このページは国際安全衛生センターの2008/03/31以前のページです。

工場のリスクアセスメント

資料出所:The Royal Society for The Prevention of Accidents(RoSPA)発行
「The RoSPA Occupational Safety and Health Journal」 2002年7月号 p.30-36

(仮訳:国際安全衛生センター)



 さまざまな職場のリスクアセスメントについてシリーズでお伝えしてきたピーター・エリスのコーナーは今月、工場をとりあげます。工場のリスクアセスメントを行う際の代表的な手順についてピーター・エリスがわかりやすく説明します。このコーナーの趣旨は、あらゆる危険有害要因を網羅したリストを提供することではありません。危険有害要因が他にも特定されたら、本文の概説にそって手順どおりリスクアセスメントを行ってください。


危険源 : 火災
工場内にあるすべての可燃性物質を火災の危険源と考えるべきである。

想定される被害者
工場で働く従業員と工場敷地内への来訪者全員。

災害防止対策
引火性物質や可燃性物質は安全に保管する。
火災の危険を減らすため、ごみはためずに毎日捨てる。
喫煙スペースを指定し、可燃性物質から離れた場所に設置する。
工場内の人間が安全に避難できるだけの数の非常口を設置する。
非常口は安全な場所へ続くものでなければならない。
すべての避難路に障害物を置かない。
すべての避難扉は使用可能の状態にしておく。
すべての自動閉鎖式扉は正常に作動する状態にしておく。
ドアは避難経路に向かって開くものでなければならない。
床も階段も良好な状態に保全修理しておく。
火災警報装置は正常に作動する状態にしておく。
適切な消防器具を十分な数だけ揃えておく。
職場全体に火気取り扱いに関する注意書を掲示する。
英国基準に従い、すべての消火器を年一回定期点検する。
上記の事項を従業員に通知し、説明し、教育する。
防火訓練では、火災発生時の警報の出し方、扉を閉鎖することの重要性、集合場所の確認、出火原因によって消火器を使いわける方法などを指導しなくてはならない。

職場の緊急時対策
1997年に制定された「1997年職場の火災予防規則、(第二部)、修正案 (Fire Precautions (Workplace) Regulations 1997, (Part II), as amended)」に基づき職場で緊急事態が発生した時の消火や避難の手順を規定した「職場の緊急時対策プラン」を作成しておく。


危険源 : 手作業運搬
従業員は部材を持ち上げて荷運び台から工場内の棚へ運んだり、棚から荷を回収したり、工場の床に置いてある箱から部材をとりだしてライン上のコンテナに詰めたり、完成品をラインから持ち上げておろしたりしなければならない。
従業員はからだをひねったり、曲げたり、押したり、引いたり、伸ばしたり、運んだりという反復動作を行うことが多い。

想定される被害者
工場で働く従業員全員。

災害防止対策
1992年に制定された「マニュアル・ハンドリング作業に関する規則(Manual Handling Operation Regulation)」は、荷を持ち上げたり運んだりする従業員たちをケガから守るために、事業者が従業員の業務内容をチェックし、段階に応じた災害防止対策を実施し、少なくともそのリスクをコントロールするか、可能であれば危険要因そのものを排除することを要求している。
できる限り荷を動かさないですむようにする。
オートメーション化もしくは機械化をはかる。
動かしたり持ち上げたりしなければならないコンテナ内部の荷を軽くするなど仕事の手順の安全化をはかる。
荷を持ち上げる時にはできるだけ体から離さず、抱き抱えるようにして荷を持ち上げるように指導する。
体をひねらないように足を動かすように指導する。
腰の高さで荷を持ち、前かがみにならないように指導する。
背伸びしないですむように、肩の高さより高い場所に部材を保管しないように指導する。
長い距離にわたって荷を抱えて運ばないですむように手押し車を使うように指導する。
部材を箱詰めにするなどして、不安定な状態の荷を運ばないように指導する。
定期的に休憩をとり、可能であれば日常業務の手順を変えるなどして反復的な作業を避けるように指導する。
持ちにくい箱には取っ手をつけるように指導する。
個人---特に男女---の体力の差を考慮し、自分の限度を超えた重さを持ち上げないように指導する。
従業員に上記の事項を通知し、説明し、教育する。


危険源 : 機械設備
工場にはさまざまな機械類や装置が設置されている。

想定される被害者
機械類の操作をするオペレーターと工場のフロアに出入りする人びと。

災害防止対策
事業者は、工場内で使用する機械設備については、本来の使用目的に合うように組み立て、調整されたものを用意しなければならない。
健康や安全を脅かす危険性がある機械設備の使用および保全については、事業者は運転操作に関して十分な訓練を受けた作業員に担当させなければならない。
クレーンは荷を上げ下げするのに十分な安定性と強度があり、特に据えつけ位置や取付け位置にかかる力を考慮したものでなければならない。また、吊り上げ装置と付属部品も十分な強度を有するものでなければならない。
クレーンは、作業員に荷が当たったり、荷が揺れたり、自然に落下したり、不意の投下による危険性を最小限度に抑えるため、安全な場所に設置しなければならない。
クレーンには、安全な操作ができる使用荷重限界を明示し、操作の際はいつもそのことを念頭においておく。
クレーンを使った荷揚げ作業は、有資格者が適切な管理のもと計画し、安全に実行しなければならない。
クレーンを、危険を招く劣化へとつながる環境で使用している場合、少なくとも12か月に一度は機械の点検を行わなければならない。
クレーンの詳細な点検記録は、クレーンの使用が終わるまで保存しておかなければならない。また、クレーンの付属物の点検記録は二年間保管しておかなければならない。
上記の機械設備に関する安全データシートと製造者・供給者向けマニュアルを入手し、指示どおりに厳守しなければならない。
従業員に上記の事項を通知し、説明し、教育する。


