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最後まであきらめない
Staying the course

資料出所:National Safety Council (NSC)発行
「Safety+Health」2004年12月号p.46-49
(仮訳 国際安全衛生センター)



OSHAのリチャード・フェアファックス局長が、トップテンのデータを振り返りながら、どのようにして職場を安全にするかについて語る。

 「Safety+Health」誌の副編集長キャレン・ガスパース(Karen Gaspers)は先ごろ、OSHA監督局長リチャード・フェアファックス氏(Richard Fairfax, director of OSHA's Directorate of Enforcement Programs)と、今年最も摘発件数が多かった労働安全衛生規則(スタンダード)のトップテン・リストについて話し合った。フェアファックス氏はまた、ニューオリンズで開催された全米安全評議会(National Safety Council: NSC)の第92回年次会議&展示会の「Safety+Health(S+H)」誌後援によるプログラムの中でも、このことについて語っている。氏は、OSHAの監督状況、「Safety+Health」誌のトップテン・リスト、そして企業がOSHAの専門的知識をどのように活用できるかについて語った。

S+H誌:毎年一貫して同じ規則(スタンダード)に対する違反が続いているだけでなく、同じ規則が毎年ほぼ同じ順位を占めているのはなぜか?

リチャード・フェアファックス:規則の中には、OSHAが重点を置いているものもある。リストの第1位と第3位(足場規則<1926.451>及び墜落・転落防止規則<1926.501>)は、重大災害と死亡災害の主原因である墜落・転落防止に関係している。この点は監督官が常に頭においていることで、事実、監督官が事業場を訪問した時に重点を置いている分野の1つである。
 これらの2つの規則については、同じ数、同じ頻度、同じ順位となっていることは驚くには当たらない。というのは、OSHAが常時、重点調査対象としている事項だからである。
リストで第2位の危険・有害性の周知徹底(Hazard Communication = HazCom)規則は、監督官が全ての監督実施時に調査するように指示されている事項である。HazComはこれからも上位を占めるであろうし、これまでも長年ずっとそうだった。
 多くの人々は――私はその中の1人ではない――HazComを書類上だけの規則だと思っている。しかし実際には、化学物質及び健康への有害性、そして自分の身を守る方法に関する全般的な知識、情報及び教育訓練は、労働者にとって大変重要なものである。この規則には、第1位、第2位、第3位あたりの上位を占めてほしい。
 今年も昨年も第4位であるロックアウト/タグアウト規則もまた、戦略的重点プラン(Strategic Emphasis Plans)における重点分野――手足の切断――を再認識させるものである。安全衛生監督を実施する際、我々はこの点について調査する。手足切断の原因をデータで調べてみると、ロックアウト/タグアウト措置の欠落、あるいは機械防護措置の不備の2つが、以前からよく見受けられる主要な原因であることが判った。

S+H誌:上位10項目の多くは、重点対象分野と関係があるということか?

フェアファックス:そうだ。ここで強調したい点は、規則よりもハザードに重点を置いているということである。例えば、リストには多くの呼吸器保護規則の違反が見られる。これは、労働衛生面に目を向けるときにはシリカや鉛に重点を置くからである。OSHAの特定事業場監督計画(Site-Specific Targeting program: SST)は、安全面により重点を置いているが、我々は多くの労働衛生事項も調査対象としている。したがって、呼吸器保護についても調査し、たいていの場合、それが欠如している。つまり、計画(プログラム)が作成されていない、健康診断が実施されていない、呼吸用保護具のフィットテストや適切な教育訓練が実施されていないといった点が挙げられる。
 リストには電気関係の規則違反も含まれるが、これも同様である。感電は墜落・転落に次いで死傷災害の主な原因の1つであり、これがリストにあることは喜ばしいことである。
 その他の項目(1910.219、1910.212、1910.147)はすべて、手足の切断や重大な傷害の原因となるものと結びついている。私は、少年が片方の腕全部を失ったある事例を検証したばかりであるが、これはロックアウト/タグアウト関連の事項であった。建設業では、足場及び墜落・転落防止という2項目が挙げられる。これは、OSHAの建設業での重点項目となっている。たとえ建設現場に総合的なプログラムがあったとしても、OSHAは依然として墜落・転落防止措置について調査をする。

S+H誌:建設業での足場規則違反は、過去3年間ずっと第1位となっている。それ以前は第2位であった。さらに、この規則違反は群を抜いてダントツの1位であり、この3年間、他の規則の追随すら許していない。このことは、OSHAが建設業及び墜落・転落に関する事項を監督重点対象としたことの直接的な結果なのか?

