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ホテルにおけるリスクアセスメント

資料出所:The Royal Society for The Prevention of Accidents(ROSPA)発行
「OS&H」|2001年1月号 p.18〜21
(訳 国際労働安全衛生センター)


ホテル

あらゆる状況を想定した実際的なリスクアセスメントを論ずる新シリーズの手始めとして、ピーター・エリスはホテルで実施されるべき一般的なリスクアセスメントのプロセスを説明する。この種の職場に存在する可能性がある一般的な危険を浮き彫りにし、どのような関係者が危険にさらされ、スタッフ、客、およびその他の安全衛生に対するリスクを管理するためどのような手段を取り得るかを説明する。


法的要件

「1974年労働安全衛生法(Health and Safety at Work etc. Act、HSW法、1974年)」および、「1999年労働安全衛生マネジメント規則(Management of Health and Safety at Work Regulations、MHSWR、1999年)の3」が、事業者に義務づけている法的要件を満たすために、リスクアセスメントを実施しなくてはならない。

さらに、「火災予防規則(職場編、PartU:1997年修正)」も労働安全衛生マネジメント規則と共に適用されるものであり、基本的に事業者に対して、1999年の規制のもとでリスクアセスメントを実施する義務を果たす場合、1997年の規制の該当条項を考慮に入れるよう求めている。

リスクアセスメントの所見は、1971年火災予防法のもとで与えられる事業者の事業施設の防火認証によって事業者に課される要求事項を補完するものとなる。

リスクアセスメントの目的は、事業者が職場の危険を確認し、これによるリスクを評価し、合理的に実行可能な範囲で、できる限り危険を排除するために、あるいは少なくともリスクを抑制するためにどのような手段を取るべきかを確定することである。

労働安全衛生マネジメント規則は、適切な法の規定により、また「火災予防規制(職場編、PartU:1997年)」によって課された要求事項や禁止事項を遵守するために実行する必要のある措置を確認する目的で、「すべての事業者は以下の適切かつ十分なリスクアセスメントを行うものとする」と明記している。

a)業務中にスタッフがさらされる安全衛生上のリスク
b)事業者の行為あるいは事業者の事業から、あるいはそれらに関連して生じる、従業員ではない人の安全衛生上のリスク。


確認される危険:火災

ホテルの厨房内の備品には、オーブン、ホットプレート、ソリッド・トップ、オープンガスこんろ、天火、フライ鍋、ガスボイラーなどがある。これらの熱源はホテル中に配備される可能性がある一連の電気器具(客が使用する場合がある器具も含む)と同様に、火災の発生要因となる。

さらに喫煙(特に寝室の客による)も火災の危険要因となるだろう。

危険にさらされるのは誰か

厨房で発生した火災による主なリスクは、厨房スタッフに対するものである。これは、火災報知器はホテル内のほかの人々に安全な場所へ避難するための十分な時間を与えるために鳴らされるものと考えられるためである。他のスタッフ、客、および訪問者の場合は、厨房スタッフよりも安全な場所へ逃れる時間がとれるため、リスクはもっと低い(火災が遅れずに発見されたと仮定する)。

