このページは国際安全衛生センターの2008/03/31以前のページです。

安全をより高い水準に引き上げる
リスクマネジメント指針


Taking safety to the nesxt level
A Risk Management Guide


資料出所:「Safety+Health」2000年10月号p.98
(訳 国際安全衛生センター)


全米安全評議会(NSC)の国際空運部は、会員のニーズに応え、「航空地上業務安全ハンドブック」の一部として航空産業のリスク・マネジメント指針を作成した。「ハンドブック」には航空産業の地上業務の安全に特有の問題も書かれているが、この指針自体は、危険要因とこれに伴なうリスクへの一般的な対処法を提示している。安全管理者は、必要な修正を加えれば、自分たちの条件に合わせた同種の指針を作成できる。
指針作成の狙いは、安全をさらに高い水準に引き上げることにある。指針は、安全管理者が危険要因とリスクに効果的に対処するための、論理的な問題把握と解決プロセスをまとめている。

リスク・マネジメントは、業務前、業務中、業務後の人的、物的、環境的要因を計画的に決定するための、6段階の、論理的思考を基礎にしたアプローチである。これにより、上級幹部、部門責任者、監督者などは、成功の機会を最大化しつつリスクを最小化できる。


第1段階.危険要因の把握

なるべく多くの危険要因を把握する。危険要因とは、人員の負傷、疾病、死亡の原因となり、または設備もしくは資産に損害や損失を与えるような、あらゆる現実的または潜在的条件である。以下は、危険要因の把握に有効なツールである。

業務分析

目的:業務の流れを理解する。

方法:重要な出来事や動きを順番に列挙する。可能な場合は、時間管理表を利用する。

事前の危険要因分析(PHA:Preliminary hazard analysis)

目的:業務の全段階における危険要因を迅速に調査する。危険要因が少ない状況では、PHAが最終的な危険要員把握ツールになる場合もある。

方法:業務分析と結びつける。シナリオ想定に基づく思考法、ブレーンストーミング(自由討議)、専門家、事故データ、規制を活用して、迅速に危険要因を分析する。この方法は、業務の全段階を検討し、高リスク分野を早期に把握するためのものである。今後の分析強化に向けた優先分野の確定に役立つ。

「もしも…」ツール

目的:ブレーンストーミングなどの環境で個人の発想を取り入れる。

方法:分野を選定し(業務全体ではなく)、その関係者を集め、できるだけ多くの「もしも…」の事例を出し合う。

シナリオ型ツール

目的:想像力と視覚化を通じて、特殊な危険要因を把握する。

方法:「心理的画像」と通称される技術で、事態の流れを視覚化し、想定できるあらゆる出来事に「マーフィーの法則」を当てはめる。業務分析を手がかりに、発生しうる事態を想像する。

変化分析

目的:予定の、または予定外の変化に伴なう危険要因を把握する。

方法:現状を以前の状況と比較し、新たに発生するリスクを把握する。


第2段階.リスクの評価

リスクとは、危険要因にさらされることによる損失発生の蓋然率と強度率である。評価の過程では、量的または質的測定法を適用して特定の危険要因に伴なうリスクの水準を決定する。危険要因から発生しうる望まれぬ事態の蓋然率と強度率を明らかにするわけである。この評価法を実施する際は、入手できるどんな情報も見逃してはならない。自分の個人的経験や直感を超えたリスクの大きさを知るのに役立つ場合もあるからである。

リスク評価マトリクスは、リスクの水準に応じた蓋然率と強度率の影響を分類するための、きわめて有益なツールである。マトリクスを完成するには、まず人、設備、または業務への潜在的影響を基準に、危険要因の強度率を決定する。強度率評価は、合理的に予測可能な最悪の結果に基づいて行うべきである。危険要因の強度率分類表は、人為的ミス、環境条件、設計ミス、手続き上のミス、またはシステム、サブシステム、部品の欠陥や故障を原因として発生しうる最悪の事故の質的な測定基準になる。事故の潜在的強度率は、予想される人の負傷、障害、または設備の損害の大きさに基づいて分類される。

次に、危険要因が事故を引き起こす蓋然率を決定する。蓋然率は、推定または実際の数値を通じて決定できる場合もある。危険要因の質的蓋然率は、同種の業務やシステムの過去の安全データを研究、分析、評価することで決定できる場合もある。発生の蓋然率とは、事故つまり結果の発生の蓋然率であって、個別の危険要因つまり基本原因の発生の蓋然率ではない。

