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調査は語る

−労働者の意識を調査することでギャップに橋をかけられる−

資料出所:National Safety Council (NSC)発行
「Safety+Health」2003年7月号p.42
(仮訳 国際安全衛生センター)



特集早わかり

意識調査は、労働者が安全問題をどのように見ているか、そしてその見方が企業の安全計画とどう整合しているかを測定するのを助けるために利用される。
キーポイント
  • どのようにして、或いはなぜ不安全な職場だという意識が存在するのか誰も分からないときには「安全ギャップ」が存在している。
  • 伝統的に労働者のフィードバックを尊重する企業は、労働者から最良のレスポンスを得る。
  • 企業は組織内の特定の安全の傾向を測定することもできるし、職場の安全に対する全般的な意識を測定することもできる。
  • 調査はテストとなる職場で実施され、通常、正確な測定ができるという価値が確立されてから組織全体に展開される。
詳細情報


 経営者は、時間、金、及び人員を企業の安全プログラムに投資する。ラインの労働者はそのメッセージを受け取り、プログラムに参加するが、実際に安全を「感じて」はいない。安全ギャップとは、どのようにして或いはなぜ、職場が安全でないという意識が存在するのか、誰も分からない場合に形成されるものである。

 そのギャップを埋めるためには橋が必要で、その橋を作るためには青写真が必要である。1つのポピュラーなツールが意識調査であり、これは、労働者が安全をどのように見ているかを測る機会を事業者に与え、またその見方が経営者や監督者のものとずれている点を正確に指摘する。

 Armstrong Building Products社は、昨年、安全に対する努力の焦点合わせを再度行い、企業の安全努力を労働者がどう見ているかを知るために意識調査を利用した。

 「安全を改善することに全体のプロジェクトの焦点を当てた。」とシックスシグマ(Six Sigma)(訳注1)のブラックベルト(訳注2)でペンシルバニア州ランカスタにあるArmstrong Building Products社のDan Barata氏は語る。同社は世界中にある13の工場(うち7つはアメリカにある)で天井内張(ceiling)を製造している。「安全は話としてはあるが、やはり生産が第一だという意識を打破すべく努めている。安全は認識されてはいるが、どこかに断絶があった。企業の最高レベルでは明確だが、労働者まで降りてくる時には問題がある。」

 同氏は付け加える。「我々のビジネスでは、顧客の声を得るよう努力している。このケースではそれは誰だろうと自問すると、明けても暮れても安全をやっているのは労働者であった。我々は、自分たちの立場がよくわかった。」

 ウイスコンシン州ベロイト(Beloit)にあり、食料品の原料を製造するKerry社の安全衛生課長Hank Bongers氏は、次のように語る。「我々はずっと安全を考えてきた。必要なものはすべて持っていた。しかし次の障壁を越えられなかった。」Bongers氏によれば、Kerry社も安全についての労働者の見方の測定をはじめるために、意識調査を使ったとのことである。

 「一番重要なのはコミュニケーションである。労働者が提起した問題を見ると、多くはコミュニケーションに関係がある。彼らは、安全に何が起こっているかを知らないため、何も起こっていないと感じていた。」(Bongers氏)

フィードバックの価値

 意識調査により、事業者は労働者が職場環境をどのように見ているかということを明確につかむことができる。これを使う多くの企業にとって、このプロセスは、労働災害を減らそうとする継続的な努力にプラスするもう一つのツールとなる。

 「労働者のフィードバックを得ることに価値を認めている企業がこの調査を使う。そのための方法はそんなに多くない。」と言うのは、安全意識調査を開発した全米安全評議会の研究統計サービス課長Terry Miller氏である。「企業は意識調査を安全情報の蓄積を増やす方法であると見ている。調査対象には全員が含まれるし、また全員に対して同じことを言う。

 調査に興味を持つのは、測定とメトリクス(metrics)(訳注3)に興味がある事業者である。彼らはメトリクスが価値のあるものだと思っている。彼らは測定を動機付け要因(motivator)として使用する。彼らは、測定されたものは達成されるということを知っているのである。新しい顧客もたくさんあるが、リピーターも多い。彼らは、すでに過去に測定されたものを再調査することの価値を知っているのだ。」 

 ほとんどの企業は段階的に調査を行っていく。「企業はいくつかの場所で試験的プログラムとしてそれを試行することになる。一つの事業部を選ぶこともあるし、地理的な事情で決める場合もある。実情を反映しているかどうかを調べるために、操業がうまくいっている工場と、問題を抱えた工場を選ぶこともできる。」とMiller氏は語る。「ほとんどの場合、問題があることは分かっているのだが、彼らは災害発生率が示すものと同じものを調査情報が見つけるかどうかを知りたいのだ。」

 「我々は、必ずしも発生率が測定するものと同じものを求めて測定するわけではない。発生率が高ければ問題があることがわかるが、なぜ問題があるかはわからない。意識調査はこの疑問に応えるために使われるのだ。逆もまた真で、良い工場ではなにがうまくいっているのかも見つけたいのだ。」(Miller氏)

