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天然ガスの漏えいによる爆発災害の防止

資料出所:Safety+Health
December 2005

(仮訳 国際安全衛生センター)


天然ガスは、多くの職場で機器の運転や水を加温するために使用されている。天然ガスの使用が適切に行われ、すべての設備が正常に作動し、配管の損傷がない場合においては、一般に安全である。しかし、この中の一つでも欠陥が生じた場合には、恐ろしい事態が生じることとなる。

一例として、ガス業界のベテランで、イリノイ州安全評議会会長リック・ヴルピッタは、インディアナ州のガス会社勤務時代の逸話を次のように語っている。

「インディアナ州サウスベンド市のある工事作業班が道路の補修をしていた際、誤って重機でガス管を引き抜いてしまった。このガス管は近くの邸宅につながっていたため、その邸宅内にはたちまちのうちにガスが充満しはじめた。ガスには、一定の圧力がかかっているが、この事例では、圧力が大変高かったために邸宅全体が揺れているのがわかった。また地面も弱い地震でも起きているかのように揺れていた。作業員からの連絡を受けた地域のガス会社は、ただちに最寄りのサービスカーで、監督者1名と訓練中の新人職員1名を派遣した。現場に到着するなり、彼らは地面が揺れているのをみて、邸宅からの避難を最優先した。監督者が正面玄関ドアをノックし、若手職員は裏に回った。その家の住人は88歳の老婦人で、玄関ドアにたどり着くまでしばらく時間がかかった。老婦人がドアを開けた瞬間、その家の電話が鳴り、電話器の内部に発生した火花でガスに引火したため家は爆破され、ガス会社員2名は負傷し、老婦人は亡くなった。」 

この特別な災害はたまたま居住地区で起きたのだが、商業地区やその他の地区の建物であっても、同様の災害はガスが漏えいしたときに起る可能性がある。この災害では、亡くなった老婦人や危険に脅かされた近隣の人々に加え、道路で作業中の作業員、ガス会社の職員、また現場で対応にあたった消防士など多くの作業者が危険にさらされた。

ヴルピッタによれば、このサウスベンド市での爆発と同様に、ガス漏えいの原因の大半は、掘削作業であるという。多くの場合、ガス管の位置が適切に表示されていなかったり、想定よりも浅い位置にガス管が埋設されていたりしたことが原因となっている。

しかし、ガス漏えいがあれば必ず足下の地面が揺れるというわけではない。ガスが漏えいしていることを示す兆候が、かすかで捉えにくい場合もある。作業時であれ、地域で活動している時であれ、事業者も従業員も、ともに潜在的なガス漏えいを見極める方法を知っている必要がある。

バージニア州シャーロッツヴィル市の公共事業局によれば、屋外で作業する際には以下の点に警戒すべきである。

  • 泥や水が空中に吹き上がっている
  • よどんだ水から泡の発生が続いている
  • 緑地の植物が斑点状に茶色に変色している。湿った地面が部分的に乾燥している。
  • 大きく唸るような音やシューッという高音がする

屋内でガス漏れを感知するための最善策は、鼻で臭いをかぐことである。天然ガスは無臭であるが、万一ガス漏れが起きた場合にすぐに分かるようにするため、ガス会社は臭いを有する化学物質を天然ガスに添加している。硫黄や腐った卵などの特異な臭いを感じたら、ガス漏れしている可能性があるため、迅速に避難する必要がある。そして地域のガス会社と消防署に連絡する。

ガス会社と第一発見者が協力する

ガス漏れを感知した場合は、ガス会社と消防署のそれぞれがリスクを減らし、問題に対処するために各自の重要な役割を果たすことになる。

ガス漏れの修復に最初の責任を有するのはガス会社の職員である。消防士は通常現場に最初に駆けつけるが、市民や車両をガス漏れ現場に近寄らせず、引火の原因を取り除くことに全力を尽くす必要がある。

ミネソタ州セントクラウド市で多くの死傷者を出したガス爆発に関して、全国運輸安全委員会が調査した2000年度のガス管災害報告書では、次のように報告されている。「ガス漏れ災害の第一対応者はすべて、ガス漏れハザードに効率的に対応する準備ができていなければならない。天然ガス漏れの危機へのタイムリーで効率的な対応により、人命を救助することができる」

同委員会は、1998年10月にシカゴの高層ビルが火の塊と化した原因は、漏れたガスに着火したものであったとしている。この場合には、消防署が迅速に現場から避難させたため、負傷者はひとりも出なかった。

