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交代制勤務者の安全衛生管理
Watching the clock
(ジェームス・G・パーカー副編集長)

資料出所:Safety+Health
April 2006

(仮訳 国際安全衛生センター)

掲載日:2006.11.13
編注
交代制勤務による作業者に対する影響について概説し、災害の発生等を防止するための諸対策が述べられている。
この内容に紹介されているPlain Language about Shift workは、下記サイトからダウンロードできる。
新しいウィンドウに表示しますhttp://www.cdc.gov/niosh/pdfs/97-145.pdfPDF[571KB]
この他に新しいウィンドウに表示しますNIOSHのHPのWork Schedulesのページには、交代勤務に関する多くの資料がある。
交代制勤務者の安全衛生のために最適な管理

人間の身体は、ある条件下で一定の機能を果たすことを目的としている機械といえる。ただしこの機械は、食料、水、呼吸のための空気、十分な運動と休息を必要とする。

身体が必要とする(睡眠も含めた)事物を摂取すべき時間は、身体の機能タイミングを調整するサーカディアンリズム(24時間の生活リズム)により決定される。

夜間や通常の勤務時間とは異なる変則的な時間に働く労働者の抱える問題は、その就労スケジュールの特質上、自然の生物学的リズムに調和せず、人間の生理に逆らって労働を強要されることである。このような身体の混乱が、疲労やその他の健康上の問題の原因に結びついている。疲労をためている労働者は、職業上の災害を被ったり自動車衝突事故を起こしたりする高いリスクも抱えている。

スコット・レイ地区安全衛生マネージャ(カルパイン電力会社:カリフォルニア州サノゼ)、は「人間の身体は夜間労働に向いていない」と述べている。同社のボストン事務所に勤務するレイは「人間は夜行性動物ではない。夜間勤務者の身体には多くの健康上の問題がある」とコメントしている。

米国立労働安全衛生研究所(NIOSH)によれば、米国ではおよそ1,550万人がなんらかの交代制勤務に従事しているという。化学製品プラントなどの製造業の中には、製造工程が8時間以上となるため毎日24時間稼動するところもある。利益を確保するために、高額の機械を連続運転せざるを得ない製造業もある。

交代制勤務と長時間労働を専門に調査するコンサルティング調査会社、サーカディアン・テクノロジーズ社(マサチューセッツ州バーリントン)が2004年に実施した調査は、交代制勤務と、心臓血管疾患、胃腸疾患、肥満、糖尿病、閉塞型睡眠時無呼吸症を引き起こすリスクの上昇とのあいだに関連性があることを示している。交代制勤務を行っている事業者も常習的な欠勤、労働者の離職、医療費、職業上の傷害、製造上の過失の増加により利益を失っているという。同調査報告書「交代制勤務のライフスタイルにおける教育訓練:労使にとっての利点」によれば、長時間労働による常習欠勤、生産性低下、離職、災害・傷害、医療費が原因となり支払った損失経費の総額は、米国全体で毎年2兆ドル超にのぼるという。

リスクにさらされる交代制勤務者

1997年発行のNIOSH報告書「わかりやすい交代制勤務について」(Plain Language about Shift work)では、消化器官障害、睡眠障害、心臓疾患のリスクの上昇など、労働者が直面する安全衛生上のリスクがいくつか特定されている。交代制勤務者の大半は、交代制勤務は健康に害を及ぼすという認識を持っている。サーカディアン・テクノロジーズ社による2004年の調査では、調査対象労働者の77%が、規則的な昼間勤務をすれば健康が回復すると考えていた。

調査では、規則的な昼間勤務者に比べ、交代制勤務者のほうが胃不調、便秘、胃潰瘍を患うリスクが高いことが示されている。先述したNIOSH報告書によれば、このような障害の原因は、労働者が身体のサーカディアンリズムに合わせた勤務をしていないことにあると考えられるとしている。睡眠の必要性と同様に、消化もサーカディアンリズムに合わせて行われる。大半の人が日中、規則的な時間に食事をし、排泄している。NIOSHによれば、夜勤により食事習慣や消化パターンが乱されるという。交代制勤務者は栄養価の高い食事をとりにくいことが、障害を被るもうひとつの原因であると考えられる。夜間の交代制勤務者の中には、勤務時間中に買えるのは、販売機のジャンクフードだけという人もいる。

カルパイン社のレイによれば、あらゆる身体系統は、夜間には就寝モードに入るという。レイは「だから、睡眠の自然なサイクルを乱すと、あらゆる身体系統の健康を損ねることになる」と述べている。

交代制勤務者は、昼間勤務者に比べ心臓疾患を患う可能性も高い。NIOSHの報告書では、製紙工場の労働者を数年間調査したスウェーデン研究者の事例を紹介している。同調査は、同製紙工場が唯一の事業者である小さな町で実施された。調査対象者の大半は,その生活の大部分を交代制勤務時間にあてていた。同調査は、交代制勤務による就労年数が長くなるほど、心臓疾患を患う可能性が高くなることを示していた。しかし、心臓疾患を患う可能性が高まるという結論は、日常の食生活、喫煙、飲酒習慣や、その他の生活上のストレス、家族の病歴など、交代制勤務以外の要因の存在が職業関連のストレスと組み合わされて影響を及ぼしている可能性もある。

