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グローバルな取り組み
Going Global
米国および全世界規模で基準として注目を集め始めた
「化学品の分類および表示に関する世界調和システム: GHS)」
(ジェームス・G・パーカー副編集長)

資料出所:Safety+Health
April 2006

(仮訳 国際安全衛生センター)

掲載日:2006.12.20

危険有害性(ハザード)に関わる世界統一伝達基準を推進する包括的な取り組みである、「化学品の分類および表示に関する世界調和システム(The Globally Harmonized System of Classification and Labelling of Chemicals: GHS)」は、数年の調査、交渉、国際協調を経た後の2008年に正式完全実施が見込まれている。同システムの特徴は、その大半が国際的に認識できる絵表示で説明されていることである。このシステムを近々に採択することは、始まりであって、最終目標ではない。

「ついに走り出した。本当の意味での影響が出るのはこれからだ」と語るOSHAの基準・指針局次長ジェニファー・シルクは、OSHA に対しGHSプロセスの指導を10年以上も実施している。

GHSの適用範囲は広大で、純粋物質や混合物などのあらゆる化学物質を含む。GHSは、作業場、輸送、環境、消費者部門にかかわる化学物質の危険有害性に関する情報を正確に伝えるための劇的な新しい基準となる。GHSは、化学物質の危険有害性ごとの分類および表示条件の標準化と、それを基にした添付用の安全データシートを規定した共通基準である。シルク次長は、GHSが及ぼす「刺激的な」影響には、労働者の安全確保の向上、人々の健康や環境の保護、また米国、カナダ、欧州からザンビア、スリランカ、インドネシアなどの新興国へというように、複数の国家間の通商機会や慈善活動の拡大などが含まれることになると述べている。

職場の綿密な捜査が存在していなかったり、十分洗練されていない開発途上国では、GHSは、米国、カナダ、欧州の、労働者保護のための核となる施策、プロセス、規則と同様のものを構築する上での基礎となると考えられる。「化学物質に国境はない。だから、他の安全衛生問題とは異なり、GHSをある国で実施すれば他国の人々にも影響を及ぼすことになる」とシルク次長は語っている。

国連での採択

シルク次長は、GHS推進プロセスにおける重要な役割を担ってきており、2002年12月に国連で公式採択されたGHSを推進する国際的な検討グループの責任者となっている。OSHA、EPA、運輸省、農務省、消費者製品安全委員会(CPSC)、食品医薬品局(FDA)などの多くの米国連邦各省庁が、化学物質や危険有害性(ハザード)にかかわる規則を検討する方法をGHSは大きく変えることになると見込まれている。

「GHSは非常に大きい試みである。私たちはこのような大規模なシステムにかかわったことはない。国際的な安全衛生確保という観点から世界統一基準をつくるという取り組みはこれまでになかった。多くの人々が長年のあいだ、このような取り組みは今後も決してないだろうと言明してきた。しかし現在は多くの国がGHSの完全実施に向け取り組んでいる」とシルク次長は述べている。

1996年9月、労働省および保健社会福祉省の両長官に勧告する労働安全衛生局諮問委員会(National Advisory Council on Occupational Safety and Health)でのある会合で、シルク次長は国際調和について「国際ビジネスの実践および従業員の安全確保、環境保護に絶対不可欠な規制上の定義の統一が最も必要とされている」という見解を述べた。

「私たちはGHSについてはほんとうに長い間議論してきたが、ずっと遠い将来のこととしてこれまで人々は関心を払ってくれなかった。ようやく現実的になってきた今、GHSへの人々の関心を高め、米国やその他の国々で実現が見込まれていると認識させることが目下の課題である」とシルク次長は述べている。

従来、危険有害物質の分類と表示は、輸送においては、「危険物輸送に関する国連勧告(United Nations’ Recommendations on the Transport of Dangerous Goods)」に則した基準で世界統一されていたが、GHSはこの規則と原則を拡大するものである。GHSの検討には多数の国々、専門家、関係団体や、ILO、WHO、OECD、FAO、国際海事機関(IMO)、国連訓練調査研究所(UNITAR)などの国際機関による長時間の討議と研究が重ねられてきた。

