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事故原因の調査(第1部)

資料出所:The Royal Society for The Prevention of Accidents(ROSPA)発行
「OS&H」|2001年7月号 p.10−12
(訳 国際安全衛生センター)


近いうちに事業者には事故原因を調査する具体的な義務が課せられる。
これまでイギリス安全衛生庁(HSE)は、監督官、事業者、裁判所に対し、そうした調査が労働安全衛生法上の一般的責務と管理規則に含まれる要件であることを、実際に納得させようとはしてこなかった。当局としての指針は提示しなかったのである。そこで、HSEが25年前には発表するべきであった指針を提出するまでの間、RoSPAのロバート・マクマードが今月号と来月号で代役を務める。

調査の目的

事故、および事故調査の理由

「事故」とは、予測を超えた事態で、一人もしくは複数の人を負傷させ、もしくは負傷させかねなかったこと、または資産に損害を与え、もしくは与えかねなかったことと定義されることが多い。

事業者が事業場の事故原因を調査する必要があるのは、以下のいくつかの理由による。

  • 労働安全衛生法上の一般的責務と同管理規則を順守する。
  • イギリスでまもなく発効する具体的な法的要件を満たす。
  • 安全方針と、適用される安全規則の順守状況を点検する。
  • 災害のコストを見積もる。
  • 事業者に対してなされた補償請求を処理する。
  • 事業者による補償請求の準備をする。
  • もっとも重要なことであるが、事故の原因を把握し、同種の災害の再発を防止する。

事故によって負傷や資産の損害が発生していなくても、そのリスクがあった場合には、やはり調査を行い、重大な危険有害要因とリスクに対する事業者の評価を適切に検証すべきである。小さなヒヤリ・ハットでも大きなものでも、同じ原則が適用される。

事故調査の際、それを実施する個人またはグループは、事故の根本原因を把握することに集中すべきである。調査手順の実行自体を目的とし、本来の目的を忘れている調査があまりにも多い。

調査担当者

調査を担当する個人(またはグループ)

調査は、災害原因に関する専門家で、調査技術の経験をもち、作業プロセスについての知識があり、事業場の手順に明るく、事業場の人々と労使関係の状況を知っている人が担当するのが理想的である。

しかし、これらの資格を1人ですべて備えた人はなかなか見つからない。場合によっては調査チームを結成し、それらの有資格者を集合させる必要もある。これ以外の、たとえば組織の規模が小さいといった状況では、それまで調査の経験がほとんどない管理職または監督者を災害調査の責任者に指名することもある。

事業者が事業場の労働組合を承認している場合、労組の安全管理者は災害後の調査を実施する権限がある。労働組合が存在する多くの事業場において、事業者と労働組合が災害の合同調査を実施する協定を結んでいる。この場合は事業者と労働者の双方が調査チームに加わる。こうした調査には、主として以下の利点がある。

  1. 効率性。調査がばらばらに行われると、災害現場の生産停止が長引いたり、目撃者への聞き取り調査が重複するなどの事態が起きる。
  2. 客観性。調査担当者の偏見が、調査の適格性と結果に影響を与える余地が少なくなる。極端な例では、事業者の調査では被害者などの労働者に責任を負わせる証拠を探しかねず、労働組合の調査では事業者を非難することに集中しかねない。

現場の監督者を参加させる

調査チームのメンバーが誰であれ、災害現場の直接の監督者をチームに加えると有効である。当人は業務、関係者、現状について1番よく知っている可能性が高い。また監督者は迅速に改善策をとれる場合が多い。

現場の直接の監督者による調査の欠点は、事故発生時の当人の失敗を言いつくろう機会を与え、またそうした試みがなされる場合があることである。こうした事態は、労働者代表と事業者側のメンバーが、すべての災害調査報告書を批判的に検証すれば防ぐことができる。

公明正大を確保する

災害の原因は不安全な状態にあると確信する調査担当者は、原因となった「状態」の発見に努めようとする。反対に、災害の原因が不安全な行動にあると確信する調査担当者は、原因となった「ヒューマンエラー」を究明しようと試みる。したがって災害調査は、災害に至る一連の出来事のなかで重要な役割を果たす可能性のあるあらゆる潜在的背景要因について、十分な知識をもち、訓練された人に担当させる必要がある。

もっとも重要なのは、一見ごく単純そうな災害でも、単一の原因によるものである場合はきわめてまれという点である。

たとえば、ある「調査」が災害の原因を労働者の不注意とし、それで終わってしまっている場合、以下のような重要な質問への回答を追求していないことになる。

  • 労働者の注意が散漫だったのか? そうだとすると、なぜ注意が散漫になったのか?
  • 安全作業手順は守られたか? 守られなかったとすると、その理由は?
  • 安全装置は正常だったか? 正常でなかったとすると、その理由は?
  • 労働者は適切に訓練されていたか? 訓練されていなかったとすると、その理由は?