フェアファックス:全くその通りである。全国で調査された全ての死亡災害報告書が私の机を通る。墜落・転落は、我々が監督を実施する死亡災害の主原因となっている。
 さらに、墜落・転落防止は、リスト上で第3位となっている。この両者は関連づけて見なければと思う。全ての建設現場では、5〜6フィート以上の高さでの作業の場合には、足場を使用するだろう。
 この足場に、よく欠陥が見受けられる――足場が安定していない、手すりが無い、労働者が落下する可能性のある不適切な足場板を使用している等。墜落・転落防止については、死亡災害原因となっている墜落・転落は、建物はできたが、建物の内側に墜落・転落防止設備が設置されていないために、労働者が後退した際に、床がない部分から墜落するということがある。あるいは、屋根上で作業している労働者が、墜落・転落防止用命綱を正しく使用していないとか、屋根作業時に採光場所に誰かが置いていた薄い板を、労働者が踏み抜いて墜落するといったことがある。あるいは床上の開口部など、こうした原因が挙げられる。
 私はこのリストの第1位と第3位を組み合わせて考える。というのは、規則という観点ではなく、ハザードとは何かという観点で調べているからである。規則は後からついてくるものである。建設業については、墜落・転落、激突され、倒壊及び感電が主なものである。したがって、データを見るときには、こう自問する。「墜落・転落は死亡災害の主原因だ。墜落・転落防止規則について是正勧告を行っているか」これが電気関係のハザードだとしたら、電気関連の規則で是正勧告を行っているか、という問いになる。ある業界で多くの手足切断や重大な裂傷災害が起こっていることが判った場合、ロックアウト/タグアウト、機械防護その他の関連規則で是正勧告を行っているかを問う。

S+H誌:2003年度に比べて2004年度は、多くの規則について摘発件数の総数が増えている。例えば、危険・有害性の周知徹底(HazCom)、呼吸器保護、産業用動力駆動運搬車の各規則について、前年よりも違反件数が多かった。この数の急増はなぜか?

フェアファックス:それは、きっとOSHAの重点監督システムによるものだろう。我々は毎年その精緻化をめざしている。2003年度と2004年度の全違反件数を見ると、今年は昨年より4,000件以上多い数となっている。両年ともに、我々は37,700件の監督実施計画を立てた。2003年度は、39,000件をわずかに上回る監督を実施した。今年は、最終的な数字はまだわからないが、すでに38,000件を超える監督を実施している。昨年実施した件数を超えるとは思わないが、2004年度の計画は少し上回るだろう。
 我々は、監督が必要な場所に出向いて行こうとしている。労働衛生面に関しては、健康への有害性がありそうな場所――シリカや鉛――を調査している。安全面では、重大災害が発生する恐れのある場所を対象としている。この3〜4年間、重点システムを精緻化する努力を真摯に実行してきた。そして我々が行く必要のない事業場には行かないようにしてきた。
 私は引き続き、違反および重大な違反の発見数が上昇してほしいと考えている。OSHAの重大な違反、故意の違反および繰り返しの違反の率を見ると、毎単年度ごとに1〜2%上昇していることがわかるだろう。私はこの点を、成功とみている。問題は、鉛やシリカといったものについては、成功の度合いを判定するべく削減を期待しているが、高いばく露の職場へと出向いて監督をするため、我々自身のばく露が増加していることである。自分がうまくいっていると思っているときには、実際にはさほどうまくはいっていないものかもしれない。

S+H誌:さらに対象を絞ろうとしている、ということか?

フェアファックス:そうだ。ひとつの重点システムの計画を立てる時にはいつも、それが基づくものが特定事業場監督計画(SST)であろうと、手足切断や掘削作業のハザードに重点を置く国家プログラムであろうと、その他何であろうと、我々は問題が見つかり、ゆえに安全衛生法(OSH Act)の下でのOSHAの義務が果たせそうだと思われる場所へ出向いて監督しようとするのである。安全衛生優良事業場では労働災害発生率及び職業性疾病率が減少しているので、こうした事業場については、パートナーシップ、自主的保護プログラム(Voluntary Protection Program: VPP)等を通じて協力して安全衛生を推進することとしている。我々がOSHAプログラムと重点的監督について正しく推進しているかどうか、監督実施件数と是正勧告されている規則を監視し続けてほしい。

S+H誌:現場の監督実施中、監督官はOSHA重点計画が対象とする違反を調査するよう促されているのか?

