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NIOSHアラート(警告)

香料を使用し、又は製造する労働者の肺疾患の防止
(Preventing Lung Disease in Workers Who Use or Make Flavorings)

(資料出所:NIOSH発行「ALERT」 DHHS(NIOSH) 発行番号 No.2004-110 December 2003
(訳 国際安全衛生センター)


警告!
職場で特定の化学香料を吸い込むと重篤な肺疾患を引き起こすことがある。

 国立労働安全衛生研究所(NIOSH)は、香料を使用または製造する労働者の肺疾患およびその他の健康への影響を防止するために協力を要請する。電子レンジ用ポップコーンを製造するために香料を製造または使用する労働者における重篤な肺疾患の発生は、それまで知られていなかった職業上の健康リスクの存在を明らかにした。香料は、しばしば多くの化学物質からなる複雑な混合物である[Conning 2000]。通常、これらの化学香料の安全性は、食品として少量を摂取する人を対象に確立されているものであり[Pollitt 2000]、香料を吸入する食品産業労働者は対象になっていない。香料メーカーに雇用されて製造に従事する労働者(または製造工程で香料を使用する労働者)は、しばしば数多くの化学物質を扱っており、このうちの多くは、高濃度で吸い込むと強い刺激性がある。

 この警告は、職場における特定の香料またはその成分への暴露による健康への影響について取り上げ、疾病が発生した職場の状況を例示し、ハザードへの暴露を防止するために事業者と労働者が従うべき手順を勧告するものである。

背景

NIOSHは、ある電子レンジ用ポップコーン包装工場の労働者に発生した重篤な肺疾患について調査した。この工場の元労働者8人が患っていた疾患は、肺機能検査で不可逆性気道閉塞(fixed airways obstruction)と診断された[Akpinar-Elci et al. 2002]。工場の現役労働者を対象とした評価では、製造工程で使われる香料から発生した蒸気への暴露と肺機能の低下との間に関連が認められた[Kreiss et al. 2002a]。同様の不可逆性閉塞性肺疾患(fixed obstructive lung disease)は、香料を使用または製造するほかの工場の労働者にも発生している[NIOSH 1986; Lockey et al. 2002]。動物実験では、電子レンジ用ポップコーンの製造に使われるバター香料の加熱時に発生する蒸気を吸い込むと、気道に重篤な障害が起きた[Hubbs et al. 2002a]。

 罹患労働者に対する医療検査(一部に肺生検を含む)でも、不可逆性気道閉塞を特徴とする珍しい肺疾患である閉塞性細気管支炎(bronchiolitis obliterans)という結果が出た[Akpinar-Elci et al. 2002]。閉塞性細気管支炎では、肺の最小気道に生じる炎症と瘢痕化によって、生活に支障をきたすような重度の息切れが起きることがある。閉塞性細気管支炎に関しては、ある一定の化学物質の吸入、特定のバクテリアおよびウイルスへの感染、臓器移植、特定薬剤への反応など、数多くの原因が知られている[King 2000]。職業性暴露またはその他の環境性暴露による閉塞性細気管支炎の原因としては、窒素酸化物(サイロガスなど)、二酸化硫黄、塩素、アンモニア、ホスゲンなどのガス、およびその他の刺激性ガスが知られている[King 1998]。NIOSHが最近行ったいくつかの調査では、一部の化学香料も職場において閉塞性細気管支炎を引き起こしうることが強く示唆されている。(調査対象の工場の1つにおいて香料に暴露している労働者の一部は、職業性喘息を患っていることもわかった。)

