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NIOSHアラート(警告)

産業用エチレンオキシド滅菌装置の爆発による労働者の死傷の防止
(Preventing Worker Injuries and Deaths From Explosions in Industrial Ethylene Oxide Sterilization Facilities)

(資料出所:NIOSH発行「ALERT」 DHHS(NIOSH) 発行番号 No. 2000-119 April 2000
(訳 国際安全衛生センター)

国際安全衛生センター注
エチレンオキシド(EtO)は滅菌剤として広く用いられていますが、人体への有害性ばかりでなく、爆発の危険も有しています。出典の「NIOSH ALERT」は国立労働安全衛生研究所(NIOSH)、環境保護庁(EPA)、エチレンオキシド協会(EOSA)が共同で爆発事故防止のために作成されたパンフレットです。ここでは、背景、事故原因、EtOの特性、健康への影響についてご紹介します。

警告!
エチレンオキシドを酸化排出コントロール装置に不適切に注入すると、爆発を引き起こす可能性がある。

アメリカの国立労働安全衛生研究所(NIOSH)、環境保護庁(EPA)、エチレンオキシド協会(EOSA)は、産業用エチレンオキシド(EtO)滅菌装置およびEtO再充填工場での爆発防止への協力を呼びかけた。EtOは可燃性ガスである。滅菌作業の過程で、EtOを触媒酸化装置などの特定の種類の排出コントロール装置に注入すると、爆発性化合物を生成しやすい。

1994年から1998年までの間に、EtOが原因となった産業用滅菌装置およびEtO再充填工場での爆発事故は10件にのぼる。なかには労働者1人が死亡、59人が負傷した事故もある。すべての事故で工場に損害が生じているが、その大半はEtOの排出コントロールに触媒酸化装置を使用していた。

今回の警告は、所有者、管理者、監督者、技術者、安全担当者、労働者に、産業用EtO滅菌装置と再充填工場での爆発、負傷、死亡の可能性を知らせるためのものである。こうした爆発事故を防止するための対策をとるよう勧告する。

背景

環境保護庁によると、EtOは、全米で生産されている化学物質のうち、生産量で上位3%を占める物質のひとつである。アメリカ国内で生産されたEtOで、産業用滅菌剤または燻蒸剤に使用されているのは1%に満たない[LaMontagne and Kelsey 1998a]。滅菌用に使用されるEtOは、圧力をかけた純粋の液体として、または他のキャリアと混合して、ボンベで供給されている。

産業界では長年、安全で効果的で効率のよい滅菌方式として、EtOを使用してきた。医療、食品業界は、滅菌済み製品をEtO滅菌装置業界に依存して入手している。販売されている滅菌済み医療器具の50%以上は、EtOを使用して滅菌されている[Kroschwitz and Howe-Grant 1994年]。

滅菌システムのなかには、酸化排出コントロール装置(OECDs)が組み込まれているものがある。それらは酸化または燃焼を通じて、排出流中に残存している少量のEtOを除去または破壊する。酸化湿式ガス洗浄システム(acidified wet scrubber systems)では低濃度EtOの排出抑制効果が若干低く、たいていはこの代わりにOECDsが使用されている。しかしOECDsのみの使用は、火災と爆発の危険性を高める。EtO滅菌産業での最近の爆発のほとんどは、OECDsがからんでいる。EtO蒸気は可燃性と爆発性がきわめて高いため、OECDsへの排出流中のEtO濃度は、可燃または爆発範囲を大きく下まわる水準に抑制すべきである。熱または触媒OECDsが発火原因となって排出流の爆発を引き起こす可能性があるからである。

爆発事故のほとんどは、システムへの過供給を伴なっている。過供給が発生するのは、以下の場合である。

−滅菌装置中のEtO濃度が高いときに、背部通気口を開放する。

−EtOからOECDへの流量を調整するバルブがない。

−大量のEtOを含んだ流れが装置に到達する。

OECDへの過供給には、通常、以下のいずれかまたは複数の要因がかかわる。(1)滅菌装置の流入口の開放による背部通気の作動。(2)手動スイッチによる背部通気の作動。(3)滅菌装置コントローラーを通じた背部通気の作動。OECDへのEtOの流量または濃度を抑制するバルブや通気弁を使用しないと、背部通気による大量の排気により、OECDの安全設計上の限界を超えたEtOが排出される可能性がある。

EtOの特性

    EtO(分子式:C2H4O、別名:エポキシエタン、オキシラン)は、室温では無色気体で、500〜700ppmの濃度になるとエーテル様の臭気を発する。EtOの臭気閾値は260ppmである。蒸気密度は1.49で、空気の約1.5倍の重量である[Clayton and Clayton 1993年]。沸点は華氏51度で、液体の引火点は華氏0度である。ガスは華氏805度で自動的に発火する。蒸気圧は1,095mmヘクトグラムである。EtOは水溶性で、酸性化水と反応してエチレングリコールを生成する。このプロセスが、EtO排出コントロールの一方式となっている。EtOは、強酸、アルカリ、および、酸化剤、鉄、アルミニウム、スズの塩化物、さらに鉄、アルミニウムの酸化物に反応する[Lewis 1996年]。引火性の強いEtOは、火災と爆発の危険性が高い。空気中での爆発限界は3%(30,000ppm)から100%である[Lewis 1996年]。純粋なEtOは、空気がなくても発火する。EtOは水素より危険で、取り扱いに際しては水素、アセチレンと同様の慎重さが必要である。発火すると、秒速1,800〜2,400mの速さで燃料タンクに逆火するおそれがある。

EtOの健康への影響

EtOは眼、皮膚を刺激する。また粘膜も刺激し、味覚異常を生じさせる。アレルギー、生殖機能への悪影響、喘息の原因にもなりうる。濃度が高まると、むかつき、吐き気を催す[LaMontagne and Kelsey 1998年a、b]。EtOの臭気が自覚できる段階では、すでに260ppmという危険な濃度に達している。嗅覚が弱っている場合、EtOのにおいを感じるのは難しいかもしれないが、260ppm以下でも粘膜への刺激や、口内の異常な味覚を感じることで、その存在を認識できる場合がある。1984年、労働安全衛生庁(OSHA)は、EtOを発ガン性物質に分類して規制をはじめた[29 CFR*、1910.1047]。1994年、国際ガン研究機関(IARC)は、EtOをグループ1の人的発ガン物質に分類した[IARC 1994年]。


* 連邦行政命令集29を参照のこと