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事故原因の調査(第2部)

資料出所:The Royal Society for The Prevention of Accidents(ROSPA)発行
「OS&H」|2001年8月号 p.8−10
(訳 国際安全衛生センター)


事故原因調査に関する2番目の記事で、ロバート・マクマードが事故原因調査自体に焦点を当てる。

事故原因調査

事実の収集

事故原因調査の手順は単純である。事故原因調査担当者は、情報を収集し、分析し、結論を導き出し、勧告を作成する。手順は簡単だが、それぞれの段階に落とし穴がある。すでに述べたとおり、事故原因調査では公明正大な態度が必要である。先入観は調査を誤った方向に導きかねず、また重要な事実を見落とす場合がある。可能性のあるあらゆる原因を検討すべきである。考えが浮かぶたびにノートをとるのはよい方法だが、すべての情報を収集するまで結論を出すのは控えるべきである。

負傷した労働者

もっとも重要な緊急の作業は、作業を正常化し、負傷者を治療し、負傷者の増加防止を最優先することである。事実の収集作業も、これらの活動を妨げてはならない。これらすべての状況を制御できるようになってはじめて、調査担当者は任務に着手してよい。

負傷者がいる場合、第1の仕事はその人数と氏名を確認することである。負傷の内容と程度がなお不明な場合があるため、救急措置の担当者を確認し、診断や治療が必要な負傷者を連れていくべき場所も確認する。

以上を完了したうえで、調査への参加を要請された関係者は、以下を指針として事実発見に努めることができる。

物理的証拠

情報収集を進める前に、現場を観察して概要を把握し、証拠保全の措置をとり、すべての目撃者の氏名を確認する。災害で死亡者が発生した場合、HSW監督官や警官など、担当係官の事前承認なしに現場に手をつけてはならない。

物理的証拠は、入手できるものの中で、おそらくもっとも議論の余地のない情報である。同時に、急速に変化または消滅する可能性もあるため、最初に記録しておくべきである。作業プロセスについての自分の知識を基に、以下のような点検項目が考えられる。

  • 負傷者(労働者またはその他の人)の位置
  • 使用していた装置
  • 使用していた資材
  • 使用していた安全装置
  • 適切なガードの位置
  • 機械の制御装置の位置
  • 装置の損害
  • 作業場の整理整頓の状況
  • 天候
  • 照明レベル
  • 騒音レベル

物を動かす前に、現場全体と個別の物件を撮影したいと考える場合もある。これらの写真を後で慎重に検討すると、それまで見落としていた条件や観察結果が明らかになる可能性がある。計測に基づく災害現場のスケッチも、後の分析に役立つ可能性があり、文書報告の内容を明瞭にする。破壊された装置、残骸、関係する資材の標本は、分析のために専門家が移動するかもしれない。写真を撮った場合でも、災害現場にあるこれらの物の位置を文書で記録しておくべきである。

目撃者の証言

不可能な場合もあるが、目撃者に聞き取り調査を行うためにあらゆる努力を払うべきである。目撃者が自分にとって最大の情報源になる場合もある。災害発生直後に現場を検証できないまま、調査に召集されることもあるからである。目撃者は強い精神的ストレスを受けていたり、非難されるのを恐れてすべてを語りたがらない場合もあるため、目撃者に話を聞くのは調査担当者にとって、おそらくもっとも困難な仕事である。

目撃者には、なるべく災害から時間をあけずに聞き取り調査を行うすべきである。目撃者同士が災害について話し合う機会があると、個人の判断が失われる可能性がある。事実について迷いがあると、全体で一致した意見を受け入れてしまうことがよくあるからである。

目撃者には、グループではなく、ひとりずつ聞き取り調査を行うべきである。目撃者への聞き取り調査を災害現場で行うこともあり、この場合は関係者ひとりひとりの位置を確認し、災害発生の様子を聞くのが容易になる。半面、静かな事務所で話を聞いた方がいいときもある。この場合は意識を集中しやすい。その判断は、ある部分では災害の性格と、目撃者の精神状態によるかもしれない。

