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ショッピングモールのリスクアセスメント(イギリス)

資料出所:The RoSPA Occupational Safety and Health Journal
「OS&H」|2002年11月号 p.36-39
(仮訳 国際安全衛生センター)



 ピーター・エリス氏が、ショッピングモールで行わなければならないリスクアセスメントのプロセスを以下に記述する。

 ショッピングモールは、監督機関(具体的には、地方機関の環境衛生部門)によって低リスクの施設であると考えられているが、安全衛生に関するリスクは依然として存在している。ショッピングモールでの大部分の危険は、店、食堂等で働いている労働者だけでなく、そこを訪れる一般大衆にも影響を及ぼしている。

 ショッピングモールの所有者または管理者は、これらの人々の安全衛生を守るための法的な義務を負っている。このリスクアセスメントに掲げられた管理方法は、そこで働く人々及びそこに来る一般の人々に適用されるもので、これを実行する事によって、所有者または管理者は1974年労働安全衛生法(Health and Safety at Work Act 1974)第3条の規定を遵守することができる。

危険の特定:火災その他の緊急事態
  • ショッピングモールでの喫煙は火災の危険要因となる。
  • 電気器具は火災の危険要因となる。
  • 物の貯蔵は火災の危険要因となる。
  • 2001年9月11日のアメリカでのテロ攻撃の結果、保安はショッピングモールのような施設にとって大きな関心事項となった。
被害を受ける人

スタッフ、買い物客(一般大衆)、その他の人々

推奨する管理対策
  • ショッピングモール内での店舗では買い物客が喫煙することを禁止すべきであり、少なくともできるだけタバコを吸わないようにさせること。
  • ショッピングモールでは、スタッフに対して勤務中は禁煙とする方針を採用すること。
  • 許可された喫煙場所にはタバコの吸殻を入れる適切な灰皿及び金属製容器を用意しておくこと。これらの容器などは座る場所の近く及び買い物客がタバコを吸いそうな場所に置くこと。
  • 緊急火災避難手順を、スタッフ及びその他の人々用に、ショッピングモール内に掲示しておくこと。
  • 電気器具は定期的に検査、試験を行うこと。
  • 引込み電源にはブレーカーをつけておくこと。
  • 電気コードの長さは、できるだけ短くすること。
  • ゴミ、可燃物は毎日片付け、溜めておかないこと。
  • 緊急時に大勢の人がショッピングモールから避難できるための十分な出口を設けること。
  • 出口は安全な場所へ通じていること。
  • 通路及び避難通路には障害となるものを置かないこと。
  • 防火扉ははっきりと表示されていること。
  • 火災安全標識及び出口表示は見やすいものであること。例えばクリスマス用の装飾などでそれらを覆い隠さないようにすること。
  • 避難扉はいつでも使用できるようにしておき鍵をかけておかないこと。
  • 防火扉の自閉装置はきちんと作動するようにしておくこと。
  • 出口ははっきりと分かるようにしておき、適度の照明があること。
  • 避難扉は外開きになっていなければならないこと。
  • 全ての避難扉は、鍵がなくても開くようになっていなければならないこと。
  • 階段はきちんと修繕された状態になっていなければならないこと。
  • 通風口やダクトは、火・熱・煙が拡散しないようになっていなければならないこと。
  • 避難誘導灯はきちんと作動するようになっていなければならないこと。
  • 火災警報装置はきちんと作動するようになっていなければならないこと。
  • 火災警報器を鳴らす時は、誰もが火災の危険に巻き込まれないようにすること。
  • 火災警報器は、障害物が無く、はっきりと見える所にあること。
  • 十分な消火機器が置かれていて、それは適切な型式であること。
  • 可搬式の消火器は適切な場所に置かれ、すぐ使えるようになっていること。
  • 可搬式の消火器は1年に1回点検すること。
  • 職場の緊急避難計画は、ショッピングモール内に掲示されていなければならないこと。
  • 非常口は障害者の人にも利用し易いものであること。
  • 火災の際に建物から買い物客を避難させる特別な任務を持つスタッフが決められていなければならないこと。
  • 煙感知器は倉庫、保管場所、地下駐車場に適切に設置されていなければならないこと。もしそうなっていなければ、火災発見が遅れてしまうことになる。
  • 自閉式の扉はいつも閉めておき、決してドアストッパーなどを使って開けておかないこと。
  • 不審物及び不審者を見つけられるように、従業員と保安要員はよく訓練されていなければならないこと。
  • 不審物又は不審者に対処するための保安手順を決めておかなければならないこと。
  • 保安要員は、精神を集中し、絶えず警戒を怠らないようにするため、適切な休憩を取らなければならないこと。
  • 緊急避難手順は、火災用ばかりでなく、爆発等の脅威用のものも準備しておくこと。
  • ショッピングモールのスタッフに対して、上記の全てについて、訓練、教育、通知が適切になされなければならないこと。
職場の緊急避難計画

改正された1997年職場の火災予防規則(Fire Precautions (Workplace) Regulations 1997)のパート2を遵守するために、使用者は上述した危険から守るための、職場の緊急避難計画を作る必要がある。爆発といった他の脅威についても、この計画に含めなければならない。


