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AEDの衝撃値(ショック・バリュー)
Shock VALUE

資料出所:National Safety Council (NSC)発行
「Safety + Health」2003年3月号 p.28
(仮訳 国際安全衛生センター)


AEDの衝撃値(ショック・バリュー)
OSHAがAED(自動体外式除細動器)の調査に100万ドルの予算を要求

ボブ・バブラ(Bob Vavra)、ジェームズ・G・パーカー(James G. Parker)

 職場で心臓発作が起きた場合、その対応は一刻を争う。AED(automated external defibrillator:自動体外式除細動器)の有無は生死を分けることがあるが、現場にAEDを置いている企業の数はあまりに少なく、AEDの使用法の訓練を受けた従業員となるとさらに数が少ないのが現状である。
 職場の安全にとってAEDは重要な装置であるという危機意識を持つOSHAは、それと同じだけの危機意識を持って、AEDの効果の調査、および救急訓練の総合的ガイドラインの一部としてのAED訓練ガイドライン拡充のために、予算を増やそうとしている。OSHAは、2004会計年度予算のうち、100万ドルを割いて、AEDが職場でどれだけ効果的に使われているかを調べることにしている。この100万ドルは、OSHAが2004会計年度で求めている追加予算1,300万ドルの7.6パーセントにあたる。
 OSHAでは、心肺蘇生法(CPR)訓練に関する勧告にAEDの訓練を追加するため、遵守指令(CPL)2-2.53の拡大も提案している。OSHAはこれを最初のステップとして一連の見直しを拡大していき、AEDの訓練と職場でのAEDの使用にこれまで以上に力を注ぐと考えられる。2月3日に追加予算について発表したジョン・ヘンショーOSHA長官は言う。「OSHAでは、職場でのAEDの使用を企業に推奨する文書を一年前に出した。今回の100万ドルは、AEDが役に立っているかどうか、より多くの企業でAEDが使われるようにするためにOSHAには何ができるかを評価するために使われることになる。OSHAとしては、AEDには十分な見返りがあるという考えをどうしたら広めることができるか検討したい」
 長官は続けてこう述べる。「評価作業の一部として、AEDが適切に配備されているかどうか、すなわち50フィートごとがよいのか、500ヤードごとがよいのかといった点も検討する。AEDが職場でどのように使われているか、どれだけ効果的に使われているかについては、まだまだたくさんの情報を収集する必要がある」
 OSHAがAEDに寄せる関心は、サンディエゴ市での全米安全評議会(NSC)第90回年次会議&展示会で行われたある発表の後に急激に高まった。この会議で、NSCとワシントン州レドモンドにあるメドトロニック・フィジオコントロール社は、公認のAEDオンライン訓練を開発するために、NSCと同社が提携すると発表したのである。テッド・ボレク・ジュニアNSC副会長兼最高経営執行者は言う。「この会議の時にヘンショー長官が私に話しかけてきて、それでNSCがOSHAに出向くことになったのです。これはまさに私たちが先頭を切って取り組まねばならない課題であり、NSCはOSHAが必要としている技術援助を提供する必要があります」
 NSCは2002年11月、より速やかな職場へのAEDの配備、およびAEDの配備に対する支援を行うよう求めた書簡をOSHAに送った。2003年1月、ヘンショー長官は心肺蘇生法(CPR)訓練に関する勧告にAEDの訓練を盛り込むことを確認し、政府施設へのAED配備へ向けた追加のガイドラインを検討していることを明らかにした。
 ヘンショー長官は、1月に送った返事の中で次のように述べた。「OSHAは、救命装置としてのAEDの価値を広く認知してもらうために、各種国内組織との提携を進めるつもりである。OSHAは、貴組織からの支援の申し出を歓迎しており、さらに議論を深めるために今後もNSCと連絡を取り合う」
 ボレク氏は言う。「これはNSCの使命の一部だと考えています。なぜなら職場にAEDをもたらすことがNSCのコミットメント(責任)だからです。NSCはオンラインAED訓練を提供している唯一の組織です。NSCは、この新しい"Safe Solutions"プログラムをすべての顧客に提供するためにメドトロニック社と契約を結びました。メドトロニック社はAEDと処方を提供します。これはAEDが依然、米国食品医薬品局(FDA)の医療用品だからで、NSCはオンライン訓練を提供します」
 このメドトロニック社との提携関係がきっかけとなって、ほかのAEDメーカーとの間でさらにプログラムが展開されることもありうる。ボレク氏は「NSCはこの件について、ほかのあらゆるメーカーと検討を進めるつもりです。NSCの目標は、AEDを職場に取り入れることです」と言う。
 「顧客にとってはワンストップ・ショッピングが可能になります。企業がAEDプログラムを導入するために必要なすべてのものがワンセットになっているからです。これは"国土安全保障"の非常に重要なポイントです。苦しんでいる人を助けることができないことほど、見ていて辛いものはありません」とボレク氏。