災害で負傷者が発生した場合、目撃者自身が被害者になることもある。負傷の状態により、これらの目撃者への聞き取り調査を何日か延期したり、病院で行う場合もある。

聞き取り調査

聞き取り調査の目的は、目撃者の理解を得て、災害を自身の言葉で語ってもらうことである。

目撃者は動転している場合が多いため、落ち着かせることが大切なことを忘れてはならない。そのために役立つひとつの方法は、目撃者に対し、調査の目的は発生した事態とその原因をさぐり、そこから教訓を学んでそれを事故防止に生かすことだと安心させることである。一般原則として、目撃者が要求すれば聞き取り調査の記録にはカセットレコーダーのみを使用すること。

また、耳はふたつで口はひとつあることを忘れず、その割合を心得て使用すべきである。質問したなら、目撃者が語るに任せて自分は聞いていること。そして、自分が聞いていることを示すこと。目撃者が語っている間、下を向いてメモをとることに夢中になってはならない。目撃者が回答したら、要点を分かりやすく言い換えて、自分が内容を正しく理解しているかどうか確認をとる。それから要点を書きとめたうえで、その内容が正しいかについても確認をとる。

聞き取り調査のあいだは、目撃者の内面的な感情を把握するよう努力する。

どんな場合でも、調査担当者は以下のことをしてはならない。

  • 目撃者を威圧する。
  • 話しをさえぎる。
  • 話しをせかす。
  • 誘導尋問をする。
  • 自分の感情をあらわにする。
  • 目撃者が語っているときに長々とノートをとる。

単に「イエス」か「ノー」では答えられないような、自由に回答できる質問を行うべきである。目撃者への実際の質問は災害の性格によって異なるが、以下のとおり、常に質問すべき一般的事項がいくつかある。

  • 災害発生時にどこにいたか?
  • そのとき、何をしていたか?
  • 何を見て、聞いたか?
  • 災害発生時の環境条件(天候、照明、騒音など)はどうだったか?
  • 負傷した労働者は、災害発生時に何をしていたか?
  • 同種の事態が過去に発生したことがあるか?
  • 目撃者の意見として、災害の原因は何だと考えるか?
  • どうすれば同種の災害の再発を防止できると考えるか?

災害発生時に自分が現場にいる可能性は低いため、質問することが発生した事態を確認する直接の方法になる。当然ながら、聞き取り調査での証言の信憑性は慎重に検討しなければならない。一般に、最初の2〜3の質問で、発生した事態を目撃者がどれだけ正確に観察できていたかが分かる。

事実経過の判定にときどき使用される別のテクニックとして、発生した事態を再現する方法がある。負傷者や他の目撃者に、災害発生前の行動をゆっくりと再現してもらうときは、新たに負傷したり損害が発生したりしないよう十分に気を配らなくてはならない。

背景情報

技術的なデータシート、保守報告書、過去の災害報告書、正式な安全作業手順書、研修報告書などの文書のなかに、見落とした情報源が発見される場合が多い。関連するあらゆる情報を精査することで、発生した可能性のある事態を把握し、同種の災害の再発を防止するためどのような変更を提案すべきかを判断する。

原因の特定

分析と結論

調査のこの段階で、発生した事態とその状況が大方、明らかになる。ここまでで相当な努力が必要だが、調査目的の完了までは、まだ道半ばである。そこで重要な問題、つまり災害はなぜ発生したのかという問題がでてくる。同種の災害の再発を防止するために、調査担当者は、この疑問に対する確かな回答をすべて見いださなければならない。回答を見つけ、結論を出すためには、発見した事実の分析が必要になる。