健康への影響

不可逆性気道閉塞に罹患した労働者が示す主な呼吸器症状には、咳(通常、痰を伴わない)と労作時の息切れがある。一般にこれらの症状は、平日帰宅後や週末または休暇中も改善がみられない。肺の症状の程度は、軽度の咳だけから重度の咳および労作時の息切れまでさまざまである。通常、これらの症状は徐々に始まって段階的に進むが、突然重い症状が現れることもある。労働者によっては、発熱、寝汗、および体重の減少がある。最終診断に至る前、罹患労働者を診た医師らは、当初、症状の原因は喘息、慢性気管支炎、肺気腫、肺炎、または喫煙ではないかと考えていた。重篤な症例では、薬物療法が効かないこともある。一般に罹患労働者は、香料蒸気に暴露しなくなってから何年も経て咳が徐々に減少または消失するが、労作時の息切れはなくならない。非常に重篤な症状を示す患者数人は、肺移植の順番待ちリストに載せられた。香料に暴露する労働者には、目、鼻、喉、および皮膚の炎症がみられることもある。一部の症例では、目の化学火傷に対する治療が必要であった。

医学的評価

医療検査では、以下のうち複数の症状がみられることがある。
  • スパイロメトリー(肺機能検査の種類)では:
    • 最もしばしば不可逆性気道閉塞を示す(呼気を急速に吐き出すことが困難で喘息治療薬による改善がみられない)。
    • 時として機能低下を示す(肺をいっぱいに膨らませる機能の低下)。
  • 肺の過膨張を示すことがある(閉塞気道の奥に空気が閉じ込められ、肺に過度に空気が入っている状態)。
  • とりわけ症状の初期においては、一般に肺拡散能力(diffusing capacity of the lung: DLCO)は正常である。
  • 一般に胸部エックス線は正常だが、過膨張を示すことがある。
  • 深呼吸時の肺の高分解能コンピューター断層撮影では、呼気時の不均一な空気とらえ込み現象、および境界のにじみや気道壁の肥厚が認められることがある。
  • 肺生検では、狭窄性の閉塞性細気管支炎(末梢気道の重度の狭窄または完全な閉塞)の証拠が明らかになることがある。診断には胸腔鏡検査などの開胸性肺生検の方が経気管支肺生検よりも正確に診断を下せる可能性が高い。診断には特殊処理、染色、複数の組織片の検査が必要になることがある。

現行の暴露限界

香料は天然および人工のさまざまな物質から作られている。単一の物質でできている場合もあるが、多くは複数の物質の複雑な混合物である。香料抽出物製造者協会(Flavor and Extract Manufacturers Association)は、食品として消費される場合を想定した諸条件の下で「一般に安全と認められる(GRAS:generally recognized as safe)」かどうかを決定するために、香料成分の評価を行っている。香料成分は食べても安全とみなされているが、食品産業および化学産業の労働者が暴露されうるような形または濃度において吸入すると有害である可能性がある。

 香料に使われる数千種の成分のうち、職業性暴露に関するガイドラインが作成されているものはごく少数しかない。たとえば、労働安全衛生庁(OSHA)の許容暴露限界値(permissible esxposure limits: PEL)および/またはNIOSHの暴露限界勧告値(recommended exposure limits: REL)が確立されている香料成分は、その揮発性および刺激的特性により香料業界から呼吸器にとって潜在的なハザードであるとされている1,037の香料成分のうち、わずか46(5%未満)にすぎない(α,β不飽和アルデヒドとケトン、鎖式アルデヒド、鎖式カルボン酸、鎖式アミン並びに鎖式及び芳香族チオールと硫化物)[Hallagan 2002](注)原文のAPPENDIXを参照)。化学物質等安全データシート(MSDS)には、ある一定の化学物質の職業上の既知のハザードに関する情報が記載されているが、職業上の健康リスクとして新たに認められたものについては、MSDSに最新の情報が盛り込まれていない可能性がある。

