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リスク防止の考え方を統合する
Consolidating a culture of risk prevention

欧州安全衛生機構発行「Magazine」6号p.4
(仮訳:国際安全衛生センター)

この記事のオリジナルは下記のサイトでご覧いただけます。
http://osha.europa.eu/publications/magazine/6/en/index_4.htm


リスク防止の考え方を統合する

欧州委員会の見方。労働安全衛生に対するヨーロッパ共同体の新しい戦略。

有害化学物質の問題は労働安全衛生に対しなぜ重要か?

 化学物質は、例えば食品、医薬品、繊維、自動車といった現代の社会に不可欠な恩恵を提供している。また、通商と雇用という点で市民の経済や社会的福祉に重要な貢献をしている。

 世界における化学物質の生産は、1930年の100万トンから今日4億トンまでから増大した。現在、EU市場には約100,000種類の物質が登録されており、EUの化学産業は世界最大である。1998年の世界の化学物質生産額は1兆2440億ユーロと推定されているが、そのうちの31%がEUの化学産業によって占められ、これは 410億ユーロの貿易黒字を生み出した。

 化学産業はヨーロッパで3番目に大きい製造業でもある。170万人を直接雇用し、化学産業に依存している雇用の数となると300万人分である。いくつかの主要な多国籍企業と約36,000の中小企業の双方で構成されている。これらの中小企業は、企業数では96%、化学物質の生産量では28%を占めている。

 有害化学物質への暴露は化学産業以外の多くの職場で発生する。仕事の一部としてさまざまな化学物質を取り扱う職業がたくさんある。 例えば、農業労働者は殺虫剤、洗剤、微生物を含んだ粉じん(microbiological dust)を使用し、建築労働者は、一般的に塗料と溶剤を使う。

 「第3回労働条件に関するヨーロッパ調査2000(Third European survey on working conditions 2000)」によると、労働者の22%が労働時間の4分の1以上の時間、蒸気、ヒューム、粉じん、又は有害物質の中で呼吸をしているということである。EUの労働者の16%は、労働時間の4分の1以上の時間、有害な製品や物質を扱うか、これに接触しているとのことである。初心者やブルーカラー労働者は有害物質に暴露される度合いがずっと高い。職種で言えば、技能労働者、機械オペレータ、及び農業労働者の暴露される率が最も高い。

 有害化学物質への暴露は労働者の健康に対し急性・慢性の影響を与える場合がある。今日、大部分の職場では、有害物質による急性中毒は大きな問題ではないが、低濃度物質と、騒音、振動、放射線、心理社会的ファクターなど、他の職場のリスクとの組み合わせで暴露される労働者は多い。さらに、職場外のリスクが、職場のリスクへ付加的又は相乗的な影響を与える可能性もある。


職場の有害物質の危害に対する労働者の暴露防止において欧州委員会の役割をどう考えるか?

 1980年代以来、欧州委員会は、有害物質から労働者の健康を保護するために、以下のようないくつかの指令を提案し、理事会と議会により採択されてきた。
98/24/EC 職場の化学物質に関するリスクから労働者の安全衛生を保護するための理事会指令
90/394/EEC 職場の発がん性物質に暴露されるリスクから労働者を保護するための理事会指令
2000/54/EC 職場の生物的要因(biological agent)に暴露されるリスクから労働者を保護するための議会・理事会指令
他にアスベストなど特定の物質を対象とした指令もある。欧州委員会は2000/39/ECのように、職業上の指示的(indicative)暴露限界値のリストを設定した指令も採択している。

 欧州委員会が提案する法律案は、意見聴取のため、三者構成の労働安全衛生健康保護諮問委員会(Advisory Committee on Safety, Hygiene and Health Protection at Work : ACSHHW)に提出される。この提案内容は、「職業性暴露限界に関する科学委員会(Scientific Committee on Occupational Exposure Limits : SCOEL)」や、「国際がん研究機関(International Agency for Research on Cancer : IARC)」など種々の学術団体の意見を考慮したものである

 さらに、欧州委員会は、条約第211条により「番犬」としての、換言すれば法律が施行され、それが守られていることを保証する義務を負っている。この点で加盟国は指令の国内法化に関する報告書を欧州委員会に提出し、もし欧州委員会が指令の適用について不備があると考えれば、加盟国を欧州裁判所に提訴することになっている。

職場の有害物質の危害に対する労働者の暴露防止に関するキープレーヤーはだれか?