最後に、この情報をリスク評価マトリクスに当てはめれば、危険要因のリスク水準を評価できるようになる。リスク評価マトリクスの詳細な情報は、162ページの航空ガイドブックを参照されたい。


第3段階.リスク制御対策の分析

リスクを減少、緩和、または排除するための具体的戦略とツールを調査する。効果的な制御対策とは、リスクの3要素、つまり蓋然率、強度率、暴露のいずれかひとつを、縮小または排除するものをいう。

大局的な選択肢

拒否する−リスクによる全体的コストが高すぎる場合、リスクをとることを拒否できるし、拒否すべきである。

回避する−リスクを全体として回避するためには、仕事、任務、業務をキャンセルまたは延期しなければならない。

延期する−リスクを延期することが可能な場合もある。期限が定められていない、またはリスクのある仕事を迅速に完了することに業務上の利益がない場合、リスクの引き受けを延期する方が望ましいことがよくある。延期中に状況が変化し、リスクを引き受ける必要がなくなる場合もある。

移転する−リスクを移転しても危険要因の蓋然率や強度率は変わらないが、業務や活動に従事する個人または組織が実際に体験するリスクの蓋然率や強度率が減少する場合もある。潜在的な損失やコストを他に移転するため、少なくとも当初の個人や組織のリスクは大幅に低下する。

拡散する−暴露対象との距離を延長するか、暴露と暴露の間の期間を長くすることで、リスクはたいてい拡散できる。

補償する−われわれは、状況によっては余剰能力を創出できる。一例としてバックアップの立案があり、設備の重要部分や他の業務用資産が損害を受け、または破壊されたときに、業務をそのまま継続できる体制を用意する。

減少させる−リスク・マネジメントの全体的目標は、危険要因のない業務を立案し、またはシステムを設計することである。危険要因に対処し、リスクの発生を減少させるにあたって次のような実証済みの優先順位がある。

  1. リスク最小化のための立案または設計。危険要因を排除するようなシステムを設計する。危険要因がなければ、蓋然率、強度率、または暴露はゼロになる。
  2. 安全装置の組み入れ。設計上の対策または装置を使用してリスクを減少させる。これらの装置は通常、蓋然率には影響しないが、強度率を減少させる。自動車のシートベルトは衝突を防止しないが、負傷の強度率を低下させる。
  3. 警報装置の用意。警報装置は、有害な条件の存在を検知し、人員に警報を発するために使用される。
  4. 手順規定と訓練の策定。設計の選択を通じた危険要因の排除や、安全および警報装置による付随リスクの減少が実行不可能な場合、手順規定と訓練を活用すべきである。


第4段階. 制御方針の決定

危険要因を排除し、またはリスクを減少させるための制御策を選択した後、選択した業務方針または活動方針の残存リスクの水準を判定する。

  • 計画を現状の通り承認する。便益がリスク(コスト)を上回り、異常事態が発生した場合の総リスクは、提案された活動方針が正当と認められる程度に低い。被害発生のリスクが明らかな場合、関係者はいずれもこれを放置してはならない。方針決定者は、リスク制御のためのリソースを割り当てなければならない。利用できるリソースは時間、資金、人員、装置である。
  • 処理能力を超える計画を拒否する。リスクが高すぎるため、いかなる形態であれ業務を正当化できない。計画になんらかの欠陥がある可能性があり、または業務目的がそれほど重要ではない。
  • 計画を修正してリスク制御対策を策定する。計画は有効だが、現行案ではリスク最小化が十分ではない。計画を実行に移す前に、追加的な対策が必要である。
  • 決定を上級決定権者に委ねる。リスクが大きすぎて方針決定者は承認できないが、リスク制御のためのあらゆる対策は検討済みである。業務を継続するのであれば、上級決定権者が決定を下し、リスクを受け入れなければならない。


適正な段階でのリスク対処方針の決定

幹部向けの指針として、方針決定システムの基礎となる要因を以下に示す。

  • 事故が発生した場合の対応責任者は誰か?
  • 現場におけるトップの責任者は誰か?
  • 便益とリスクによるコストの総合的判断をもっとも適切に下せるのは誰か?
  • リスク軽減に有用なリソースを保有しているのは誰か?