事例群報告

事例群1

図1:事例群1の混合作業室。大きな混合タンクには、加熱された油とバター香料の混合物が入っている。タンクの蓋がピッタリしまっていないことに注目、タンクから外にこぼれており、局所排気は行われておらず、容量5ガロンのバケツには蓋がない。バケツは、濃縮バター香料を小さな加熱タンクから大きな混合タンクへと手作業で移すのに使われている。
図1:
事例群1の混合作業室。大きな混合タンクには、加熱された油とバター香料の混合物が入っている。タンクの蓋がピッタリしまっていないことに注目、タンクから外にこぼれており、局所排気は行われておらず、容量5ガロンのバケツには蓋がない。バケツは、濃縮バター香料を小さな加熱タンクから大きな混合タンクへと手作業で移すのに使われている。
 いずれも同じ電子レンジ用ポップコーン包装工場(ポップコーン工場A)での勤務経験がある29〜53才の男性4人と女性4人が、不可逆性気道閉塞を発症した。これらの元従業員のうち1人と、同じ工場で働いていたことが後になってわかったもう1人の労働者については、肺生研で閉塞性細気管支炎と一致する所見が得られた[Akpinar-Elci et al. 2002]。これらの症例は何年にもわたって散発的に発生した。このうち4人は、大豆油、塩、およびバター香料を加熱して混合する作業をしていた。バター香料は蓋のないバケツから蓋のない混合タンクへと手作業で注がれていた(図1を参照)。残りの4人は、油と香料の混合を行う作業室に近い場所で、電子レンジ用ポップコーンの包装作業を担当していた。5人は、喫煙歴がまったくないか、あってもごくわずかだった。初期症状は、咳、労作時の息切れ、および喘鳴であった。ほとんどの患者は、工場での勤務開始後、5か月から5年の間で徐々に症状が出始めていた。スパイロメトリー検査では6人に重篤な気道閉塞が認められた。胸部エックス線では8人全員が正常で、肺拡散能力(DLCO)検査を受けた6人のうち4人は正常であった。コルチコステロイド剤(副腎皮質ホルモン)による薬物療法は効果がなかった。ほとんどの患者は肺の専門医に回された時には重症で、4人が肺移植リストに載せられた。咳は職を離れてから数か月〜数年で減少したが、労作時の息切れは消失しなかった。

 現在同じ工場で働いている135人の労働者のうち117人を対象に行われたスパイロメトリー検査では、気道閉塞を患う労働者の数が通常の3倍に達することが明らかになった[Kreiss et al. 2002a]。これらの労働者の胸部エックス線と肺拡散能力(DLCO)は、ほぼすべてが正常であった。過去に香料蒸気への暴露が多かった労働者は、暴露の少ない労働者と比べ、スパイロメトリー検査で異常を示す傾向が著しく高かった。換気がほとんどなされない狭い作業室で1回のシフトあたり約100袋の電子レンジ用ポップコーンを調理していた品質検査要員についても、高い率で肺機能の異常が認められた。工場での勤務開始後に皮膚に問題を生じたと報告した労働者も多数にのぼった。

事例群2

香料製造会社の労働者5人に不可逆性気道閉塞が発症した[Lockey et al. 2002]。罹患した労働者5人はいずれも比較的若く、全員に喫煙歴がなかった。1人は38才の労働者で、香料混合物に30ガロンのアセトアルデヒドを追加してから数秒で息切れが起き、咳が出始めた。息切れは数分後に収まったが咳は続いた。2か月後、この労働者は労作時に息切れするようになった。症状が出現した後のスパイロメトリー検査では不可逆性気道閉塞が認められた。工場での勤務開始前に行われたスパイロメトリー検査は正常であった。薬物療法による改善はみられなかった。工場勤務中に不可逆性気道閉塞を発症したほかの4人の労働者についても、同じような症状が認められた。暴露されなくなってからは、何年にもわたりそれ以上の肺機能の低下はみられなかった。

事例群3

菓子メーカー向け香料製造工場での勤務開始後、以前は健康で喫煙歴のない若い労働者2人が、重篤な不可逆性気道閉塞を発症した[NIOSH 1986]。2人が働いていた作業室では、大きなミキサーに入ったスターチと小麦粉に、液体および粉末の香料を混ぜていた。2人とも労作時の息切れと頑固な咳が症状として現れた。スパイロメトリー検査では、重篤な不可逆性気道閉塞が認められた。肺拡散能力(DLCO)と胸部エックス線は正常であった。気管支拡張剤とコルチコステロイド剤を投与したが、2人とも大幅な臨床的改善はみられなかった。数か月間職場を離れた後も、2人には重い労作時の息切れが残った。2人のほかに、混合室で作業していた元労働者2人についても検査が行われ、軽度から中程度の気道閉塞が認められた。

