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ハリケーン・カトリーナ問題 - 米政府に大きな波紋

資料出所:Safety+Health
November 2005

(仮訳 国際安全衛生センター)



ハリケーン・カトリーナは、他のどんな問題も霞ませるほどの大規模な爪痕を残し、現在も米国政府に大きな波紋を巻き起こしている。

8月末にルイジアナ、ミシシッピー、アラバマ各州の湾岸を襲った巨大なハリケーン・カトリーナと、その3週間後、テキサス州とふたたびルイジアナ州に大きな被害を及ぼしたハリケーン・リタは、職業上の安全衛生や災害対応準備の統括・監督責任者を含め、実質的にすべての連邦政府関係機関と政府議会委員会に大きな衝撃を与えた。

とりわけ政府観測筋が目を見張った出来事は、政府が初動の失策の後に示したカトリーナ対応策に見せた意気込みやその対応範囲と、カトリーナへの対応策以外の問題を当面の政治課題から外した手法についてであった。

ハリケーン・カトリーナ対策として、連邦議会は政府緊急基金からおよそ620億ドルを拠出した。また、これとは別にさらに数10億ドルの資金がハリケーン・リタ対策に必要であると試算した。

もうひとつ、ハリケーン・カトリーナの問題で印象的であるのは、現地の災害対策職員が、確認した被災規模の大きさに茫然としているという事実である。ミシシッピーで9月20日に行われた建物残骸の処理に関する記者会見で、米国陸軍工兵隊(the Army Corps of Engineers)・建物残骸処理担当官ケビン・ジャスパーは今回の残骸処理は、1992年8月フロリダに上陸した勢力カテゴリー5のハリケーン・アンドリューによる損害に比べても「前代未聞の」厳しい作業だと指摘した。

ジャスパーは、同陸軍工兵隊がミシシッピーの14の郡から一日に回収する建物残骸は約15万立方メートル(20万立方ヤード)にのぼり、回収作業を終了するまでの残骸総回収量は訳1,800万立方メートル(2,300立方ヤード)にもなることが見込まれると語った。

「地面に散在している残骸の量を考えると、膨大な事業だ。我々が着手した取り組みは空前の作業ということができる」とジャスパーはコメントした。

 

国家応急対応計画の発動

OSHA、および米国疾病管理予防センター(US Centers for Disease Control and Prevention CDC)の下部組織である米国国立労働安全衛生研究所(NIOSH)は、連邦組織の一部として、国家緊急時対応計画(National Response Plan)の発動の際に、ハリケーン・カトリーナの災害現場に対する支援活動を続けてきた。緊急事態における連邦政府の対応活動の調整を目的とする国家緊急時対応計画は2004年12月に正式採用され、国土安全保障省(Department of Homeland Security)が統括している。

同対応計画におけるOSHAの調整役としての仕事は、建造物残骸除去作業、建造物解体作業、その他の作業中の業者に、安全面での助言・支援・方針の支持を与えることである。一方、NIOSHとCDCの役割は、調査に重点が置かれている。

OSHAの役割は、同対応計画の「作業者の安全衛生支援の付属書類(Worker Safety and Health Support Annex)」に細かい規定があるが、そこではOSHAの職員は、参謀職員(the command staff)が要求する安全面の役割を調整・実施するとされている。連邦緊急事態マネジメント庁(FEMA)は9月11日に、同付属書類に基づきOSHAの職責を発動させた。同対応計画では、OSHAの役割を天災と人災における、作業者安全の主要なマネジメント部門として細かく規定しているが、このような役割は2001年9月11日の同時多発テロ時の対応に際して明確に規定されていなかった。

OSHAは、CDCの上部組織である米国保健福祉省(Department of Health and Human Services)と緊密に協力して現地調査を実施し、作業者の安全衛生問題に対処するとともに、環境保護局(EPA)、国土安全保障省、国防総省、エネルギー省とも協力する任務を課されている。

FEMAが国家応急対応計画を発動するまでに長い期間を要したという批判もあるが、現在では多くの場面で活動計画は実行に移されている。

 

