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建設現場の火災防止計画
火災から建築現場を守るために積極的な計画が必要とされている

BLUEPRINT FOR SAFETY
AGGRESSIVE PLANS NEEDED TO DEFEND CONSTRUCTION SITES AGAINST FIRE

(共同編集者:ジェームズ・G・パーカー)

資料出所:National Safety Council (NSC)発行
「Safety+Health」2005年2月号p.40
(仮訳 国際安全衛生センター)



  建設業では、火災が非常に恐れられている。建築現場の火災は、何ヶ月もかかった重労働を煙と共に台無しにしてしまうし、そこで働いている労働者や消火責任を負う消防士にとって、非常に危険であるからだ。
  建築現場での火災がもたらす経済的な損失額は、驚くべき大きさである。合衆国消防部(USFA)の報告によると、1996年から1998年の間に4,800件の建築現場火災が発生した。火災での死者は10名、負傷者は30名であったが、資産の損失額は3,500万ドルであった。この金額には火災による工事の遅れで生じたコストは含まれていない。
  2002年10月にカリフォルニア州サンホセで発生した建築現場の火災は、約9,000万ドルの損失を生んだ。建築現場からの出火で11回の出動警報が発せられたこの火災は、近隣住宅に飛び火した。USFAのテクニカルリポートによると、建築現場への出火に対しては119名の消防士と31組の消防車(消防器具)が出動し、その後、102名の消防士と34組の消防車(消防器具)が類焼を消し止めるために追加で出動した。
  火災は、建設中の建物のほうが、はやく広がるようだ。イリノイ州ラグランジの消防署次席のデビット ラップは以下のように述べている。「床、壁、天井に穴があいている場合、火災の広がる可能性は非常に高まる。工事の完了した乾式の天井や壁が、防火規格に合格していて、きちんと機能していれば、しばらく火を食い止められる。しかし、天井や壁がなければ、火災はどんどん広がってしまうのである。」

火災防止への取り組み

  しかし、火災が発生しなければ、それが広がることもない。建設・改修・解体工事のプロジェクトには、積極的な防火計画が必要不可欠である。
  建築現場における防火対策は、工事着工前に計画段階で始めるべきだと主張するのは、米国内務省開拓局安全衛生担当官リンダ ローリーである。「火災に対する最善の対処法は、火災発生を防止する計画をすすめることである。これには計画の立案、現場の評価、信頼できる有能な作業員との契約などが含まれている。」
  建築現場で作業する人間は全員火災防止のトレーニングを受けなくてはならないとローリーは主張する。全作業員の火災対策レベルが同程度に達している必要があるのだ。マサチューセッツ州クインシーに拠点を置く米国防火協会の上級火災エンジニアであるグレッグ ヘリングトンも彼女と同意見だ。「管理側の態度によっては、労働者に火災対策について知らせるだけでもずいぶん違う。もし責任者にとって火災対策が優先事項であるなら、労働者にとってもそれは重要事項となる。しかし、もし火災対策が責任者にとって単なる補足に過ぎないものであれば、毎日現場で働く人たちもそれをほとんど気にかけないだろうと考えてもおかしくないのである。」
  建築現場における火災対策は、単なる補足であってはならない。USFAの調査がその理由を物語っている。それによると、火災の原因として多いのは、不注意である。火の元となるもので多いのは、マッチ、ガス切断器、焚き火(焼却炉、ごみ焼却、不要品焼却)と煙草である。喫煙具を適切な方法で捨てたり、発熱器具の使用にあたって適切な防火対策をとればで、全体の30%を占めているこれらの火災を、かなり防ぐことができるのだ。