記事内容早わかり

 AED(自動体外式除細動器)は、職場にそれが配備され、必要とされる状況が発生した場合には、命を救う役割を果たしてきた。

要点
  • OSHAは、2004年度予算の中から100万ドルを充当して職場におけるAEDの効果を調べる。
  • AEDを最大限に活用するには、さまざまな職種の人が適切な訓練を受けることが不可欠である。
  • AEDプログラムの社内への周知、および地域の救急チームへの伝達は、事が起きた際の緊急時の対応を成功させるための重要なステップである。
詳細については

 AED、訓練、および職場のプログラムの詳細については、以下を参照のこと。


訓練が不可欠

 NSCの訓練に新しく付け加わったオンライン訓練は、従業員と事業者に柔軟性を与える。ボレク氏は言う。「心肺蘇生法(CPR)訓練と救急訓練にオンラインAED訓練が加わったことで、自分が希望するときに訓練を受けることができます。オンラインAED訓練は対話的に行われるので、自分のペースで学習を進めることができます。NSCでは現在、ある調査を行っています。従来の種々の研究では、インターネット・ベースの講義の方が受講生にとってより記憶に残りやすい、という結果が出ていますが、今回の調査はこれを裏付けることになると考えています。講義によって、一人一人が自信を持って装置を手に取り、使うことができるようになります」
 「事業者は、AED訓練を受けさせるために労働者をラインから外すわけにはいかない、と言いますが、オンラインAED訓練によってこうした言い訳は無用になります。訓練を受けるために社員が余計に割いた時間に対してお金を払う企業もあると聞いていますが、NSCではオンライン講義に利用者が費やした時間を追跡することができます。事業者はさらに費用を安く抑えることができるのです」
 「NSCはこれまで、労働災害を減らすという大仕事を成し遂げてきました。NSCは今回のAEDプログラムでも大きなインパクトを与えることができるはずです。NSCがAEDプログラムを家庭にも行き渡らせようとしているのも、そのためです」。こうボレク氏は語る。
 NSCの各種救急医療プログラムで製品マネージャーを務めるアリス・デュモ氏は、次のように補足する。「訓練には3種類あります。教室での訓練、オンサイトでの訓練、それにオンライン訓練です。このうち明らかにオンライン訓練が伸びる傾向にあります。自宅で訓練することができますし、どこまで進んだかを記録しておくことができるので、一度に全部の訓練を済ませる必要もありません」。ただし、オンライン受講生が正式の認定を受けるためには、実技試験センターでAEDの実地訓練を受ける必要がある、とデュモ氏はいう。


発作を起こした人が助かる可能性は、除細動が早ければ早いほど高くなる。
除細動に最適なのは、心停止後3分から5分までである。AEDは、心停止を起
こした人に対する処置方法として安全かつ効果的であり、容易に学習可能である
OSHA技術情報速報

家庭に目を向ける

 AEDの威力を実感できるのは職場だけではない。自宅で心停止が起こった場合にも助かる確率は高くなる。FDA(Food and Drug Administration)は2002年11月、初めて家庭用AEDを認可した。
 NSCは、このFDAによるハートスタート家庭用除細動器の認可について、「パブリック・アクセス除細動(PAD: Public Access Defibrillation)」へ向けた重要な一歩として高く評価した。パブリック・アクセス除細動とは、一般公衆のAED利用の促進を目指す運動である。
 NSCのアラン・C・マクミラン会長兼最高経営責任者は、「現在、煙検知器や一酸化炭素検知器がそうであるように、AEDは将来、家庭や公共の場所ではあたりまえのものになるでしょう」と予言する。AEDの多くは小型で持ち運びも容易であり、操作を逐次指示してくれるようになっている。
 オランダに本社を置くフィリップス・エレクトロニクス社が製造しているハートスタート家庭用除細動器は、ほかのAEDよりも小型で価格を抑えたモデルである。このAEDの購入にあたっては依然として医師の処方が必要だが、フィリップス社ではまず電話とインターネットを通じて製品の販売に努めるとしている。
 これまで、パブリック・アクセス除細動の支持者たちは、首尾よくFDAの認可を取得して、空港や政府施設など公共施設へのAEDの配備を進めてきた。
 職場での心臓発作の発生件数は多い。OSHAによれば、1999年と2000年には報告された職場での死亡6,339件のうち815件は心臓発作によるものだった。米国における主な死因の一つは、突然の心停止である。カリフォルニア州サクラメントのNPO、パブリック・アクセス除細動連盟(Public Access Defibrillation League)によると、2002年には342,000人を超える人が心臓発作で亡くなったという。


