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タイ北部における労働安全衛生の概略

資料出所:ILO/フィンランド労働衛生研究所(FIOH)発行
「Asian-Pacific Newsletter on Occupational Health and Safety」
2003年第3号(第10巻「A healthy and safe workplace」)p.68-69
(仮訳 国際安全衛生センター)

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 タイ北部は、17県、人口12,124,425人(タイの総人口の19.5%)から成り、男性が49.7%、女性が50.3%を占める。労働人口は6,632,060人で、北部の人口の54.7%にあたる。表1は、産業別の人口分布である。

表1 2003年、タイ北部における産業別労働人口

産業
農業 59.0
工業 14.5
サービス業 5.9
商業 13.8
その他 6.8
総計 100


農業、工業における労働安全衛生

農業

 農業においては、人口の62.2%が米作り、28.2%が野菜、9.6%が果樹栽培に従事している。主な作物は、米、とうもろこし、たばこ、果物および野菜である。農薬、特に殺虫剤、除草剤、殺菌剤は、ほとんどの農場で広く使用されている。2001年に行われたタイ北部における業務上疾病の疫学的調査によると、1,498ケースの農薬中毒(人口10万人あたり12.35人)が報告され、それはタイ全土の割合の3倍以上であった。ほとんどのケースは、Ping、 Nan、 Yom、 Pasakのような大きな川にそった県で起きており、これらの川は、北部の低地に位置する7つの県を通って流れている。

工業

 北部には18,381の工場があり、労働者は300,381人にのぼる。これらは、タイ全土の工場の14.8%、工業労働人口の9.1%にあたる。表2は、工場の規模を表している。Lumphun県には工業団地が一つあり、そこには68の工場があり、36,940人の労働者が働いている。工場が多いその他の県は、Nakornsawan県(4,711工場)、 Chiangmai県(2,501工場)、 Lumpang県(2,207工場)、 Pitsanulok県(2,005工場)である。

表2 工場の規模別分布

工場の規模 工場数
小規模 50人未満 17,544 95.45
中規模 50-200人 677 3.68
大規模 200人超 160 0.87
18,381 100.0


労働環境に関連する主な疾病

珪肺症

 タイ北部の1,642の工場で働く31,145人の労働者が珪肺のリスクにさらされている。これらの工場の多く(40%)は、コンクリート工場である。さらに、2,919人が働く148の石の粉砕工場、650のセラミック工場がある。それらの多くは、Lumphun県(627工場)、 Chiangmai県(140工場)、 Nakornsawan県(133工場)にある。
 48ヶ所の石の粉砕工場で行われた環境調査によると、41.7%にあたる20ヶ所の工場で粉じん許容レベルを超えていたことが判明した。また、1,384人の労働者のうち、4.98%にあたる69人の肺のX線写真に異常が認められた。

鉛中毒

 170の工場で働く4,126人の労働者が、鉛に暴露されている。これら170工場のうち、45.3%にあたる77工場が自動車修理工場、55.4%は電子関連工場である。鉛に暴露している労働者が多い県は、Nakornsawan県(34工場、1,218人)、Chiangmai県(7工場、1,386人)である。
 空気中の鉛レベルを監視するために、エアーサンプルが採取された。結果は全て同じレベルであった。320人の労働者から血液サンプルを採取し、そのうち80人は、血中鉛レベルが血液100ml中40マイクログラムを超えていることが判明した。

ビシノーシス(綿肺症)

 32,222人が働く259工場が、ビシノーシス(綿肺症)調査プログラムの対象となっており、ほとんどの工場が、Tak県(81工場、 12,015人)とChiangmai県(73工場、 6,006人)にある。2001年は、ビシノーシス(綿肺症)の報告はなかった。

騒音性難聴

 103工場で働く12,222人が、高い騒音レベルに暴露されている。564人が聴力検査を受け、そのうち32.8%がある程度の難聴であることが判明した。難聴者の多くは織物工場で働いていた。

有機溶剤中毒

 北部の2,499の工場で働く60,280人の労働者が有機溶剤の暴露を受けている。最も高い暴露を受けているグループは、Chiangmai県(445工場、818人)、Nakornsawan県234工場、3,563人)、およびLumpang県(287工場、4,268人)にある自動車部品産業で働く労働者達である。
 疾病調査プログラムが、23の家具製造工場で実施された。トルエンレベルを測定するために空気が採取され、平均レベルは許容レベル (766mg/m(*))を超えない41.2mg/m(*)であり、全ての工場において、管理限界値以内であった。労働者87人の尿中馬尿酸レベルは安全限界以下を示し(平均0.6gm/gm(*)クレアチニン)、米国産業衛生専門家会議(ACGIH: American Conference of Industrial Hygienist)が勧告している許容濃度2.5gm/gm(*)クレアチニンは、超えていなかった。


参考文献
  1. Department of Health. Statistics of Occupational Health in 2001, Division of Occupational Health, Department of Health, Nonthaburi, Thailand 2002. (Thai version).
  2. Department of Health. Statistics of Plants and Workers by Region and Occupational Diseases in 2001, Division of Occupational Health, Department of Health, 2002 (Thai version).
  3. Pravuntao V. The Toluene Exposure in Furniture Manufacturing Plants of Prae Province, Thesis for a Master's Degree in Public Health, Suko Thai-Thammathirat University, 2002.
  4. Environmental Health Region 9 in Pitsanulok Province. Situation of Occupational Health in Region 9's Provinces in the Year 2001, Pitsanulok, 2002.
  5. Environmental Health Region 8 in Nakornsawan Province. Situation of Occupational Health in Region 8's Provinces in the Year 2001, Nakornsawan, 2002.
  6. Environmental Health Region 10 in Lumpang Province. Situation of Occupational Health in Region 10's Provinces in the Year 2001, Lumpang, 2002.
著者
Narong Wongba, MD
Director
Mr. Virat Pravuntao
Public Health Officer
Disease Prevention and Control
Office Region 9, Moo 5
Tambol Hauro, Amphur Maung,
Pitsanulok Province, Thailand
E-mail: virat99@hotmail.com


(*) 766mg/m −−− 766mg/m3 と思われる
41.2mg/m −−− 41.2mg/m3 と思われる
0.6gm/gm −−−  0.6gm/dl と思われる
2.5gm/gm −−−  2.5gm/dl と思われる