最重要課題としての安全

  建築現場における火災の原因としてもっとも多いのは、放火である。建築現場の火災のうち、41%が放火によるものではないかと考えられている。請負業者はこのことを考慮して、自分たちの火災対策プランに優れたセキュリティを組み込むことを考えたほうがよい。
先程登場したヘリングトンは、屋根ふきの作業がトーチを使用する工程を含んでいるため、火災の大きな原因となっているとも述べている。「正しい方法で行わなかったり、自分がしていることについて自覚がない場合には、この工程は非常に深刻な災害をもたらす危険がある。」
ローリーはその他に含めるべき項目として、火災発生と負傷者について消防署に通報する手順、非常事態発生の通報と避難、人員の配置転換、高温作業管理、整理整頓、危険物取扱い、防火帯を挙げている。ローリーによると、防火帯とは、火の延焼を防ぐためのもので、瓦礫や植生のない見通しの良い通路で、建築物から10フィート離れているものを指す。
ラップは、建築現場に働く人たちに、自分たちの現場にあるダンプスター(大型ごみ容器)は、火災の原因になる場合があるので、注意したほうがよいと述べている。「正しい方法で捨てられなかった吸い殻類から、自然発火するアマニ油で汚染されたものまで、ダンプスターに何が捨てられているかには、絶えず気を配っていなくてはいけない。」
防火対策を立案している請負業者は、NFPA規格241を参照するとよいだろう。これは、建築会社が最も有効な防火対策をとれるよう指針を示したもので、火災抑制システムや万一火災が発生した場合の脱出方法などが含まれている。OSHAは建築現場における防火を規定する特別の規格である29 CFR 1926を作成している。ローリーは、29 CFR 1926は特に重要であり、一般産業規格29 CFR 1910の一部もあてはまると述べている。

危険物取り扱いへの十分な注意

  これらの基準のそれぞれは危険物の保管、種類確認、管理を扱っている。ほとんどの建築現場には、燃えやすかったり爆発する危険のある物質が多く存在する。ラップは以下のように述べている。「建築現場には液化石油ガス(LPG)が大量にあるし、発電機を動かすためのガソリンや数種類の清掃のための溶剤もある。」ローリーとヘリングトンはこれに加えて酸素、ガス切断に使用する酸素、アセチレンなどの高圧ガス、天然ガス、仕上げ剤、シンナーを挙げている。ヘリングトンは、建築現場に存在する危険物の数は実質的には“無限”だと述べている。
  もし火災が発生したときに危険物が正しく保管、種類確認されていない場合には、その結果は悲惨なものとなる。例を一つ挙げてみよう。1988年にミズーリ州カンザスで発生した建築現場の火災では、2つのトレーラーが爆発して、6名の消防士が死亡した。トレーラーには、爆発性のある50,000ポンドの硝酸アンモニウムと燃料油の混合物やアルミニウムのペレットを積んでいたが、何の印もプラカードもつけられていなかった。USFAの出した事故のテクニカルレポートによると、消防士のうちの5名はトレーラーの中に何が入っているか知らなかった可能性がある。2回の爆発によって、現場には直径100フィート、深さ8フィートのクレーターができてしまった。