事例群4

電子レンジ用ポップコーン工場(ポップコーン工場B)で油とバター香料を混合する作業をしていた54才の労働者が、慢性咳の診断のために専門医に回された[Parmet and Von Essen 2002]。スパイロメトリー検査では不可逆性気道閉塞が認められた。労働者の話では、3年前に工場で働くようになってから慢性咳があるということだった。咳は、新しいバター香料混合物を扱った際に著しく悪化した。暴露を止めてコルチコステロイド剤を投与したところ、呼吸器症状と肺機能はいくらか改善した。新しいバター香料混合物の使用後、同じ工場で香料蒸気に暴露していた6人の労働者のうち5人に目の化学火傷が発生した。暴露を止めて薬物療法を受けさせたところ、目の症状は数週間でなくなった[Kanwal 2002a]。

事例群5

NIOSHが電子レンジ用ポップコーン工場(ポップコーン工場C)で行った調査の結果、製造工程労働者41人のうち通常の2〜3倍にあたる11人が肺機能検査で閉塞傾向を示した。閉塞は不可逆性で(すなわち、気管支拡張剤による改善はみられなかった)、肺拡散能力(DLCO)検査を受けたほとんどの罹患労働者の肺拡散能力(DLCO)は正常であった。この工場では、加熱した油とバター香料の混合タンクと貯蔵タンクの置いてある作業室に包装ラインがあり、製造工程労働者もこの作業室で働いていた[Sahakian 2003]。

事例群6

 電子レンジ用ポップコーン工場(ポップコーン工場D)で大豆油と香料を加熱して混合する作業をしていた37才の労働者に重篤な不可逆性気道閉塞が認められた。この労働者は7年間混合係として勤務していた。混合係であった最初の3年の間に行われたスパイロメトリー検査では、通常より急激な肺機能の低下が認められた。4年目からは労作時の息切れが段々と増えた。この工場では、加熱した大豆油と香料を混合、貯蔵するタンクに局所排気装置があり、これらのタンクは、工場の他の部分と別の換気システムが備えられた作業室に置かれていた。NIOSHによる調査では、混合係として勤務した労働者にスパイロメトリー検査で過度の異常が認められた(13人中6人;半数が不可逆性気道閉塞)。包装ラインの労働者にはスパイロメトリー検査での過度の異常は見つからなかった。呼吸用保護具は支給されていたが、混合係は香料への暴露時に常に着用していたわけではなかった[Kanwal 2002b]。

結論

香料を使用したり、香料製造において化学物質を使用したりしているさまざまな工場の労働者を対象に、生検によって閉塞性細気管支炎の証拠が得られた事例群1つを含む不可逆性閉塞性肺疾患の事例群を上にまとめた。最近大きく注目されているのは、電子レンジ用ポップコーン工場で使われるバター香料の揮発性化学物質に暴露している労働者であるが、ほかの報告書によれば、それ以外の香料および食品製造に携わっていて各種の香料に暴露している労働者も、同じようなリスクを抱えている可能性がある。

 現在のところ、香料に使われるどの化学物質が肺疾患およびその他の健康障害を引き起こすのか、職場での暴露濃度がどの程度なら安全なのかについてはほとんどわかっていない。NIOSHでは最近、電子レンジ用ポップコーン工場労働者の気道疾患に関する現在進行中の調査の一環として、バター香料化学物質を個別に評価するための動物実験を行っている。動物実験の結果では、バターの風味を付けるために使われているジアセチルから発生する蒸気への暴露が気道閉塞を引き起こすことが示唆されているが、その程度は、元のバター香料混合物そのものから発生する蒸気への暴露と比べると、より低いようである[Kreiss et al. 2002b; Hubbs et al. 2002b]。

 香料に使われるほとんどの化学物質は、吸入による呼吸器への毒性がテストされておらず、これらの化学物質のうち暴露限界値が確立されているものは比較的少数である。香料関連化学物質の毒性については依然として未知の部分が多いが、事業者と労働者は、労働者を危険にさらす作業条件および作業慣行に対処するために種々の措置を講じることができる。

