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危険を冒す労働者に的を絞る

労災における労働者の役割を検証する立法措置に議会が着目

資料出所:National Safety Council (NSC)発行「Safety + Health」2001年9月号 p56-66
(訳 国際安全衛生センター)


ウィリアム・アトキンソン

下院に提出され、現在継続審議中の法案が事業場での安全に関して微妙で物議を醸しそうな問題を提起している。労災において労働者が果たす役割があるとすればどのようなものであろうか?

ビリー・トージン(Billy Tauzin/共和党ルイジアナ州選出)とラルフ・ホール(民主党テキサス州選出)が共同提案者となった「事業場安全並びに説明責任法(The Workplace Safety and Accountability Act)(HR-5037)」は、OSHAの召喚状および罰則は概して災害時に労働者の行為が果たす役割を見逃している、という事業者の不満に対応したものである。

この法案が通過し成立すると、事業者が労働者に所定の訓練を行い個人用保護具(PPE)を提供していることを、また労働者が訓練および/または保護具を有効に活用しなかったことを明証できれば、事業者はOSHAの召喚状と罰則を免れることができることになる。

「この法案が通れば、違反の疑いがあることを事業者が知ることがなければ、もしくは妥当な注意義務を守っても知り得なければ、事業者に対するOSHAの召喚状発行や罰則の適用を阻止することになる」と、ホールの事務所のスポークスマンは述べている。

当然、提出された法案に対する反応は賛否両論であり、企業寄りのグループは肯定的だが、労働組合は反対の立場をとっている。

「法案には事業者に責任を免れさせようという意味以外何もないものと思われる」と、ピッツバーグの全米鉄鋼労組の衛生・安全・環境担当役員であるマイケル・ライトは語った。「労災の大多数は訓練とPPEが不十分である以外のことが要因となって発生しているのだ。」

続けてライトは、訓練が要因であるケースでは、さらに2つの疑問点が浮かんでくる。すなわち、まず訓練が十分なものであったかどうか、そして事業場の条件を考慮した上で、労働者が訓練を十分にこなすことができるかどうか、の2点が問題となると語る。

その主張は「たとえば、労働者がある方法で作業を進める訓練を受けるとして、現場の監督が違ったやり方で進めるように言ったならどうなる」と言うものだ。

労働政策協会(Labor Policy Association)(ワシントン)の副顧問弁護士、ティム・バートゥルは当の法案について別の見解を示している。「事業者は事業場における安全の最終的な責任を有しているが、法規制の遵守を確実なものとするにはやれることに自ずと限りがあり、それは確立された事実と言える。事業者は労働者に訓練を施し、就労規則を決めてそれを施行することができるが、最終的に訓練をこなして規則を守るのは労働者自身なのである。そのような訳で、この法案が労働者の責任についてその役割を認定しているのは正しい方向に一歩踏み出したものだ。」

バートゥルは、連邦巡回法廷で同様の理念を判示した例があるとも語った。「この理念が確立されれば、訓練、書面に記載された方針や十分な監督がなされたにもかかわらず、労働者に方針に反する行為があったと立証できる場合、事業者は少なくとも召喚状に対して、あるいは召喚状の適用範囲に対して異議を唱える根拠を手にすることになる。」

この秋の議会で同法案を議題に上げる予定は今のところない。しかし、事業場での災害時に最終的に誰が責任を負うのかについては、再び論議を呼ぶことになる。また行為者に基づく安全の理非についても再度論議が必要だ。

この論議の要となる問題は、自分たちの安全を危うくする行為に一定の人々が携わるかどうかという点である。事業場の安全に関わる何者かの行為の影響は、概して企業寄りのグループが支持する論点であるが、労働者側のグループはおおむねそこにどのような理非があろうとそうした論点を無視する。

安全については他の事柄よりも不用意な態度で望む人々がいることを示す証拠はある。たとえば、運転するのにシートベルトをしない、無謀な速度を出す、飲酒するという人は多い。違法なドラッグを摂取したり、過剰な喫煙や飲酒にふける人もある。さらに、週末になればわざわざスリルを求めていわゆる「過激なスポーツ(extreme sports)」にいそしむ人々もいる。