危険源 : 運送設備
フォークリフトはほとんどの工場に配置され、さまざまな作業をこなしている。
ほとんどの工場に大型トラックが往来し、部材や製品などの荷を下ろしたり、積み込んで運び出したりする。

想定される被害者
工場で働く作業員と工場敷地内にいる人びと。

災害防止対策
シートベルトと転落防止装置をフォークリフトに取りつける。
自分だけでなく、他の作業員やトラック、機械設備や工場装置に対し、安全に配慮しながら効率よく運転できるよう、フォークリフトのオペレーターを訓練しなければならない。
あらゆる防止策を講じ、歩行者がフォークリフト用通路やその他の輸送用通路に入らないようにすると同時に、輸送用通路に入っている歩行者には警告を発する。
フォークリフトは細部まで定期的に点検し、保全修理を行う。交替勤務時間のはじまりにタイヤやバッテリーのチェックを行い、50時間使用後には週一度の点検を行う。そして、少なくとも6か月に一度はすべての部品を細かく点検する。
整備点検を実施した者は、人に危害を及ぼすか、将来及ぼしかねない欠陥を発見したら、事業者宛にできるだけ早く署名入り報告書を提出する。
クレーンの欠陥による重大な傷害事故の危険が存在するか、もしくは発生が予測される時には、すみやかに安全衛生委員会事務局に報告しなければならない。
従業員たちは、配送車両が工場の敷地内に乗り入れた時から、配達用車両が工場の敷地外に出るまで注意する必要がある。
車両がバックする可能性があることを警告したり、スピードを落とすよう運転者に指示したり、バックで操作をする前と操作中に車道に何もないことを確認するよう、安全標識を立てておくこと。
工場側は、配送車両の運転手に場内はゆっくりと運転し、バックをする前と操作の際には車道に何もないことを確認するよう通知する。
工場側は、運転手の視野を広げる装置や可聴警告音、そして信号手や坑外監督の配置など、安全にバックしやすくなる装置の取りつけや、安全策をとるように配送会社に要請するべきである。
従業員に上記の事項を通知し、説明し、教育する。


危険源 : 滑り、つまずき、転倒
工場の床に置かれた物体につまずいたり、こぼれたものに滑ったり、転倒する可能性がある。

想定される被害者
工場内に出入りする人びと全員。

災害防止対策
不必要な部材は安全に廃棄する。
残った部材は収納用の棚やコンテナに保管する。
作業領域の整理整頓を心がけ、障害物を取り除けないようであれば、柵を設けたり、「床に置かれた障害物や物体は、不意につまずく原因になる」という標識をたてて警戒を促す。
床を定期的に掃除し、こぼれたものや破片が危険源にならないようにする。
床のゆるみ、穴、ひびわれ等をチェックする。
床の清掃やメンテナンス時に、新たな滑りやつまずきの原因となるような危険源を残さないようにする。
床にモノをこぼしたり、漏らしたりしないようにする。
こぼれたものは拭き取り、速やかに床を乾かす。
清掃は効率的に通常時間外に行うのが望ましい。
清掃後、濡れた床はしっかり乾かす。
通路やワークステーション内に障害物を置かない。
床を平らに保つ。
階段と手摺りの状態をチェックする。
はしごが安全に使われているかチェックする。
運送車両へのアクセスが安全に行えるかどうか確認する。
必要と思われるすべての保全業務---立ち入り検査、試験、調整と定期的な清掃---を実施する。そして、システムをチェックしやすいように保全業務記録を保管しておく。
棚と台の手入れ状態をよくし、安全に使えるようにする。
頭の位置よりも高い棚に部材を保管しなければならない時は、適当な高さの脚立を利用しながら部材をとれるようにする。
工場内外の照明の明るさが十分かどうかを確認する。照明が暗くなる前に電球の交換、修理、掃除を行う。
従業員に上記の事項を通知し、説明し、教育する。