GHSにかかわる世界的な課題を、経済上のセキュリティー、自然資源の保護、ヘルスケアの側面から検討する「持続可能な開発に関する国連世界首脳会議(United Nations’ World Summit on Sustainable Development)」では、GHSを2008年までに完全実施するという国連の要請が承認された。

労働者の保護

ILOは、世界中の代表者に対し、GHSの進展状況にかかわる最新情報を提供し、危険有害性(ハザード)を統一して伝達する調和的な取り組みの事務局としての役割を任じてきた。ILOでは、職業上の危険有害物質への被ばくによる労働者の年間死亡者数を、43万8千人以上にのぼると推定している。

化学物質が及ぼす広範な影響に対応し、国際的に寄与する人々、専門家、関係団体の多くの人々の取り組みにより、急性毒性、発がん性、生殖毒性など危険有害性(ハザード)の分類因子が明らかにされた。危険有害性の種類ごとに、標準化したラベル因子が統一見解を得て合意された。GHSの実務文書では、化学物質等安全データーシート(MSDS)への情報表記法も標準化し、GHSの実施にかかわるガイダンスを記載している。

米国の化学メーカーおよびOSHAの危険有害性周知基準(Hazard Communication Standard)の適用を受けている米国労働者の双方に対し、GHSは劇的な影響力をもたらすであろう、とシルク次長は語っている。GHSは安全プロセス、規制遵守、規則施行に影響を及ぼすことになる。またGHSを実施するに当たり初期コストが別途生じることにもなる。

OSHAの危険有害性周知基準では、化学メーカーおよび化学品輸入業者に自社の化学製品の危険有害性(ハザード)を評価し、労働者に対し容器への表示やデータシートを通じて危険予防措置に関わる情報を配布し、周知させるよう要求している。GHSの表示システムでは、赤いひし形の中に髑髏や交差する骨などを描いた絵表示が用いられている。ラベルには、「裸火厳禁」、「火花厳禁」、「禁煙」などの注意喚起語も表示されている。GHSを擁護する人々は、GHSは単一のシステムとして整備されているため、多様なシステムに準拠するのに必要な動物試験を低減し、学術的資源、技術的資源の保全を促すとも確信している。

化学的危険有害性の再評価

「化学メーカーはGHSの新基準に照らし、自社の化学製品をこれから再評価するべきである。ラベルとデータシートの様式は標準化されているため、新しいラベルとデータシートを作成する必要がある。今後は、私たちが現在実施している

パフォーマンス重視型のアプローチ(performance-oriented approach)ではなくなる」とシルク次長。

OSHAに対する2005年度のコメントの中で、総合工事業者連合会(Associated General Contractors of America: AGC、バージニア州アーリントン)は、中小建設企業が現在の基準に基づく危険有害性周知プログラムを実施するには、年間15,000ドルから20,000ドルの負担と、360時間を要すると推定した。AGCは、大手総合建設企業では年間75,000ドルの負担となるとしている。

GHS実施を支持するOSHAは、「規則制定/変更の“事前提出案”(Advanced Notice of Proposed Rulemaking)」を見直している。同案でOSHAは、規制された職場におけるGHSの実施方法を提案し、一般の人々や関係者からのコメントを募ることになる。シルク次長は、同案が「今後数か月のうちに」提示されることを期待すると述べている。

同案はなかば形式的なもののように思われる。米国でのGHSの採択は政府内承認を得る程度にほぼ決定されている。OSHAは、2005年5月発表の半期規制計画表(semi-annual regulatory agenda)にGHS採択を追加している。しかし、規制制定案が適用されるのは、GHSの規定の中でもOSHAが法定権限を有する部分に限定されるとシルク次長は述べている。一方、EPAでは、GHSに基づき殺虫剤の使用や環境について規制する予定である。

