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安全であってこそのわが家

資料出所:National Safety Council (NSC)発行
「Safety + Health」2001年10月号 p.54-60
(訳:国際安全衛生センター)


在宅労働者の問題は複雑だが、企業はその安全プログラムの策定を検討するべきとき

エリザベス・アンバル

会計検査院は、最近の報告書で在宅労働者をめぐる安全問題への注意を促した。報告書の1年ほど前には、OSHAが企業に自宅で負傷した在宅労働者の責任を問うという意向を撤回したばかりだった。

議会付属の調査機関である会計検査院の推計では、1,650万人の労働者が1カ月に1回以上の在宅勤務をし、930万人の労働者が1週間に1回以上の在宅勤務をしている。この報告書は、下院共和党院内総務ディック・アーミー議員(共和党テキサス州選出)の要請に基づくもので、同議員は会計検査院に、在宅勤務体制(Telecommuting programs)確立の障害となりうる税制、規則、責任上の問題を調査するよう依頼した。

報告書は、事業者と労働者に新たな税負担や、超過勤務と記録保管義務によるコスト増が発生し、また事業者はアメリカ障害者法を順守するために、家屋と事務所の改造費の負担を強いられる可能性があると述べている。

現行のOSHAの方針では、事業者はホームオフィスの安全性に対する責任を負わなくてもよいことになっている。だが事業者は今後、方針が転換されるのではと懸念しているが、現政権下での可能性は低いと思われる。

報告書はその結論で、いくつかの障害は「多数の事業者には影響しないと思われ、また在宅勤務体制を立案する際に解決できる」としている。

報告書は同時に、既存の規則がホームオフィスをめぐる状況に見合うものとなっていない二つの分野を指摘している。一つは州をまたぐ在宅労働者に対する州税の潜在的影響と関連する事務負担、もう一つは、事業者がホームオフィスを抱える際の、安全な職場を提供する責任についての不透明性である。

在宅勤務という選択肢を提供する企業が増えるにつれ、多くの問題が発生することはほぼ間違いない。それらすべてがどのように労働者に影響するかをめぐり、規制を要求する声からプライバシーの権利まで、今後何年にもわたり論議を呼ぶことだろう。

ある在宅労働者の話

エリザベス・ローズは、多くの点で働く母親としての典型的な生活を送っている。育児、家事、ボランティア活動をこなしながら、パートタイマーとしてワシントンで従業員支援プログラムを販売している。といっても、車で毎朝オフィスに通うのではなく、自宅の階段を昇って屋根裏部屋のホームオフィスに出勤する。屋根裏部屋は夏は暑く、冬は寒い。座り心地が悪い椅子に腰掛け、コンピューター用に設計されていないテーブルの上のコンピューターに向かう。まわりをファイルの入ったプラスチック箱が囲む。事務機器はコンピューター、ファクシミリ、電話がすべてで、パワーストリップを介して1つの差込口に接続している。

ローズは、会社と交渉してフルタイムの社内業務をパートタイムの在宅勤務に変更してもらったため、会社は彼女の事務機器を購入したり、在宅勤務の訓練を検討しようとはしなかったと彼女はいう。

「会社は在宅勤務を許可するだけでも十分に寛大だと感じているみたい」とローズはいう。「便宜をはかっているのだから、これ以上わがままを言うべきではない」という態度だった。

だが、フロリダにある全米補償保険評議会(National Council of Compensation Insurers)のボカ・レイトン氏によると、不適切な座り方に起因する反復性疲労傷害による補償支払額は3万ドルにのぼる。火傷、墜落・転落など、在宅での他の負傷も高くつく。雇用関係の弁護士によると、労働者が在宅勤務中に負傷した場合、労災補償は支払われなければならない。その労働者が数週間または数カ月、欠勤したことによるコストも事業者の負担になる。

在宅勤務コンサルタントは、安全衛生管理者は、在宅勤務労働者の安全と衛生を、基本的には業務中の労働者と同じように保護するよう努めるべきだという。だが、これは微妙で複雑な問題である。