勧告

以下の勧告は、香料の使用または製造に関連する危険有害物質への暴露を減らすことを目的としたものである。一般論として、NIOSHは、事業者と労働者が各種の管理を行って労働者の暴露を制限するよう勧告する。主な管理の種類を優先度の高い順に以下に掲げる。
  1. 代替
  2. 工学的な管理
  3. 作業管理
  4. 教育訓練
  5. 個人用保護具
  6. 暴露および労働者の健康状態の監視

代替

有害危険性のより少ない原料への代替によって、既存の有害危険性を効果的に減らすことができる。ただし、代替は必ずしも実現可能または決定的なアプローチではない。適切な代替物が存在しない場合があるし、香料混合物の場合には、暴露が複合的で毒性の理解が不十分である可能性がある。したがって、代替を考慮するときは以下のことを行う必要がある。
  • 代替物の選択にあたっては細心の注意を払う。
  • 代替物の候補が健康に及ぼす可能性のある悪影響を考慮する。
  • 一般的に言って、揮発性の少い化学物質あるいは吸入性粉末が取扱中に空気中へ発散する量が少ない香料組成の方が、労働者を危険にさらすリスクも小さいことを忘れない。

工学的な管理

 工学的な管理は、潜在的にハザードな香料の使用または製造に関連する暴露を最小限に抑えるうえで最も重要な手段である。たとえば、密閉製造法(香料またはその化学成分を混合タンクに入れる際に蓋のないコンテナの使用を避けるなど)、適切な換気、隔離などがある。

  • 可能な限り、香料またはその化学成分の運搬には密閉型工程を使う。
  • 香料とその成分を蓋をせずに取り扱う混合室およびその他の区域を隔離する。工場のほかの部分に対し、これらの作業区域には陰圧の空気圧がかかるようにする。
  • タンクおよびその他の暴露の原因となる可能性のある場所(香料を蓋をせずに検量または計量する場所など)で局所排気を使用するとともに、作業区域の全体的な希釈換気を行って、労働者の暴露を抑止または低減する。適切な換気システムの設計に関する情報を、資格を有する換気エンジニアから、または「産業換気−推奨慣行マニュアル(Industrial Ventilation -- A Manual of Recommended Practice)」[ACGIH 2001]で入手する。
  • 特に香料とその成分を取り扱う区域(混合室など)及び近接した作業区域では、換気装置を定期的に点検し、正常に機能しているかどうか確認する。また、工程が変更された場合や問題が疑われる場合も点検を実施する。
  • 香料の加熱を伴う工程については、温度をできるだけ低く保って揮発性物質の空気中への発散を最小限に抑える。

作業管理

  • 香料またはその成分を扱う際に作業場の空気中への化学物質および粉じんの発散を抑える作業慣行を確立して実施する。
  • 不使用または残った香料やその成分の入った容器を密封する。
  • 香料またはその成分を扱う区域では常に整理整頓を徹底する。
  • 作業場、タンクその他の容器、および流出物質の清掃に関して標準の手順を確立する。
    • 粉末香料または成分の清掃に圧縮空気を使用しない。圧縮空気を使用すると、浮遊粒子の濃度が高くなる。
    • タンクその他の容器から蒸気や湯を用いて残留化学物質を取り除く時は、揮発性化学物質の蒸気への暴露が増える可能性があるので、特に注意する。
    • 香料またはその成分のこぼれたものは、暴露を抑えるための手順および適切な保護具を使用して速やかに清掃する。
  • 香料を蓋をせずに取り扱うすべての区域への立ち入りを制限し、作業に不可欠な労働者であって、かつ適切に保護されている場合(あとの「個人用保護具」を参照)にのみ、これらの区域への立ち入りを許可する。

事業者と労働者の教育訓練

最適な労働安全衛生計画には、事業者が製造工程でのハザードへの暴露を認識し、この情報を労働者に伝達することが不可欠の要素である。
  • 香料剤を含んでいる可能性のあるあらゆる原料について労働者に情報を伝え、ハザードの特徴を教える。
  • 作業場の掲示、容器のラベル、化学物質等安全データシート(MSDS)、および教育訓練を通じて、一般的な情報と特定のハザードに関する警告を提供する。
  • 暴露を抑止または低減するために施設においてどのような手段が利用可能か、労働者自身および同僚が暴露する可能性を減らすためにどのような行動が可能かについて、労働者を教育する。
  • 香料関連の健康上の問題が生じていることを示す症状を労働者に教える。これらの症状を監督者と医者に報告するよう労働者に助言する。

