「反復的負荷傷害」(RSI) は、一連の作業関連性筋骨格系障害を包含する用語として、普遍的ではないとしても一般に使用されている。 作業関連性筋骨格系障害は、肩および頸部、手首、肘、膝を含む上下肢を冒し、不自然な姿勢や動作を伴う作業、あるいは非常に反復的または速いペースの作業が原因となって起こり得る(欧州安全衛生機構レポート「作業関連性頸及び上肢筋骨格系障害」参照)。
本ファクトシートは、新しい欧州安全衛生機構レポート「EU加盟国における反復的負荷傷害」の所見に焦点をあてており、1999年に行ったアンケート調査の結果に基づくものである。このアンケート調査はオランダ社会福祉雇用省の要請に基づいて実施されたもので、同省はヨーロッパ各国がRSI問題をどのように定義し測定しているのか、そしてこの問題に対処するためにどのような政策や措置を実施しているのかを知りたかったのである。
RSI − ヨーロッパの視点
- 加盟国間にRSIに対する共通の定義は存在しないが、各国とも上肢疾患など、少なくともRSIの症状に関連する何らかの用語は存在する。
- データ収集法や、RSI罹患率に関する入手可能なデータは加盟国間で大きく異なる。しかしどのデータもRSIが職場における重大なリスクであることを立証している。
- RSIの発生は従事する仕事の種類に関係しており、女性はよりリスクの高い仕事に就いていることが多い。
- 加盟各国はRSIの発生を減らすためにさまざまな措置を講じている。
RSIに関する政府の政策
かなりの加盟国は作業関連性RSIの予防を目的とする具体的な政策や計画を策定している。以下に示すように、その形態は様々である。
- 特定部門を対象とする予防措置
- 報告制度の改善
- 研究や具体的調査への資金供与
- 情報資料、ガイドライン等の作成
- 健康監視協定
- 発生率を減らすためのアクション・プラン策定や対象の設定
また、他の加盟国では、職業性リスクを防ぎEUの法律施行を進めるアプローチ全体の中でRSI予防を行っているようである。RSIは、とりわけ手作業のリスクを原因とする腰部の損傷を含む、より大きな筋骨格系障害群の一部と見なすことができる。加盟国における事例のいくつかが手作業にも言及しているのはこのためである。
- オーストリア: 1999年、職業病の公認リストに作業関連性脊柱傷害と腱鞘疾患を加えるるために調査を行った。
- ベルギー: RSI問題研究のために公式の調査グループが組織された。事業者および被雇用者を対象とする情報提供措置の導入を検討中である。
- デンマーク: 2005年に清潔な労働環境を実現することを目指す担当省のアクション・プログラムの一環としてRSIへの取り組みが行われている。議会の決定を受け、ソーシャル・パートナーが発生率を50%削減するためのアクション・プランを策定した。
- フランス: 幾つかの地域で、報告手続きの変更が試みられた。RSIの報告件数が十倍になった地域もあり、寄せられた情報の質はかなり向上した。
- ドイツ: 筋骨格系障害をなくすための各種プログラムは、調査研究と国家レベルでのEU規制の置き換えと実施を重点的に行っている。
- ギリシャ: ディスプレイ装置および人力による荷物の取り扱いに関するEU枠組み指令に従い、筋骨格系障害予防に関する安全衛生法規の施行を進めている。
- アイルランド: 今後の作業プログラムの中で具体的にこの問題に取り組む計画である。
- ルクセンブルグ: 2000年に金融部門と建設部門で2つのプロジェクトを計画している。
- オランダ:VDU(visual display unit:ビジュアルディスプレイ装置)労働者のRSI愁訴を10%(10万件)減らすために、4カ年目標を設定した。
- スペイン: 国家レベルでは、法律制定、技術マニュアルの発行、健康監視協定を含む政策が策定された。一部の自治体では、特定部門の労働パターンを改善し、その結果RSIを減少させるための研究に着手した(例えばカナリア諸島のバナナ生産部門)。
- スウェーデン: 作業関連性筋骨格系障害は、国家労働安全衛生評議会が現在実施している3カ年計画の5つの優先分野の一つに位置づけられている。構想には、筋骨格系障害予防のためのエルゴノミクスに関する新しい規定が含まれ、VDU作業のための規定は最近、キーボードとマウスを使った単調で反復的な作業に重点を置いて改定された。
- イギリス: 重大な問題であると認識されており、現行の法律の枠組みの中で措置が講じられている。
RSI関連愁訴を減らすための目標設定
まだ非常に一般的な取り組みとは言えないが、RSI発生率を減らすために数量的な目標を設定した加盟国もある。デンマークのアクション・プランでは、ソーシャル・パートナーとの協力により反復作業半減を目指している。スウェーデンでは、毎日15kgの荷物を持ち上げる女性の割合を25%減らすために具体的な目標を設定した。オランダはVDU作業に関係するRSI愁訴を4年間で10%減らしたいとしている。