被災現場では

カトリーナに被災した湾岸地域にはOSHAの職員78名が米労働省から派遣され、”必要とされるだけの期間”滞在すると、同省長官エレン・チャオ(Elaine Chao)は9月13日に語った。9月23日、同所長は、ハリケーン・リタへの対応として別のOSHA職員を追加で配置すると発表した。OSHA財務・技術・医療担当部長ルース・マッカリー(Ruth McCully)はOSHAは650名以上の処理要員に対し安全勧告を与え、英語・スペイン語で記載した概況報告書を4,800以上配布していると語った。

OSHAは、郡ごと、あるいは、ほぼ現場ごとに安全計画を見直しているとマッカリーは9月20日の記者会見で語った。マッカリーは「現在私たちが問題視している最大のハザードは道路での建物残骸処理にかかわるものである。わたしたちは、道路での作業区域の安全に留意している。残骸が道路をふさいでいるが、わたしたちは作業者の安全作業を確保し、残儀除去作業者が確実に認識されるようにしたい」とコメントし、さらにOSHAはチェーンソーの安全使用や、作業者向けの適正な個人保護具の評価と推奨をも重要視している、と補足した。

死亡者を出す災害、緊迫の危険に対する申し立て、単独事故で3人以上の作業者が傷害を被る重大な災害などに対応するための作業現場における基準と規制をOSHAにより適用すると労働省報道官アル・ベルスキーは語っている。これまでには、OSHAによる基準の適用が差し控えられたことはないとベルスキーは補足している。

OSHA次官ジョナサン・L・スネアはOSHA職員の配置は、OSHA国家緊急時間マネジメント計画(National Emergency Management Plan)に従った最優先事項であると語っている。OSHA国家緊急時マネジメント計画では、危機局面でのOSHAによる対応活動のための体系化したマネジメント計画と体制を規定している。国土安全保障省は国家応急時対応計画に基づき、ハリケーン・カトリーナを国家重大事案(Incident of National Significance)に指定した。

CDCとNIOSHはハリケーンの被害を受けた地域で活動も続けており、健康にかかわる不測の問題は引き続き起きていないと9月21日に発表した。CDCは被災地域に公衆衛生、職業、検査、医療、疫学、衛生設備、環境衛生、疾病サーベイランス、広報、健康に関するリスクコミュニケーションのそれぞれの専門家を含めた健康関連の専門職を161名配置した、とコメントしている。

連邦議会では、安全衛生にかかわる連邦諸官庁を監視する上院健康教育労働年金委員会(Senate Health , Education , Labor and Pensions Committee)がハリケーン・カトリーナの被災者に対する、雇用・職業訓練支援対策に適用する法案を提出した。委員長マイク・エンジ上院議員(選挙区 R-WY)(Sen.Mike Enzi , R-WY , committee chairman)は、同支援策によりハリケーンの被害で失職した労働者は救済され、「職場に復帰し、自分の生活と地域とのつながりを立て直すだろう」と語っている。

さらに、同委員会はハリケーンのために転居した児童・生徒たちを支援するための法案も提出した。人々の生活向上支援委員会(Helping to Enhance the Livelihood of People , HELP Committee)報道官クレイグ・オルフィールドは、作業場所の安全にかかわるカトリーナ法案は、HELP委員会が提出する必要はなさそうだと語った。

 

重要な政府行事も霞ませた大災害

ハリケーン・カトリーナの影響で、9月は連邦政府にとり多忙を極めた異例の月となった。

さてOSHAと鉱山安全保健局(Mine Safety and Health Administration)の新長官として、エドウィン・G・フォーク・Jr(Edwin G. Foulke Jr.)とリチャード・スティックラー(Richard Stickler)がブッシュ大統領から任命されたが、新長官の発表は事実上見過ごされてしまった。皮肉なことに、ニューオリンズの被災者が気がかりな映像が大量に全米で放映された9月1日にワシントンのユニオンステーションで国土安全保障省は、重要なイベントである全米緊急時対応月間(National Preparedness Month)が始まったことを宣言していたのである。

国土安全保障省長官マイケル・シェルトフ(Michael Chertoff)は、同月間を共催する米赤十字社代表ボニー・マッケルビーン・ハンター(Bonnie McElveen-Hunter)と、災害に備えるために米国市民が”簡単な方策”を講じる必要があることについて語った。ハリケーン・カトリーナは、災害に備えるためには市民と政府の双方が方策を講じるべきことを明確に示した。