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リスクウォッチ :
安全衛生分野での古い問題・新しい問題

資料出所:The Royal Society for The Prevention of Accidents(ROSPA)発行
「OS&H」|2001年12月号 p.11-13
(訳 国際安全衛生センター)



今月号では、ロバート・マクマード氏が、増大する危険(例えば、職場の暴力)を見つけ出し解決しなければならないのは当然だが、今日の安全衛生に関する報道をみていると、過去においてうまく解決出来なかった問題(アスベスト問題など)に対してやらねばならないことが、まだまだたくさんあるということをレポートします。


7人に1人がアスベストによる障害を受けている

西欧社会では7人に1人の割合で、アスベストの暴露による障害を受けているといえそうである。今年9月に行われたヨーロッパ呼吸医学会の年次総会に出席した各国の代表者達は、1998年から2000年の期間にブリュッセルのエラスムス病院で160体の遺体を研究者グループが再調査したところ、14%の割合で、肺に障害を受けていたことを濃厚に示す“肋膜斑点”を発見したとの報告を受けた。その内、男性の割合は20%にのぼった。肺組織内にはグラム当り1000粒子以上のアスベストが13%の遺体に発見された。

フィンランド労働衛生研究所(Finnish Institute of Occupational Health)のアンテイ・トサヴァイネン(Antii Tossavainen)氏は言う。“西欧ヨーロッパ、北アメリカ、日本とオーストラリアでは職場のアスベスト障害のピークは1970年代であったのは誰でも知っています。しかし現在、最近の予想では、それらの国で毎年新しく3万人に及ぶ人々がアスベストに起因するガン患者と診断されている。これらには、1万人の中皮腫症と約2万人の肺ガン患者が含まれている”。

アスベストがいまだに多く使われている発展途上国でのアスベストによるガン患者の増加は、今後さらにますます増えそうである。


受動喫煙者の喘息が2倍に増加

職場で他人の吸ったたばこの煙を吸わされている人々は、呼吸障害を受ける確率がそうでない人の2倍以上となっている。マリッタ・ヤコラさんを長とするヘルシンキのフィンランド労働衛生研究所の科学者達は、受動喫煙が成年者の喘息病の増加に大きな割合を占めるという間違いない証拠を初めて示すことができたという。

科学者達は、フィンランド南方のある地方で、いままで喫煙したことがない合計718人の人々を徹底研究した。研究チームは、喫煙者の煙により多くさらされてきた人が、より高い確率で成人喘息病にかかることを発見した。ベルリンで行われたヨーロッパ呼吸医学会第11回総会でチームを代表して発表したマリッタ・ヤコラさんは、“私達の研究結果は、受動喫煙が成人の喘息病者増加の大きな要因を占めていることを、はっきり示すことが出来た”と言う。

反喫煙グループ“喫煙と健康問題に行動する(Action on Smoking and Health : ASH)”のクリーブ・ベイツ(Clive Bates)氏は言う。“この研究は、受動喫煙により成人の喘息病にかかるリスクが2倍以上になることを示す画期的なものである。それ故、もし事業者が職場での喫煙を減らすことに熱心でなかった場合には、喘息病に罹った従業員は、原因は受動喫煙にあったという十分な証拠を手に入れることになる。そうすれば、裁判を通じて数千ポンドの賠償金を請求できることになる”。


英国安全衛生庁(HSE)証明書発行業務中止

国際的に高く評価されていた、英国安全衛生庁による電気設備証明書発行業務(EECS)が、収支が合わなくなったことを理由に、2003年6月末に廃止される。EECSは、鉱山、油田掘削装置、その他爆発の危険性がある場所で使用される防爆設備や防爆装置の証明書発行業務を行っている。安全衛生庁によれば、過去2年間の実績調査の結果、“1990年代にこの証明書発行市場に参入してきた他の機関と競争していくことがますます困難であることがわかり、これまでもかなりの額の損失を出してきた“と言う。

安全衛生庁の長官であるティモシー・ウオーカー(Timothy Walker)氏は言う。“安全衛生庁にとって今日は悲しむべき日である。誠に不本意なことだが、EECSを廃止することが、私と他の責任者によって決定されました。市場への新しい参入者と効率的に競争していくことがますます困難であることが、最近判明した。その結果、損失が増加していき、安全衛生庁本来の業務に人や金をまわすことができなくなっている。さらなる損失を最小にするため、我々はEECS業務を廃止せざるをえない”。


