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一人きりの安全専門家
あなた一人しか安全専門家がいないとき、どのように安全問題に上手に取り組むのか。

FLYING SOLO A department of one
When you're the lone safety professional, how do you ensure success?

(共同編集者:キャレン・ガスパース)

資料出所:National Safety Council (NSC)発行
「Safety+Health」2005年2月号p.34
(仮訳 国際安全衛生センター)



  ジム ヒルストロムはほとんど毎日、太陽が地平線から姿をあらわす前にぶらりと仕事に顔を出す。夜勤の場合は掃除を行い、昼勤の場合はランチをかき込む。彼は自分の持ち時間を、ロッカー室にぶらりと行って、同僚に調子はどうかと尋ねるだけである。ほとんどの場合、人々は彼とフットボールの話をする。パッカーズとベアーズの話だ。そして彼は現場で何が起きていて、何か変わったことがないかを聞く。彼は2,3度このようにして過ごす場合もある。
  ヒルストロムはただのおしゃべり好きの愛想のいい男ではなく、始業時間を遅らせようとしている労働者ではない。彼は150名の従業員の安全問題に直面しており、自分の仕事をしているのである。
  ヒルストロムは、ウィスコンシン州のメノモニー フォールズにあるグレンロイ(株)(Grenroy Inc.)の環境安全衛生マネージャとして企業の安全対策部署にいる。彼をサポートするスタッフはいない。手伝いのパートタイマーもいない。処理しなくてはならない書類や規則遵守問題や安全対策プログラムは山積みである。しかし、細かいところの見落しは、金銭的な罰や書類の追加、または人命にもかかわることとなることもある。
  彼の置かれている状況は特別なことではない。多くの企業は安全対策へのサポートをつけないし、投資も行おうとしない。よって、システムをうまく動かすためには、ヒルストロムのような人々はいろいろ頭を働かさなくてはならないのである。
  ヒルストロムは様々な形のものの包装を行う業者であるグレンロイにおよそ一年半勤めている。彼は自分の仕事をうまくやることは簡単なことではないと認めている。彼は自分にとってもっとも大きな挑戦は、“様々な種類のすすめていかなくてはならないプログラム全てに手をまわすこと”だったと述べている。
  しかし、彼の仕事にもっとも有効であったのは、優れたコミュニケーションと組織の存在である。ヒルストロムが毎朝現場にいって、昼勤の労働者と夜勤の労働者の両方と必ず話をするようにしている理由の一つはこれである。こうすることによって、彼は労働者達のことがよくわかるようになるのだ。
 「彼らと一緒に時間を過ごすことがコミュニケーションの一部だと考えている。やらなくてはいけないことがたくさんない限り、オフィスにこもるのは好きではない。10回話をしたうちの9回は安全とは無関係の話をしている。彼らは自分たちが伝えたいことを話してくる。私はただ彼らに話しかけて彼らとつながりをもち、自分が彼らのためにそこにいることを知らせるだけだ。」
  ヒルストロムは、労働者と仲良くなって彼らの信頼を得ることに勤務をはじめた最初の1年間を費やした。グレンロイの労働者達は、平均して12年間勤務しており、新参者にとやかく言われることを好まないと彼は述べている。そのかわり彼は、自分たちの労働環境をより安全にするためにはどうすればいいか労働者に意見を聞き、その提案に沿って行動をとることで仕事をうまくやっていると言う。
  ヒルストロムによると、優れたコミュニケーションは労働者側からの提案や参加を生みだす。これはヒルストロムにとってありがたい。「仲間が労働の当事者としての立場から安全問題にとりくみ、参加してくれるほど、事故やけが、疾患を減らして安全な仕事場を確保できる可能性が高まる。」このようになれば、安全問題は担当者だけの問題ではなく、労働者全員の問題となる。
  ヒルストロムにとって2つ目の悩みの種となるのは、安全対策プログラムと日課の作業を、組織立った形で維持していくことだ。彼は自分はもともときちんとしているほうで、様々な大きさのプロジェクトを軌道にのせるために、リストや行事予定表、チェックリストを作成していると言っている。例を挙げると、彼は巻き取り式の行事予定表を作って、施設規模のトレーニングから、部署規模の会議に至るまで、対応しなくてはならない安全問題のトピックのリストを月ごとにリストアップしている。「こうしておけば、来月何の準備をして置けばいいのかが一目でわかる。」とヒルストロムは述べている。
  ヒルストロムは特定のプロジェクトに対しては、3ヶ月、6ヶ月、9ヶ月、12ヶ月単位の目標をたてている。現在彼は、改訂されたアーク閃光の標準であるNFPA 70 Eと統合できるような新しい電気系統の安全プログラムを提供しようと働いている。「これは保護具(PPE)の変更、標準と実施についての訓練、職場に出入りする外部の請負業者の管理、このプロジェクトへの莫大な予算の管理等を含む多角的なプロジェクトである。私はこのプロジェクトを管理して、目的が達成されているかどうか確認するが、私のまわりには、このような大きなプロジェクトの重要な部分を扱う、賢くて経験豊富な人々がいます。」とヒルストロムはいう。
  ヒルストロムは、管理なしでは自分の仕事を達成することは不可能であることを認めている。「各部門のマネージャー達には本当にお世話になった。彼らは平均すると18年から19年間この仕事に携わっている。私が“こんなことが必要だ”と言うと、彼らは“じゃあこうすればいい”と言ってくれる。私達はお互いを導きあっている。私達は共に行動する。
  一人しか勤務していない安全屋さん、とは言うけれど、私がその唯一の人間であると言うのはおかしな話である。なぜなら、ここでは全員が安全問題に携わっているからだ。」
 
