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静電気対策(Shock Treatment)
− 目に見えない静電気の危害防止−

マーキサン・ネイソー編集員

資料出所:National Safety Council (NSC)発行
「Safety+Health」2005年5月号p.38
(仮訳 国際安全衛生センター)



  洗濯物を乾燥機から取り出す時にパチパチと音がしたり、子供が頭で風船をこすって髪の毛を立たせているのを見るのは、静電気の効果を目撃しているのである。日常生活においては、このような事例は害が無いようである。しかし、多くの作業現場においては、静電気は極めて危険なものである。隠れたハザードとして、しばしば記述される静電気は、思いがけなく、制御盤等の電子構成部品を破壊し、労働者に傷害を負わせる原因となり得るものである。
  又、ペンシルベニア州フォード市のネーチュア・ブレンド社(Nature's Blend Co.)で最近発生した火災のような大災害あるいは爆発は静電気が引き金となったものである。消防士が現場に到着した時、おが屑のホッパー開口部から、巨大な火の玉が噴出した。この炎により、消防士1人が火傷を負い、他の消防士も退避を余儀なくされた。
  エド・ウェゲルランド(ニューヨーク州ローマ市にある静電気放電協会(Electrostatic Discharge Association)の理事長)によると、静電気放電(Electrostatic Discharge)(ESD)は異なる電位を持つある身体部分とその他の身体部分との間の電荷の移動として定義されているとのことである。2つの物体が接触し、離れる時にはいつも、負の電荷を帯びた電子が1つの物体の表面から他の物体の表面へと移動する。
  “例えば、床を通る人は、靴底が床に接触し、床面から離れる時に、静電気を発生する。”と彼は話す。“ESDは反対に帯電した物体に、帯電した物あるいは人が接触したり、接近したりする時には必ず発生する。”
  大方の静電気帯電は、自然に大気中に放出され、あるいは、地上の何かと接触することにより消散する。しかし多くの事例では、帯電は蓄積される可能性がある。グラハム・タイヤー(ニュージャージー州レークウッドに本社のある、静電気防止工具製造会社及びその技術を持つニューソン・ゲール社(Newson Gale)の社長)は、帯電は大変高い静電気レベルまで蓄積される可能性があると話す。“実際上の問題は、物体あるいは、まさに人が帯電され始め、地面から絶縁される----おそらくは、それはじゅうたんあるいは絶縁されている床、自身の履物によって----時に、発生する。”
  ウェゲルランドが強調するのは、ESD現象はいつでも起こり得るということである。しかし、多くの低いレベルの放電は検出されないままであるということである。“人間は3,000ボルトより低いESD現象は感じないが、3,000ボルトよりも大きなESD現象は認識できる。人々は常にパチパチという音を聞く。暗い所では、一筋の閃光が目に見える。もしかなり大きな衝撃を突然感じたとすると身体的な影響を受けたこともあり得る。 その時には、体ははね返されて倒れてしまう場合もある。
  “それは、皆さんが、閉塞空間あるいは移動している物体や稼動している機械があるような場所で作業している場合には、危ないこととなる可能性がある。それこそが問題である。”とタイヤーは付け加えた。
  大変大きなESD現象---80,000ボルトよりずっと大きいもの---は、極めて危険である。そのような火花は、人々を床に叩きつけ、重大な傷害の原因ともなり得る。これらの高いESD電圧は、高速ウェブプロセッシング機器(high-speed web processing equipment)の内部及びその周辺によく見受けられるとウェゲルランドは言う。
  労働者が溶剤、石油、ガス、砂糖、小麦粉、チョコレート・パウダー及びその他の潜在的に可燃性の物質を取り扱う作業場所も又、重大なESDのハザードに直面する。可燃性の大気中では、大きな静電気火花が大惨事の原因となり得る。多くの作業場所での火災、爆発及び傷害は、蒸気、ガス又は粉じんが静電気火花によって着火して発生している。“可燃性の大気中で大きな問題となる1つには、タンクローリーへの充填あるいは積み下ろし作業場所がある。”とタイヤーは語る。“皆さんが、液状の溶剤あるいは石油製品を取り扱っているとする。これらの製品が高速度で移送される時、静電気は一度にまとまって発生する。もしタンクローリーが適切に接地されていなかったとしたら、静電気量は大変高いレベルになってしまう。これは、普通可燃性ガス等を着火させるのに十分なエネルギーである。従って、タンクローリーを接地することは、大変重要なことである。”
  タイヤーは又、次のように話した。静電気現象は、車にガソリンを入れる時にも発生する。車に座ったままガソリンを入れているのは、普段よく見受けられる光景である。布のシートに触れることは、静電気を帯電することになり得る。“車から降りて、車のタンクに燃料を供給するホースに触れる。そこでは、実に多くの可燃性蒸気が出ている。その場所で、静電気火花が発生し、毎年、色々な重大災害が発生している。このような事は日常茶飯事である。ガソリンスタンドにはテレビカメラが備え付けられているので、このような災害はよく報告されている。つまり、そこでは、災害等が発生した場合の状況が、よくテープに映されているのである。”と彼は語った。

