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EU加盟国における労働安全衛生マネジメントシステムの効用
The Use of Occupational Safety and Health Management Systems in the Member States of the European Union

資料出所:欧州安全衛生機構ファクトシート:FACTS 26
原文はこちらからご覧いただけます
(仮訳 国際安全衛生センター)

労働安全衛生(OSH)マネジメントシステムは、より安全で衛生的な労働環境を作るうえで欠くことのできない構成要素として広く認知されているが、それを実現するための最も効果的なアプローチはどのようなものであろうか。国際労働機関(ILO)は、『OSHマネジメントシステムの手引き(ILO - OSH 2001)』のなかで、「OSHマネジメントシステムと他のマネジメントシステムとの融合を推進し、今後、OSHをビジネスマネジメントの重要な要素にするべきだ」と明言している。しかし、現在までのところ、OSHマネジメントシステムは標準化しておらず、世界共通のシステムは存在していない。
 
 労働環境や産業プロセスがますます複雑で多様化している現状を反映し、各組織が別々にさまざまなモデルを採用している。しかしながら、こうしたシステムの多くが不完全である。例えば、ある企業では事故防止に焦点を置いているものの、職業性疾患を見落としている。一方、別の企業では、明解な目標や戦略を有してはいるが、OSHの好事例を通常の労働環境に結びつけるためのコミュニケーション・チャネルを欠いている、といった具合である。
 
 ドイツ・ISGのヘルムート・ヘーゲル氏によって作成された欧州安全衛生機構報告書は、理想のOSHマネジメントシステムを構築するための鍵となる5つの基礎を提示しており、EU各地の11の企業がこれら5つのポイントといかに合致しているかを検証している。これら11の企業はすべてOSHマネジメントシステムを導入、もしくは改良して利用している。目標を設定し、システムを構築し、運用していくという経験を積んできたこれらの企業は、アプローチの違いによる長所と短所、そして実効性のある完成されたシステムをつくり出すために何が必要かということについて、貴重なヒントを与えてくれている。これらの企業は非常に良い事例となって、今日の労働環境において革新的な考えをもつことの重要性を浮き彫りにしている。


理想的なOSHマネジメントシステムを構成する5つの要素

1. 開始 - OSHのインプット

重要なインプット内容

2. 計画と実行 - OSHのプロセス

OSHシステムを組み立てるための必要条件とは

システムの実行のために、以下の要素が必要となる

3. 効果 - OSHの成果

OSHシステムの効果を測定する基準は、量で表すことができ、かつ実用的である必要が
ある。そうすることによって、さまざまな付加的効果を得る

4. 評価 - OSHのフィードバック

5. 継続的な進歩と融合 - 開かれたシステムの要素


OSHマネジメントの様々な形態

当報告書の著者は、OSHマネジメントシステムを4つの形態に分類している。

  1. 伝統的な設計とエンジニアリング: OSHの専門家やスーパーバイザーが、従業員の参画をほとんど受けずに、危険のコントロールを発生源で行うことに焦点を絞って要求事項を設定するケース。
  2. 危険な行動の最小化: スタッフがリスクを最小限に抑えさせるように、トップダウンするアプローチによるケース。
  3. 危険に対応できるマネージャー: 危険を発生源で抑えて最小限にとどめることに力を入れているのは1と同じだが、従業員や経営者を関与させているケース。
  4. 行動を洗練: スタッフの安全に特に焦点をあて、従業員を深く関与させることによって支持を得、OSHの優先事項は、経営側とビジネスの目的とに密接に連携しているケース。

EU各地に存在する11の企業の分析

 この報告書で検証された11の企業の多くは、災害率や数々の問題を低減させるために既存のOSHマネジメントシステム(以下OSHMS)を改良してきた。しかし、なかにはOSHに関する新しい法律に対応することが目的で、今回初めてシステムを導入した企業もあった。以下は、これらの企業がいかにして変化に対応して成功を収めてきたか、そしてアプローチの違いによる長所や弱点をどのように処理してきたかを、要約したものである。

ケーススタディ - - - サーメレックス社(Sermelux)

 サーメレックス社では、ゼロ災害目標を達成していくにあたって、4つの主要な段階を定めている。まず一番目として、リスクに関する詳細な分析を実行した。そして2番目に、二名の外部コンサルタントを使って一定のトレーニングを行なっている。彼らはトレーニングを行うかたわら、同社のOSH活動全般をコーディネートし、関連規則を遵守できているか確認している。3番目に、企業内にOSHの実施に関する明確な責任を負うOSH責任者を任命している。しかしそれは、OSHの実施がその人たちだけに委ねられていることを意味しない。あらゆる従業員がこのプログラムに参加し、自由にアイディアを出し合うように求められる。それゆえ、導入されたあらゆるイニシアティブは、明確でわかりやすい方法で話し合われる。そして最後に、社内でいかなるリスクといえども発見した段階で、できる限り迅速に対応していく。以上の四段階の取り組みによって、企業内の災害率および疾病率の低減が実現している。



