このページは国際安全衛生センターの2008/03/31以前のページです。

騒音規制の改正

資料出所:RoSPA発行「Occupational Safety & Health Journal」2001年10月号
(訳:国際安全衛生セン
ター)


産業騒音振動センターのピーター・ウィルソンが、最近出された騒音指令がどのような意味を持つものか述べる。また、主な変更の要点と実施上の意味についての手引きを示す。併せて一般的によくある間違いや不備に基づいた、簡単な騒音アセスメントのひとつとして「健康診断」も掲載されている。

今回発令されることになった物理的因子(騒音)に関する新指令は、リスクアセスメントおよびリスクマネジメントに対して大きな影響を持つことになる。通常の騒音アセスメントの施行準備期間は2年(あるいはそれ以上)であるため、この規制の変更は3年後になるが、費用を最小限に留めるためには、早い段階で企業内の手順の改正を開始するのが賢明である。こうすることによって、事業場での騒音リスクを管理するのに必要な費用、人員、そして時間を大幅に低減することができる新しい技法や慣行を取り入れるために現行の騒音アセスメント手順を改正し、改善する機会を得る。

この指令で何が新しいのか

以下に示す比較表は、現在の事業場での騒音に関する主な規制要求内容と、新しい指令により改正される規制要求内容を比較したものである。

実際的な意味

現在の騒音アクション・レベルを5dB下げるのは明らかな結果をもたらすであろうが、その他にも改正後の暴露値に関する要求内容には、さらに微妙な実際的な意味合いが伴う。このような変更の持つ実際的な意味について以下にその一部の概要を示す。

1. 単位およびアクション・レベル (i) LEP,d および LEX,8h

変更なし。 現在のLEP,dは、新しいLEX,8hとまったく同じものである。この名称は、新しい指令が出たことを示す為のものかと思われる。

(ii) 第1アクション・レベル:85dB(A)から80dB(A)/ピークレベルは140dBから135dBへ

騒音の激しい場所だけでなく、静かな場所で騒音を測定することも常に心掛けておくべきだ。後日、静かであったことを証明できるからだ。

ただし、現在85dB(A)以上の場所のアセスメントと同じレベルで、80dB(a)以上の場所でも、詳細を記録する必要がでてくる。

また135dBという新しい第1アクション・レベルに対して個別の(非常に大きな騒音を伴う)事象を確認するために、さらに頻繁にピーク騒音読み取りを実行する必要もでてくる。

(iii) 第2アクション・レベル:90dB(A)から85dB(A)へ

現在90dB(A)で採用しているものと同じ方法を85dB(A)の手順についても適用すればよい。

注:聴力に対する実際のリスクは変わっていない。85dB(A)と90dB(A)は、いずれもリスク統計曲線上にあるポイントに過ぎないことはこれまでも認められてきた。新しい指令は、リスクの倫理的および社会的に「許容される」レベルが下がったことを意味している。

2. 許容限界値

新しい87dB(A) LEX,8h許容限界値は、防音保護具を着用した(また着用していない場合も)オペレーターの最大許容限界値を示している。すなわち、あらゆる状況で実際に耳に入る騒音を表していることになる。ただし、このアクション・レベルは、労働者が実際に仕事をしたり出向いたりする地域、場所、環境に適用されるものである。

従って、騒音暴露値の計算は保護具(PPE)を着用した場合も考慮に入れて、作業者の騒音暴露を推定する必要がある。理論的には、メーカーが提供する推定保護データを使用して、支給されたPPEを着用した時のそれぞれの騒音環境におけるオペレーターの暴露を推定することでこれを実行する。

3. 週間騒音許容限界値

原則的には、週の各日に対する騒音暴露値を合計し、7dBを減算して週間許容限界値を計算することができる。ただし、この平均化の手順が濫用されないようにするための条件が規制に定められることは当然であろう。

4. 騒音アセスメント

新しい指令に基づく規制では、新しいアクション・レベルと許容限界値を盛り込むことを目的として、アセスメント手順を改正することが求められる。アセスメントの間隔は最大で2年となるため、企業内手順を近いうちに改正する予定を立てるとよい。既存のアセスメント・フォーマットおよび手順が現在の「優良規範」に一致している場合には、この改正は費用と資源をほとんど必要としない。事実、この改正は、以下の「アセスメント・レビュー」にまとめたように現在の慣行を再検討し、最適化する好機である。

5. 防音保護具

既存の規制に関する指導書によると、防音保護具は、耳に対する騒音レベルを少なくとも90dB(A)未満に低減させることができなければならないとしている。新しい要件では、一日にそれ以外の騒音に対する暴露がないことを前提として、これを最大87dB(A)LEX,8hまで下げることになる。

