このページは国際安全衛生センターの2008/03/31以前のページです。
国際安全衛生センタートップ海外安全衛生情報:安全衛生情報誌雑誌 Fact Sheet > 労働安全衛生と職業能力向上:プログラム、実践、経験

労働安全衛生と職業能力向上:プログラム、実践、経験
Occupational Safety and Health and Employability: programmes, practices and experiences

資料出所:欧州安全衛生機構ファクトシート:FACTS 12
原文はこちらからご覧いただけます
(仮訳 国際安全衛生センター)


近年、各国政府が国内経済の範囲内失業率を下げるために取り得る重要な政策上の取り組みの一つとして職業能力向上が浮上している。本来これは労働市場への介入と見なされる。確立した定義は無いが、職業能力向上とは主として継続教育と職業訓練により労働者および失業中の人々の知識と技能を改善することに関わるものである。その目的は、労働者の就職あるは雇用の継続を支援することである。

1999年9月、欧州労働安全衛生機構と欧州連合議長国フィンランド共催の会議において、労働安全衛生と職業能力向上の関連について初めて掘り下げた議論が行われた(1)。その後、労働安全衛生機構は数々のフォローアップ活動を計画した。ここに要約を掲げる報告書もその一つである。報告書によれば、労働安全衛生は作業場の(再)設計、健康的で安全な労働環境の維持、訓練および再訓練、労働需要評価、医療診断、集団検診、職務能力評価などさまざまな方法で労働者の職業能力向上に貢献しうる。

報告書は様々な団体の取り組みの中から26のケーススタディを取り上げ、下記の4つの主要カテゴリーに分類している。

報告書は、26の取り組みと、利害関係者、得られた結果、直面した問題について記述するとともに、これらの取り組みの効果を評価し、学んだ教訓の「普遍化の可能性」あるいは「移転可能性」にも目を向けている。報告書の内容を示すため、ここに7つの事例の概要を述べる。

主な予防プログラムと特定の危険度の高いグループ

報告書の事例

  • 労働能力維持に関する3つの国家プログラム:MWA(フィンランド)
  • リスク部門における関係団体間の協定(オランダ)
  • 保健医療部門における就業者不足への全体的対応(オランダ)
  • 労働安全訓練による安全意識の向上(イタリア)
  • 市議会(city council)の多分野にわたるチームの作業による危険度の高い仕事における予防(オランダ)

労働能力維持(MWA)−フィンランド

フィンランドは、1992年早期退職の増大傾向を逆転させ、多発する作業関連障害者数を減らす目的でMWAプログラムを導入した。国内法を改正して同国の労働衛生事業の基本的機能にMWA活動を加えた。そして100以上のさまざまなプログラムが開始された。労働衛生事業では、MWAは衛生増進、事故/傷害防止、リハビリテーション活動で構成される3段階モデルとして導入された。企業レベルでは、実施のための「トライアングル・モデル」が開発された。これは、個々の労働者の健康、環境安全、組織の機能を対象とする介入について述べている。企業レベルにおけるMWAの概念が革新的なのは、職場の関係者たちに作業に関連した衛生と生産性の発展にこぞって参加することを奨励していることであった。

関係団体間の協定(Arbo convenanten)−オランダ

Arbo convenantenは、数々の高度の危険に対する労働条件の改善を推進する共同責任を政府と民間団体が受け入れた分野での、労働安全衛生に関する関係団体間の協定である。持ち上げ作業、作業中の圧迫、反復的負荷傷害(RSI)、有害騒音、溶剤やアレルギー誘発性物質、石英への暴露など、作業関連の危険に関して、具体的なタイムテーブルを伴った国家目標が策定されている。その目的は、危険が非常に頻繁に発生する部門の事業者と従業員の合意により、危険を減らすことである。

協定の目標は、暴露基準あるいは会社が計画している予防措置もしくは技術の現状または将来の状態に従って発生源で取る措置の範囲をつくることができる。使用する手段としては、財政的優遇、広報活動、減税などがある。業界内の組織が資金を供給する場合が多い。政府は危険度の高い環境で働く従業員のおよそ40%をこれらの協定でカバーしたいと考えている。事業者と従業員はこの協定を団体交渉による協定に組み込むこともできる。

病気の労働者のリハビリテーション

報告書の事例

  • 病気になった医師のための援助プログラム(スペイン)
  • 脳損傷後の職場復帰(スウェーデン)
  • 事故社会保険基金;労働災害および疾病の防止(オーストリア)
  • 労働者の手の負傷対策(ベルギー)
  • 民事訴訟と職場復帰(アイルランド)
  • 障害管理に関する事業者賞(オランダ)
  • 精神的障害を受けた人の職場復帰への支援(ベルギー)
  • 市議会(city council)が病気の職員を職場に復帰させる(ポルトガル)
  • 企業レベルの雇用継続とリハビリテーション(デンマーク)
  • 障害を持った労働者の雇用促進に関する企業協定(フランス)
  • 産業医のための手段としてのリハビリテーション戦略 (ドイツ)

病気になった医師のための援助プログラム(PAIMM)−スペイン

La Programa d'atencio integral al metge malalt (PAIMM)は、地域レベルで効果をあげている民間部門の取り組みの一例である。スペインでは、医師は精神的疾病の罹患率が5番目に高い職業集団である。専門職団体であるカタロニア医師会評議会は、職業上のストレスが医師たちに重い犠牲を強いていることを認めた。そのため、患者はその影響で危険に曝されていた。医師がストレス性障害を患っても診療を続けていたからで、そうした障害は医師の判断力と能力を弱めてしまうからである。