AEDの配備で命が救われた例

 ジェフ・ムーアは、ブレニム・ギルボア揚水発電プロジェクトで働く多くの同僚とはまだなじみがなかった。オハイオ州コロンバス出身の契約社員で、ニューヨーク電力公社の電気関係プロジェクトに携わっていたムーアは、現場に着任してまだ一週間しかたっていない2002年10月3日、息切れと胸の痛みを覚えた。数分後、ムーアは心停止を起こした。
 このときすでに、ブレニム・ギルボアの緊急対応チームのメンバーがムーアのかたわらに到着していた。ムーアの心臓が停止したとき、チームはどう対応すればよいか十分に心得ていた。
 AEDの訓練を受けていたチームは、かつては救急隊員だけに可能だった高度な応急処置を施す能力を持っていた。AEDからのショック1回でムーアの心拍は正常なリズムを取り戻し、チームは生き返ったムーアを近くの病院に運ぶことができた。ムーアは一週間後に退院し、コロンバスの自宅に戻った。
 ニューヨーク電力公社のユージン・W・ゼルトマン社長兼最高経営責任者は言う。「ブレニム・ギルボアの緊急対応チームが急病人の発生にみごとに対処できたことを大変喜ばしく思う。チームの迅速な対応、そしてAEDの使い方に関する知識がなければ、結果は違ったものになっていたかもしれない」
 AEDは、職場の安全を守るための補助装置として注目を浴びつつある。AEDの訓練とAEDの職場への配備を進めるプログラムによって、仕事中に心停止を起した人の命が助かる可能性は高まる。OSHAの統計によれば、職場での死者数のうち、心停止を死因とする死者は毎年400人にのぼるという。除細動までの平均経過時間が5分なので、AEDを適切に使えば救命率は40パーセント、すなわち毎年160人の労働者が助かることになる。
 メドトロニック社のダグ・ハカラ・マーケティング担当上級マネージャーは言う。「企業は早くからAEDを採用しました。いつ、誰が、どこで心停止を起こすかをあらかじめ予測することはできません。たしかに、発生の要因やかすかな徴候が認められる場合もありますが、健康そのものにしか見えない人でも心停止を起こす可能性があります」
 ムーアは、NSCが推進する訓練プログラムの恩恵を蒙ることができた。ニューヨーク電力公社の社員3人、すなわちブレニム・ギルボアの安全衛生火災予防管理者デニス・リチャーズ、経営秘書カレン・ヒンクレー、そして緊急対応チームのメンバー1人が、ちょうどNSCのイリノイ州アイタスカ本部のAED訓練から戻ったばかりだったのである。
 リチャーズによると、ムーアが発作に見舞われた後、「救急対応チームのメンバーが発電所建物のムーアのそばに駆け付け、ムーアの容態を監視・評価して、できうる限りの処置を施せるよう待機していた」。AEDを使用し、ムーアの心拍が元に戻った後、緊急対応チームはAEDからムーアの状態に関するフィードバックを得た。
 ヒンクレーは言う。「最初のショックを与えた後、AEDは患者の状態を再分析して、"ショックは不要です"というメッセージを表示しました。続いて"脈をチェックしてください"というメッセージが表示されました。ムーアの心拍が元通りになり、息をしているのを確かめた後、酸素補給を続けていたら、ムーアは徐々に意識を取り戻したのです」