OSHMSが取り入れられる理由

 あらゆる企業のもっとも重要な目的とは、従業員の安全や健康を保つことであったが、この目的には、さまざまなサブテーマが存在した。

OSHMSの組み立てと実行

 11のすべての企業は、あらゆるマネジメントシステムの機能と直結できるOSHマネジメントシステムを選択した。例えば、ベルギーのアグファ・ゲバルト(Agfa - Gevaert)社は、OSHマネジメントシステムをISO9002にむすびつけた。また、ルクセンブルグにある建設工事会社のサーメレックス社は、OSHMSを健康で美しく魅力あふれる環境づくりといかにむすびつけるかについて詳細な指示を出しながら、企業理念の一つに組み込んだ。ドイツの炭鉱会社であるマイブラグ社(MIBRAG)もまた労働安全衛生をビジネスの根幹に位置づけ、他の企業目標と同等のプライオティーを与えた。

 従業員たちはこのシステムの実行に関する相談を受けたが、外部のコンサルタントにアドバイスを求めた企業はほとんどない。もっとも目を引く発見は、この新しいシステムは肯定的に捉えられているものの、実行段階になると長く困難な過程があったという点である。

OSHMSのインパクト
 
 計量可能な目標を有し、災害ゼロ戦略を採用したがる組織はほとんどなかった。興味深いことに、具体的かつ適度な目標を据えた企業は、災害率が減少した。アグファ ・ゲバルト社やマイブラグ社、そしてオーストリアン・バーグランドミルッヒ・ダイアリー社(Austrian Berglandmilch dairy)の3つの事例がそれを物語っている。さらに、多くの組織が、新たにOSHMSを導入してから、経験的に計量化されてはいないものの、従業員のモチベーションや生産性が向上したと主張している。


システム活用による強み・弱み

 企業が採用しているOSHマネジメントシステムは、健康増進よりも、主に事故防止に焦点を置いている。さらに当システムの多くが、労働安全衛生を、成功のための明白な必要条件として経営者の義務としている。すべての企業が概ね強力なOSHマネジメントシステムを保有していた。

 このシステムの短所は主に、OSHの理念や事例を組織の下層部に伝える際や、不適任なスタッフがOSHのある機能を遂行する際に露われる。従業員の参加を自主性に任せている組織にこのような事例がよく見られる。そしてさらに、そのような組織ではスタッフの参画が少なくなりがちである。また、システムの始動にかかる初期費用が高くなることも新たな問題である。一方、硬直的なシステム構造が日々のルーティンワークを圧迫していることを示す事例もでている。
 
 今回ケーススタディにとりあげた各企業は、革新的な経営戦略は伝統的なアプローチより優れており、以下に示した例も含め、いくつもの鍵となる利益を企業にもたらすという一致した見解を持っていた。

成功の鍵となるのは、「その企業特有の状況を考慮に入れながら、OSHマネジメントシステムの実行に関する計画を慎重に立てることである」とこの報告書は締めくくっている。

ケーススタディ - - - マイブラッグ社(MIBRAG)

 マイブラッグ社には従業員優先の革新的なOSHMSがある。このOSHMSは同社の災害率を劇的に減少させてきただけでなく、英国王立協会から災害防止に関しての最高表彰を受けている。社内の経営トップの後押しを受けた同システムは、「ゼロ災害」のビジョンと、安全で衛生的な労働環境づくりと潜在的なリスクの特定のために活躍するようスタッフに奨励している。また、このプログラムの重要な特徴は、あらゆるアセスメント、リスク、災害、関連する対応策について厳格に文書化されているということである。それによって同社は、標準的なOSHトレーニングプログラムを事業分野における最新事情に合わせて微調整することができるのである。MIBRAG社はさらに、極めて良好な組織化されたコミュニケーションシステムを有している。そしてこのシステムによって、OSHに関連したニュースをスタッフに迅速に伝達することができる。以上を含めすべての方策は3ヵ年計画に詳細に記されている。


当報告書の入手方法

 英文で記されているこの報告書の全文は、欧州安全衛生機構のwebサイトで入手できる。
http://agency.osha.europa.eu/publications/reports/

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