調査によって、上述の、および関連する質問への回答が得られれば、たいていの場合、単に「不注意」を防止しようとするより簡単かつ効果的な改善法が明らかになる。

調査における別の失敗例は、災害の原因を、たとえば装置の故障であると結論づけて、調査担当者がそれ以上の検証をしない場合である。その装置は、購入および据え付け以前に適切に評価されていたか? 定期的な整備点検で故障を発見できなかったのはなぜか? 故障の症状は事前に現れていなかったのか? それは報告されたのか? もし報告されたのなら、そのときに故障を修理しなかったのはなぜか? これらのあらゆる重要事項を検証し、調査の結論では、すべての原因を指摘しなければならない。

同様に災害の原因が、たとえば悪天候にあったとして、それ以上の検討をしない調査も失敗である。追求すべきは、そうした悪天候下での作業継続を許可した理由は何か? そうした悪条件下での作業に伴うリスクを除去するために、特別な監督、装置、または他の手段を導入しなかったのはなぜか? といった点である。

プロセス

災害調査のプロセスは、災害対応プロセスの3要素のひとつである。

災害対応プロセス

以下の災害対応プロセスは、調査プロセスが位置する段階と、調査プロセスにおける主な3つのステップを示している。


調査前

  • 災害の発生を、組織内の指定された人物に報告する。
  • 負傷者への救急措置および治療ができるよう、災害現場の安全を十分に確保する。
  • 死亡者の発生など、必要な場合は直ちに当局に災害の発生を報告する。
  • 調査担当者がリスクなしに立ち入ることができるよう、災害現場の安全を十分に確保する。
調査プロセス
  • 事実を収集する。
  • 原因を特定する。
  • 調査結果を報告する。

調査後
  • 関連するリスクアセスメントを検証する。
  • 改善策を立案する。
  • 改善策を実行する。
  • 改善策の効果を評価する。
  • 継続的な改善のための変更を加える。

災害またはヒヤリ・ハットの瞬間と調査開始時点との間で、なるべく時間を無駄にしない。そうすれば調査担当者は災害当時の条件を観察でき、証拠の散逸を防ぎ、目撃者を確認する可能性がきわめて高くなる。

ただし、災害現場の安全が確保されるまで調査担当者を派遣すべきではない。また当然ながら、負傷者への治療が済むまで調査担当者は待つべきである。

調査チームのメンバーが必要とする可能性のあるツール(鉛筆、紙、カメラ、フィルム、フラッシュ、巻尺、カセットレコーダーなど)は常に用意し、なるべく迅速に調査を開始できるようにしておくべきである。

調査へのアプローチ

上述のとおり調査担当者には、災害原因の把握に役立つ事実の収集を開始できるだけの能力が十分に備わっていなければならない。このことは、災害を引き起こす可能性のある事象についての知識をもち、したがって情報を求め、それをまとめる時に、その後の分析と報告作成のために何を検証し、何を質問すべきかを知っていることを意味する。

一般的には事業者や安全管理者など、災害調査に召集される可能性のある人々を対象に行われる研修では、ひとつまたは複数の「災害原因モデル」(accident causation model)をとりあげるのが普通である。

災害原因モデル

災害原因モデルは、「ハインリッヒのドミノ理論」から高度な"Management Oversight and Risk Tree(「経営者の不注意およびリスク・ツリー」)"(MORT)に至るまで多数のものが開発されてきた。

しかし一時的に調査を担当し、簡単で効果的な答えを求めている人には、これらのモデルは不適当だろう。簡単で一般的なモデルは、あらゆる災害の潜在的原因を以下の5項目に分類するものである。

  • 作業内容
  • 資材
  • 環境
  • 個人的要因
  • 管理的要因

このモデルを使う場合、各項目に該当する潜在的原因を調査する。各項目の内容は以下で詳しく検証するが、これらの質問は一般例でしかないことを銘記すべきである。各項目で検討すべき問題の種類を示しているのであり、したがって調査担当者は、特定の災害現場での出来事、活動、組織に関連した包括的なチェックリストを作成できなければならない。

作業内容

ここでは、災害発生時にとられていた実際の作業手順を検証する。

災害調査チームのメンバーは、以下に挙げたような質問への回答を求める。

  • 安全作業の手順はふまえていたか?
  • その安全作業手順どおり行えないことが生じたか?
  • 適切な工具と資材は用意されていたか?
  • それらを使用したか?
  • 安全装置は適切に機能していたか?
  • 必要な場合にロックアウトを使用したか?