事実を分析している間、あらゆる可能性に対して公正な態度をとり、関連するすべての事実を収集したとしても、災害発生にいたる一連の事実経過の追及で疑問点が残る場合があることを発見するだろう。自分の認識における疑問点を解決することで、分析を完了し、結論に到達する必要がある。そこで、疑問を解決するために一部の目撃者に再度聞き取り調査を行い、一部の装置を再試験し、一部の文書を再検証するなどの必要がでてくるかもしれない。

丹念に分析し、情報源を再検証しても、なお疑問が解決されない場合もある。その際は、仮定に依拠するか、または疑問をそのまま残す方法がある。当局の一部には、事故原因調査では仮定が入りこむ余地はないとの主張がある。一方では、疑問をそのまま残すより、可能な場合は入手した証拠に基づいて適切な仮定を行う方がよいとする向きもある。仮定を行う場合、その根拠になった事象を必ず記録しておくべきである。

分析が完了すると、結論のまとめに入ることができる。災害発生の瞬間まで立ち返って、段階を追って事態発生の経過を記載する。各段階で考えられる原因をすべて列挙するよう努める。これは必要外の作業ではなく、最終報告書の一部をなす原案となる。それぞれの結論は、以下の点から点検すべきである。

  • 証拠に基づいていること。
  • その証拠は現物(物理的なもの、または文書)か、または目撃者の証言に基づくものであること。
  • その証拠は正しい想定に基づいていること。

以上の諸点は、説明できない、矛盾した項目は除くという最終点検をするのに役立つ。

災害発生の状況とその原因についての最終結論に到達しても、報告がこれらの点に限られている場合不完全だと事業者にみなされることもある。結局のところ、事業者は報告書に基づいた措置をとりたいと考えているからである。とるべき措置(特定のリスクに対する正式な再調査と新規対策の立案など)を最終決定するのは取締役会かもしれないが、慎重に検討された勧告が調査報告書に記載されていれば、取締役は十分な情報に基づいて決定を下せる。

勧告

したがって、もっとも重要な最終段階は、同種の災害の再発を防止するための、賢明で実用的な一連の勧告をまとめることである。関係する作業プロセスと、組織内の全体的状況を把握してしまえば、現実的な勧告をまとめるのはむずかしいことではない。一般的な勧告だけを作成したいという誘惑に抵抗すること。そうすれば時間と労力の節約になるかもしれないが、結局は他の誰かがより大きな時間と労力を費やすことになるか、もっとありそうなケースでは、災害に対して効果のない、その場しのぎの行動計画ができあがることになる。

たとえば、見通しのきかない曲がり角が災害の一因になったと判断した場合、単純に「見通しのきかない曲がり角をなくす」という勧告を出すよりも、以下の点を提案する方がいいだろう。

  • 災害が発生した小さな倉庫の南東の角にミラーを設置する。および
  • 現場の全体にわたる曲がり角で、必要な箇所にミラーを設置する。

過失責任の可能性のある個人を懲罰する勧告を作成してはならない。これは調査の本来の目的に反するだけではない。将来の事故原因調査での協力、信頼、および自由な情報提供の機会を少なくする。

万一、災害の原因を明確に判定できなくても、業務の安全面での欠陥を発見することがある。報告書の付属文書にこうした欠陥を指摘し、改善勧告を記載するのが望ましい。

調査で災害の原因が判定できた場合でも、調査中に明らかになった、事件とは無関係の安全上のどんな不備をも無視すべきではない。ただし、この場合は別個の報告書で、災害とは無関係の欠点を指摘し、改善策を勧告する方がより適切だろう。