リスクにさらされる消防士たち

  カンザスで起きた6名の消防士の死は、安全問題の重要事項を強調している。それは、危険物であったとしても、そうでなかったとしても、建築現場における火災は消防士たちにとって非常に危険だということだ。USFAによると、これらの火災における一般市民の負傷者の数は少ないが、消防士が負傷する危険性は高い。そして、建築現場の火災で負傷した消防士は、完成している建造物と比べて瓦礫などにぶつかる可能性が2倍といわれている。
  NFPAのヘリングトンは以下のように述べている。「もしも私が建築現場の火災を消そうとしているのであれば、まちがいなく普段より注意するであろう。建築現場の火災では、完成した建造物の火災では起きないような災害が起こるのである。たとえば建築現場では、通路がどこでおわってしまうのかがわからない。」
  ラップは、未完成の床からの墜落・転落は、深刻な災害だと主張する。「現在建設がどのくらい進んでいるかによって、壁や床、天井には穴があいているはずである。そこに消防士が落ちてしまうという状況が多く発生している。消防士たちは煙のせいで穴が見えないのである。」と彼は述べている。
  ローリーは、消防署と建設会社にとってもっとも重要な火災への対策は、お互いの防火対策をまとめて、オープンなコミュニケーションを確保しておくことだと言う。「地元の消防署との協力が最善の方法である。彼らには工事が行われる時間、作業の種類、現場にある危険物の種類と保管方法を知らせておくのがよい。」
  ラップは、前もっての防火計画作成が、建築現場での資産損失と負傷者を減らすためのカギであると述べている。もしも人手が許せば、消防署は前もって現場に人を派遣し、どのような危険が潜んでいるかを見ておくべきである。建築物の中に作業者がいるかを、消防士に知らせる方法を確立しておくことも大事である。これがあれば、消防署は鎮火する方法を決めやすくなる。
  「建物の状態にかかわらず、自分の命を危険にさらしても他人を救出しようとしない消防士はいないであろう。けれども、もし現場に人がおらず、誰かの生命が危険にさらされていないことがわかっている場合には、隊員を怪我させたり死なせる危険のある現場に送り込まずに、防衛的に鎮火を行うであろう。」ラップのいう“防衛的”な鎮火とは、建造物に入らずに、外から水や消化剤をかけることをさす。
  ヘリングトン、ローリー、ラップは皆、充分な数の火災監視員が果たす役割の重要性を強調している。火災監視員とは、火災が発生していないか監視する人間で、少なくとも現場に1名、24時間配置することが望ましい。火災監視員がいることで消防署はすぐに火災を知ることができ、資産や生命の損失は最小限にとどめられる。消防士が現場に到着したら、火災監視員は建造物の中に誰がいるか、どんな危険物が保管されているかなどの重要情報を消防士に伝えることができる。現場に人を置くことで、放火を思いとどめさせることもできるかもしれない。

OSHA標準火災予防策指令


  建築現場における火災予防に関するOSHAのキースタンダードは 29 CFR 1926である。
  この基準によれば、“雇用者には建築、修理、改修、解体の段階すべてにおいて、火災予防対策を開発、維持させる責任がある。また、これに関してサブパート Fで定めている火災防止、抑制装置を使用可能にしておく責任もある。火災が発生した場合に必要な道具が手に入るのが遅くなってはならない。”基準のサブパート F は火災防止、抑止に必要な特定事項を含んでいる。
  基準で定められた事項の中で強調されていることは以下の通りである。

  • 水の供給:事業者は、火災の危険を回避するのに充分な量を現場ですぐに利用できるように、水を確保しなくてはならない。
  • 消火器:建築現場では、3,000平方フィートごとに少なくとも2Aの評価を受けた消火器を設置しなくてはならない。5ガロン以上の可燃性液体か5ポンド以上の可燃性ガスが使用されている場合は、50フィートごとに最低10Bの評定を受けた消火器を設置しなくてはならない。
  • 凍結:凍結の恐れがある水入りドラム缶や消火器は、凍結しないようにしなくてはならない。
  • 火の遮断:防火壁や非常階段の設置は、建築にあたって最優先課題とすべきである。また、使用可能になると同時に、通路には自動閉鎖装置を吊り下げるべきである。
  • 臨時の建造物:外へ出る際の邪魔になるようなところに臨時の建造物を建ててはならない。
  • 可燃性液体の保管:可燃性液体の保管は、認可の下りているコンテナか運搬用タンクのみで保管または輸送しなくてはならない。認可の下りた保管庫内でなければ、出しておける可燃性液体は25ガロンまでである。建造物の外のコンテナの保管の上限は、それがどのようなかたちであったとしても、1,100ガロンである。コンテナ群では、200フィートごとに、広さ12フィートの通路をつくって火災器具が接近できるようにしなくてはならない。

基準の完全なコピーがほしい場合は、www.osha.govを参照