個人用保護具

工場または作業区域内に存在する物質および量が潜在的なハザードである場合には、皮膚・目・気道の炎症、およびその他の健康障害から労働者を守るために個人用保護具を提供する。

皮膚と目の保護

  • 刺激性香料またはその化学成分に皮膚と目を暴露する可能性のある労働者に対し、化学防護手袋と密着型保護眼鏡の使用を義務付ける。
  • 遂行業務に関する知識、関与する物質、および暴露の可能性の評価に基づき、各作業で個人用保護具をいつ使うべきかについて、具体的な指針を確立する。

呼吸器の保護

呼吸用保護具の使用は、呼吸器に対するハザードへの労働者の暴露を管理する方法としては最も好ましくない方法である。
  • 呼吸用保護具を定常作業の第一の管理手段として使用しない。ただし、最適な工学的な管理と作業慣行が徹底されている場合、短期間の保守作業中および緊急事態発生時には、呼吸用保護具を必要としてこれを使用してもよい。
  • 工学的な管理によって実現可能な最低限の濃度でも危険が予想されるような暴露状況(あとの「労働者の健康状態の監視」を参照)においては呼吸用保護具を使用する。
  • 香料またはその化学成分に暴露する労働者が使用すべき最低限の呼吸用保護具は、NIOSHによって認可され、有機蒸気カートリッジまたは吸収缶と粉じんフィルターを備えた半面形の陰圧マスクである。
  • 目の保護と呼吸器のさらなる保護のためには全面形マスクを使用する。
  • 香料またはその化学成分に暴露する労働者に対しては、その他の呼吸用保護具を検討する。具体的には、電動ファン付呼吸用保護具(有機蒸気カートリッジまたは吸収缶と粉じんフィルターを備えたもの)、および、呼吸器を最大限に保護するために給気式呼吸用保護具を検討する。
  • 呼吸用保護具を使用する場合は、あらかじめ、OSHAの呼吸用保護基準[29 CFR*1910.134]の要件を満たすような書面による呼吸用保護プログラムを策定する。
  • しかるべき訓練を受けた従業員または監督者を任命してプログラムの実施とその効果の評価にあたらせる。任命する者の訓練の程度または経験は、プログラムの難易度に見合ったものである必要がある。
  • 選択した呼吸用保護具が42 CFR 84に従ってNIOSHにより認可されていることを確認する。
  • 客観的な情報またはデータに基づいて吸収缶とカードリッジの交換スケジュールを作成し、使用可能期間の終了前に確実に吸収缶とカートリッジを交換できるようにする。
  • 呼吸用保護プログラムには以下のものを含める。
    • 呼吸用保護具の選択の手順
    • 呼吸用保護具の使用を義務付けられた労働者の医学的評価
    • 密着型マスクのフィットテストの手順
    • 定常作業時および合理的な範囲で予測可能な緊急事態発生時における呼吸用保護具の正しい使用手順
    • 呼吸用保護具の清掃、消毒、保管、点検、修理、廃棄、および保守のための手順とスケジュール
    • 送気マスクの吸入空気が適切な質、量、および流量であることを確認するための手順
    • 定常作業時および緊急事態発生時に暴露する可能性のある労働者を対象とした、呼吸器に対するハザードについての教育訓練
    • 呼吸用保護具の装着方法と外し方、使用上の制限事項、および保守など、呼吸用保護具の正しい使用法についての労働者の教育訓練
    • プログラムが効果をあげているかどうか、および労働者がプログラムの要件を遵守しているかどうかを定期的に評価するための手順