「社会的な法と事業場の規則を守ることにどれほど意識的になるかということと、労災との間には関連性があることを示す研究がある」と、メイン州オロノのメイン大学で心理学教授を務めるG・ウィリアム・ファーシング博士は述べている。博士は物理的にリスクを冒す性格について専門的に研究している。「たとえば、酔ったまま運転し、シートベルトを装着し忘れ、スピードオーバーを犯すような人物は事業場においても事故を起こしがちです。」

事故を繰り返す人物を特定することは、生活安全に即した行動をとらない労働者を見分けるひとつのやり方である。多くの労働者がその職歴全体を通じて無事故でやってこれるのに対して、一部だが頻繁に事故を繰り返す人物がいる。例を挙げれば、コネチカット州ハートフォードのトラベラーズ保険が6年間で申請された40,000人の労働者の補償要求について分析したところ、そのうち16.5%が過去に事故を繰り返していた。

危険を冒しがちな性格

「危険に生きる:日常生活の危険を乗りきる(Living Dangerously: Navigating the Risks of Everyday Life)」の著者であるジョン・ロスは、個人的に他人よりも高いレベルの刺激を必要とすると思われる人々がいると指摘する。極端なケースでは、危険を冒すことに伴う感覚に溺れてしまう状態となるとも言う。その所見によると、危険を冒す人物は危険そのものを目的として危険を追い求めるのではなく、精神の内面で起こる緊迫した感興を生み出すひとつの手段としてそのような行為に走り、あたかもコカイン中毒者が「ラッシュ(麻薬の快感)」を追い求めるのと同様の状態になる。

「感興追求という特徴には、物理的に危険な活動など、多大な刺激をもたらすことをしたいという欲求が伴っている」と、ファーシング教授は言う。「そうした人物は危機の瀬戸際にあるという場面で最も興奮が得られる人々なのです。」


記事内容早わかり


議会では継続審議扱いとなっているが、事業場安全並びに説明責任法(The Workplace Safety and Accountability Act)は行為に基づく安全について再度議論に火をつけた格好である。

要点
  • 企業グループは事業場安全並びに説明責任法には優れた価値があると考えているが、労働者グループは事業場安全についての責任はそれでも事業者側にあると主張する。
  • 研究によると、社会的な法に従わない人物は事業場の方針にも従わない傾向がある。
  • 過激なスポーツ(extreme sports)に参加するなどの危険を冒す活動と、人が安全規範をないがしろにするかどうかという問題とは複雑に絡まっている。

ウィリアム・アトキンソンはイリノイ州カータービル在住のフリーランスの著述家。


最新の科学的研究では、少なくとも危険を冒す行為の中には遺伝学的な要因によると考えられるものがあると指摘している。たとえば、2つの近年の研究によると、第11染色体の一部においてある種の通常より長いDNA配列を持つ個人は「新奇性を追い求め」危険を冒す行為への性向があるという結果が出た。

「スリル追求型の人物」は仕事ではどのような行動をとるのか。その答えは一筋縄ではいかないと語るのは、ワシントンの米国心理学協会の元会長で、テンプル大学(フィラデルフィア)で心理学を教えるフランク・ファーリー博士。

ファーリー博士は危険を冒す性格に関する研究の第一人者であるが、こうした精神現象について35年間研究し続けてきた。博士によると、危険を冒す人には異なる類型があるという。ここで興味深いのは、「T型フィジカル」という、物理的な危険を楽しむタイプの人間である。

ファーリーは、物理的な危険への志向には連続的な特性が見られると考える。博士によると、T型(大文字のT)フィジカルは、その連続した特性の一端に位置するものであり、「妥協することなく危険を追い求める、生来のルール破り」の人物である。その連続的特性の対極の位置にくるのが、t型(小文字のt)フィジカルであり、危険回避の性格を持ちできるだけ安全を求めようとする人物である。大多数の人々はファーリーによると、その中間に位置する。これら多数派は必要に迫られれば危険を冒すが、普通に生活する上ではそのようなことはしない。

博士は米国人の10〜30%はT型フィジカルに属すると考える。そうした人々が事業場でうまくやっていけるかどうかは状況による。ファーリーは2つの重要な考察を提示している。