最善を尽くそう

  もしもあなたがたった一人の部署に入れられたら、自分の最善を尽くすしかないと述べるのは、労働安全ソリューション(株)(Workplace Safety Solutions Inc.)社長のリー マルシェソルトである。マルシェソルトはグリーン マウンテン電力会社(Green Mountain Power Corp.)というバーモント州コルチェスターに基盤を置く195名の社員を抱える会社に24年間勤めており、そのうち9年間は、唯一の安全対策問題担当者であった。彼は最初はラインで働く労働者として仕事を初め、それから経営陣が安全対策担当に彼を昇進させた。だから、彼は初めに何をしていいのかわからなかった。
  安全対策担当は、特にこの職場で、何をしたらいいのだろうか?仕事をはじめて1ヶ月たったあと、マルシェソルトはバーモント州のOSHAプログラムのディレクターに電話をかけ、その人と会った。彼は「自分がしたいと思っていることが正しいということを、率先して示せばいいだけだ。」といった。
  この方法をとったことでOSHAとの関係は良好になり、マルシェソルトはEPAや他の機関に対しても同じアプローチをとった。
  「何でも話し合える関係を結んで自分が助けを必要としていることを知らせることが大事である。彼らはあなたが必要としているどんな情報でも与えてくれ、将来規則遵守の監察で違反を見つけたときでもあなたへの当たりはすこしやさしくなると考えられる。」
  マルシェソルトは次第に会社をOSHAのSHARPプログラムに導入できるようになった。彼によるとSHARPとは、「偉大なもので、あなたが規則遵守にいたる手助けをしてくれるものだ。」しかし、注意しなくてはならないのは「問題解決のためには予算を組むことが必要であり、途中で見つかった違反は全て改正しなくてはならないということである。」
  マルシェソルトは友人や安全問題関連の組織とのネットワークを作った。「あなたがもし一人で仕事をしているのであれば、ネットワークを作ることは大変重要になってくる。」と彼は言う。彼はバーモント州で地元の安全衛生支部に関わり、NSCの図書館を広範囲に活用し、安全リストサーブに登録している。彼は「キーボードの一叩きですぐに膨大な量の情報が利用できるようになる。」と述べている。
  マルシェソルトは唯一の安全問題担当者ではあるが、企業内のいくつかの領域から自分のサポートをしてくれる人をリクルートしている。彼の取っている方法の一つとして、安全委員会を設立して、それを利用することがあげられる。委員会のメンバーは「安全問題を特定し、問題点の訂正し、すべての事故の根本原因を調べるように導くことができる。」と彼は指摘する。
  マルシェソルトは職務の委任も多く行っている。「自分でできることには限りがある。そのことを認めてスーパーバイザーやマネージャーに仕事を負担してもらうことが重要である。あなたはプログラム全体を見渡しているべきだけれど、それを実行するのは他の人の役目でいいのだ。」と彼は言っている。
  この点に関しては、労働者参加が重要であると彼は付け加えた。「安全問題担当者がたった一人しかいない場合、成功するためには労働者が効果的な安全プログラムにおいて役割を果たしていくことがとても大切なのである。」
  そして、一日の終わりには少し自分をリラックスさせることも大事だ。「どんなに優れていたとしても、全ての規定や法規に100%従うことはできない。あなたがしなくてはいけないことは、最善を尽くし、職場が安全であることを確認することなのである。」と彼はアドバイスしている。