フェアファックス:そうだ。監督に出向く前に、監督官はその企業の過去の歴史を調べる。もし以前に監督が行われている場合は、何が発見されたのかを調べる。また、SICコード(Standard Industrial Classifications code)を調べ、その業界では何を調査すべきかを知る。また、労働省統計局(BLS)のデータにより、この産業の平均値、そして監督する企業の最新の数値を調べる。したがって、業種および実施されている作業の内容に基づき、そこで何を調査すべきかを把握した状態で事業場へ立ち入ることができる。
 もし、監督官が手足切断の国家重点プログラムに基づく監督を行う場合は、重点は手足切断のハザードに置かれることになる。したがって監督官は、手足切断のハザードを防止するための機械防護装置、ロックアウト/タグアウト・プログラム等を調査することになる。この場合、重大な傷害あるいは疾病の原因となる可能性のある他のものも当然調査する。
 OSHAの監督官は、安全衛生のハザードを特定する教育訓練を受けている。監督官は規則違反を探すために事業場へ行くわけではない。
 事業者は、もっと監督官をもっと活用して欲しいと思う。企業の安全担当者は、その企業については経験がある。確かに我々よりも会社のことをよく知っている。しかし、監督官は、何百何千という異なる施設を訪れている。監督官は何が役に立って、何が役に立たないかを理解している。したがって、例えば機械をガードするための最良の方法などについて監督官と話し合うことは、規則違反にはならない。もしガードがなければ違反になるだろうが、機械ガード、あるいはロックアウト/タグアウト・プログラムを実行する最良の方法について監督官と話し合いたいと思うならば、ぜひそうしなさい、と私は勧める。
 時々、監督官はそれを勧めることがあるが、事業者はそれが他の是正勧告の原因となりかねないと心配しているようである。

S+H誌:ある規則がトップテンのリストに入っていることで、監督実施中に監督官が何に着目するかが変ってくるのか? 永続的なリストとなるのか。

フェアファックス:そんなことはない。監督官は、以前どのような是正勧告がされたか、そしてこの業種では、どんな種類の違反がよく見られるのかについて調査する。監督官はハザードを見つけるために事業場へ行くのである。監督官は、「さて、また1926.451違反が見つかるかな」などという気持ちで事業場に行くのではない。彼らは次のように言うだろう。「ここが危険です。手すりの無い足場があります。労働者が後退すれば墜落するかもしれません」
 この種の違反が発見され続けているということは(重大なハザードにつながる違反を発見することは喜ばしいことである。というのは、それによって改善がなされるからである)、我々が実施しなければならないことがまだまだあるということである。つまり、安全衛生の分野には、しなければならない仕事がたくさんあるということである。

S+H誌:OSHAは、ジョン・ヘンショー長官のリーダーシップの下、企業や団体と多くの新しいパートナーシップやアライアンス(同盟)を築いてきた。その結果、意識向上とコンプライアンス(法遵守)の向上にどのような効果がもたらされたのか?

フェアファックス:絶大なる効果があった。私は、安全衛生には均衡の取れたアプローチが大切であると信じている。我々は監督権限を持つことが確かに必要である。法の執行は全てを推進することになる。しかし事業者の大多数は適切な対策を実施しようと思っている。事業者は安全衛生に関心を持っている。ただ、それを推進するための知識、情報あるいは人材を持っていないだけなのだ。このような事業者のためにこそ、我々のプログラムは存在するのである。そして、私はこれに相談プログラムを付け加えたい。これらは、事業者を支援するためのプログラムである。
 私はちょうど、自動車業界と話し始めたところである。そこには何万もの小企業が含まれている。彼らから得たメッセージは、次のようなものである。「さあ見て下さい。我々はみな零細企業や自動車修理屋ばかりである。我々には情報も人材もない」そこで私が話しをした時には、法の遵守支援に重点を置いた。もちろん、法の執行や業界に見られる違反の種類についても述べた。と言うのは、事業者たちはそれを知る必要があり、またハザードとは何であるかを知らなければならないからである。
 事業者たちは、遵守支援に非常に関心を示した。驚いたことに、相談プログラムは無料であるにもかかわらず、それを知っている事業者はほとんどいなかった。このことは、小企業の事業者と話した時に幾度となく耳にしたことである。この相談プログラムは、30年の歴史がありながら、まだ人々に知れ渡っていない。あるいは、知っていても、相談の結果、監督されるのではないかと心配しているのである。我々OSHAは、この不安を取り除くために我々にできる最大限の努力をする。

S+H誌:このトップテン・リストが毎年あまり変らないということは、企業がこのリストを見ても動じなくなっているか、あるいは単に、それらのハザードは決して排除できないものだと甘受しつつあるという危惧はないか?

フェアファックス:それはない。業界や企業では、正しいことをしようとしている人々は、リストを見たら、職場に持ち帰ってどの点を改善できるかを調べるように努力している。
 最近おこなった自動車業界との話し合いでは、主催者が後日、自動車業界における違反の上位10項目の内訳はSICコードのどの部分に該当するのかについて教えてほしいと問い合せてきた。その主催者によると、多数の企業から各自の業界における上位10項目について知りたいという積極的なフィードバックがあったとのことである。事業者たちは、それを各事業場へ持ち帰り、自ら調査をしたいということだった。

S+H誌:OSHAでは将来、違反に別の方法で対処する予定があるか?

フェアファックス:OSHAは常に、我々の行動を評価・測定する最良の方法を模索し、改善する道を探し求めている。たとえば今年の初め、我々は利害関係者を訪問し、特定事業場監督計画(SST)の下でのOSHAの重点的監督状況について意見を求めた。そして多数のコメントを得た。重要であると思われるコメントがあった場合、それに基づいて重点システムに変更を加えることになるだろう。我々は、全ての計画に対してこのようにしている。