 「労働安全衛生に関する新たな共同体戦略2002〜2006年(The new Community strategy on safety and health at work 2002-06)」は、すべての関係者−自治体、組合、企業、労働者、公的・私的保険業者−を参加させることの重要性を強調している。職場で労働者が有害物質の危害に暴露されることを防止する事業者の義務は、次の指令で確立されている。
理事会指令 98/24/EC (職場の化学物質に関するリスクからの労働者の安全衛生保護)
理事会指令 90/394/EEC (職場の発がん性物質暴露リスクからの労働者保護)
議会・理事会指令 2000/54/EC (職場の生物的要因暴露リスクからの労働者保護)
これには、リスクアセスメント、有害物質に関連したリスクの防止、災害、事故、非常事に対処するための仕組み、労働者に対する情報提供と教育訓練が含まれている。

 さらに、「労働者の安全衛生の改善を奨励する手段の導入に関する理事会指令89/391/ EEC」は、事業者が労働者やその代表者と相談すること、労働安全衛生に関するすべての問題の議論に彼らが加わることができるようにすることが規定されている。これは、国内法や国内慣行に従って、労働者やその代表が提案を行うことができること、及びバランスの取れた参加ができる権利を前提としている。さらに、労働者の代表には、所管当局による監督の際にその所見を提出する機会を与えなければならない。


現在最も懸念される化学物質はどんなものか、将来についてはどうか、またどのような措置が取られるべきか?

 発がん性物質、変異原性及び生殖毒性物質は、労働者に対する有害性のために非常に懸念される物質である。1990年代初期に、EU諸国の労働者約3200万人が職場で発がん性物質に暴露された。最も一般的な暴露は、周囲のたばこの煙、結晶シリカ、ディーゼル車の排気、ラドン、木材粉じん、及びベンゼンであった。

 イソシアン酸塩、小麦粉じん、ゴムラテックス手袋からの粉じんなどのぜん息を引き起こすアレルギー抗原の脅威も増大しつつある。アレルギー抗原(その多くは、ニッケル、コバルト、クロム、ゴム、コロホニウム(colophony)、エポキシ樹脂、又はアクリル酸塩に遡ることができるが)は接触皮膚炎も起こす可能性がある。添加物と防腐剤も接触アレルギーのリスクを増大させるものである。

 他に懸念される化学物質は有機溶剤で、これは神経精神的な障害、内分泌攪乱物質、持続的な有機汚染物質と関係がある。

 理事会指令98/24/EC(職場の化学物質に関するリスクからの労働者の安全衛生保護)、理事会指令90/394/EEC(職場の発がん性物質暴露リスクからの労働者保護)、及び議会・理事会指令2000/54/EC(職場の生物的要因暴露リスクからの労働者保護)は、種々の予防策と管理対策を規定している。これらは、リスクアセスメント、無害物質又は有害程度の低い物質での代替、有害物質の使用量の低減、暴露の軽減、所管当局への情報提供、危険区域への立ち入り制限、衛生(hygiene)及び個人保護、情報、労働者との協議及び労働者の教育、健康監視、記録、並びに限界値の設定などである。


職場の有害物質による労働者へのリスクを対策する上で法律はどのように有効か?

 正しく適用されれば、法律は非常に効果的であるが、適切な実施を保証するためには多角的戦略が必須である。

 この点で欧州委員会は、「労働と社会の変化に対する適応:労働安全衛生に関する新たな共同体戦略2002〜2006年(Adapting to change in work and society : The new Community strategy on health and safety at work 2002-06)」 と題した資料で、さまざまな政策的手段(法律、社会的対話、進歩的手段、及び最善の実践、企業の社会的責任、並びに経済的インセンティブなど)を組み合わせることにより、リスク防止のカルチャーを統合すること、そして安全衛生分野においてすべての関係者の間にパートナーシップを確立することを提案した。

 理事会指令98/24/EC(職場の化学物質に関するリスクからの労働者の安全衛生保護)の実施を容易にするために欧州委員会は、リスクアセスメント、リスク防止、一定の保護、予防方法、並びに職場における暴露限界値及び生物学限界値に関する実用的なガイドラインを準備している。


有害物質のハザードとリスクに関するコミュニケーション(供給者によるもの、公的機関によるもの、又は企業内で)はどのように改善できるか?

 加盟国は、事業者が要求すれば(望ましくは製造業者又は供給業者から)、リスクアセスメントを実行するために必要な有害化学物質についてのすべての情報を得ることができるようにするために必要な手段を取ることが可能である。

 事業者は、労働者に対し、リスクアセスメント結果、職場の有害化学物質に関する情報、適切な注意に関する教育訓練と情報を提供し、供給業者から提供されるすべてのMSDSを労働者が利用できるようにしなければならない。

 この情報はリスクアセスメントの結果判明した事項と整合した方法で提供されなければならない。これは、リスクアセスメントの結果明らかになったリスクの性質と程度によって、口頭の連絡から、個別の指示、及び資料を使った教育といろいろな方法があり得る。さらに、情報は状況の変化を考慮して最新のものに保たれなければならない。