ゼロからのスタート

  ロバート ワトソンは自らの体験に基づいて、正しい条件下であれば安全問題をうまく一人で担当できると述べている。そのために必要なのは、少量の労働力、限定された範囲のサービス、そして上から下、つまり第一線で働くスーパーバイザーから労働者に浸透している精力的な安全文化である。
  ワトソンはDLA 欧州の支援体制の安全専門家であるが、自分とは独立して働くもう一人の担当者と共に、2,000名以上の労働者を抱える56の現場を監視している。DLAはアメリカ国防省の一部で、DLA欧州とはそのヨーロッパ支部のことであり、その地域の経営ロジスティックと契約業務が彼の担当だ。ワトソンは1年半ほどDLAに勤務しているが、米空軍のインダストリアル・ハイジニストとして20年の経験を積んでいる。そこで彼は二つの基地が閉鎖する間ほとんど一人で働いていたのだ。
  もし安全対策プログラムについて話し合う人がいなかったり、機能不全となっている体制を任されてしまったりしたときには、ワトソンのアドバイスとしては、規則を守ることを前もって強調しておくことである。そのような場合には、「もっともひどいハザードにまず注目して、それを除去することである。そしてあなたが特定した全てのハザードに優先順位をつけて除去する計画を策定する。」また、身近なところにあるハザードを無視してもいけないと彼は付け加えている。そのようなハザードは多くの急を要する修繕が要求されるからだ。「経理屋はこのように改善されたハザードの数ばかり数えて、ハザードの重大さが軽視されてしまう場合もある。」
  自分の行動をしっかりと振り返ることも大切だとワトソンは述べている。人々は変化を好まず、あなたのことを部外者か敵だとみなすこともある。自分の改善業務を振り返ることは彼らを説得する確かなデータとなる。少なくとも、月に一回は経営陣のトップに災害対策がどのくらいすすんでいるかを報告した方がよい。これによって「企業文化が変わっていく過程においてあなたの価値を見せつけることができる。」とワトソンは述べている。四半期ごとに組織の全員にむかって進行状態の報告も行っておくとよい。その際、自分の仕事をもっとも良く手伝ってくれたスーパーバイザー達のことを必ず強調しておくことが大事だ。
  次に、事業者の言葉で話すことを学ぶことも必要だとワトソンは述べている。「みんなが使っている言葉であれば、“あれ”と呼んでおけばよい。」安全問題を説教してはならない。「行動を変えさせることは、時間のかかることである。意味のあるキャンペーンを実施して自覚を高めることに集中するべきである。」と彼は言う。
  ワトソンは喫煙者に禁煙を促すことを例としてあげている。もしあなたが喫煙者にむかって喫煙の害悪や禁煙者の権利についての会話をぶつけると、ほとんどの場合にあなたは将来自分の説教のせいで敬遠されることになるだろう。その代わり、喫煙エリアや喫煙習慣を議論するといった内容のふさわしいフォーラムや企業の支援を受けた禁煙プログラムにむしろ関心を払った方が良い。
  最後に、いつ戦いを挑むべきかを知っておくことだ。「安全文化について共感的である管理層にアメフットのエンド アラウンド法を適用することのほうが、二枚舌を使って言い逃れをする中間層の人々に対応するよりもよっぽど生産的である。もしも誰かが明らかにあなたのプロジェクトの妨害をしているのであれば、客観的なデータを用いて権力のある経営陣のトップに働きかけて、人事異動を行ってもらいなさい。これは醜い事態を引き起こすかもしれないが、何人かの古参者が動かされることが鍵となって、全組織に波紋が広がり、安全対策が重要な問題であることが全員にはっきりとわかるようになる。
  ワトソンによると、突き放す場面を知っておかなくてはいけない場合もある。場所によってはまだ変化する準備ができていないところもあるからだ。「安全対策担当が一人しかいない職場で、残業を許されず、あるとしてもほんのわずかの管理層の賛同しか得られず、それでいて2,000人強のブルーカラー労働者の安全に責任をもたなくてはならないという恐ろしい話を見聞きしたことがある。これでは労働者も経営陣も安全対策担当者もうまくできるわけがない。こんなプログラムの戦略は初めから頓挫する運命にある。管理する時間が非常に少なく、それでいてサービスを提供しなくてはいけない対象者は多すぎ、限られた経営陣のトップへアクセスする人は限られており、全体として人材が不足しているからである。」
  この分野で見られる特徴的な兆候として、一人の人が短時間で全てのことを改善することができるという考えのもとで、安全専門家を雇って規則遵守に対応している企業があるとワトソンは指摘している。このシナリオでは、安全対策担当者は期待に添った働きをすることは困難なので、経営陣が望むほど物事がはやく動いていかない場合には新しいアシスタントを探す。再監督で大きな違反がなければ、経営陣はお金を無駄にしないために古参者を解雇するのだ。新しい担当者は一人でプログラムを維持させようと努力するが、通常失敗する。そして、規則遵守監督官が再び現れるまで、プログラムは後退の一途をたどるのだ。
  「こんなものは安全のマネージメントではない。これはダメージコントロールである。このような会社はあなたの安全対策担当者としての評判を著しく損なってしまうので、避けたほうがよい。」とワトソンは警告している。