調査結果の報告

文書による報告

自分の組織に使用を義務づけられた標準様式がある場合、報告書の作成様式に選択の余地はほとんどない。ただし以下の欠点もあることを知り、その解決に努めるべきである。

  • 回答記述用の欄が小さいときの簡単な解決策は、欄外に「付属の用紙Xに続く」と記載することである。
  • 原因に関するチェックリストがある場合、リスト以外の潜在的原因が見過ごされるおそれがある。与えられたチェックリストに自分が発見した原因が記載されていない場合の簡単な解決法は、リストに項目を書き加え、それに印をつけることである。
  • 「不安全な状態」などの表題があると、調査で複数の不安全な状態が発見された場合でも単一回答にしばられる可能性がある。簡単な解決策は、該当する項目にチェックしたうえで「付属の用紙Xの詳細を参照」と注をつけることである。
  • 「主たる原因」と「誘因」とが区別されていると、誤解を生じかねない。災害原因はすべて重要であり、改善策の可能性を検討する価値がある。このとき、あなたは組織内の安全管理者の怒りを買うか、安全コンサルタントの無知を示したことで喝采を受けるかの、どちらかである。しかし、与えられた報告様式を改善する必要がある場合は、そうすべきである。これは怒りを買うか、賞賛を得るかの賭けになる。様式を自分に合ったように修正し、なおかつ他人をあまり刺激しない方法は、「主な」を抹消し、代わりに「直接の」と書き、災害の直接的原因を記載することである。そして「誘因」を抹消し、代わりに「他の原因」と記載する。こうして、様式の2カ所に、自分の良識に基づいて記載することができる。

組織内で、一定の用紙その他を使った文書による報告が義務づけられている場合、以前に作成した事実経過についての草案が、発生した事態の説明に役立つ。報告書の読者は災害について詳しくは知らないため、関連する事実をすべて記載することを忘れてはならない。写真や図が言葉による多くの説明の代わりになるかもしれない。

証拠が、確実な事実、目撃者の証言、または自分の仮定に基づいている場合、それを明記すること。

特定の部分について疑問があるときは、それを示すこと。自分の結論の根拠を示し、その後で自分の勧告を記載すること。何もならないもの、たとえば重要でない写真、結論と無関係な調査部分など、災害とその原因の完全な理解に不必要である余分な内容は削除すること。良い災害報告書の基準は、その量ではなく質にある。

「ヒューマンエラー」が原因の場合

災害原因のうちヒューマンエラーの指摘が欠落していると、調査の質を落とすことになる。それらが改善されないために同種の災害が再発する可能性もでてくる。

それでも多くの調査担当者が苦労するのは、誰かを非難したくないと考えるからである。しかし、事業場の徹底した事故原因調査によって、特定の個人(事業者、監督者、または一般労働者を問わず)の過失が災害の一因になったことが明らかになった場合、その事実は指摘すべきである。

ヒューマンエラーが災害の大きな原因だった場合、調査の重要な目的は、事業者が以下の二つの面で効果的措置をとれるようにすることだということを想起すべきである。

  1. 誰であれ、そうしたヒューマンエラーがそれ以降に発生する可能性を減らすこと。
  2. 誰かが次に同じ、または似たエラーを起こしても実際に災害が起こらないようにすること。

過去に各種の危険なヒューマンエラーを起こしたのでないかぎり、当人を懲罰することは効果のない安全管理対策であり、事業者にとって逆効果になりかねないということを、もっと多くの組織責任者が知るべきである。

労働審判所での逆効果の例を想像してみよう。エラーを犯した労働者が、そうしたエラーはこの工場では日常的にあり、これを理由に解雇されたのは自分だけだと主張したとする。解雇の根拠になった報告書自体に、おそらく、そうしたエラーがたびたびあると記載されており、さらにはエラーを減らし、その影響を最小にするための勧告まで記されているだろう。そうしたエラーが一因となった過去の災害まで引用されているかもしれない。労働審判所は、事業者にきわめて厳しい姿勢に傾くだろう。

また刑事裁判所での逆効果の例を想像してみよう。エラーを犯した労働者の証言で、過去何年か、簡単にエラーが発生して潜在的危険性が生じることについて、事業者に多くの苦情が寄せられていたことが明らかになったとする。エラー発生の可能性と、その危険な影響を最小限にするために、事業者が対策を行ったことを証明できなかった場合、裁判所はどういう態度をとるだろうか。ご想像のとおり。裁判所は事業者を厳しく罰するだろう。