また、交代制勤務により社会的または心理的代償も払わねばならなくなる。NIOSHによれば、交代制勤務者は勤務スケジュールが変則的なため、家族や友人から隔離されているという孤独感を感じることが少なくない。交代制勤務者は、家族との活動や社交活動の大半が行われる夜や週末に就労していたり、日中に就寝していたりするため、楽しい機会を逃してしまうことが多い。

レイは「交代制勤務者が世間から隔離されていると感じることによる影響は深刻である。子供と一緒に遊べず、家族と一緒に過ごせない。この事態には心理的な影響が及ぶ」と語っている。NIOSHの報告書によれば、交代制勤務者は十分な睡眠をとることより家族と一緒に過ごすほうを選択することがあり、これが疲労を大きくさせることが示されている。

疲労による大きな代償

潜在的な健康への問題に加え、交代制勤務者は睡眠不足や疲労によっても、安全上のリスクにさらされることになる。レイは、疲労が原因で夜勤者や交代制勤務者は傷害を受けるリスクが高まると述べている。NSCでは、両まぶたが重たい、または、焦点が定まっていない、何度もあくびをする、怒りっぽくなる、落ち着かない、短気になる、支離滅裂となる、思考が混乱する、背中の凝り、眼の充血、浅い呼吸、注意散漫などは、疲労の兆候であると指摘している。

NIOSHは、夜間に勤務した後の睡眠時間は短くなりがちで、そのような短時間の睡眠は夜間に睡眠した場合と比べ、リフレッシュ効果は低いと報告している。

サーカディアンリズムにより、日中は睡眠すべきでないと身体が反応するため、日中に睡眠をとらざるをえない夜間就労者は、大半の場合、睡眠時間が最も短い。NIOSHは、日中の睡眠は、大半の場合、夜間の睡眠より短く、浅く、また日中に睡眠していると騒音のためにすぐに起こされてしまう、と指摘している。

1998年、米高速道路安全局(NHTSA)は、居眠り運転の影響を調査する大規模な取り組みの一環として、交代制勤務者のフォーカスグループを集め、調査を実施した。調査結果により、交代制勤務者の睡眠習慣について実に多くのことが明らかになった。

たとえば、NHTSAは、「フォーカスグループの調査対象者の大半は、毎日一定して合計4時間から6時間の睡眠をとってはいるものの、十分に休息が得られるような睡眠はほとんどないと示唆している。調査対象者の多くは、‘可能なときに’睡眠をとる傾向があるとしている。このような睡眠方法では、15分間から2、3時間ほどの細切れの睡眠となってしまう場合が多い」と指摘している。睡眠不足となる理由のひとつに挙げられたのは、食料品の買出し、家族との団欒、その他の仕事など、日中にせざるを得ない活動があるためということであった。

NHTSAは、同局の調査対象となった交代制勤務者のほぼ全員が慢性的な睡眠不足の兆候を示していることを明らかにしている。業務と家族サービスのつとめのために睡眠時間とその質を上手に調整できないと交代制勤務者らが考えているようにも見受けられた。フォーカスグループの調査対象者は、眠気がその行動、運転能力、仕事の遂行能力に影響するという考え方に同意する傾向があった。

仕事に対する倫理観がいかに強い労働者であれ、その強さに関わりなく、疲労をためていれば仕事への集中力は欠け、不注意となる。眠気は、仕事中も、仕事を離れていても、作業効率に影響を及ぼす。NIOSHは、疲労をためている労働者は集中力に欠け、注意散漫となり、職業上の傷害を被る高いリスクがあり、通勤時に交通衝突事故を起こす高いリスクがあると報告している。

睡眠不足の労働者は、いわゆる「マイクロ睡眠」に陥りやすい。NIOSHは、睡眠不足の人間は覚醒時に無意識に短時間睡眠状態に陥り、それが数秒間続くと指摘している。当事者はそのような症状が起きたことさえ気づかず、また周囲の人間はその人が覚醒しているように見えることもある。労働者が危険な仕事についていたり、重機械の操作や車両の運転をしていたりするときにマイクロ睡眠に陥れば、致命的な結果を招くこともある。

最適な習慣を励行してリスクを低減させる

24時間稼動している事業者にとり、また交代制勤務者自身にとっても、交代制勤務という形態をなくすという考え方は不可能である。交代制勤務および睡眠不足に伴う安全衛生上のリスクは低減できるが、そのためには適切な教育と対策が必要である。

カルパイン社のレイは、交代制勤務者や夜勤者が身体的・精神的ストレスに対処できるようにするため企業がなすべき最重要事項は従業員の教育である、と述べている。「従業員がスケジュールをきちんと立て、就寝時間と適正な食事を規則的に守り、帰宅後十分に適切な睡眠をとれるよう助言を与えるようにしなければいけない」とレイはコメントしている。