ただし現在の「優良規範」では、PPEによって、耳に届く騒音レベルが第1アクション・レベルの85dB(A)未満に下がることが望ましい。PPEの標準的な現場での性能は、理論的に推定される性能を下回ることが実際上の問題のひとつとなっているため、この慣行は新しい第1アクション・レベルである80dB(A)まで広げられることはない。このことと、どのオペレーターに対しても100%の着用率を保証することは不可能であるという事実を併せて考えると、次のページの線表に示す95dB(A)をはるかに越えた騒音レベルに対して、労働者を適切に保護することは実際非常に困難となる。

実際に達成可能な最大値として99%の着用率を仮定し、(メーカーの理論値ではなく)現場での実績値を使用した場合、この図は、実際には、耳覆いが15dB程度、耳栓が10dB程度の幅でしか標準的に信頼のおける保護を与えることができないことを示している。


6. 健康調査

現行規制では85dB(A)で聴覚測定を受ける権利があるが、また「アセスメントおよび測定の結果が(中略)健康に対するリスクを示す場合における、労働者の適切な健康調査」に関する要件がある。これが実際的な意味合いを持つかどうかは、新しい規制の正確な記述によることになる。現時点では、聴力測定に関する権利は、NHSのもとで実施される測定を受けることができるかどうかにかかっている。事業場で聴力検査を求める圧力が高まる可能性がある。

アセスメント・レビュー

騒音アセスメントの主要目的は2つあり、聴力に対するリスクを評価することと、このようなリスクを可能な限り経済的な形で最小限にするためのアクションの詳細なプログラムを提供することである。結果として、効果的なアセスメントは、数年以内に何倍もの効果をもってそれ自体として採算がとれるような投資でなければならない。(技能講習運営のかたわら実施されてきた)長年にわたるアセスメント・レポートを検討すると、アセスメントの大部分が必要な基準に達しておらず、上記の目的のひとつ、または両方を満たしていないことは明らかである。改善の可能性が高い一般的な分野の例を以下に示す。

(i) アクション・プラン

騒音アセスメント自体が目的ではない。アセスメントを実施する唯一の目的は、今後1〜2年間のアクション・プランを策定することである。詳細な勧告の一覧および実施スケジュールがこの範囲に含まれる。

(ii) アセスメント・フォーマット

アクション・プランに加えて、アセスメントは騒音データと企業内の取り組み方を示すアーカイブとなっている。このデータを評価し、将来使用する必要(例:今後発生する聴力損害賠償請求の処理)があり、この手続きをできるだけ単純なものとするために報告のレイアウト、およびデータ書式に充分配慮しなければならない。聴力損失についての示談において、賠償金1,000ポンドあたり7,000ポンドから36,000ポンドの間接費用が会社側に発生していることを示すHSEの調査結果には、相当の根拠がある。

(iii) 個人暴露騒音計に基づくアセスメント

騒音アセスメントが気体、粉じんなどの毒性物質リスクアセスメントとは根本的に異なることは一般に知られていない。結果として、多くの企業が主に個人暴露騒音計に基づく評価が不正確であり、(例:誤って、あるいは不必要に騒音障害区域を指定した場合に)非常に費用がかかることになることを理解していない。個人暴露騒音計の結果が、携帯騒音計に比較して、最大6dB(A)の誤差を伴う特有の不正確さを伴うことはそれほど珍しくない。このような場合、リスク統計の基になるデータが携帯用騒音計を用いてすべて取得されていることから、個人暴露騒音計の数値は常に誤差があることになる。

(iv) 騒音管理

騒音管理プログラムに関する規制には特定の要件が存在する。ただし、アセスメントの多くは、この重要な要素を欠いているか、あるいは情報が一般的すぎて使用しにくい。理想としては、少なくとも効果的なプログラム実施の基礎として使用することができる騒音管理の選択肢について、費用も記載した一覧が提供されているとよい。このような選択肢はまた、現在の最高の技術に基づいたものであって、囲い、仕切り、消音装置のような従来型の手法のみに基づくものであってはならない。

結論

新しい指令の内容は、近未来の産業に向けた意味合いを持っている。とは言え、若干の計画を立てておけば、このような(特に費用に関する)影響への対処という点では、改正された内容が優良規範に基づいている限り現在の手順を少し改正するだけで済む。

新しい技法や技術を導入することで、来るべき変化をアセスメントおよびマネジメント・プロセスを最適化する上での動機づけとするような積極的なアプローチは、実際には騒音に関する全体的な費用を大きく減らすことになると考えられる。

より詳細な情報、事例研究、および応用ガイドは、産業騒音・振動センター(889 Plymouth Road, Slough, Berks. SL1 4LP. Tel: 01753 698800; Fax: 01753 567988; email: consult@invc.co.uk/web: www.invc.co.uk)より入手可能である。