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安全を数値で点検する
(共同編集者:ジェームズ・G・パーカー)

資料出所:Safety+Health
January 2006

(仮訳 国際安全衛生センター)

掲載日:2006.09.19

身体の健康と同様に、安全衛生業務にも年間点検が必要である。この点検の主眼は、数字を分析することである。数字は、安全衛生業務の活力源である。数字から成功と失敗、何をしてきたか、何をすべきかなどを読み取ることができる。何人の生命が救われ、どれほど経費が削減できたか、何人の生命が失われ、どれほどの経費を要したか。個々の数字が人命にかかわることを認識している安全衛生専門家にとって、数字は何にもまして非常に切実なものである。

さて、安全産業の状態は健全であろうか。最近数年間に比べ、2004年度の職場、道路上、家庭、地域社会での死亡数は上昇しているのである。

全米安全評議会(NSC)統計局マネージャのアラン・ホスキンは「昨年は不慮の傷害による死亡者数が大幅に増加した。事態は改善どころか悪化しているように思われる」と述べている。

それでは、どの程度悪化しているのか見ていこう。労働省労働統計局(BLS)によれば、2004年の労働災害死亡者総数は、前年比2%増となった。全米労働者の労災死亡者総数は、2002年5,534人、2003年5,575人に対し、2004年は5,703人となった。

労災死亡の率は、2004年は労働者10万人あたり4.1人と、2003年の4.0人から若干増加した。これは、5.3人であった1994年以来初めての増加である。

全体で見ると、2004年度の死亡者数の91%は民間企業である。そのうちの47%はサービス業で、44%が製造業であった。9%は、連邦、州、その他地域官公庁の職員であった。民間企業の死亡者数が3%増加した一方、官公庁職員の死亡者数は若干減少した。

前年に比べ2004年度の死亡者総数は増加したものの、「労働傷害死亡調査(CFOI)」の記録による年間の死亡者総数では1992年のCFOI 開始以来3番目に少ないものとなった。この調査は、労働省労働統計局が実施している労災死亡のデータ収集プログラムである。NSC統計局は、「傷害の実態(Injury Facts)」と称するNSC年次出版物において、CFOIやその他データソースの分析結果を発表している。

2004年の労災死亡者数は増加したが、悪化した原因はどのようなことであろうか。

問題のひとつは墜落・転落である。労災死亡原因としての墜落・転落は2003年から17%増の815件となった。墜落・転落は、2004年の労災死亡原因としてはその総数の14%を占めている。この数字は、同調査の記録による墜落・転落による労災死亡年間総数では、2002年、2003年において減少した後の、最も大きなものとなった。

2004年の墜落・転落による死亡の増加原因の中でもっとも多く見られたものは、屋根からの転落による死亡災害178件(前年は128件)で、全体の39%を占めている。はしごからの転落による死亡災害も大幅に増加し、前年比17%増の133件であった(前年度は114件)。これらの死亡総数は両災害の新しい記録となった。また、屋根からの転落による死亡災害のおよそ88%が建設業労働者で、建設業労働者は墜落・転落関連の死亡災害総数の54%を占めている。なんらかの物体との衝突による労災死亡件数は、2004年は12%増の596件であった(前年は531件)。これらの大幅な増加は、落下、回転、移動する物体に起因する死亡災害に見舞われた労働者数が急増したことによる。2004年の死亡災害総数のおよそ10%は“衝突による”災害が原因となっている。

感電災害数も2004年に増加した。しかし、高温・低温、腐食性・有毒性・アレルギー性物質へのばく露、酸素欠乏などの災害数の減少により、死亡災害数の多いカテゴリーである“有害物質および有害環境へのばく露”においては減少した。

しかしながら、2004年度のデータには次のような好ましいニュースも含まれている。2004年のアメリカ労働者の殺人による死亡者数は、CFOIの歴代記録の中ではもっとも少なかった。2004年の事業場における殺人による死亡者数は551人で、前年から13%減少している。事業場における殺人による死亡者数は1994年度の1,080人をピークに、それ以来49%も減少した。ただし、2001年9月11日の米国同時多発テロ事件による犠牲者数(2,886人)はこの記録から除外している。