これらの質問の大半は、その後に「答えがノーである場合、その理由は何か?」という重要な質問が続く。

装置と材料

使用した装置及び材料が原因となった可能性を検証するため、調査担当者は以下を質問する。

  • 装置は故障していたか?
  • 故障の原因は何だったか?
  • 機械の設計は不適切だったか?
  • 危険物が関係していたか?
  • それは明瞭に確認できたか?
  • 危険性の少ない代替物があり、利用できる状態だったか?
  • 原材料が、なんらかの点で劣化していたか?
  • 個人用保護具(PPE)を使用すべきだったか?
  • 個人用保護具を使用したのか?

繰り返すが、回答で不安全な状態が明らかになったとき、調査担当者は必ず、なぜそうした状況が見過ごされたのかを質問しなければならない。

環境

物理的環境、とくにその突然の変化は、把握しておく必要のある要因である。重要なのは災害発生時点での状況であって、「通常の」状況がどうであったかではない。以下は災害調査担当者が知りたいと考える内容の例である。

  • 天候はどうだったか?
  • 作業場の整理整頓、清掃に問題はなかったか?
  • 暑すぎる、または寒すぎることはなかったか?
  • 騒音は問題ではなかったか?
  • 照明は十分だったか?
  • 有毒または危険性のあるガス、粉じん、もしくはヒュームはなかったか?

個人的要因

事態に直接にかかわっていた個人の身体的および精神的状態を検証しなければならない。災害調査の目的は誰かの罪を立証することではない。しかし、個人の特性を検討しなければ調査は完了しない。基本的には変化しない要因もあり、また日によって変化する要素もある。

  • 労働者は実施していた作業についての経験があったか?
  • 労働者は十分な訓練を受けていたか?
  • 身体的に作業可能だったか?
  • 健康状態はどうだったか?
  • 疲労していなかったか?
  • ストレス(作業上または個人的な)を受けていなかったか?
  • 注意散漫な状態になかったか?

管理的要因

事業者は、事業場の従業員、他の労働者、および一般の訪問者の安全に対して法的責任を有している。したがって、災害調査では常に監督者と経営幹部の役割を検討しなければならない。ひとつの質問への回答から、必然的に次の質問が導き出される。以下はその例である。

  • 事業者による安全方針、組織、および体制は、従業員および他の労働者の全員に伝えられ、理解されていたか?
  • 事業者による安全規則は、顧客などの一般の訪問者に伝えられ、理解されていたか?
  • 手順書は備えてあったか?
  • それは強制的なものであったか?
  • 監督は十分になされていたか?
  • 労働者は当該作業遂行のための訓練を受けていたか?
  • 訓練が十分かどうかを監視していたか?
  • 災害に関連した危険有害要因が事前に把握されていたか?
  • それらを解決するための対策はなされていたか?
  • 不安全な状態は改善されたか?
  • 装置の定期的な保守は実施されていたか?
  • 定期的な安全点検は実施されていたか?

この災害調査モデルは、すべての潜在的原因を発見するための指針であり、また事実をばらばらに検討する弊害を少なくするための指針でもある。なかには、質問の一部を異なった項目に含めたいと考える調査担当者がいるかもしれないが、適切に質問がなされれば項目は重要ではない。明らかに項目ごとにかなりの重複がある。これは現実の状況の反映である。繰り返すが、上述の質問は完全なチェックリストではなく、例を示したにすぎないということを強調しておく。

以上のすべてをふまえれば、調査担当者またはチームが白紙の状態で調査に赴くことはなくなり、目的達成に役立つ事実の収集という作業のために、指針となるチェックリストを用意できるだろう。

来月号では、ロバート・マクマードが災害調査自体を検証する。具体的には、事実の収集(物理的証拠、目撃者の証言、聞き取り調査、背景情報)、原因の特定、調査結果の報告である。