職場での喫煙制限

政府統計の最新の調査報告によれば、公共の場所での喫煙制限に対する国民の支持は増加している。“喫煙に関するマナーと姿勢”という名の報告書の結論は、職場での喫煙制限を支持する英国民の割合は1996年の81%から2000年には86%に増加し、レストランでの喫煙制限支持は85%から88%へ、パブでは48%から53%へ、その他の公共場所では82%から86%へ増加した。


より厳しい安全チェックをパイロットが要望

英国航空会社パイロット組合(The British Air Line Pilots' Association : BALPA)は、好ましくない乗客を排除するために国際及び国内航空会社が採用する、新チェックイン・システムに対して強い支持を表明している。“QinetiQ Matchmaker買fータシステム導入に対するパイロット組合の支持は、9月11日ニューヨークとワシントンを襲った同時多発テロで4機の飛行機がハイジャックされた後の、世界的な安全に対する関心の高まりの結果である。

“このシステムの導入で、政府、航空会社、警察及び他の関係機関は、”破壊活動をしているもの、重大飛行機事故に関与したもの、テロリズムの協力者、テロ組織メンバーに関する詳細情報をデータシステムにインプットすることが出来る”とBALPA安全委員会の委員長でこのシステム導入プロジェクトに密接に関与してきたイアン・ハイバード(Ian Hibberd)機長は述べた。“テロリストと疑われる人や破壊主義者の乗客をストップさせる場所は、地上であり、空中ではありません。Matchmakerシステム導入で、空の安全は間違いなく強化できます”。現在2社の航空会社が、このQinetiQ Matchmakerシステムをテスト運転している。


危険に直面している教師達

暴力、ストレス、仕事の負担が教師の健康に害を及ぼしているとNASUWTは警告している。“学校における教師の障害状況”と題する調査結果を発表した、NASUWTの事務総長であるナイジェル・デグラシー(Nigel de Gruchy)氏は述べた。“なんらかの障害が認められる当組合員で回答を寄せた人の75%は、仕事に従事している間に障害を発症している。これらの教師達が病んでいる障害は、ストレス、暴力、仕事の負荷等を含む教育現場の状況が症状を悪化させたのではないかと思われる”。学校の運営管理者が、教師の仕事を助けるために学校の教室の配置、教師の仕事の割り振りや時間割に対して、合理的かつ必要な調整を全然していないと、調査に応じた教師の大部分の人が回答しているということは誠に驚くべきことである。

NASUWTによれば、学校はその規模や種類を問わず、障害を蒙った教師に対して特別の権利を認める新しい規則を採用するよう、学校での障害者に対する運用規則に関し、政府の審議会に申し入れるという。

*)NASUWTはイギリスを代表する教職員組合のひとつ


職業センター安全紛争

市民サービス組合(PCS)は、現在雇用サービスに関して係争中であるが、他の労働組合の支持を要請している。現在PCSは、殆ど全ての新事務所から安全用仕切りを取り除くという運営管理者の計画に抗議して、ロンドンの2ヶ所の職業センター事務所でストライキに入っている。この計画は、暴力を受ける危険があるところに組合員の身をさらさせることになり、組合員の虐待であると組合は述べている。

組合は、ハンマー攻撃やナイフによる傷害事件を含め、最近職業センターで起こった重大事件の関連書類一式を見れば、今回の運営管理者の計画は、組合員が負っている危険をさらに増大させることを示す十分な証拠になると主張している。

組合の主張する安全問題に対して運営管理者が何の対応もしない場合は、現在ストレーサム(Streatham)とブレント(Brent)の2ヶ所の職業センター事務所での無期限ストライキを国内全域に展開するとPCSは言う。

安全用仕切りを取り除くという運営管理者の計画は、英国全土の社会保障機関と雇用サービス事務所に働いている2000人以上の組合員のストライキが、産業界にまで拡がることになりかねない。