安全なホームオフィスのための必須事項

自宅で安全に仕事をするために、労働者は以下を守るべきである。

  • 作業区域を別個に設けること。在宅労働者は「キッチンテーブルやソファで作業すべきではないし、作業場を毎朝セットし、毎夕片付けるために時間を割くべきではない」とジル・ゴードンは書いている。
  • 適切な椅子を使用すること。「調整可能な腰部支持部が付いた適切な椅子を使用することが重要である」とノースカロライナ州立大学産業工学部(ローリー)教授のゲーリー・ミルカ博士は指摘する。博士はデスクより椅子の方が大切だという。
  • キーボードとマウスは肘がほぼ90℃に曲がる位置に置くこと。キーボードが高すぎる場合は作業面より下に置くか、椅子を高くして足台を置く。マウスはキーボードと同じ面に置く。
  • 十分な広さのデスクを使用すること。記憶装置がすぐ脇にあり、適切な高さをもち、コンピューターが安定するよう堅牢なものにする。
  • 作業区域はコンセントや電話の差込口に近い場所を選び、床の上を配線が伸びないようにする。
  • 電気的設定を安全にすること。コンピューター、プリンター、スキャナーを冷蔵庫やCDプレーヤーなどの側に置かない。
  • コンピューターのスクリーンに直射日光が当たらないようにし、モニターは画面最上部が目の高さになるように置く。
  • 区域照明ではなく作業照明を使用すること。デスクが影になるような大型の上部照明を避ける。作業区域を照らすような床照明またはデスク照明にする。
  • 消火器を近くに置き、ホームオフィス内に煙感知機を設置すること。
  • 休憩を必ずとること。「ホームオフィスでは、長時間、立ちあがらずに座りっぱなしになることが多い」とミルカ博士はいう。「3〜4時間も座り続けると脊髄に悪影響が及ぶ。立ちあがり、動きまわることを忘れないように」


モバイル・オフィス

ローズは自宅内の独立したオフィスで在宅労働をしており、古典的な意味での在宅労働者といえる。だが在宅労働者には、考えられるかぎりさまざまな組み合わせ形態がある。新しい技術と勤務形態のおかげで、何百万人の労働者が週1回の在宅労働ができるようになり、休暇中にラップトップ型コンピューターを使って納期に間に合わせたり、夕食後に数時間余計に仕事をするだけの場合もある。備品メーカーは、マガジンラックの2倍程の大きさのコンピューター用デスク、体力回復のためのうたた寝用に設計された椅子、はてはラップトップ型コンピューターが使用できるベッドまで用意している。

また自宅のコンピューターとオフィスのケーブル・モデムとを高速接続するネットワーク技術により、職場への従来型の通勤に問題が生じた人でも、自宅に仕事を持ち帰ることが可能になった。「Summit on the 21st Century Work Force(21世紀の労働力に関するサミット)」(ワシントン)で演説したブッシュ大統領は、新たに補助金と税制面での優遇措置を講じ、障害者が在宅で勤務するための機器を提供する事業者を支援すると発表した。

だが狭いキッチンカウンターにラップトップ型コンピューターを乗せ、地下室に電話線と電力ケーブルを引き込んでいるすべての労働者の、安全と衛生はどうなっているのだろう。ワシントンにある国際テレワーク協会(International Telework Association & Council)によると、推計2,400万人の在宅労働者のうち、約1,650万人は企業の正規雇用になっている。

在宅労働者の安全について、事業者はどのような法的責任を負っているのだろうか。安全衛生管理者は、労働者のプライバシーを侵害することなしに、どの程度ホームオフィスの設立に関する助言と支援を行うべきだろうか。

AT&Tでの在宅勤務の安全性

ジョー・ロイツ氏は、毎日こうした問題と格闘している。ニュージャージーにあるAT&Tの在宅勤務プログラムの責任者として、ロイツ氏は1カ月に1回以上の在宅勤務を行う35,000人の同社労働者を支援している。AT&Tの環境・衛生・安全課に勤務するロイツ氏によると、同社が最初にこのプログラムをはじめたのは1992年で、環境面での目標を強化するためだった。このプログラムは、毎年約5万トンの二酸化炭素と510万ガロンのガソリンを節減しただけでなく、労働者の生産性と在職率を高め、業績を向上させるのに役立った。

昨年のAT&Tの在宅労働者に関する調査で、84%がこのプログラムは労働と家族生活の両立に役だったと考えており、80%が在宅勤務で生産性が上がったと考えていることがわかった。