産業別では、建設業における死亡者数が最大に
2004年の死亡災害による経済的負担(単位:10億ドル)
費用負担 合計 自動車 作業 家庭 公共
非自動車車両
賃金および
生産性損失
298.4 86.4 73.3 85.1 57.6
医療費 98.9 30.0 26.0 27.7 17.0
管理費(b) 111.9 81.0 31.0 6.8 5.7
自動車の損傷 41.0 41.0 1.6 (c) (c)
事業者負担の
保険外経費
14.8 2.2 7.9 3.3 1.8
火災による損失 9.8 (c) 2.4 6.1 1.3

合計

574.8(a) 240.6 142.2 129.0 83.4
資料出所:
NSCによる概算。通常、経費概算は年度別の比較はできない。
追加データや新指標は、入手した時点でそれ以降に適用するが、
適用後にそれ以前の概算値は更新しない。
a)自動車災害において発生した労働災害の経費204億ドルは合計から除外する。
b)家庭および公的保険管理費には、健康保険制度により申請された自動車による負傷に対する診療費請求に要した経費を含む場合がある。
c)適用外。上述を参照のこと。

大半の労働者の死亡原因が屋根からの転落であることがわかったが、建設業全体では労災死亡者数は、他の産業に比べて多いことも明らかになっており、2004年は前年比8%増の1,224人であった。建設業者のうちで労災死亡者数が急増しているのは、配管工、屋根職人、電気工事業者、大工などの専門建設業者で、2004年の死亡者数は752人にのぼっている(前年は629人)。

職種別に見たとき、建設および採掘業は、主要産業の中では貨物取扱運送業に次いで、2番目に労災死亡者数が多い職種である。

建設業界の労災死亡者の内訳は、ビル建設業者が224人、土木業者219人、専門下請業者752人となっている。建設業の原因別内訳は、高速道路での事故12%、殺人2%、墜落・転落36%、激突12%である。

建設業界や、その他多くの業界が直面している大きな問題も労災死亡者数増加に影響を及ぼしている。たとえば、近年の“住宅建築ブーム”に起因する建設需要の急増により、建設業者の労働時間が増加したことで、負傷発生の機会が増大している可能性がある。

シカゴを本拠地とする建設会社、ブランデンブルグ・インダストリアル・サービス社の安全担当取締役アンドリュー・ユーペルは、建設案件増加による労働時間増により、死亡事故が増加したと思われる、と述べている。ユーペルは、建設業界で25年以上の経験を有する、前OSHA監督局長である。

NSC統計局マネージャのアラン・ホスキンは建設業の労働時間数を正確に定量化することは困難であるが、建設業における雇用に着目している、と述べている。建設業の雇用は2003年から2004年の間に伸びている。ホスキンによると、雇用の増大が、建設業における死亡事故増加の要因になっているという。

ユーペルは、建物の取り壊し作業者が直面しているハザードについても指摘している。「建物の取り壊し作業を実施する際、落下物、脆弱な床板からの墜落・転落の危険、有害化学物質へのばく露の可能性、溶接トーチ作業などのハザードはほんの一例に過ぎない」とユーペルは語っている。

英語を母国語としない労働者の安全

ユーペルは、英語を母国語としない労働者たちの中に安全な文化を築くという課題に建設業界が直面しているのではないか、と語っている。

これは、特に非熟練の手作業が求められる産業など、多くの産業が抱える課題である。これまでに流入してきた労働者の多くは、スペイン語を母国語とする国々からの移民である。米国統計局によれば、1990年から2000年までに米国のラテンアメリカ系人口は2,200万人から3,500万人に増加している。

2004年には極めて多くのラテンアメリカ系の労働者が職業性死亡災害に見舞われている。2004年の死亡者数は、2003年の794人から11%増の883人となった。死亡者数は2002年、2003年と減少したが、2004年は増加している。2004年のラテンアメリカ系労働者の労災による死亡率は10万人あたり4.9人となった(2003年は4.5人)。

ラテンアメリカ系労働者の安全の現状には、労働人口全体の現状が反映している。墜落・転倒の件数は27%増、輸送中の災害数も27%増、なんらかの物体や機器との接触による死亡災害は14%増となっている。