*連邦規則集(Code of Federal Regulations)。参考文献のCFR(注)原文のREFERENCES)を参照。

暴露の監視

  • 認定空気捕集専門家に依頼して、空気中に大量に存在する揮発性化学香料を特定するとともに、これらの化学物質のうち1つ以上の気中濃度を暴露指標として測定する。
  • 該当する場合には、全吸入性粉じんの気中濃度および化学香料の気中濃度をOSHAの許容暴露限界値(PEL)またはNIOSHの暴露限界勧告値(REL)に照らして測定する。
  • 新しい工学的な管理または作業慣行の変更が実際に暴露を低減しているかどうかを見極めるために反復的監視を行う。
  • 管理の有効性が持続していることを確認するためにルーチン監視を定期的に続ける。
  • 監視を通じて暴露濃度の上昇が明らかになったら、工学的な管理を徹底的に点検し、問題を特定して是正措置を講じる。

労働者の健康状態の監視

  • 香料または香料成分に対する潜在的なハザードへの暴露のあるすべての労働者を対象に、症状の確認およびスパイロメトリー検査を配置前ならびに定期的に実施する。
  • スパイロメトリー検査については米国胸部疾患協会(ATS: American Thoracic Society)の最新のガイドライン[ATS 1995]に従う。
  • 検査の間隔を指定することは現状では難しいので、少なくとも毎年検査を実施する。一部の罹患労働者は比較的早期に重篤な気道閉塞を発症していることから、状況によってはより頻繁な検査(おそらく3か月ごと)が望ましいと考えられる。
  • 特定の労働者層に香料への暴露に関連する異常が見つかった場合には、より頻繁に検査を実施する。いずれにせよ、症状が出た労働者は定期検査を待たずに報告する必要がある。
  • 頑固な咳、持続性の労作時の息切れ、頻繁または持続性の目・鼻・喉・皮膚の炎症、スパイロメトリー検査での肺機能の異常、急激な肺機能の低下がみられる労働者については、速やかに専門医に回して詳しい医学的評価を受けさせる。医学的評価を行う医師には本アラートを渡す。これは作業関連の病状を特定し、その進行を阻止するためである。医師は、発症ないし悪化の原因が作業時の暴露であると推測または確認される症状、さらなる医学的評価および治療についての勧告、そして特に、労働者に対して適用すべき暴露の制限(当該作業場からの配置換えを含む)または個人用保護具の使用に関して、労働者にアドバイスを与えなければならない。医師は、労働者に対して適用すべき暴露の制限または個人用保護具の使用に関して事業者に情報を提供しなければならない。
  • 作業時の暴露に関連する呼吸器症状がみられないからといって、暴露が適切に管理されていると考えてはならない。職業性喘息の労働者に比べると、香料への暴露から不可逆性気道閉塞を発症した労働者では、休みの日や休暇中に症状の改善をみたと報告するケースは、たとえあったとしてもごくわずかである。また、香料への暴露から不可逆性気道閉塞を発症する労働者は、初期段階では症状が出ない場合がある。定期的なスパイロメトリー検査は、現時点において、香料またはその成分への職業性暴露による肺機能の低下または異常を早期に発見するための最も有効な検査方法である。

サーベイランスと疾病報告

  • 報告された症状、スパイロメトリー検査の異常、医師が勧告した暴露の制限、および健康への影響に関するその他の利用可能な情報について、労働者全体のパターンを評価し、暴露を管理して健康への悪影響の拡大を阻止するうえで、さらに集中的に対処すべき作業区域、工程、および暴露を特定する。

医師、労働者、および事業者は、香料や香料成分に暴露している労働者にみられる気道閉塞を伴う肺疾患、または重篤な作業関連肺疾患の症例について、NIOSHの呼吸器疾患調査課(Division of Respiratory Disease Studies)(800-232-2114)および当該州の衛生当局に報告しなければならない。かかる報告がもたらす情報は、高リスクな作業環境の特定と症例の拡大防止に有益である。

香料を使用し、又は製造する労働者の肺疾患の防止

警告!
職場で特定の化学香料を吸い込むと重篤な肺疾患を引き起こすことがある。

 香料は天然および人工のさまざまな成分からなる複雑な混合物であり、製造工程において多くの食品に添加されている。使われる香料および工程によっては、労働者は蒸気、粉じん、またはスプレーの形でハザードな香料または香料成分に暴露する可能性がある。