ストレーサム事務所のPCS組合代表であるジョン・スタンレー(John Stanley)氏は述べている。“私達は全員、国民へより良いサービスをするために働いている。しかし、そのために組合員の健康と安全が犠牲になるのは認められない。何故事務所に安全用仕切りが必要であるかは、国民はよく理解しており、大多数の国民はそこに仕切りがあっても何の問題も感じない。もし、私達組合員の安全を確保する物理的な仕切りにとって代わる何か良い代案があれば、私達はもちろん真剣に考慮する。しかし、今まで誰からも良い代案を提示されたことはない”。PCS組合の代表交渉人であるエデイ・スペンス(Eddie Spence)氏は、“私達組合は、安全問題は両者が妥協して解決するようなものではないと運営管理者に繰り返しはっきりと主張してきた”と述べている。

奇妙なことだが、政府はどのようにして、様々な危険をうまく排除する方策について労動者と効果のある協議をする規定を制定しているのであろうか? 政府は、この規定は事業者としての政府には適用されないというように行動している。


医療従事者が危険に瀕している

スコットランドの組合幹部は、患者の健康を看護する人達を肉体的及び口頭による暴力行為から身を守るために、全国的な“Guardian Angel(守護神)”の警報システムを採用するよう要求している。UNISON(英国労働組合)のジム・デビン氏は、既にウエストロチアン(West Lotian)でテストされた警報システムをスコットランド全域に配置するよう望むと述べた。

暴力からの保護は、看護人の事務所にすぐに繋がる警報装置を付けた精巧な携帯電話を通して行われる。去年10月、イングランドでは、全ての看護師や医者、準医療従事者に、携帯電話と説明書、緊急ボタンが交付された。この動きは、国民健康サービス(National Health Service : NHS)の“トレランス ゼロ”運動の一環で、看護人に対する暴力件数を翌年には20%減らすことを狙ったものである。


移入労働者の訓練が必要

建設産業界の技術担当幹部は、英国の建設現場で働く外国人労働者に対する技術訓練の必要性を強調している。建設技術資格証明機関(Construction Skills Certification Scheme、この機関には組合も関与している)の議長であるトニー・メリックス(Tony Merricks)氏は、ブライアン・ウィルソン(Brian Wilson)新建設大臣に対し、建設産業への外国人労働者の巨大な流入に対処するためのヨーロッパ全域での技術向上計画を支援するよう要望している。

この要望は、特に東ヨーロッパから英国に入国し建設現場で働く移入労働者の増加に対処するために出てきた。T&G組合の建設担当役員であるボブ・ブラックマン(Bob Blackman)氏は、安全が問題なのだと言う。“もし彼らが現場で英語を読めず、話すことができなければ、彼らは危険な状況下ニいることになるのである”。

どこか控え目な表現ですね、そう思いませんか? 建設現場は、みんなが同じ言語を話していても、大変危険なところです。

建設業界の幹部と組合の代表、人種問題のリーダー達は全員、危険な状態におかれている建設労働者と国民の安全衛生問題を、可能な限り最も鋭敏な感覚でどのように管理したら良いのかをじっくり考える必要がある。


心臓病に対して交替制勤務からの警告

翌朝までを含む夜勤勤務で働いている人々は、命にかかわる心臓病に結びつくストレス症状を示す人が通常勤務の人より多いとオランダの研究者は報告している。交替勤務グループの人の方がより多く、心臓の異常鼓動に結びつき心臓病による死亡により近づく心室性期外収縮(premature ventricular complexes : PVC)が出ていることを研究者達は発見した。

研究にたずさわった医者達は、夜勤を含む交替勤務で働いている49人の従業員と、通常の昼間に勤務している22人の従業員の、心拍数の変化と速度の変動を計測した。対象になった従業員は全員新しい持ち場に配置され、新しい職場で働き始めたすぐ後とその職場で12ヶ月間働いた後の1週間から2ヶ月間かけて測定が行われた。

“昼間勤務の従業員との比較では、1年間の追跡調査で、交替勤務者の方にPVC症状を示す人は明らかに増加している”と職業と環境医学ジャーナル(the journal Occupational and Environmental Medicine)の9月号に研究者達は記述している。この研究によって判明したことは、交替勤務者の約半分の人にPVC症状の増加がみられ、一方、昼間勤務者の場合4分の1を少し超える人にしかPVC症状の増加はみられなかった。著者は、夜間勤務そのものが、働く人の身体に対して長期にわたるストレス原因となる可能性があり、心臓鼓動が早まるパターンが増えていくのは交替勤務で働く人々の間に心臓病に陥る可能性が高まる要因となると考える。