 労働者の安全に関する見方を測定しようというNSCの努力は10年以上さかのぼる。200セット以上に上る初回調査企業の結果を集合すると、労働者がどのように安全を見ているかのベンチマークが出来る。このベンチマークは、調査に着手する企業にとって比較グループとして役立っている。

 「これを初めて使う企業は、恐らくその安全プログラムを開始したばかりだというのが多いだろう。彼らは継続的な改良プログラムを行っている。調査は1つの具体的な物ではなく、継続的な改良プロセスに結びついている。調査により、スナップ写真のようにその時の正確な姿が、それも我々のデータベースの中にある他の企業との比較という形で分かる。それは、優先事項を設定するために使用できる。」(Miller氏)

始めるには

 調査が初めての企業にとっては、このプロセスは構想段階から完了までいくつかのステップがあるとMiller氏は言う。いったん調査を行う決定がされたら、次は調査の内容に焦点を当てる。「最初に検討すべきは主に2つである。1番目は誰が調査するのか?何人の労働者を調査するか?場所は?どれぐらいの情報量を望むのか?場所ごとに特定の情報を求めるのか?である。我々が提供するものは、調査を個々の顧客に合うように調整することである。我々はその企業の中で使われている言葉に表現を合わせたり、調査を変えたりすることが出来る。」

 調査プロセスを開始しても、Miller氏やそのスタッフとの共同作業が続くこともある。それは、一般的な認識と工場の具体的な問題の両方を得るために質問をその企業に合わせるためである。「標準の質問セットはあるが、特定の質問への回答を得ることも可能である。 特定の質問が必要となるのは、例えば企業が新しい教育プログラムを追加したかもしれないし、彼らが取り組みたい問題部分についてなんらかの感じを持っているかもしれない。労働者の人口統計的な調査を行うこともできる。例えば、どのシフトにいるか、どの部門かなど。」(Miller氏)

 「我々は調査フォームを印刷し、プライバシー保護封筒と調査の管理用ガイドラインと一緒に送る。我々は、グループによる管理を推奨する。なぜなら、労働者に調査表を渡し、それを回収することをコントロールできるからだ。」(Miller氏)

 「重要なことの一つは労働者の参加を得ることである。このことで労働者にとって重要なことは、その意見についてはその論旨は取り入れつつも匿名性を確保することである。我々は秘密保持を重視しており、個々の回答を取り出す方法は全くない。」(Miller氏)

 Bongers氏は、彼の工場も労働者の参加を重視していると言う。「労働者は意見を持っているはずだ。誰もが安全についての意見を持っているはずだ。調査によりそれが明らかになる。調査結果は、我々がもっと注意しなければならない所である。」

 労働者が工場の安全をどう感じているかを言えるような調査であれば、重要な問題がいくつか出てくるのが普通である。「常に最悪の反応を受けるのは、労働者の士気、仕事のストレス、及び離職を扱うものである。一つ我々がした事は過去を振り返って変化を見ることである。労働者参加の問題についてはより前向きな反応がある。企業は労働者参加の重要性を認めている。」(Miller氏)

次に何が起こるか?

 企業は、安全計画とその実行の間のギャップを見つけるために調査を用いる。どこで断絶が起こっているか(トップマネジメントと監督者の間、監督者とライン労働者の間、又は安全は一つの課題であるという一般認識において)を発見することができる。

 Miller氏によれば、最も重要なことは、調査が完了した後に何が起こるかということである。「調査は動機付け要因(motivator)となるだろうが、本当に大事なのは、引き続いて行動計画をつくることだ。ほとんどの企業は正しくやっている。高度の安全プログラムがあるし、戦略と哲学もある。アプローチも他の分野のマネジメントと同じやり方だ。前に調査をしたことがある企業は、結果がどのようなものか知っており、どのように拡大していったらよいかが分かっている。

 それはKerry社とArmstrong社でも同じで、両社とも安全を測定し、さらに再測定するために調査の利用を拡大している。「我々のベロイト工場では件数がだんだん減少するという良い時期があった。従って労働者と指標(barometer)について検討するときは、昔はこうで今はこうだということができる。」とKerry社のBongersは語る。「私の経験では、『最近何をしてくれた?』という質問が非常に多い。何かを変えても1年後には彼らはそれを忘れてしまう。ここからがコミュニケーションの出番である。彼らが提起した問題は他のものも検討を行った。」

 「我々の計画は、1年に1回調査を行い、それをすべての設備に広げることである」と、Armstrong社のBarata氏は付け加える。「それはすばらしいツールであった。我々は、予想より多くのものを得ることができた。」



(訳注1)シックスシグマ(Six Sigma)とは、DMAIC(定義・測定・分析・改善・コントロール)と呼ばれるシステマチックな5つのフェーズから構成される問題解決の方法論をコアとし、リーダーシップのビジョン、フレームワーク、業務改善を達成するためのメトリック(評価指標)ゴールを構築し、プロセス改善、問題解決のためのマネジメントシステムである。

(訳注2)ブラックベルトとは、シックスシグマプロセスにおいて、中心となって変革をになうエージェントである。

(訳注3)メトリクス(評価指標)とは、品質の尺度や測定の基準のことであり、測定の対象を明確にし、測定値の解釈方法および測定結果を作業と関連づけることがメトリクスの確立のためには必要となる。