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ILO-OSH 2001の小規模企業への適用状況
ベトナムでの事例


Practical application of ILO-OSH 2001 to small enterprises
-An example of Vietnam

Tsuyoshi Kawakami(ILO)
Ton That Khai(ベトナム)

資料出所:ILO/フィンランド労働衛生研究所(FIOH)発行
「Asian-Pacific Newsletter on Occupational Health and Safety」
2003年第1号(第10巻「Informal sector」)
(仮訳 国際安全衛生センター)

原文はこちらからご覧いただけます



ILO-OSH 2001のアジアおよび太平洋諸国での進展状況

ILOは2001年に「OHSMSに関するILOガイドライン(ILO-OSH 2001)」を導入した。 ILO-OSH 2001は、政策および事業場レベルでの労働安全衛生改善のための実用的な手段の提供を目標としている。また、さまざまな事業場での特定かつ緊急な需要に応じたオーダーメードのガイドラインの重要性を強調している。アジアおよび太平洋諸国ではILO-OSH 2001は広く検証され適用されてきている。2001年には、OSHMSを実際に適用するための国内の枠組み整備を討議する国家規模の勉強会が中国、インド、マレーシア、タイおよびベトナムで行われた。

いかにしてILO-OSH 2001が小規模企業を支援し、労働安全衛生改善のための実用的な手段となり得るかは大きな課題である。これは、労働安全衛生保護政策をすべての労働者に適用することを目標とするILO世界労働安全計画と同時進行するものである。小規模企業はすぐに現実的に使える労働安全衛生手段を必要としている。ILO-OSH 2001が小規模企業の経営者および労働者を支援して、その労働安全衛生改善の取り組みやすい手段となることが大いに期待されている。


ベトナムにおけるWISE訓練方法の適用

 ベトナムの社会経済発展には小規模企業が重要な役割を果たしている。小規模企業は多くの労働者に雇用機会を提供し、地域労働者の生活水準を高めるための国家的財産を生み出している。安全衛生はベトナム小規模企業の労使双方にとり、ますます重要な問題となってきている。彼らは、また安全衛生の新たなリスクに直面している。
 小規模企業の緊急な要請に対応して、ベトナムの労働者、事業者および政府関係者のための安全衛生教育訓練がこれら三者間で幾度か行われた。ILOが進めるWISE(小規模企業安全衛生改善活動)による訓練法がこの目的で広く適用された。これは小規模企業が生産性と労働条件の両面を改善させるのを促進する個人参加実習型の訓練方法である。
 その地域での実際の好事例から得られた低コストで実践的改善方法に焦点を絞っている。労働傷病兵社会省(MOLISA)および保健省(MOH)はベトナムの各地で、このWISE訓練を数多く実施してきた。ベトナム商工会議所(VCCI)は、商工会議所所属の指導者の訓練を行い、会員となっている小規模企業への奉仕としてWISE訓練を実施してきている。ベトナム労働総連合(VGLC)は建設業および漁業に対して、その傘下の国立労働保護研究所(NILP)を通じて、行動チェックリストによる訓練やグループ討議等のWISE実践方法を適用した。結果として、多くの小規模企業がその地で活用できる材料を用いて実践的改善活動を行い、その作業過程でWISEの個人参加型方法がベトナムの小規模企業に適切であることが認識できた。


ILO-OSH 2001とWISEの併合型訓練

 ベトナムWISEでのそれまでの実績から学んで、ベトナム メコンデルタにあるカント省でILO-OSH 2001とWISEを併合した方法での2日間の訓練が試験的に行われた。カント省はWISEとWIND(農村労働改善)の訓練を今まで数多く実施しており、安全衛生のための個人参加実習型訓練が有益であることを認識している。カント省衛生局の「労働衛生および環境センター」が組織リーダーとして訓練実施を指揮している。12の小規模企業が上記の試験的訓練に参加したが、これら12社はそれぞれ、経営陣から一人そして労働者から一人の計2名の代表者を参加させた。図1に見られるように、ILO-OSH 2001とWISEを併合することにいくつかのメリットがある。WISEでは小規模企業に合った迅速で個人参加型の査定方法が得られ、一方ILO-OSH 2001では安全衛生を改善させるシステム的アプローチが得られ、小規模企業が利用可能な地域の人材、技術、財政資源を体系的に利用するのに役立つ。