国連によるGHS採択以来、OSHAが重点的に注力しているのは、教育や一般の人々との接触や対応を通じて、関係者や一般の人々にGHSに順応してもらうことである。GHSによる一般の人々への接触や対応とは、たとえば化学危害情報伝達協会(Society for Chemical Hazard Communication: SCHC、バージニア州アナンデイル市)とOSHAの正式提携目標のひとつとなっている。

Industrial Health and Safety Consultants社(コネチカット州、ウッドブリッジ)の規制問題上級コンサルタントでもあるデニーズ・A・ディーズ(SCHC会長)は、同社の顧客企業の中には単一の分類システムを期待しているところもあると語っている。「そのような顧客企業は、単一の分類システムを自分たちが活用できるのかということを知りたがっているようである。そのような顧客企業の中には期待しすぎるあまり、『なぜ当社では今すぐGHSを実施しないのか』と実際に言ってくるところもあるが、今すぐにできるものではない」とディーズ会長。

ディーズ会長は、GHSに絡む問題点を理解していると語っている。「GHSを採択すれば、私たちが作成済みのMSDSのすべてを作成しなおさねばならない、ということを意味する。明らかにその経費を皆が懸念しているのである。現在使用のシステムに比べ若干複雑なGHSという分類システムの採用に要する専門知識をどこから得ればよいのか、を皆が憂慮しているのである。定義は若干の変更があろう。化学物質の製造者はまちがいなくなんらかの取り組みを始めることになるだろう」とディーズ会長は述べている。

ラベル表示に潜む連鎖的な問題

ディーズ会長は、ラベルに使われる絵表示は事業場でも消費者向けの製品でも同じものとなると期待できると語っている。米国における消費者向け化学製品の使用は、アメリカ消費者製品安全委員会(Consumer Product Safety Commission: CPSC)が規制している。

OSHAは、経費削減を目的にラベルが変更される定期的な周期を利用して、ラベル順守のための一定の段階期間を設ける予定であるとシルク次長は語っている。労働者にとって重要なことは、新しいシステムについて訓練を受けることである、とシルク次長は述べている。「ここではすべての人々が訓練を受けるべきという重大課題があることは明らかである。しかしそれ以外には、実際には重大な順守義務というものはない。労働者や零細企業の事業者にとっては朗報である」とシルク次長。

GHSは随意のシステムであり、国家間の協定を義務づける効力はない。しかし、GHSが世界中で採択されるにつれ規制環境内での拘束力という効果は有している。

OSHAと同様に、EPAでもGHSにかかわるかなりの取り組みが実施されている。ただし、EPAが規制している殺虫剤の調和的な表示について、規制担当者がいかに取り扱うかという点は複雑な問題となっている。殺虫剤業界の代理を務めるケラー&ヘックマン法律事務所(ワシントン)の弁護士であるマイケル・T・ノバック氏は、国境を越えた殺虫剤認証プロセスも調和されるべきであると語っている。

「殺虫剤業を一つの産業として見た場合、殺虫剤業界ではプロセスの調和が望まれていると私たちは考えている。ラベルの調和は非常に有意義なことではあるが、われわれの産業では、まずラベル、次に製品成分、そして成分を説明するデータシートという順で取り組むのは、後戻りするようなまずい方法である。われわれには化学物質を統制する認証プロセスの調和が必要なのである。殺虫剤の場合、製品販売のためにはほぼすべての管轄内でそうだが、関係省庁に行って販売許可を得なければならない。このプロセスが調和されないようであれば、殺虫剤業界の効率は上がらない」とノバック氏。

ディーズ会長は、2008年が間近に迫っている現在、調和ということの流動性について検討すべきことが多く残っていると指摘する。GHSは、規制基盤が定着している米国のような国に比べ、新興国のほうが採択しやすい。ディーズ会長は、「多数の国々が同じ目標に向かっている。すべての国が目標に到達するのであろうが、同時に到達できるということではない」とも語っている。

マービン・V・グリーン(Marvin V. Greene)副編集長宛て電子メール:新規メールを作成します greenem@nsc.org
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