の痙攣などの身体的、精神的な健康問題の原因となりうる。

労働生活と健康

交通警官(2)は多くの(身体的および精神的)健康問題に直面する。バンコクの都市部の交通警官を対象とした調査が行われた。心理的ストレスにさらされた結果、彼らの15.87%に精神衛生問題の傾向またはリスクが見出された。また、ストレス度の高い交通警官の約2.24%に、実際に精神衛生問題のあることが明らかになった。ストレスは、交通警官の所属部門、職責、階級、教育水準、年齢によって異なっていた。

すべての交通警官がなんらかの疾病に悩んでおり、とくに呼吸器疾患と、頭痛、不眠症、胃痛などの疾病があり、メンタルヘルスに問題がある場合もあった。また、1992年に警察病院の外来部門で受診した交通警官の主な身体的疾患として、聴覚障害、(34.68%)、血中鉛濃度の上昇(31.3%)、呼吸器障害(23.3%)、肝臓障害(16.95%)、高血圧(9.3%)、腎臓障害(4.61%)のあることが明らかになった。

バンコク都市部の警官の肺機能低下に伴なう要因(3)(4)が検査された。肺機能試験は、ビタログラフ(Vitalograph)スパイロメーターを使用して行われた。調査グループは174人の交通警官で、署内勤務の警官173人を対照グループとした。調査の結果、44人(25.29%)の交通警官に肺機能の低下がみられた。

バンコクのトンブリ地区で勤務する交通警官の呼吸器の健康状態が、タイ国民の平均より悪いかどうかを調査するため、横断調査(5)が実施された。大気汚染による呼吸器への危険有害要因への対策として、マスクを使用することの利点が調査された。トンブリ地区で勤務した交通警官(629人)と、一般男性(303名の対照グループ)の呼吸器の症状を、イギリス医学研究会議(The British Medical Research Council:MRC)の質問表を使用して評価した。呼吸器機能は肺気量測定法により測定した。最終分析では非喫煙者のみを対象とし、その結果、対照グループ(129名)と比較して、交通警官は(242名)は咳または痰(P=0.005)の症状がきわめて多く、鼻炎の症状も多かった。交通警官は、対照グループ(P=0.04)より呼気流量異常の発生率がきわめて高かった。保護マスクを使用しない交通警官は、対照グループ(P=0.046)と比較して、1秒量(FEV1)だけでなく、努力呼気流量(FCV)の異常の発生率もきわめて高かった。またFEV1とFCVの異常に関連したリスクは、保護マスクを使用した人よりも高かった。

バンコクのプラツワン地区で勤務する85名の交通警官(6)の調査も行い、一酸化炭素ヘモグロビンの飽和度を確認した。調査は1983年4月2日から8月29日までの間に実施した。一酸化炭素ヘモグロビンは、息を20秒止めた後、息を吐き出した最後の空気を使用して調査し、ホールデンの方程式で計算した。呼気標本は、喫煙グループと非喫煙グループから各勤務の前後に採取した。その結果、非喫煙者グループの一酸化炭素ヘモグロビンの飽和度は、勤務前で1.09−3.19%、勤務後で1.79−4.67%だったが、喫煙者グループの一酸化炭素ヘモグロビンの飽和度は、勤務前で2.61−5.75%、勤務後で3.34−6.48%だった。勤務の前後で、一酸化炭素ヘモグロビンの値に大きな差があった(P<0.025)。

調査結果から、対象者の44.71%の一酸化炭素ヘモグロビンの飽和度が危険水準を上回っている(冠動脈疾患を発症しやすいハイリスク・グループ)ことが分かった。56.47%が、一酸化炭素ヘモグロビン飽和度の中間値が4.14%で、頭痛、視力障害、吐気、眩暈感など、多数の症状を発生するおそれがある。

結論

呼吸用保護具に関連して、バンコクで勤務する交通警官の健康に対する信条モデルとその行動との関連を調査した(7)。その結果、適切に管理された大気汚染防止対策で交通警官を保護すべきことが示唆された。たとえば、保護具を使用すれば交通警官の肺疾患防止に有効であり、保護具使用の効果への自覚を高めるべきである。

交通警官を対象に、自動車による大気および騒音公害に関する環境教育セミナーまたは研修コースを設定し、その認識と自覚を高めるとともに、適切な保護対策を促すことが提案されている(8)。

この他、バンコクの都市部で勤務する交通警官の大気汚染への自覚を高めることを目的とした調査が行われた(9)。調査の結果、警官が業務への支援の必要性を表明したこと、健康問題の解決に努力していることは、彼らの大気汚染の認識と明確に結びついていることが明らかになった。警官が求めている支援の形態は、無料の健康診断、呼吸用保護具の提供、交通部門専門に勤務する健康な警官の選別、そして、全交通警官に対する路上勤務中の保護具着用義務化の徹底である。

  1. Suwannasri T。Nakornのprathomの交通警官の大気汚染と騒音規制の法律に対する意見。Mahidol大学卒業研究における環境問題の論文(1997年)
  2. Poroong C。バンコクの警官の健康への認識と自衛策。Mahidol大学公衆衛生の理学士論文(1997年)
  3. Boondesh N。バンコク都市部の交通警官の肺機能低下に伴なう要因。Mahidol大学産業衛生および安全の理学士論文(1992年)
  4. Saenghirunvattana S、Boontes N、Vongvivat K.J。タイ医学会1995年12月、78(12):687
  5. Wongsurakiat P、Maranetra KN、Nana A。タイ医学会1999年5月、82(5):435−43
  6. Ratioran S。バンコク都市部の交通警官の一酸化炭素ヘモグロビンの飽和度に関する調査。Mahidol大学医学部Siriraj病院の疫学の理学士論文(1984年)
  7. Rotecheewin P。バンコクの交通警官の行動における呼吸器使用に影響する要因。Mahidol大学公衆衛生理学士論文(1996年)
  8. Lertaweesinth C。バンコクの警官の大気および騒音公害に対する知識、自覚、および個人的保護策。Mahidol大学環境文学士論文(1984年)
  9. Pukpibul C。Mahidol大学の医学および保健社会学論文(1993年)
Vicha Horsawad
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