法規制の遵守のための“サバイバルキット

  多くの規制に従おうとすることはどんなマネージャーにとっても難しいことだ。それが一人きりの部署である場合は言うまでもない、と述べるのは、コロラド州イングルウッドのコムカースト社西地区の安全部長である、レイ レールである。
  これをうまくいかせる方法としてレールはまず、OSHAからDOT、州の規制から地方自治体の条例に至るまで、企業にあてはまる規制がどれかを見極めることを薦めている。一度この分類が終わってしまえば、規則遵守を得るための手助けとなる以下のようなオプションが多数存在する。
  経営陣トップのサポート:トップの関与を勝ち取るためには、企業が何に従うべきか、そのためにはどんな犠牲が必要か、どのくらい時間がかかり、どのようにすれば実現できるかを正確に理解しておく必要がある。
  安全文化:安全が大事だと考え、人的資源や上位の経営陣に働きかけて、安全衛生の目標を設定できるような管理職を見つけることからはじめるとよい。
  規制の場での友人:当地監督機関の人々との関係を育むことが大切だ。提案としては2つ考えられる。一つは自分のプログラムを見せるためのミーティングを開くこと、そしてもう一つは内部の安全対策のミーティングに彼らを招いて話をしてもらうことである。
  情報の供給源:ここには監督機関(もしその方がいいのであれば、匿名で呼ぶと良い)、出版物、安全対策の組織、コンサルタント、プロの産業団体、他の業者や納入業者が含まれている。「尋ねることを恐れてはいけない。手伝ってもらえる人には手伝いを頼みなさい。輪を広げていくのだ。」
  弁護士:法規制の遵守を専門とする弁護士は、困ったときの助けとなるだけでなく、複雑な法令の解釈の助けともなるとレールは述べている。たとえば、新しい法律が発布されたとき、弁護士がいればどの法律が自分の仕事にあてはまって、どうすれば規則が守られるようになるかを教えてもらえる。
  他人の失敗からの学習:他人の失敗からの学習するツールは出版物や安全協会で入手できるとレールは述べている。
  目標設定:長期的な目標は規則が守られるようになることだが、そのために何をすればよいのかも知っておく必要がある。目標を例示することは、規制問題を特定し、規制遵守にかかる費用と時間を明らかにし、また具体的に介入していくことにつながる。
  評価プロセス:測定可能で連続的に評価を行っていけるような、特定の基準を開発することが必要である。これは自分ですることもできるし、コンサルタントを雇うこともできるし、外部の安全対策の担当者に見てもらうこともできるとレールは述べている。
  「あなたは自己満足にひたりたくはないであろう。修正すればいいという“メンテナンスモード”で考えてはいけない。」と彼は言っている。