有害源 : 有害物
工場ではさまざまな有害物質が取り扱われている。

想定される被害者
工場内の従業員全員。

災害防止対策
工場においては、多岐にわたる製品を製造するにあたり、さまざまな種類の有害物の取り扱いを余儀なくされる。使用する有害物については、「1999年有害物質管理規則(COSHH:Control of Substances Hazardous to Health Regulations)」に従って事前にその安全性について、十分な検討を行うべきです。より安全性の高い代替物質が存在するなら、それを利用することについても検討すべきである。代替物質がない場合には、有害物質を取り扱う従業員の健康と安全のリスクを低減する管理方法を採用する必要がある。
物質を安全に取り扱うシステムが確立されているか確認する。
従業員が物質を正しく取り扱っているか確認する。
必要に応じ、従業員に個人用保護具(PPE:personal protective equipment)を使用させる。
冷却システムが効果的に活用されているか確認する。
化学物質の保管や使用が行われている場所で飲食しない。また、食品や飲み物の保存や下ごしらえもしてはならない。
化学物質を吸入しないように職場の換気を十分に行うか、換気装置を用意する。空気中に化学物質が残存している可能性がある時は呼吸用保護具を必ず装着する。
眼球への接触を避けるために、化学物質の飛沫が顔にかかる可能性がある場合は、保護眼鏡など眼球を守る保護具を必ず着用する。眼球を守る保護具は英国基準2092に合格済みものでなければならない。万一、眼に異物が入ったら、流水で少なくとも15分以上洗い流すことが望ましい。そして、直ちに専門医の診察を受けるべきである。
有害物質の皮膚への接触を避けるために、有害物質を塗ったり混ぜたりするときは必ず防護服と保護手袋を着用する。
洗浄後、承認済みの皮膚洗浄液でさらに洗い流し、化粧水を塗布する。
従業員に上記の事項を通知し、説明し、教育する。


危険源 : 身体的傷害
工場ではさまざまな傷害事故が発生する危険性があるので、救急用具と救急設備を適切に整えておく必要がある。

想定される被害者
工場内の従業員と来訪者。

災害防止対策
救護班は、安全衛生庁(HSE)承認のトレーニングコースを修了済みであることを証明する証明書を保有していなければならない。
救護班の不在時に、従業員が疾病または傷害で開業医や看護師の治療が必要な場合、事業者は別の従業員を臨時救護担当者として任命できる。任命された者は緊急時の応急処置以外の治療行為を行えず、その治療行為も熟知しているものに限られる。臨時救護担当者に任命されるのは、緊急時の応急処置法に関する基本コースを受講済みの従業員である。
救護班の代理に任命された者は、安全衛生庁(HSE)承認のトレーニングコースを全過程修了済みの救護班と同等に扱われるものではなく、救護班の不在時のみ役割を担う。
標準的な救急箱のほかに解毒剤などの特殊な有害要因に対処するための装置や品目を救急箱の近くに保管しておく。ただし、その使用は特別な訓練を受けた救護班のみに認められる。
毛布、エプロン、はさみなど、被災者の搬送の際に使う可能性がある品目を補助用品とみなす。必要と思われる補助用品は救急箱のそばに保管する。
事業者は、使用済み外傷性医薬材料を安全に収集し、廃棄するためのプラスチック製汚物処理袋を用意しておくべきである。廃棄物の処理方法に関しては、関係当局の指導を受け、それに従うべきである。
すべての傷害事故を網羅している災害記録(accident book)は、工場の中枢部に保管しておくべきである。
被災した従業員が災害記録に記入することは、社会保障規則1979(Social Security Regulation)に基づく法律上の要件であることを知らされる必要がある。
災害記録は、以下の情報を記載していなければならない。被災人の氏名と住所、被災人の職業、災害の発生日時と発生場所、災害の原因と傷害の内容。
職場で発生した災害の報告と記録、そしてその原因調査には法律上の特別な要件がある。
職場で特定の災害が発生した場合、「傷害、疾病そして危険事態の発生報告に関する規定(RIDDOR)1995」に基づき、責任者は報告する必要がある。
「1995年負傷・疾病・危険事態報告規則(RIDDOR)」は、報告義務のある災害が発生した場合、健康と安全を推進する関係当局に最も早く伝えられる手段で報告することが求められる。通例、電話による報告となるが、その場合には引き続きEメールもしくは文書による報告を10日以内に行う。
上記の事項に関する情報は、地元の健康と安全を推進する関係当局に問い合わせるか、www.hse.gov.ukにアクセスすれば収集することができる。
従業員に上記の事項を通知し、説明し、教育する。


危険源 : 工場への来訪者
事業者は職場に出入りする人間の健康と安全を守る法令上の義務があります。それゆえ、このリスクアセスメントに羅列した災害防止対策を、工場への来訪者にも適用することをすすめます。


健康と安全に関する法令
事業者は、「労働安全衛生法1974(HSWA)」と「労働安全衛生管理規則1999(MHSWR)」の第三規定によって課せられた法律上の要件に従い、リスクアセスメントを実施しなければならない。
職場の「火災予防規則1997」は労働安全衛生管理規則と関連しあいながら機能する。それゆえ、事業者が労働安全衛生管理規則に基づいてリスクアセスメントを実施するための義務を果たすとき、火災予防規則のなかの関連条項を考慮しながら行わなければならない。
リスクアセスメントの結果は、「火災予防法1971」に基づいて事業者に課せられた火災検査証明書(fire certification)の要件を補足するものである。