実習型訓練計画の進展

 図2に示したように、訓練計画の目的は、ILO-OSH 2001を実習方法でいかに適用させるかのヒントを参加者に提供することである。訓練の最初の段階でWISE形式の実習チェックリストを適用してのリスクアセスメント訓練が行われた。それに引き続き、その地域で得られる資源を活用しての実際的な安全衛生改善を提案するためのグループ討議が行われた。それまでのWISE訓練での成功例に鑑みて、ベトナムの事業場に見られる材料運搬、機械安全、作業場設計、危険な作業環境管理、及び労働関連福祉施設に関する多くの改善例の写真が紹介された。このような地域の改善を示す写真は、参加者が地域の状況において実行可能な改善案を受け入れ、実用的なOSH-MSを構築する上で重要な役割を果たした。
 次の段階では、ILO-OSH 2001の5大要素(政策、組織、計画と実施、評価そして改善活動)が分かりやすく説明された。ベトナムでのこれらの要素の実際例が参加者の理解を得るために引用された。初心者にとっては、OSH-MSは複雑で適用し難いように思われがちである。我々の試験的訓練では、参加者にOSH-MS適用に関する実用的な情報を与え、OSH-MSは適用しやすい方法であり、小規模企業の事業発展に役立つものであることが強調された。参加者にはできることから始めさせ、そして、彼らのOSH-MSを段階的に改善してもらうようにした。
 訓練の第3段階では、ILO-OSH 2001のモデルを使用して、参加者の実際の職場でOSH-MSの組立て訓練を実施した。この段階で、我々はOSH政策、組織およびOSH計画目標の具体例を参加者に示した。その具体例を参照しつつ、12の小規模企業からの参加者が自分のOSH-MSを自分の職場に合った簡潔なやり方で発展させることができるようにした。かくして、彼らはOSH政策を1枚の紙にまとめ、良い組織を作るために職場での全員の役割をきめて、緊急需要に焦点を絞った実施可能なOSH目標を設定した。

事後確認

 安全衛生訓練には、その効果を知り、かつ訓練参加者が技術的な制約を克服できるように、事後確認が必要となる。カント省でのILO-OSH 2001とWISEの試験的訓練の8ヶ月後に、我々は参加者の工場を訪問した。彼らがOSH-MS構築を達成しているのを見ると勇気付けられた。彼らはすべての職場作業者に彼らの安全衛生政策および安全衛生目的を周知せしめ、段階を追っての行動計画を実施した。たとえば、機械加工工場では騒音を発する機械に簡単な覆いを設けて騒音レベルを低下させたし、労働者のための休憩所を設けた。金属加工工場では、材料運搬をより安全に行えるように通路を改善したし、換気をより良くするために開口部を増加した。また、簡単に参照できるように、すべての活動記録をファイルしていた。
 このように事後確認のため工場を訪問することにより、訓練に参加した小規模企業の労働者と経営者が何をさらに行わねばならぬか理解することができた。労働者へのインタビューを通じて、労働者が会社の安全衛生政策を良く理解していることがわかった。同時に、労働者が安全衛生リスクを特定し、事業者に改善を提案する能力を高めるためには、訓練の継続実施が必要であることが確認できた。安全衛生改善努力に対して認識するように提案している何人かの経営者と事業者も出てきた。地方自治体は小規模企業の改善活動を認識し評価する現実的で地域に合う方法を考え始めた。労使とも、彼らのOSH-MS活動を安定継続させるには継続した技術的援助も必要としていた。カント省の「労働衛生および環境センター」は小規模企業と定期的に接触することにより、また、小冊子やインターネットのウェブサイトを通じての情報提供により、小規模企業へのネットワーク的な援助を強化していこうとしている。


結論

 ベトナム・カント省の小規模企業との共同経験により、ILO-OSH 2001は地元小規模企業を援助して安全衛生をシステム的に改善させる現実的な方法になり得ることが認識できた。WISE訓練方法をILO-OSH 2001と併合させると効果的であった。実習チェックリストとWISEの低コスト改善方法を使ったリスクアセスメントは、小規模企業がILO-OSH 2001の重要部分を効果的に実施するに当たっての具体的な技術的ノウハウを提供した。地域の技術研究所や政府関係機関による継続的かつネットワーク的に支援が、小規模企業労使の草の根的行動を加速化する上で大きな役割を果たした。ILO-OSH 2001が小規模企業に現実的手段として多く適用され、その地域での成功例が広く流布されて相乗効果を生み出すことが強く望まれる。


参照

  1. Machida S, Baichoo P. Guidelines on Occupational Safety and Health Management Systems (ILO-OSH 2001). Asian-Pacific News[ Occup Health and Safety 2001;8(3):72-3.
  2. Kogi K, Kawakami T. Trends in occupational safety and health management systems in Asia and the Pacific. Asian-Pacific Newsl Occup Health and Safety 2002;9(2):42-7.
  3. Kawakami T, Batino J. Workplace Improvements that can reduce the risk of musculoskeletal disorders - Experiences of the WISE approach in the Philippines. Asian-Pacific Newsl Occup Health and Safety 1998; 5(3):60-3.


Tsuyoshi Kawakami
ILO East Asia Multi-Disciplinary
Advisory Team
P,O,Box 2-349 Rajadamnern
Bangkok 10200
Thailand
Tel:+66-2-288 1743
Fax:+66-2-288 3058
E-mail:kawakami@ilobkk.or.th

Ton That Khai
Centre for Occupational Health
and Environment
Department of Health
Cantho Province
Vietnam
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Fax: +84-71-831 499


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