ホテルの寝室で喫煙が許可されているなら、その部屋とそれに最も近い部屋の人に最大のリスクがある。

推奨される管理方法

  • 喫煙室と禁煙室を区別するという配慮がなされること。
  • 火のついたたばこ等を消すために灰皿と金属製の蓋つきゴミ箱を用意すること。
  • 各寝室に火災時の緊急対策を表示すること。
  • カーテンおよび室内装飾用備品は、難燃性の材料でできていること。
  • 電気器具の品目を点検し、定期的に検査すること。
  • コンセントには「ブレーカー」が備え付けられていること。
  • 電気ケーブルの長さは最小限に留めること。
  • たまったごみや可燃物は毎日片付けること。
  • 人数に対して十分な非常口を設けること。
  • 非常口は安全な場所に通じていること。
  • すべての一般通路および緊急非難用通路はいつでも障害物がない状態であること。
  • すべての屋内防火扉は、はっきりとラベル表示されること。
  • 火災安全表示と出口は、はっきりと目で確認できること。
  • 脱出に使用されるドアはすべて利用可能であること。
  • 防火扉の自動閉鎖装置は正常に動く状態であること。
  • 出口ははっきりと表示され、適切に照明されていること。
  • 脱出手段に使用されるドアは、移動する方向に開くこと。
  • 脱出手段に使用されるドアは、カギがなくても開くこと。
  • 階段はきちんと修理された状態であること。
  • 通気孔およびダクトは炎、熱、あるいは煙の拡散を防止するよう適切に保護されていること。
  • 緊急避難用照明器具は、使用可能状態であること。
  • 火災報知機は作動する状態にあり、定期的に検査されること。
  • 火災報知機のボタンははっきりと見えなければならず、障害物に遮られていないこと。
  • 十分な消火機器がなければならず、また適正な機種であること。
  • 携帯用消火器と防火用ブランケットなどが適切に配置され、容易に使用できること。
  • 携帯用消火器は年1回点検され、その記録がつけられること。
  • 夜寝る前にすべてのたばこ類を確実に消したことを客に促す安全通知を、寝室内の灰皿に近い場所に表示すること。
  • 緊急時の手順計画を、一つはスタッフ用の連絡ボードに、一つはホテルの宿泊客用に入り口ホールに表示すること。
  • 火災安全のすべての面に関する情報、指示、および研修をスタッフに与えること。
  • 避難出口は障害者が利用できること。
  • 地下室、あるいはその他の離れた場所、あるいは頻繁に使用されない場所に火災報知機を据え付けること。そうしなければ、手遅れになるまで発見されない可能性がある。
  • すべての自動開閉ドアは常に閉じられており、どのような場合も開け放しのまま固定しないこと。


職場の緊急時手順プラン

「火災予防規則(職場編、PartU:1997年修正)」を遵守するには、「職場の緊急時手順プラン」を作成する必要がある。火災時に何をすべきかが正確にわかるように「適切かつ十分な」研修を受けなければならないスタッフのためのプランには、次の項目が含まれなければならない。

  • 火災が発見された際に火災報知器を鳴らす方法。これは最寄りの火災報知機のボタンを覆うガラスを割ることによってできるのが普通である。人があまりいない場所では「火事だ!」と叫んで警告し、最寄りの非常口へと進むことが効果的であることもある。
  • 火災報知機がどのように鳴るのかを知る。
  • もっとも近い避難路が確認でき、この避難路が確実に適切に維持されなければならない。すなわち避難路が常に障害物で遮られていてはならず、また自動閉鎖ドアがいかなるときも開け放しで固定されたままであってはならない。
  • 火災が発生した場合、どの種類の消火器を使用すべきか、どのように操作すべきかを知る。
  • スタッフは、職場内の小規模の火災にのみ取り組むべきであることを知ること。火災が広がったら、報知器を鳴らし、ホテルから避難しなければならない。
  • 報知器が鳴っていたら、ホテルのスタッフは消防サービスやその他の救急サービスに電話しなければならないことを知る。
  • ホテル火災時の避難手順について、スタッフは研修を受け、客はこれを知らされなければならない。
  • ホテル外の集合場所の位置について、スタッフは研修を受け、客および訪問者はこれを知らされなければならない。
  • ホテルの客および訪問者は、火災報知機の音を認識し、それが聞こえたときには最寄りの非常口から脱出すること。
  • 全員が集合場所にいることを確認するために、スタッフの人数を調べなければならない。
  • ホテル側は、ホテルを離れる際には寝室のカギを受付けに預けるように要求すること。こうすることによってスタッフが、すべての寝室から人が避難しているのかどうかを知る一助となる。
  • ホテル側は、火災時に特定の任務を負う特定のスタッフを明確にしておかなければならない。
  • ホテルのスタッフ、客、訪問者、および請負業者は、火災報知機の音を認識し、集合場所のひとつに行けること。しかし、ホテル側は、スタッフにもっとも連絡しやすい部屋が障害を持つ滞在者に対して確実に振り分けられているようにすること。障害を持つ客には、担当スタッフを指名して割り当てること。そうすれば、火災時に障害者が集合場所まで行くのをスタッフが手助けできる。


確認される危険:手を使うケース

ビールの樽やケースのような重いものをスタッフが持ち上げたり運んだりする場合、手を使って扱うことによる負傷の危険にさらされる。たとえば、樽を運ぶ人はすべったりつまずいたりする危険性があり、階段を降りて地下室に樽を入れる場合には、持っている人の上に樽が転がり落ちる可能性がある。