サーカディアン・テクノロジーズ社によれば、交代制勤務者に睡眠の衛生学、時間管理、仕事と家庭のバランスについての教育を行っている事業者では、従業員の離職率と常習的な欠勤レベルは低いという。同社によれば、このような教育を行っている企業の従業員一人当たりの年間損失経費削減額は、離職率の低下により952ドル、さらに、常習的な欠勤レベルの低下により940ドルになるという。

NHTSAが実施した交代制勤務者のフォーカスグループへの調査の結果、従業員はこの種の教育訓練からメリットを享受できることが明らかになった。従業員に対する効果的な教育プログラムあるいは事業者による教育機会の提供において、根幹となる働きかけは以下のようなことである。

  • 事業者による教育機会の提供は従業員のメリットとなることを従業員に納得させる
  • 何をすべきか明確な指示を与える
  • 成果としてどのようなメリットが期待できるかを説明する
  • どのようにすればそのようなメリットを認識できるかを説明する
  • メリットを認識するためにそのような習慣を続けることが必要な期間について説明する

サーカディアン・テクノロジーズ社の調査とNIOSHの報告はいずれも、交代制勤務者の家族は勤務者のスケジュールの影響を受けるため、家族全体が勤務者の時間管理教育に関わるべきであり、また問題を理解して勤務者がさらされるリスクと担う責任の双方に対処するために協力する必要もある、と提言している。「家族のスケジュールが勤務者の勤務スケジュールと合わない見込みが往々にしてあるため、社交のためや家族と過ごす時間を確保するためには、家族が勤務スケジュールの組み方について把握している必要がある」

NIOSHによれば、喫煙、食生活、運動の各習慣、睡眠を含めた総合的な健康習慣の励行が、交代制勤務による労働者への悪影響に良い効果を及ぼすことができるという。

レイは、「規則正しく適切な食生活は、交代制勤務が及ぼす身体への悪影響を低減できる大きな要素である」と述べている。交代制勤務者は、日中ほど消化器官の活動が活発ではない真夜中に大量の食事を摂取することがある。カフェインやアルコールの摂取も十分な睡眠の妨げとなる。

健康を害するこれらの要因を管理し、睡眠と運動の時間を確保することが課題となるが、事業者は教育の提供を通じて従業員を支援できる。NIOSHは、交代制勤務者は勤務スケジュールに応じて異なる時間に睡眠を取る実験を行って、最適な睡眠方法を模索すべきであると推奨している。交代制勤務者は就寝時間、起床時間、自己診断による睡眠時の休息の程度を書面に記録する必要がある。こうすることで自分に最適な睡眠スケジュールを決められるようになる。

身体の健康状態を良好に保つことで、ストレスや疾病に対する身体の抵抗力が高まり、運動を続けることですぐに疲れることのない身体をつくることができる。NIOSHによれば、仕事につく際にかえって疲れすぎてしまわないように、勤務者が運動をするタイミングが重要となるという。また、短い睡眠時間をさらに運動で削るようなことになってもいけない。

NIOSHは、就労の約20分前にエアロビクスをさせることで、勤務者の目を覚まし、意欲を引き出し、心臓を良好な状態に維持させることを推奨している。勤務者は就寝前3時間以内には運動を避けるべきである。

NIOSHは、勤務時間スケジュールの組み方によっても効果が得られると報告している。交代制勤務者の精神面、社会面、身体面での要望に十分配慮した勤務スケジュールを計画すれば、勤務者の安全衛生への認識、意欲、生産性が高まる。NIOSHは、以下の条件を満たせるように十分配慮して勤務スケジュールを立てるべきであるとしている。

  • (固定またはローテーションのない)恒常的な夜間勤務を避ける。
  • 連続夜勤は最低限に抑える。
  • 急な勤務時間の変更は避ける。
  • 非番となる週末を何週間か計画する。
  • 数日間連続して休暇をとった後に、数日間の連続勤務をするという勤務体制を避ける。
  • 長時間労働や時間外労働は最低限に抑える。
  • 多様な勤務時間を設定する。仕事量に応じて勤務時間を調整する。身体負荷が大きい仕事は勤務時間が短いときにする。
  • 始業時間と終業時間を検討する。勤務者の通勤時間がラッシュアワーに重ならないようにする。朝番の始業時間は早過ぎないようにする。
  • 勤務スケジュールは規則正しくし、予定が立てられるものとする。
  • 休憩を見直す。標準的な休憩では勤務者の疲労を回復させるには十分とはいえない。

可能であれば、重労働や労力を要する仕事は、午後や夕方など、勤務者の作業効率が最も高い時間にこなせるよう勤務スケジュールを編成することをNIOSHは提言している。最も過酷な重労働や最も危険な仕事はサーカディアンリズムによる活動能力が低くなる真夜中や早朝は避けること。

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