RSI関連愁訴に関する情報キャンペーン
調査により、RSI関連愁訴予防を目的とした多くの情報キャンペーン事例が明らかになった。そのうちのあるものは政府主導で、事業者や労働組合などのソーシャル・パートナーとの協同で運営されている。しかし、労働組合自体など他の組織も定期的にキャンペーンを実施している。情報資料の作成・配布、セミナー開催、問題提起のための検査員任用、活動週間の設定をキャンペーンの内容に含めることができよう。背部痛や手作業など、特定部門や特定の疾患・リスクをキャンペーンの対象とすることもできよう。いくつかの例を以下に示す。
- ベルギー: 建設業安全衛生国家行動委員会は、建設労働者のためにRSIに関する情報キャンペーンを予定している。
- デンマーク: RSIが発生している部門に対してソーシャル・パートナーがRSIガイドラインを発行した。デンマーク労働環境局も、同局のRSI削減構想と関連して上記各部門に情報資料を送付している。労働環境専門家のために中央レベルで、また、RSIが発生している産業の従業員のために地方レベルで、説明会が開かれた。
- ルクセンブルグ: 1999年、全国意識向上週間を実施した。
- オランダ: 1999年、VDU労働者とその事業者を対象として政府情報キャンペーンが開始された。VDU労働者にRSIの危険を認識させるためと、効果的な対策についての情報を提供する目的で、20人を超える従業員を雇用するすべての企業にCD-ROMとリーフレットが配布された。
- ポルトガル: 労働者と事業者に対する意識向上キャンペーンが行われた。
- スペイン: 荷物取り扱い、作業姿勢、手根管症候群、ディスプレイなど、具体的テーマについての情報を載せたリーフレットが作成された。
RSIに関する協力や自主協定への取り組み
ソーシャル・パートナーとの協力や自主協定の構想が広がっている。これは通例、ソーシャル・パートナーが積極的に協力することにより、部門レベルで行われている。
- ベルギー: 建設業界で交渉が行われている。作業量の制限について合意に達するであろう。
- イタリア: 予防制度に従事する保健職員(公共部門)に関して、枠組み指令に基づき協定が結ばれた。
- オランダ: ハイ・リスク部門のソーシャル・パートナーは、RSIに関して具体的な自主協定の可能性についての話し合いを求められるであろう。オランダ科学的保健協議会は、RSIの具体的職業性要因に関して、科学的コンセンサスに達することを求められている。
- スペイン: 国家レベルでは、特定部門(衣服製造と大型スーパーマーケットのレジ係)のRSIに関する多くのキャンペーンの中で、労働検査官と労働組合の協力を確立する試みが行われてきた。しかし何ら具体的な行動につながってていない。特定部門でプロジェクトを計画している自治体もある。
- スウェーデン: 国家労働安全衛生評議会スタッフは、長年にわたりソーシャル・パートナーと共に、ホテル・レストラン、卸し売り・小売り業界などグループに分かれて働いてきた。作業関連性筋骨格系障害(RSIを含む)は、これらの協力グループが取り組んでいる課題の一つである。
参考文献
英語版レポートの全文は、欧州安全衛生機構のWebサイトから入手できます。 http://osha.europa.eu/publications/reports/
欧州安全衛生機構が発行する印刷版 Repetitive Strain Injuries in the Member States of the European Union(EU加盟国における反復的負荷傷害), 32pp, 2000, ISBN 92-828-8804-S は、ルクセンブルクのEC出版局、EUR-OP(http://eur-op.eu.int/)から直接入手できます。販売代理店を通して注文することも可能です。
欧州安全衛生機構発行のWork-related neck and upper limb musculoskeletal disorders(作業関連性頸および上肢筋骨格系障害), 116pp, Buckle, P., Devereux J., 1999, ISBN 92-828-8174-1も上記同様の方法で入手可能です。 本体価格は7ユーロです(VATが別途、かかります)。
筋骨格系障害に関するEUの情報キャンペーン
「作業関連性筋骨格系障害を追放しよう(Turn Your Back on Work Related Musculoskeletal Disorders)」は、EU加盟15カ国が2000年10月に実施する欧州労働安全衛生週間のテーマである。安全衛生週間を支援するため、欧州安全衛生機構はファクトシートその他の情報資料を作成した。http://osha.europa.eu/ew2000/ が同週間に関する情報への直接のリンクである。