  • 「T型」の人々が週末にスリリングなスポーツなどで欲求を満たしているなら、十分な精神的はけ口があるものと考えられる。「しかしながら、こうした人々の余暇のスリル追求の活動が、欲求を満たすのに不十分なものであったなら、スリルへの有り余った欲求が、事業場での安全に深刻な問題を引き起こす可能性がある。」
  • 「T型」の人々が従事する仕事に感興を十分呼び起こすようなところがあったり、それ自体が十分興奮する仕事なら、そうした仕事に関する安全規則に彼らが従うであろうとかなり期待できる。「たとえば、都心に勤務する警察官は日々の任務を果たすだけで自身のスリルへの欲求を満たすことができるかもしれない」と、ファーリーは述べる。「彼には安全規則を破る必要はないだろう。」

しかし、「T型」の人々が興奮や「スリル」の余地のないありきたりの仕事に従事している場合、スリルを追求するのに十分な立場にあるとは言い難い。そこで、仕事で何らかの危険を冒すことでスリルを見いだそうとするかもしれない、と博士は言う。「繰り返すが、こうした人々は生来の危険追求型で、ルール破りの人物であるから、他の人々のようには安全規則に従おうとしないだろう。」

ただし、誰かがハンググライダーやバンジージャンプを楽しんでいるからというだけで、安全についての関心が全くない、あるいは低いと言うことはできない。いわゆる過激なスポーツ(extreme sports)の熱心なファンがアドレナリンの湧き出る感覚を楽しんでいるとしても、その多くにとって安全は優先すべきものとなっている。

社会的考察

自身の体をどのように扱うかは、人々がどれくらい安全に仕事を進めるかの、もうひとつの指標となる可能性がある。

ひとつの例として薬物乱用が挙げられる。薬物乱用・精神衛生管理庁(The Substance Abuse and Mental Health Sercives Administraion)の報告書では、薬物を使用する労働者は労災に遭遇する機会が通常の3.6倍、補償請求を申請する機会が5倍にもなると言う。

薬物乱用と労災


薬物使用者は...

労災に遭遇する機会が通常の3.6倍、

補償請求を申請する機会が5倍にもなる

出典:薬物乱用・精神衛生管理庁(2000年)

サウスカロライナ州スパルタンバーグのアドバンティカ・レストラングループを舞台に行われた労働省の研究では、業務上の傷害の38〜58%がドラッグ使用または飲酒に起因するという。アドバンティカはDenny's、Carrows、Cocosといったレストランチェーンを経営している。

Forensic Science International誌における研究(第65号、p. 121-134)では、1984年から1992年にかけてのイリノイ州クック郡のフォークリフト死亡事故において、22%の運転手が同誌の方式で検出可能なレベルのアルコールを摂取していた。

さらに、喫煙者も通常より大きな危険を冒しがちであるという証拠がある。メリーランド州ベセスダの軍衛生科学大学で行われた研究によると、約2,000人の新兵を対象にした中で、喫煙者は非喫煙者に比べ1.5倍も傷害を負う機会が多いという結果が出た。

また、NIOSHが行った腰部に関する最近の研究では、労働者補償報告における腰の傷害の発生率は非喫煙者で2.40だったのに対し、喫煙者の発生率は3.96となっていた。

喫煙者と腰痛


100万労働時間あたりの発生率(申告数に基づく)
非喫煙者 2.40
喫煙経験者 3.31
現喫煙者 3.96

出典:NIOSH(2000年)

労働者の人格や生活様式を考慮しない従来の安全プログラムは、発生の危惧される災害や傷害をかなりの割合で予防するのには有用である。しかし、すべての災害を防ぐことは無理である。

労働者の人格および生活様式の多様性と関連づけられる潜在的な問題に事業者が取り組もうとするなら、そのうえ新たな措置を講じなくてはならない。仕事への応募者についてのより精細な検査、作用物質による薬物精密検査プログラム、労働者支援プログラムおよび福利厚生プログラムなどを取り入れなくてはならない。

しかしながら、まず災害を防止するために事業場において妥当な措置が一通り取られているかどうか確認することが重要である。ここでカギとなるのがチームワークである。

労働者補償を含む商業保険商品を取り扱う、ニュージャージー州ウォーレンのChubb & Son社副社長、マイク・ヒームブロック(Mike Heembrock)は、「安全という観点から、最善の成功と言えるのは、経営陣、監督者、そして労働者が協力して危険の実態把握に努め、誰から見ても正当と感じられるような規則を定めた場合であるということがわかりました」と述べている。「経営陣が労働者を参加させることなく安全規則を作成するような企業では、しばしば労働者は規則を尊重することを怠り、時には故意に規則に従わないこともあります。」