ロイツ氏は、在宅労働者の安全は社に出勤する労働者と同じように重要であるという。同社には在宅労働者向けの文書方針があり、安全衛生も盛り込まれているが、安全衛生上の手続きのほとんどは本社方針の一環として取り扱われている。

同社は、在宅勤務用の備品と機器の購入の決定を現場の役員に任せている。役員が、労働者のホームオフィスを整えるための椅子、デスクなどの備品が必要だと決定すれば、許容できる製品とスタイルの一覧表から選ぶことができる。

AT&Tの在宅労働者は、在宅勤務用に考案されたウェブサイトにアクセスでき、そのなかには全労働者が利用できる大規模な、ウェブ・ベースのエルゴノミクス訓練用プラットフォームが掲載されている。労働者が会社のエルゴノミクス専門家の支援を得たいと考えれば、自分のホームオフィスの写真を送信して分析してもらうことができる。在宅労働者向けウェブサイトには、孤立感や消耗感など、在宅勤務につきまとう諸問題を扱った文章も掲載されている。だがロイツ氏は、在宅勤務への参加者が増えるにつれ、孤立感は少なくなっているという。

「労働者は、自宅で働いているときの方が幸せそうで、満足度も高く、消耗感などはそれほど深刻ではないようです」と、みずからも5年にわたってフルタイムで在宅勤務をしてきたロイツ氏はいう。「自宅で消耗感にとりつかれる人は、会社のオフィスでも消耗感にとりつかれるのです」

ロイツ氏は同社の方針の完璧さに強い自信がある。そのため、OSHAが2000年1月に評判の悪かった書簡を送付し、各企業は在宅労働者の安全に責任があること、OSHAはホームオフィスの検査を実施する場合があることを示唆した時も、AT&Tは動じなかったという。

「わが社には、この書簡をもらう以前から確固たる方針があり、いまもそれは変わりません。国の政策があれやこれやの形で影響することはありません。通信業界の事故による負傷者統計数は他の産業の半分で、わが社はその通信業界の半分の水準です」

同氏は、AT&Tの在宅労働者は、会社で勤務するのと同じように自宅でも安全だという。

「プログラム開始から、わが社の災害統計にはいかなる種類の上昇もみられません。自宅はきわめて安全な場所です。職場よりも自分のコントロールが及ぶのです」とロイツ氏はいう。


双方にとっての利益

2000年、AT&Tの在宅労働者は以下の利点があると報告した。

仕事と家族生活のバランスを改善する

84%

生産性の向上

80%
会社が社員に配慮していることを示す 78%

会社が最適の人材を維持し、引きつけるのに役立つ

77%
通勤時間を減らして労働者個人のための時間が増える 71%
労働者が信頼されていると感じる 70%


書簡の影響

在宅勤務形態をとる事業者にとって一番厄介なのは、おそらく事業者責任の問題だろう。

ウィンバリー・ローソン(アトランタ)の雇用関係弁護士、ラリー・スタイン氏は、労働安全衛生法はきわめて大まかな記述となっているため、一般責務条項の対象が在宅労働者にも及ぶ可能性があるという。ただし、OSHAがただちに各家庭に検査に入る可能性はきわめて低いという。

まず第1に、ホームオフィスへの検査の可能性を指摘した当初の事業者あて書簡が、ごうごうたる非難を浴びたため、労働省は書簡を撤回した。第2に、ブッシュ大統領が自分の在任中はOSHAによるホームオフィス検査を実施しないと明言した。第3に「OSHAは忙しすぎて、すべての職場の調査は不可能な状態にあり、ホームオフィスにまで手が回りません。人によってはあの書簡を建前とみているのが実状です」とスタイン氏はいう。

とはいえ、OSHAの書簡は無影響ではなかった。

在宅勤務とバーチャルオフィス(virtual office)の事業者向けコンサルタント、ジル・ゴードンは、この書簡の影響で、少なくともエルゴノミクス的に適切な椅子を在宅労働者に提供するよう事業者に勧告するようにしている。同氏によると、椅子を提供したり、ワークステーション全体を提供したり、また事務機器を使用するための費用を支払う事業者もいる。だが多くの事業者は、労働者になにも提供していない。

ゴードン氏は、在宅勤務形態をとる事業者に対し、文書による方針を策定し、そのなかに安全衛生、機器の使用、どんな費用を誰が支払うかなどの項目を記載するよう勧告する。同氏の推計では、文書による方針を策定しているのは、在宅勤務形態をとる企業の3分の1から2分の1である。

