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2002年の展望

労働者と家族の安全を守るのはわれわれの責任だ

資料出所:National Safety Council (NSC)発行
「Safety & Health」2002年1月号 p28-29
(訳 国際安全衛生センター)


全米安全評議会会長 アラン・C・マクミラン

昨年9月11日のテロ事件発生の前から、私は企業のリーダーたちに従業員の安全衛生をもっと幅広い視点で見るように説いてきた。米国の産業界が労働者の安全衛生を職場だけでなく、職場外でも維持することが大切なのである。

米国産業界はこれまでも労働者の安全向上についての大きな成果を誇りとし、それは十分に証明されてきた。労働者の死亡災害が最も多かった1937年には、産業界での非意図的な傷害による死亡者は、労働者10万人当たり14.5人に達していたが、この率は2000年には1.9人まで下がっている。総数で言えば、1937年の災害死亡者が19,000人であったのに対し、2000年には5,200人まで低下したのである。これはめざましい成果である。

しかし多くの企業経営者は、家庭および地域社会での事故による死亡者が1992年以降に21%も増えていることを私が申し上げると、みな非常に驚かれる。2000年の労働災害による死者が5,200人であるのに対して、家庭や地域社会での事故の死者は52,000人に近く、それに加えて、自動車事故で43,500人が死亡している。これは現在では、労働者は家庭や地域社会にいる時よりも、職場にいる方が18倍も安全だということを意味する。

私が申し上げたいことはもうお分かりであろう。企業のリーダー、そして企業の安全専門家は、企業経営の至上命題として、労働者を職場にいる間だけでなく、常に安全に守る努力をしなければならない、ということである。企業の関心はもはや工場の門まで、または作業時間の終わりまでで終わるものではない。企業はその組織、従業員、家族の安全をより幅広い範囲で考えなければならない。


なぜ配慮が必要か

経営者はなぜ職場外での労働者の安全に配慮しなければならないのか、と疑問に思う人もいるだろう。職場外での安全はこれまで経営者があまり考えたことのない概念である。その必要性を強調するのは、それが人々の苦痛や生命についての人道的な配慮であるのに止まらず、企業経営の損益に大きな影響を及ぼすからである。

事業場を安全化すればコストが低減できる、と安全専門家は指摘している。それと同様に、職場外で従業員やその家族が事故に遭えば、それも会社の経営に打撃となる。労働者が妻や子どものケガについて心配していれば、生産性が落ちる。ケガをしたまたは死亡した従業員の代わりに新規従業員を雇用すれば、訓練などの交替費用がかかる。事故に伴う間接的コストである保険料の上昇も決して小さくはない。

米国の産業界は家庭や地域社会での安全に寄与する必要がある、という主張は耳新しいかも知れないが、すでにそうした努力を始めている企業もある。何人かの上級安全管理者、デラウェア州ウィルミントンにあるデュポン・ダウ・エラストマーズのキャロル・A・パルミオット取締役(グローバル・レスポンシブルケア担当)のように、このことを理解し、是正のための措置を検討している人がいる。全米安全評議会が昨年9月に行った安全大会で、パルミオット氏は会社が支払っている給付金の34%は災害関連であり、業界の調査では災害の間接的コストは直接的コストの1.5倍から2倍に達すると語った。

「当社にとってレスポンシブルケアとは、職場の内外を通じて安全を確保することです」と同取締役は言う。

デュポン・ダウ・エラストマーズ社の職場外安全プログラムには、職場外の災害の定義と対策、改善の機会や災害低減のための勧告の提案、従業員の会合を通じて行う安全教育、防御的運転プログラム、健康、フィットネス、福祉プログラムなどの活動が見られる。

「こうしたメッセージや決意を維持して行くことが大切です。われわれは職場内でも職場外でも、災害は防げると信じています」と同取締役は強調している。


われわれが直面する課題

しかし現在のところ、安全管理についてこのような普遍的なアプローチを取っている企業は少ない。将来において米国の産業界が取る戦略は明らかに、工場や事務所の中で人々を保護している現行の方法とは大きく異なるものになるだろう。