常習的なルール破りのケースでは、経営陣が当の労働者の安全に関してだけでなく、危険にさらされる恐れのある他の同僚に対しても責任を有していると、Chubb社の幹部は考えている。「解決の第一段階は教育です」と、Chubb社上級副社長のキャシー・ラングナーは語る。「ある労働者が無知によって安全規則に違反していることがわかったなら、その労働者に対してなぜ規則があるのか、またその利点について教えてあげる必要があります。」

協議を行えば、労働者が業務に当たって規則が実際的でないと感ずる理由を説明する場合もある。ラングナーは「このような場合には、規則を差し替えることに合意することもできるのではないか」とも言う。言い換えれば、安全は依然事業者の責任である。

ヒームブロックはルール破りの労働者に対して圧力をかける会社の既存の安全慣行を活用するべきであるとも言う。「継続して規則に違反する労働者は同僚から疎遠となる感覚を抱くようにするのも手です。これは、管理者や監督者との協議よりも説得力のある可能性があります。たとえば労働者は、装置を遮断したりロックしたり、他人に危険を及ぼしかねない作業で、化学物質を適切に扱う重要性を同僚から教わる必要があります。

あらゆる努力が実らなかったなら、最終的に、解雇まで含む懲罰的な措置もとるべきと、ラングナーは勧告する。「ある労働者の行為のために複数の労働者が有害な影響を被る恐れのある事業場では、特にこれは重要なことです。」

就労希望者検査における安全へのカギ


安全の観点から、生来の危険への性向を有する人々に事業場で接する機会を減らす上で最初に行うべき、またもっとも重要な措置は就労希望者を念入りに検査することである。

「労働者の安全に反する行為が関わる問題について長年事業者が語るのを耳にしてきた」と、報告するのはカリフォルニア州ストックトン、カリフォルニア州損害補償保険基金(California State Compensation Insurance Fund)の損害管理コンサルタント、ダン・ハーツホーン。「ほとんどのケースでは、あまりにも性急に雇用してしまうことから問題が起こることがわかった。選定の過程ではもっと時間と手間をかけるように、特に安全の面ではそうするように事業者に勧告するよ。」

この方面で事業者を支援するため、ハーツホーンは応募者の安全に関する態度評価を目的として事業者が尋ねることができる自由回答形式の10の質問を用意した(理論的にはこの質問で応募者の将来の行動も評価することになる)。回答自体も重要であるが、ハーツホーンは応募者が回答に対して与える理由づけがいっそう重要であると強調している。

特に要注意の応募者は次のような回答をする。
  • 自分の回答についてあまり考えていない。
  • 自分自身の安全についてあまり責任を受け付けない
  • 自分の好きなように物事を進めたがる。
ハーツホーンが練った質問は以下のようなものである。
  1. 前の職務でもっとも重要だった安全規則は何か。
  2. なぜ、安全プログラムと安全規則が必要なのか。
  3. 次の発言についてどのように思うか述べよ。「すべての労働者の安全労働に関わる行為に対してもっぱら事業者が責任を負っている」
  4. 安全プログラムは数多くの事項からなる。ほとんどの安全プログラムにおいてもっとも重要と思われる2つの事項はどれだと思うか。説明せよ。
  5. 同僚の労働者が安全に反するやり方で作業していたら、それを見てどのような対応をするか。
  6. 監督者から業務を与えられたが、その仕事を安全に遂行する方法について訓練を受けなかったなら、どのように対応するか。
  7. 担当業務の安全規則が不便なものであなたの生産性を低下させるものであったなら、どのように対応するか。
  8. 監督者が新しい器機について2度使用法を説明してみせたが、自分ではまだ理解できなかった場合、どのように対応するか。
  9. 次の発言について同意するかしないか、またその理由を説明せよ。「安全規則はほとんどの場合において遵守すべき一般的なガイドラインである。しかし、労働者が経験豊富で慎重ならば、やり方を変えてもかまわない」
  10. 安全と生産性に関係があるなら、それについて述べよ。

出典:カリフォルニア州損害補償保険基金損害管理コンサルタント(カリフォルニア州ストックトン)、ダン・ハーツホーン