OSHA以外に、在宅勤務をめぐる法的問題で安全衛生管理者に関係してくるのが、労災補償問題である。

「15ポンドの書類箱を自分の足の上に落として親指を負傷し、医者に診断してもらったところ、業務関連と判断されたら、それは対象になります」とスタイン氏は指摘する。「在宅でも職場でも、労働者の補償請求に法的な区別はありません。業務関連であれば、それは仕事の一部だという考え方なのです」

ただし同氏によると、事業者による在宅勤務での補償請求の事例はきわめてまれとのことだ。同氏が見聞した事例は非常に少ない。

ゴードン氏も、在宅労働者の労災補償請求が少ないというスタイン氏に同意する。この分野で20年の経験があるが、同氏が聞いた、労災補償請求を行った在宅労働者の数は3人である。

「労働者の負傷への懸念やおそれはよく聞くと思います。だが、おそらく会社のオフィスよりそれは少ないと思います。第1に、仕事の内容自体に危険性がない。第2に、わたしの経験では、すすんでその勤務形態をとった在宅労働者なら、安全な環境を作るために必要なことを教えれば、それを実行するものです。第3の要素は、若干の訓練と予防措置です。これらのすべてが一体となって、負傷のリスクが管理可能な低レベルに保たれるのです」とゴードン氏はいう。

一息いれるということ

ゴードン氏によると、身体的な負傷や法的責任とは別に、在宅勤務は労働者に精神的ストレスを加える場合があることを安全衛生管理者は認識すべきである。ゴードン氏は、その著書『Turn It Off』(ちょっと一息)のなかで、在宅労働者に仕事と家事の区別が曖昧にならないようにする方法を説明している。

「精神的な中断時間をとって、仕事とそれ以外の生活の間に境界線を引くべきかどうかを決定するように勧めています。これが大きな問題なのは、それができなくなったと感じている人が多いからです」とゴードン氏はいう。

最近の調査で、一部の在宅勤務形態が実際にストレスを高めていることが明らかになっている。在宅労働者は、仕事上の電話対応やEメールを読むことに忙殺され、仕事から離れられないという問題を抱えるときがある。また同僚との仲間意識がもてず、ブレーンストームや息抜きの機会もない。

ボストン大学の労働および家族センター(Center for Work & Family)(ボストン)の調査では、在宅労働者の46%が生活に満足またはきわめて満足しているのに対し、在宅以外の労働者は約60%が満足またはきわめて満足していると答えている。また在宅労働者の方が休暇中に働く場合が多いこともわかった。

在宅勤務が現実には家族生活を圧迫し、その利点が相殺されていると感じている労働者がいるため、在宅勤務形態を全廃しようとしている会社もある。

エリザベス・ローズはこうした問題と格闘しているわけだ。彼女はパート勤務だが、実際には自分の「休日」に2〜3時間以上も働く結果になっている。だが二人の子供とすごす時間が多くなるため、彼女にとって在宅勤務は価値あるものになっている。

「在宅勤務をしようという意欲が十分にある人は、なんとか努力するものです。わたしが屋根裏部屋をオフィスにして、離れたい時はそこから離れられるようにしたのも、そのためです」とローズはいう。「すべてをやりくりするのは簡単ではありません。いつも同時に5つの仕事をこなしているようです。でも絶対にギブアップしたくないのです」

記事内容早わかり

在宅勤務の労働者が増え、そうした労働者を抱える企業に安全上の課題をつきつけている。

重要なポイント

  • 事業者と労働者は新たな税負担、超過勤務と記録保管義務によるコスト上昇を強いられ、事業者はアメリカ障害者法を順守するための家屋とオフィスの改造費を負担しなければならない場合がある。
  • 在宅勤務コンサルタントによると、安全衛生管理者は、在宅労働者の安全確保について、会社に出勤する労働者と同じように努力すべきである。
  • 企業は、環境改善のためにも在宅勤務体制を用意している。
  • 企業は、在宅勤務に関する文書方針の策定を検討すべきである。

詳しい情報について

エリザベス・アンバルはワシントンを拠点にするフリーランス・ライター。


訳注)Telecommuting:パソコン、ファクシミリなど情報端末機器を用いた在宅勤務。テレワークともいう。