消防士が自分たち自身や一般市民を保護するために知っておくべき天然ガスの扱いに関する専門の技術・知識は、ガス会社が所有している。ガスやガスに伴うハザードを消防士に教育する努力が多くのガス会社で行われている。ヴルピッタは、「ガス会社の職員は、夜間や、すべての職員がいるときを狙って自衛消防団や専門消防隊を訪問する。また新入者がいればその消防隊を継続的に再教育している」と語った。

天然ガスの扱いについては、所有する技術ノウハウによって大きな差ができる。たとえば、消防隊が現場に到着した際にガスが実際に燃え上がっていても、ガス会社がガス管の元栓を閉めるまでは、消火を行ってはならない。ヴルピッタは、「この理由は、燃焼させることにより、現場からガスを拡散させないためである。燃焼させないとガスはどこにまで広がり、何が起こるかわからない。ガスは空気より重いので低い位置に移動する。ガス漏れが丘の上で起きれば、ガスは丘から近隣に降りていき、風に乗って広まる可能性がある」と語った。

全国運輸安全委員会が調査したミネソタ州セントクラウド市でのガス爆発では、ガスは、漏れたガス管から近隣の多くの建物の地下に移動して引火し、甚大な致命的爆発の原因となった。

最初の対応者はガス会社に迅速に連絡しなければならない。ガス管のガスを止めるノウハウは、ガス会社が有しているからである。消防士は、市民をその場に近寄らせず、引火源をすべて除くことに専念しなければならない。

ガス漏れに対応するガス会社職員は、難燃性の防護服、フェースシールド付きのヘルメットまたは安全帽を着用する必要があるとヴルピッタは語っている。

災害防止に重点を置く

大半の事業者は、自社の施設外でその従業員がガス管を引き抜かぬよう予防する対策を講じることは難しいが、万一ガス漏れが発生した場合に、事物の損傷や人員の傷害を最小限に抑える措置を講じることはできる。すべての事業者は、ガス漏れの際の手順を含めた緊急避難計画を整備しておき、これらの計画をその従業員に確実に知らせておく必要がある。作業中にガス臭を感じた場合、何をすべきかを従業員が確実に知っておく必要がある。

建設工事、掘削工事、この種の掘削にかかわる仕事は、作業開始前にガス管敷設を担当する機関に連絡をする必要がある。ヴルピッタによれば、大半のガス会社では、ガス管敷設作業は経費がかさむため自ら行わず、専門業者に委託しているという。

OSHA掘削規則(29 CFR 1926.651)では、労働者を保護し、地下埋設物への不測の損傷を防止する目的の特定掘削要件を規定している。同要件には、掘削作業を行う前に地下埋設物の埋設場所を確定することと、地域で定められた、または地域での慣例による回答期間内にガス会社、埋設物の所有者に連絡をとることが規定されている。

ガス会社や埋設物所有者が24時間以内に地下埋設物の位置特定の要請に回答できない場合、または埋設物の正確な埋設場所を特定できない場合は、掘削をする事業者は基準に従い掘削を始めることができる。また掘削事業者は、所在する州の関連基準や法令も知っておかねばならない。

電力会社のアライアント・エナジー社(本社:ウィスコンシン州マディソン)によれば、企業は、天然ガスの危機を防止するために安全・保守・緊急計画に以下の事項を含めるべきである。

  • ガス設備の設置は必ず専門業者に任せること。
  • あらゆる天然ガス設備・機器は、少なくとも年1度は専門業者に点検させること。このようにして、ガス設備・機器がつねに安全に最高性能を発揮するようにする。
  • ガス設備の設置場所付近に箱、紙類、その他の物を積み重ねないこと。パイロット灯の適正燃焼には、十分な酸素を供給する必要がある。
  • 塗料、紙類、エアゾールスプレーやその他の可燃物はガス設備から50フィート(約15メートル)以上離すこと。
  • あらゆる通気口の囲い、パイプ類、煙道が適切な状態であることを確認すること。
  • ガス管やガスメーターに、道具類、その他の物を吊り下げないこと。
  • 天然ガス器具の周囲では安全に作業するよう従業員を教育すること。長袖、タオル類、鍋つかみ類を裸火に決して近づけさせないこと。
  • すべての公共区域と作業区域に、デジタル式の一酸化炭素検知器を設置すること。
  • 所有する天然ガス設備が古い場合、ガスバルブと設備の接続コネクタを専門業者に点検させること。メタル製のフレキシブルコネクタ、特に、被覆していない黄銅製のコネクタは時間経過に伴い脆弱化や亀裂が生じ、ガス漏れする危険がある。
  • パイロット炎は頻繁に点検すること。炎の80%以上が青色である必要がある。黄色い部分が多い炎は、燃焼時に十分な酸素が供給されていないので、迅速に点検・修理する必要がある。