PAIMMは、心理的問題や薬物常用−専門家としての業務を妨げるおそれのある−に苦しむ医師たちを支援するプログラムである。早期介入により医師は治療中であっても仕事を続けられることを経験上証明されている。1999年から2000年7月にかけて、PAIMMは170のケースを扱った。予備的報告によれば、治療を受けた72人の医師のうち、98%が治療後7ヶ月の間に安定し、または薬物を断っている(米国における同じような取り組みについての報告では、社会復帰率は2年後でおよそ80%と推定されている)。

企業レベルのリハビリテーション−デンマーク

負傷した労働者の職場復帰については多くの場合、労働災害疾病保険会社がイニシアチブを取っているが、会社自身が率先してこの問題に取り組むことも可能である。ノボ・ノルディスクは各種の医薬製品を製造販売しており、インシュリン生産と糖尿病治療で世界有数の会社である。1992年に会社独自のリハビリテーション施策を導入した。ガイドラインや役割、責任を明確にし、この施策は企業経営に不可欠であると認められている。リハビリテーションは、従業員に職場復帰の最善の機会を与える持続可能な解決策に重点を置いている。

経営者と従業員の双方が可能なリハビリ方法をできるだけ早く見極めた上で、ソーシャル・アドバイザー、OSH(労働安全衛生)局または人的資源局と連絡を取る責任を持つ。多くのケースが従業員の所属する部内で解決され、個別の対応を行って普通の仕事に就いている。リハビリテーションの過程には必ずと言ってよいほど常にOSHの専門知識が関わっている。リハビリテーションの過程は、能力を付加することにより、あるいは労働環境を改善することにより、職業能力向上を向上させる場合が多い。2000年1月1日までに、691件に関し結論がでている。55%が雇用を維持し、39%が傷害年金を受け、6%は解決策が見出される前にノボ・ノルディスクを辞めている。

長期障害者のための社会復帰への取り組み

報告書の事例

  • 障害を持つ人々の労働市場での競争を可能にする(英国)
  • 障害を持った労働者の雇用推進プログラム(フランス)
  • 障害者のための雇用の継続および就労支援(オーストリア)
  • 雇用前訓練と、事業者のためのてんかんに関する情報(アイルランド)
  • 先天的あるいは後天的障害を持つ人々のための雇用とリハビリテーション(スペイン)

障害を持つ人々の労働市場での競争を可能にする−英国

1994年に開始された”Access to Work”は、政府が運営する全英的プログラムで、求職中の障害者を支援する。これには個々の申請者のはっきりしたニーズに基づく、特別の機器の改造や購入のための資金提供などが含まれる。プログラムは失業中の障害者および雇用されてはいるが失業の危機に瀕している障害者を対象とし、この人々が健常者の同僚と同等の立場で競争できるようにすることを目的としている。調査の対象となった人々の4分の3が、プログラムは雇用を確保または維持しようとする彼らの努力にプラスの効果があったと感じている。この取り組みへの照会の多くは企業の安全衛生担当者や労働衛生担当者からのものである。

障害を持った労働者の雇用推進プログラム−フランス

民間団体も長期障害者の雇用に重要な役割を果たすことができる。1992年、アリエージュ県地域事業者組合は、障害を持った労働者の雇用および職場復帰を奨励するためにパスレル09と呼ばれる活動を開始した。この活動は地元の官民双方の関係者との連携のもとにで実施され、障害を持った従業員の雇用について企業の義務意識の向上と、企業の利益となる援助、そしてさまざまな仕事において業務に不適切と宣言された従業員の雇用を維持するための支援を含む。

パスレル09は、障害者雇用基金管理協会(AGEFIPH)の援助と協会が提供する資金で実施された。これは関係者がの口火となり、さまざまな関係組織間の障壁を低くして、より効率的に共に働くことを可能にした。これは障害を持つ労働者の雇用に対する好意的な態度の創出に成功し、パートナーの間では障害者の雇用はもはや当たり前になっている。

職場における労働衛生増進の取り組み

報告書の事例

  • 国家医療サービスの労働衛生−英国
  • 製パン所における労働衛生増進−ドイツ
  • ラインラント地域衛生保険基金−ドイツ

国家医療制度の労働衛生(HAWNHS)−英国

HAWNHSは1992年に開始された10年構想であり、健康増進とともに安全衛生と労働衛生の課題を包含した職場の衛生プログラムによってNHS職員の健康と福祉を向上させるために設けられた。

プロジェクトにはNHSの人的資源管理に関する目標もあった。職場の衛生(HAW)のために12の主要な行動分野が、NHS管理側の注意を喚起するために設定された。中心的目標は、NHSを職員の健康と福祉に関して模範的事業者にすることであり、職員の健康ニーズを広範囲にわたって明快に取りあげている。労働衛生はHAWプログラムに様々なサービスを提供する大きな役割を果たした。

レポートの入手方法

英語版レポートの全文は、欧州安全衛生機構のWebサイトから無料でダウンロードすることができます。
http://osha.europa.eu/publications/reports 欧州安全衛生機構が発行する印刷版Occupational Safety and Health and Employability: Programmes, practices and experiences(労働安全衛生と職業能力向上:プログラム、実践、経験)2001, ISBN 92-95007-18-2は、ルクセンブルクのEC出版局、EUR-OP(http://eur-op.eu.int/)から直接入手できます。販売代理店を通して注文することも可能です。本体価格は13.5ユーロです(VATが別途、かかります)。



(1) 安全衛生と職業能力向上−欧州安全衛生機構会議議事録 112p, ISBN 92-828-3016-0


このページの先頭へページの先頭へ