安全専門家は企業の経営陣に協力して、安全について幅広い認識を持つ必要性を十分に理解するようになるだろう。職場外での安全を企業文化の域に高めるプロセスを作り上げるのは、企業経営者の責任であることを、経営者は理解する必要がある。こうした努力はまず「安全優先の企業」(We care)というメッセージから始めるべきである。これはわれわれが一緒になって伝えていくべきメッセージである。

すべての場所で、あらゆる時を通じて、安全確保の措置を取るのは、そう面倒なことではない。まず安全専門家は労働者が作業を離れた時に生じる危険を評価する習慣を付けさせるべきである。もちろん、われわれは職場外での安全を規制することはできない。しかし、人々が事業者は従業員の私的生活に干渉しているという皮肉な見方をし、不信を抱くような時代は終わった。事業者は本当に従業員の安全衛生に、職場でも職場外でも、気を配っているという気持ちを伝えるべきである。

多くの企業が業務関連の安全会議を持っているのと同様に、家庭や交通機関、その他の場所での安全についても、同様の機会を設けた方がよい。こうした会合では、家庭での転倒事故、防御的運転、家庭に共通する危険、火災予防、救急法、心肺蘇生法の訓練、その他多くの問題を取り扱う。

コミュニティの関与も重要である。アトランタで開いたわれわれの安全大会でも、アトランタの企業2社(UPSとリバティ・ミューチュアル保険)が、何件かの高齢者家庭での安全点検を紹介した。両社は別のアトランタ企業、ジョージア・パシフィックの資金援助で、危険要因を取り除く基本的な修理作業を行った。

これらのボランティアの安全専門家は、われわれがコミュニティの中でも、従業員、家族、そしてコミュニティ全体にも手を伸ばすことができる、ということを実証した。


準備体制を整えよう

9月11日のテロ事件、それに続く炭疽菌事件は職場、家庭、コミュニティにおける安全について、準備体制を強化する必要があることを知らせた。私は全米安全評議会の安全大会の基調講演で、最近の悲劇的な事件によって、われわれの仕事は新しい意味を持つようになったと訴えた。安全専門家の任務が変わったのである。

非常事態に対する準備体制が、生活のあらゆる局面で安全衛生上の緊急に必要な条件となった。たとえば、企業でも家庭でも、地域社会で起きる重大な災害で生き延びるには何を知っていなければならないのか。全米安全評議会はそのホームページやホットライン電話を通じて、このような危機の対策を非常事態に対する計画、災害の準備を含めて、企業、住民に知らせる企画を始めている。詳細なチェックリストも掲載されている。このホームページ(http://www.nsc.org/issues/prepare.htm)は新しい情報に対応して定期的に更新されている。

すべての企業、地方自治体、家庭は非常事態の準備体制や対策を持つべきである。ビルの居住者、使用者の安全衛生を保護する責任を持つすべての人々は、優先的に非常事態のための体制を確立すべきである。評議会のホームページには、多くの製品や情報ソース、他の機関へのリンク集が掲載されており、市民や各種の組織が家庭、職場、コミュニティでの非常事態に備えるための支援を提供している。

非常事態の計画を理論上のものに止めてはならない。われわれはみな災害の脅威が現実のものであることを知っている。職場の内外を問わず、準備のためにあらゆる機能を動員しなければならない。われわれの目的は「明日をより安全にするために、今日準備しよう」ということにある。米国内で最善の機関の訓練を受け、装備を持った数万人の安全専門家ほど、この任務を確実に遂行できる人間はいないだろう。われわれにとっては人が負傷した場所は職場の内外は問題ではない。負傷すれば、人の健康と福祉が奪われる。したがって従業員やその家族が被害を受ければ、事業者も会社の営業成績も損失を蒙るのである。

この基本的な価値観、この倫理的で道徳的なコミットメントを、安全専門家であるあなた方はしっかりと受け止めなければならない。