 香料または香料成分を製造、使用する労働者や、これらの作業が行われている場所の近くで労働する労働者は、みずからの健康保護のために次のことを行わなければならない。
  • 監督者に対し、香料およびその成分に関連する有害危険性についての教育訓練を要請する。
  • 容器のラベル、および香料とその成分の化学物質等安全データシート(MSDS)を読む。
  • 作業場の空気に香料とその成分を混入させないための暴露管理装置および作業慣行について知り、これらの手段を活用する。
  • 使用していないときは香料および化学成分の容器を密封し、内容物が職場の空気に混入しないようにする。
  • 事業者から提供される呼吸用保護具およびその他の個人用保護具(手袋、保護眼鏡など)をいつ、どのように着用すべきかを理解する。
  • 事業者が実施する呼吸機能検査を受ける。
  • 持続性の息切れ、頑固な咳、目・鼻・喉・皮膚の異常があれば、速やかに監督者と医師に報告する。症状を報告するときは、監督者と医師に本アラートのコピーを渡す。
香料を使用または製造する企業は、労働者の健康保護のために以下の措置を講じなければならない。
  • 労働者の有害危険要因への暴露を制限する。
    • 可能な場合には、有害危険性のより少ない香料成分または組成への代替を検討する。
    • 密閉型の製造工程を使用する(蓋のない容器での香料および成分の取り扱いを避ける)。
    • 香料またはその成分を取り扱う場所では効果的な局所排気と全体的な希釈換気を行う。
    • 混合工程およびその他の暴露の可能性の高い工程を作業場のほかの部分から隔離し、これらの作業区域の空気圧を陰圧に保つ。
    • 加熱工程では温度を必要最低限に抑える。
    • 作業場の空気への化学物質蒸気および粉じんの発散を抑える作業慣行を確立して実施する。
  • 香料の気中濃度を監視し、管理の取り組みが暴露の制限に有効であることを確認する。
  • 香料関連化学物質への暴露による肺疾患およびその他の健康への影響の可能性について、また暴露を回避したり最小限に抑えるための方法について、労働者を教育する。
  • 容器のラベル付けおよび警告の掲示を適切に行う。
  • 香料またはその成分への呼吸器のハザードな暴露のリスクがあるときは、労働者に適切な呼吸用保護手段を提供する。該当するのは以下の場合である。
    • 最適な暴露管理が実施されている場合であっても、
    • 故障または保守作業により、管理が適切に機能していない場合
    • 実現可能な最低限の濃度でも危険が予想される場合
  • 目と皮膚への有害危険な暴露のリスクがある場合には、労働者に(手袋、マスク、保護眼鏡など)その他の適切な個人用保護具を提供する。
  • 香料またはその成分に対するハザードへの暴露のリスクがあるすべての労働者に対し、最初に暴露する前、およびそれ以降は定期的に、呼吸機能検査(スパイロメトリー検査)を実施する。検査結果に異常がみつかった場合、検査の結果が時間の経過とともに急激に悪化している場合、または持続性の症状がある場合には、労働者を専門医に回して医学的評価を受けさせる。
  • 報告された症状、肺機能検査の結果について労働者全体のパターンを評価し、健康への悪影響の拡大を阻止するために、さらに集中的に対処すべき作業区域、工程、および暴露を特定する。

詳細については、NIOSHアラート「香料を使用し、又は製造する労働者の肺疾患の防止(Preventing Lung Disease in Workers Who Use or Make Flavorings)」[DHHS (NIOSH) Publication No. 2004-110]を参照のこと。冊子としてのアラートは次のところから無料で入手できる。

NIOSH-Publications Dissemination
4676 Columbia Parkway
Cincinnati, OH 45226-1998

Telephone: 1-800-35-NIOSH (1-800-356-4676)
Fax: 513-533-8573

E-mail: pubstaft@cdc.gov

Department of Health and Human Services
Centers for Disease Control and Prevention
National Institute for Occupational Safety and Health