溶剤が貴方の脳を壊しているかもしれない

安全衛生庁(HSE)の支援を受けて、溶剤に曝されている職場の人々の脳に対する影響を測定してきた研究は、殆どのデータはまだこれだと判断できる基準まで至っていないと結論づけた。安全衛生庁の化学リスク査定部門の長であるマイケル・トッピング(Dr. Michael Topping)博士は述べている。“研究報告書では、将来採用できる可能性がある基準を確立するためのいくつかの方策が提案されている。例えば、老化、アルコール中毒者、スチレンやパークロロエチレンなどの特殊溶剤に関する現在のデータをさらに深く調査研究することや、頭部傷害の追跡調査の対象となっている人に関して臨床医が持っているデータの調査を始めることなどが含まれている”。

職場での溶剤と慢性的脳障害の間に何らかの結びつきがあることは広く認められている。アメリカの国立労働安全衛生研究所(NIOSH)は、“溶剤性脳障害”を職場での健康問題におけるトップテンの一つに指定している。デンマークでは、この溶剤性脳障害は政府が公認した職業病の一つであり、数千人の労働者が認定患者として賠償金を勝ち得ているが、有機溶剤に代わるより安全な代用品が市場に紹介されてきたので、賠償金要求の訴訟は劇的に減少している。英国でも、脳障害や小脳性運動失調障害を含む、溶剤から生じた脳障害を理由に、多額の賠償金を受け取った労働者はこれまでにたくさんいる。


緊急呼び出しでも次の休憩まで待たねばならない?

息子が病院に運び込まれたことを電話局で働いている自分の妻に知らせようとした人に、彼女が次の休憩に入るまで待つようにと、ウエールスのある電話局が言ったことで、電話局は現在非難を受けている。

デビッド・ベブ(David Bebb)氏は、私は結局お客をよそおって自分の妻に電話をせざるをえなかったと主張している。アン・マリー・ベブ(Ann Marie Bebb)さんは、英国電話公社の代行であるマンパワー社が運営していたカージフ電話局での臨時雇いの職場を、後日失うことになった。この訴訟となった事件は、この夫婦の10歳になる息子のサム君が病院に運び込まれた後、ベブ氏がスタジアムハウス電話局に電話をした時に起こった。

ベブ氏は、彼が事情を説明した上で自分の妻と話したいと言った時、妻が次の休憩に入るまで待つよう言われたと言う。その際、彼の奥さんにはベブ氏に電話するようにとの伝言は伝えると言われたと。ところが、彼が奥さんと話しができた時には、ベブ夫人は彼女の上司から何の伝言も受け取っていなかったのである。現在息子のサム君は自宅で、病気から回復途中である。労働組合会議(TUC)上級政策役員であるサラ・ヴイーレ(Sarah Veale)さんは、BBC放送に対し、“誠に残念な事件です。家族の緊急事態に際しては、仕事を一旦中断できる権利を従業員に与える規則がある”と述べている。TUCは電話局での職場環境を改善するキャンペーンの一環として特別ホットラインを設定したところである(今月号の“この職業” − 緊急呼び出しセンター職員の聴覚ショックとストレスの影響について − を参照して下さい)。


地下鉄運転士の休憩とトイレをめぐる紛争


最近、ASLEF(Associated Society of Locomotive Engineers and Firemen)と鉄道海運輸送組合(RMT)に属する地下鉄運転士が、遠隔地でのトイレを含む設備の不備に抗議して、時間外労働を拒否し、順法闘争を開始した。トイレ休憩があまりにも少ないので、腎臓と膀胱の重大疾患を含め運転士の健康が害されているという。よく管理されていると思われる組織が、安全衛生上のこんな単純な問題は決して起すことはないと云うレベルを確立していなかったとは信じ難い。

後日、ASLEFとRMTが、合理的なトイレット設備を得るために闘争するのでなく、経営管理者からの安全についての提案を支持していることをニュースで我々は知っている。