正しい運搬方法についての研修が行われていない場合があり、これが筋骨格、特に背中や腰への損傷につながる場合がある。

危険にさらされるのは誰か

ビールの樽やケースを運び、負傷する可能性がある人

推奨される管理方法

マニュアル・ハンドリング作業に関する規則(Manual Handling Operations Regulations、1992年)は、自分や労働者が荷物の持ち上げや移動によって負傷を被る危険にさらされている事業者に対し、階層的な管理手段を実行することによって、できる限り危険を排除し、あるいは少なくともリスクを抑制するために、こうした業務の評価を行うよう要求している。

  • 第一に、荷物の移動を避けるようにする。
  • この作業手順を自動化あるいは機械化するために、機械による補助を提供する。
  • 手を使う作業のリスクを妥当な最低水準まで減らすために、スタッフに対して情報、指導、研修を提供する。
  • 作業手順がもっと安全な方法で実行できるのかどうかを明確化する。

上記に照らして、ビヤ樽などの場合には以下のやり方が推奨される。

  • ビヤ樽は2人で手押し車に載せ、使用するバーに直接運び、地下室には降りないこと。
  • 荷物を運ぶ際にはできるだけ体の近くで保持すること。
  • 荷物を運ぶ際には体をひねらないようにする。かわりに足を動かす。
  • 荷物を運ぶ際には前かがみにならないようにする。これを避けるには、荷物を腰の高さで持つ。
  • 適切な持ち上げ方および持ち運びの方法について、スタッフに知らせ、指導し、研修する。

旅行かばん類の取り扱いなどでは、機械による補助を利用するべきであり、客が自分のかばんを運ぶ場合も考慮されること。


確認される危険:厨房設備

ミキサー、スライサー、ナイフ、およびその他の器具はすべて、切り傷その他の皮膚の裂傷の原因となる可能性がある。さらに、ホテルの厨房には、触れると火傷するほど熱いものが数多く存在する。

危険にさらされるのは誰か

厨房で上記の器具を使用して作業する人、あるいはなんらかの理由で厨房を訪れる必要がある人

推奨される管理方法

  • キッチンのスタッフは、危険な厨房設備すべてに関して知らされ、指導を受け、研修を受けなければならず、また若いスタッフや未熟なスタッフは特に、厨房器具を使用する際には注意するよう教えられなければならない。
  • 厨房内の触れると火傷するほど熱いものの近くに「表面が熱くなっていますので、触らないでください」、または同様の言葉が明示された安全のための表示を施す。


確認される危険:すべる、つまずく、転倒する

ホテルの階段のカーペットが緩んでいる場合がある。ホテルの床、特に厨房や食堂の部分にはしばしば液体がこぼれていることがある。

危険にさらされるのは誰か

スタッフ、客、訪問者、請負業者が、十分に固定されていないカーペット上ですべり、つまずき、転倒する可能性があり、特に厨房、食堂の濡れた床の上ではすべって転倒する可能性がある。

推奨される管理方法

  • カーペットは問題が生じたらすぐに固定すること。
  • スタッフは床上のすべりやすい物質を清掃し、その一方で「床がすべる」ことを知らせる表示を行うよう指導されなければならない。
  • スタッフは、厨房/食堂部分のすべりやすい床面における清掃の重要性、およびこれが実行されるまでの間、安全のための掲示を行うことの重要性に関して、定期的に再研修を受けなければならない。


確認される危険:電気器具

ホテルには、コンセントやケーブルなどの電気器具があり、感電させたり、火災を発生させる場合がある。

危険にさらされるのは誰か

電気器具に暴露するすべてのスタッフ、客、および訪問者は、火災が発生した場合に、直接あるいは間接的にその害を受ける場合がある。

推奨される管理方法

  • 職場の電気規則「(Electricity at Work Regulations、1989年)」に準拠するよう、すべての器具を定期的に点検・検査すること。
  • 点検・検査を実施した日時を記録しておけるように、ホテルにあるすべての携帯用電気器具の項目リストを作成すること。
  • 担当として任命されたホテルのスタッフが、定期的な目視検査を行うこと。これにより、磨耗したケーブルや損傷したソケット、プラグなどを確認できるはずである。いかなる問題もすぐに対処すること。
  • ホテルが貸し出す移動可能な電気器具も、適切な資格を持つ者が、その使用について適切な間隔で定期検査・点検を行うこと。
  • 電気ケーブルを引きずることでつまずく危険や感電する危険を避けるために、ケーブルを床に固定すること。


