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NSC発行「Safety + Health」2000年12月号

時の人



労働者は、無意識に毒物を持ち帰る

 何年もの間、科学者は、毒物を取り扱う労働者が、仕事を終えると、危険な化学物質やその他の物質を家に持ち帰る可能性があると知っていた。しかし、政府や産業界の努力にもかかわらず、調査の結果、全国の子供、配偶者、家族構成員は、生殖機能障害、発育障害や病気を引き起こす可能性があるほどの毒性レベルにさらされていることが判明した。

 おそらく最も驚くべきことは、国立労働安全衛生研究所(NIOSH)によれば、この分野での調査はほとんどなされておらず、だれが危険にさらされるのか、毒物は、どこに、または、いつ家庭に持ち込まれるのか、また、毒物への暴露は、どのような病気を引き起こす可能性があるのか、科学者は把握していないということである。

 「これは、氷山の一角である」とNIOSHの疫病学者、エリザベス・ウェラン氏は言った。同氏は、議会に提出予定の、家庭への持ち帰り汚染に関する報告書の著者の一人である。

 持ち帰り危険の典型例には、鉛中毒やベリリウム中毒、アスベスト暴露などがある。労働者は、また、PCB、グリコールエーテル、殺虫剤、ヒ素、放射線物質や水銀を持ち帰っている。NIOSH研究員は、生殖機能に悪影響を与える未確認の毒物もあるだろうと語っている。

 「持ち帰り物質への暴露が、公衆衛生を脅かす度合いを推定するのは、現在、不可能であり、持ち帰った毒物が、将来、引き起こすであろう危険を予言することも、不可能である」と、議会へ提出予定の報告書案は述べている。

 問題のひとつは、毒物は、見てわかるものではないという点である。鉛とかアスベストのように、既知の持ち帰り毒物をより注意深く調査し、これに加えて、研究員は、C型肝炎、風疹、エイズなどといった、血液感染性の病気の持ち帰りについても考察せねばならない、とウェラン氏は語る。労働者は、また、子供たちの間で急増中の喘息を引き起こす、アレルギー誘発物質を家庭に持ち帰っている可能性もある。

 一例として、1980年代の中頃、インディアナポリスの化学工場から、労働者がゼラノール(zeranol)を持ち帰り、子供たちのホルモンに影響を及ぼしたことがあった。男児のなかには、胸が発達しはじめた者もいた。

 物質の危険がわかり、汚染除去の手順を文書にしても、それが守られるとは限らない。ウェラン氏によれば、NIOSHの調査によれば、橋梁から鉛塗料をサンドブラスト(sandblasting砂吹き)していた建設労働者のうち、50%のみが、鉛毒について訓練を受けていた。労働者は、職場から鉛分子を持ち帰っていた。鉛は少量でも、子供に害を及ぼす。

 この問題に取り組むため、NIOSHは、これらの「認識格差」を縮める、国の調査事項を勧告している。また、職場での暴露が日常的である分野に的を絞る、国家的な監視体制の必要性を主張している。しかし、当面は、鉛、ベリリリウムや殺虫剤のような、毒性明らかな物質について、少しの努力を払うだけでも大差をもたらす、と言っている。

 「ささやかな資本の投資で、なによりもまず、危険の認識を高め、安全作業と物質の取り扱い手順を受け入れるよう、労使の訓練努力を高めることにより、物質の持ち帰リを防止できる」。