ボブ・バブラ


連邦も後押し

 職場へのAED配備へ向けた動きはこれまで徐々に進んできた。ジョージ・W・ブッシュ大統領は2002年6月、公衆衛生安全保保障バイオテロリズム法(バイオテロ法)に署名した。この法律に一条項として含まれているコミュニティ・アクセス除細動法(Community Access to Defibrillation Act)では、保健社会福祉省に対し、以下に掲げる目的のために州政府および地方政府に2,500万ドルの助成金を与えるよう要求している。
・AEDの購入。
・緊急医療サービスの提供者および一般公衆に対する訓練プログラムの費用負担。
・大企業と中小企業のAED購入、およびこれら企業の従業員のAED訓練の促進を目的とした支援。
 ビル・クリントン大統領が最初の連邦パブリック・アクセス除細動(PAD)法に署名したのは、2000年12月であった。心停止発生時の緊急医療に関する法律(Cardiac Arrest Survival Act)では、保健社会福祉省に対し、全国の連邦ビル、郵便局、およびその他の連邦施設へのAEDの配備を義務付け、しかるべき訓練を受けて除細動器による処置を施す人に対しては責任を問わないという「良きサマリア人」条項を盛り込んだ。
 さらにクリントン大統領は2000年、地方における救命装置の利用に関する法律(Rural Access to Emergency Devices Act)を承認した。この法律では、地方自治体のAED購入およびAED訓練の促進のために、3年間にわたって2,500万ドルの連邦助成金を拠出することが認められた。
 2002年には、保健社会福祉省の保健資源事業局(Health Resources and Services Administration)が、全米48の州および準州の地方自治体に対し、AEDのために1,190万ドルを超える金額を投じた。2001年には連邦航空局(FAA)がパブリック・アクセス除細動推進の動きに加わり、米国のすべての航空会社に対し、2005年までに国内線と国際線のすべての便へのAED配備を義務付けるという最終規則を打ち出した。
 現在、全米50州とコロンビア特別区には、何らかの形でPAD法か「良きサマリア人」法、またはその両方が存在する。これらの州の法律のほとんどは、過去5年の間に制定されたものである。

AED製品
Cardiac Science Inc.
Cintas First Aid & Safety
Medtronic Physio-Control
Medical Research Laboratories Inc.(MRL)
Philips Medical Systems
ZOLL Medical Corp.


安心を見い出す

 テレビドラマなどでよく目にする除細動器が登場する場面、すなわち大きなパドルを手にした熟練医師、緊急治療室の診察台に横たわる患者がショックで身を反らせる場面は、AED訓練の受講者にある固定したイメージを植え付けている。訓練はこうしたイメージを払拭するのに役立つ。デュモ氏は言う。「訓練を受ける前は、多くの人が不安を感じています。しかし訓練は対話的に進められますし、わかりにくいところもありません。装置は使いやすく、何をすればよいかすべて指示してくれます。ボタンを押して患者にショックを与えてしまうのではないかと心配する必要はまったくないのです」
 職場でAEDが攻撃の道具として使われるという俗説は、実際には根拠のない迷信だとメドトロニック社のダグ・ハカラ・マーケティング担当上級マネージャーは言う。「これが迷信だということをはっきりと認識する必要があります。AEDはごくふつうの人が使うように設計されており、ごくふつうの人が使っても安全なように設計されています。AEDでショックを与えることができるのは、ショックを与えてよいというリズムを、装置が検出したときだけです。ボタンを押すだけではショックを与えることはできません」
 職場の安全は、現場の労働者から企業のトップまで、誰にとっても重要な問題になっている。職場の安全は多くの企業において安全文化の不可欠な要素でもあり、こうしたあり方は企業の施設全体からさらに地域へと広がっている。
 AEDに関する啓蒙活動は、官民双方の分野で進められている。OSHAは2001年12月に発行した技術情報速報の中で、シカゴの2つの空港など公共施設におけるAEDの活用例を取り上げた。それによると、プログラム開始から10か月の間にオヘア空港とミッドウェイ空港で起きた心停止14件のうち、AEDで命が助かった例は9件、救命率64パーセントだったという。
 この技術情報速報は次のように結ばれている。「発作を起こした人が助かる可能性は、除細動が早ければ早いほど高くなる。除細動に最適なのは、心停止後3分から5分までである。AEDは、心停止を起こした人に対する処置方法として安全かつ効果的であり、容易に学習可能である」
 AEDの効果的活用をはかるための情報伝達プロセスは、職場の内部だけにとどまるものではない。ハカラ氏は言う。「現場にAEDがあることを緊急医療サービスのスタッフに知らせるのはとても望ましいことです。緊急医療サービスの側では、その施設にAEDがあることを書き留めておくことができるからです。職場で誰かが倒れたら、911に電話することはその場にいる誰でも思いつきます。しかし、たまたま現場に居合わせた人が来客だったらどうでしょう。その人は、その施設にAEDが置いてあることを知らないかもしれません。こうした場合も考えて計画を練って置けば、緊急医療サービスを有効に活用することができるのです」

ボブ・バブラは『Safety + Health』編集長。ジェームズ・G・パーカーは『Every Second Counts』誌副編集長。


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