しかし、ラテンアメリカ系労働者の殺人による死亡者数は27%減となっている。

OSHAとその他の関係者は、多くの理由でラテンアメリカ系労働者を特別な労働人口とみなしている。この理由には、ラテンアメリカ系労働人口の成長が及ぼす影響範囲と人口増加速度、事業場での人口構成の変化が及ぼす影響などがある。ユーペルは、文化の諸問題や言語の問題により、とりわけ、被雇用者が言語障壁に立ち向かう状況では、ラテンアメリカ系労働者のための労働安全プログラムはさらにわかりにくいものとなっていると語っている。

さらに別の労働人口も増加している。55歳以上の労働者である。2004年の55歳以上の労働者の死亡者数は前年比10%増となり、死亡率は10万人あたり6.6人(前年は6.2人)となった。反面、16歳から24歳までの労働者の死亡者数は6%減となっている。

2004年のアジア系、ネイティブハワイアン、太平洋諸島系労働者の労災による死亡者数は12%増となった。この急増の原因は、24人もの死亡者を出した2件の多数死亡災害にあるとしている。

自動車による交通災害は依然として労災死亡の主要原因に
2004年度産業別労災死亡者数と死亡率
産業 死亡者数 比率
(労働者10万人あたり)
建設業 1,224 11.9
運輸・倉庫 829 17.8
農業、林業、漁業 659 30.1
官公庁 526 2.5
製造業 459 2.8
専門サービス
事業サービス業
448 3.2
小売業 372 2.3
レジャー産業 245 2.1
その他のサービス業
(公共サービスを除く)
204 3.0
卸売業 203 4.4
教育、健康サービス業 157 0.8
鉱業 152 28.3
金融業 115 1.2
情報業 54 1.6
公益事業 51 6.1
資料出所:2005年、労働省労働統計局

概して、仕事中、仕事外にかかわらず、自動車両による交通災害は依然として非意図的負傷致死原因の上位にある。従業員が就業時間内に運転していた高速道路での死亡災害件数は2002年、2003に減少した後、2004年は若干増加した。2004年度の労災死亡原因の4分の1が自動車による交通事故である。農場や産業用地での事故など、高速道路上ではない交通災害は2004年に若干減少したが、従業員の車両事故をはじめとするその他の輸送事故は増加した。

交通事故関連の死亡にはあらゆる産業の労働者がかかわっているが、とりわけ輸送・倉庫業の労働者の割合が高くなっている。運輸・倉庫業の2004年の死亡者数は全産業中第2位の829人となっている。これらの大半はトラック輸送事故の死亡者で508人となっている。2004年の運輸・倉庫業死亡者数は3%増加したが、海上輸送業および輸送支援サービス業の死亡者数の急増がその他の原因となっている。

NSC運輸安全グループ担当ディレクターであるジョン・ユルージキ(John Ulczycki)は、交通事故死亡者数の増加は「組織全体の安全プログラムに自動車の安全対策を盛り込むことがいかに重要であるかをわれわれに警告している」と語っている。

事業者が第一にできることは、明確な輸送安全方針を実施し、従業員にその方針を順守する責任を担わせることである。ユルージキは、規範的安全方針としては、運転時のシートベルト常時着用、運転者の注意散漫防止関連の施策、あらゆる安全に関する法規の順守などがあるとしている。運転者の注意散漫の原因には、携帯電話の使用や道路から運転者の注意をそらす行動などが挙げられる。

またこれ以外の事業者がその自動車交通安全プログラムに採用できる対策には教育訓練がある、とユルージキは次のように語っている。「教育訓練は、事業者がその従業員全員に提供できる重要な対策である」。従業員による交通事故の経費は事業者が負担することをユルージキは指摘している。仕事中であれ、仕事外であれ、従業員の死亡や負傷は組織の最終損益に影響を及ぼす。

NSC理事会長アサー・ウィリアムズ・ジュニアは、企業の交通安全の分野で改善の芽生えが見られるとして、次のように述べている。「企業の交通安全は著しく向上している。多くの従業員が運転し、交通事故に遭遇しているという事実から事業者は交通安全の対策を講じないことがハイリスクであるということを認識できるのである」