確認される危険:傷害

ホテルのスタッフに関しては特に厨房で多様な負傷が発生する場合がある。

危険にさらされるのは誰か

ホテルのスタッフ、客、訪問者、および請負業者などすべて。

推奨される管理方法

  • ホテルには、救急処置の有資格者がいること。
  • 適切な事故記録帳が維持されること。
  • 事故記録帳が常に更新された状態に維持されるよう、スタッフはいかなる事故も救急処置担当者に届け出るよう指導されること。
  • 救急処置担当者は、ホテルに救急箱を常に備えておくこと。
  • 救急処置担当スタッフは、HSE(安全衛生庁)が承認した研修コースに基づいて発行された証明書を保持していなければならない。

救急処置担当者が職場を離れている場合には、負傷を負ったスタッフあるいは一般人が医師や看護師の処置を要する状況に備えて、事情者は、こういった状況を担当する者を指名すべきである。「指名された担当者」は緊急時の応急処置とこうした手順を想定して研修を受けた特別な状況下においてのみ救急処置を施し、それ以外はいかなる救急処置も自分で行ってはならない。「指名された担当者」は、救急処置の基本コースを修得した者とすべきである。

「指名された担当者」は、十分な資格を備えた救急処置の有資格者の代役ではなく、あくまでその不在時の補助的役割を果たす者である。

注記: 客(あるいはスタッフ)の体調が悪い場合に医師の助けを呼ぶための、明確な手順を設けておくべきである。英語を話さない客を迎える可能性があるホテルにおいては、通訳の利用を考慮に入れるべきである。


確認される危険:水泳用プール

水泳用プールがあるホテルについては、次のような危険が存在する場合がある。

  • プールの周囲のすべりやすい床
  • 安全でないプール設備:プールへの階段、滑り台および飛び込み台
  • 不適切なプール標識および安全装置
  • 不適切な監視の配備
  • 危険な化学物質の貯蔵/使用

危険にさらされるのは誰か

プールを使用あるいはこれに接触する客、スタッフ、訪問者、および請負業者

推奨される管理方法

  • プール周辺の床の状態はすべらないタイプのものであること。
  • 良好な状態が確保されるよう、プールへの階段は定期的に点検すること。
  • 飛び込み台は良好な状態で、適切に管理され、表面が滑らない材質であり、床から2m以上の高さの場合にはガードをつけること。
  • 滑り台は、台の端から安全に人が滑り降りられるものであること。
  • 滑り台や床などを含め、設備内のすべての部分が毎日の日課として整備されること。
  • すべての設備の使用方法について、標識がはっきりと示されること。
  • 可能な場合には、標識はイラスト入りのものであること。
  • すべての標識は現行の安全標識規則に準拠していなければならない。
  • 十分な人数の監視員が配置されなければならない。
  • 救助員が配備され、十分に研修を受けていること。
  • 緊急警報装置が適切に作動する状態であること。
  • 文書による緊急対応手順を備えること。
  • 化学物質の保管室は、はっきりとわかるように示され、安全が保たれ、適切な換気を行うこと。
  • 化学物質は完全に隔離しておかなくてはならない。
  • 液体化学物質が大量に、あるいはデイタンク(day tank)中に入っている場合には、適切に囲われていること。
  • 個人用保護具/呼吸用保護具が備え付けられ、化学物質を取り扱う際に装着されること。
  • 化学物質を扱うのに適した装置があること。


結論

この記事は、ホテルの敷地内に存在する可能性のある一般的な危険の一部と、スタッフやその他ホテルを訪れる人の安全衛生への危険を減らすために採用すべき管理方法について注意を促したにすぎない。しかしながら、ホテルの種類と規模、および客に提供する設備によっては、他にも多くの危険が存在する可能性がある。こうした状況を踏まえつつ、本文で概説した通りのリスクアセスメント手順を守るべきである。

さらに、事業者にはスタッフの安全衛生を保護する法的義務があるのみならず、経営するホテルの設備を訪れる他の人々の安全衛生を保護する義務もあることを忘れてはならない。このリスクアセスメントに記載された管理方法をホテル設備を訪れる人全員に適用することを奨める。それは労働安全衛生法第3条に準拠することでもある。