電位ゼロ

  職場におけるESD対策の第一は、電荷が蓄積しないように機器等を接地し、そこに連結することである。“物体に何らかの導線を取り付けるとか、連結するといったことにより、物体が確実に大地電位になっているようにすることで、電荷の無い状態にすることである。一般的な製造工場にあるこれらの機器としては、コンベヤや乾燥機が挙げられる。全ての金属部品類は一緒に連結され、確証された大地電位に何れかで戻るような結合になるのである。”とタイヤーは語る。
  接地及び連結は又、人体にとっても必要なことである。
“例えば皆さんが、電子関係の工場で働いていて、精密な電子部品を取り扱っている場合を考えてみましょう。IC回路あるいはチップでは、ほんの数ボルトの電位で実際に大きなダメージを与える原因となり得る。そこでこれらの人々は、時計バンドのようにリストに取り付けられた小さなストラップをつけて作業台で作業している。こうすることで電位ゼロになっているのである。このことで必ず、作業者が高い電荷レベルを絶対に蓄積しないようにしている。”とタイヤーは話す。
  彼によると、全ての労働者、特に動き回る労働者がリストストラップを使用することは実用的ではないとも言っている。代わりに、このような作業者は、静電気を放電する靴を着用することで、自分自身を接地することができる。彼は、“このことで、自分の体、足、靴を通じて、接地することで、電荷を安全に放電することができる。”とも言っている。
  ある種の装置類は、接地及び連結によって対策をとることができない。例えばプラスチック類…テフロン、ナイロン及び塩化ビニル…のような絶縁材料は、接地している時でも、その表面に静電気を帯電することがある。絶縁された材料の静電気をコントロールするのには、電荷を中性化する別の方法がある。この方法としては、静電気を除去する棒や大気イオナイザーにより、負のイオンあるいは正のイオンで帯域を一杯にして、電荷を減少するという方法がある。この方法は普通、コンベヤ、印刷機及びウエットプレス機のように高速で動く機器装置に使用されている。
  電荷を最小限にする別の方法としては、材料の移動速度を適切な低速度以内にするということがある。もしも皆さんが大変早い速度で低い伝導体の溶剤を移動している場合には、実質的に多量の静電気を形成し続けているのである。しかし、もし皆さんがわずかでも速度を低くすることができれば、形成する静電気の量を大幅に減らすことが可能になる。

チームによる対策

  適切な接地方法と連結技術、個人用保護具(PPE)及び移動速度コントロールに加え、静電気放電が起きやすい場合は、ESDコーディネーター及びESDチームを設けることを考えるべきである。“多くの企業のESD対策としては、問題とその解決方法が色々あり、様々の部門や供給者にまで及ぶため、特にチームによることが適切である。”とウェゲランドは言う。
  “このチームには、ラインの従業員、部門の長、管理者層及び技術部門、製造部門、サービス部門、品質管理部門及び教育訓練部門の各分野からの代表者が入らなければならない。このことにより、確実に多くの視点及び専門知識が活用され効果的になる。”とウェゲランドはいう。
  ESDプログラムコーディネーターは、プログラムを開発し、予算を見積もり、管理する責任を有する。又このコーディネーターは、全ての職場に対して、企業内のESDコンサルタントの役割も果たすものである。
  コーディネーター及びチームが活動を始めるときには、まず、ESD現象が起こりやすい分野を特定しなければならない。
  全米電気基準によると、この分野は適切に分類し、標示することが要求されている。ESDチームは、安全警告サインが標示され、企業が各分野で静電気問題に対処する可能なあらゆる対策が確実に実施されるようにしなければならない。“もし企業あるいは組織が夫々の責任に前向きに取り組むならば問題は解決するだろう。”とタイヤーは語る。
  重要なことは、特に可燃性物質を取り扱っている従業員の間で、ESDチームが静電気ハザードの認識を高めることにある。

<参考>

静電気発生の例−一般的な電圧レベル
発生の方法
相対湿度10〜25%

 

 

相対湿度65〜90%
カーペットを通る  
35,000V
 
1,500V
ビニルタイルを通る  
12,000V
 
250V
ベンチに座っている労働者  
6,000V
 
100V
ベンチから持ち上げられたポリ袋  
20,000V
 
1,200V
ウレタンフォーム製の椅子  
18,000V
 
1,500V

出典:静電気放電協会(Electrostatic Discharge Association)(2005)

技術の見直し

  よく文献に静電気放電の危険性が出ているにも関らず、むしろ多くの作業場所では、静電気に関連するハザードを認識していないようである。その理由としては、単純に経費節約、時間節約のためである。ESDチームを立ち上げたり、接地技術を実施したりすることは、財政面での難しさ、人材の不足、あるいはこの両方から、常に容易なことではない。利益追求の企業としては、無視したり、あるいは認識の欠如として、しらばくれたりすることもある。“静電気は複雑な現象である。”とタイヤーは認めている。“皆さんはこの問題に対応している様々な人々を見るでしょう。時には安全専門家であったり、時には電気エンジニアであったり、時には生産管理者であったりする。つまり、ことさら“この問題に取組むのはあなた役目である”という根拠も何もないのである。私が思うには、多分に、静電気は魔法のようなものとして見られているのかもしれない。”
  ウェゲランドもタイヤーも同意しているように、静電気放電は自然現象であって、止めることはできないものである。しかし、適切な技術及びコミュニケーションにより、静電気を蓄積しないようにコントロールすることは可能である。“皆さんはいつも考えなければならない。皆さんは工場、使用している機器、加工している材料及びそこで働いている人々に関る問題について考える必要がある。”とタイヤーは述べた。