危険の特定:暴力とストレス

接客中の客からスタッフへの身体的暴力及び言葉による暴力のリスクが増加している。

被害を受ける人

スタッフ、買い物客、その他の人々

推奨する管理対策
  • ショッピングモールはリスクアセスメントを行って、暴力及びストレスのようなリスクを受ける可能性が高いスタッフを特定すること。
  • ショッピングモールで働くスタッフに対しても礼儀正しく対応するよう、注意書きを掲げること。
  • ショッピングモールではアルコールを飲まないように促すか、禁止すること。
  • ショッピングモールは客の暴力に対して従業員の身の安全を計らなければならないこと。
  • ショッピングモールは、暴力をふるった客に対しては、刑事または民事的な法的手段を取る旨宣言すること。
  • ショッピングモールは、職場暴力対策を導入し、暴力事件が起きたらスタッフが報告するようにさせること。
  • 身の危険を避ける対策として、ビデオカメラ及び警報装置の設置、ドアに安全ロックをつける、カウンターを広くする、及びスタッフを守るためにスタッフ側のカウンターの床を高くする等の改善を行うこと。
  • 保安要員は、地域の警察と連携をとっておくこと。そうすることによって、暴力が発生した場合、電話で援護を求めることができる。
  • ショッピングモールは、ストレスの兆候があるスタッフ、その行動に変化があるスタッフを見つけ出すようにしておくこと。
  • 職場のストレスを少なくするよう、仕事内容の改善を計ること。
  • ストレスを防いだり、ストレスを受けた人を援助するための十分な資金が用意されていること。
  • ストレスの影響はひとりひとり異なるので、スタッフの個人的素質を評価すること。
  • スタッフがストレスで仕事を休んだ場合、使用者はその人が職場復帰できるように考えなければならないこと。健康に害を及ぼすような会社の要因を洗い出すために、新たに職場のリスクアセスメントを実施し、又は今までのリスクアセスメントを見直すこと。
  • 職場復帰のためのプログラムによって、スタッフが徐々に職場に復帰できるようにし、再発のリスクを少なくすること。
  • ショッピングモールのスタッフに対して、上記の全てについて訓練、教育、通知が適切になされなければならないこと。

危険の特定:車両

  • 荷物の揚げ下ろし場所及び駐車場で、動いている車にぶつけられるリスク。
  • 駐車場で車同士が衝突することによる傷害のリスク。
  • 有害な車の排気ガスに暴露されるスタッフ及び買い物客。
被害を受ける人

スタッフ、買い物客、その他の人々

推奨する管理対策
  • 駐車場は出来る限り、動いている車両から人が隔離されるように設計されていなければならない。
  • スタッフ及び買い物客が駐車場で車にぶつけられる危険があるような場合は、歩行者の近くを車が通るという危険を警告する安全標識が設置されていなければならない。
  • 車の衝突の危険を少なくするために、安全標識を設置したり、駐車場の床によく目に付く印をつけることによって、通行の優先権を示すこと。
  • 排気ガスを取り除くため、駐車場はできる限り換気を良くすること。
  • 排気ガスが許容濃度以下で、健康に害が及ばないように、駐車場及びショッピングモール内を監視すること。(空気を監視するために、職業ハイジニストに連絡することをお勧めする。)
  • ショッピングモールで働く配達運転手、ショッピングモールへ商品を運ぶ運転手に対しても安全対策を導入すること。
  • ショッピングモールに商品を配達する運転手に、この安全方針を知らせて、交通災害減少を行うこと。
  • ショッピングモールに属する配達運転手は、安全運転技術について、よく訓練されていなければならないこと。
  • ショッピングモールは薬物乱用対策を実行することが望ましい。
  • 倉庫のような所で働くスタッフは、よく目立つ衣服を着て、かつCEマーク(注:欧州連合の指令による安全規格に適合しているというマーク)付きの服でなければならないこと。
  • 車がバックしてくるという恐れがあるという警告、全てのドライバーがスピードを落とさなければならないこと、そして車をバックさせる時には、通路に誰もいないことを確認するといった事を安全標識に掲示しておかなければならない。
  • ショッピングモールは、配達会社に、車のバック時の対策、たとえば、運転者の視野を良くする装置、バックする時の警報音、信号係や監視係の活用等の対策がとられているかどうか確認すること。
  • スタッフはいつも適切に管理されていなければならないこと。
  • 全てのスタッフは、車の種類、またその車に関係して敷地内で発生しうる危険について知らされ、教育され、訓練されなければならないこと。
  • ショッピングモールのスタッフに対して、上記の全てについて訓練、教育、通知が適切になされなければならない。

危険の特定:作業用機器

ショッピングモールにはスタッフ及び客に危険となる業務用機器がある。業務用機器にはエレベーターとエスカレーターを含む。

被害を受ける人

スタッフ、買い物客、その他の人々

推奨する管理対策
  • 業務用機器が安全衛生にリスクを及ぼす場合、使用者はそのような機器のメンテナンスは行う作業について適切な訓練を受けた者のみが行うようにしなければならないこと。
  • 使用者は、危険な機械部分に近付けないような措置を講じなければならないこと。
  • エレベーターは、適度の強度及び安定性を持っていなければならないこと。取り付け部分、固定部分に発生するひずみには特別な注意を要すること。
  • エレベーターは、出来る限りリスクを最小限とするために、安全な位置に正しく据え付けられなければならないこと。
  • エレベーターにははっきりと安全荷重が書かれていなければならないこと。あるいは、これらの詳細な情報がエレベーターに添付されていなければならないこと。
  • エレベーターが危険な結果を招きかねない損害を受ける状態にある場所では、少なくとも12ヶ月毎に点検されなければならないこと。
  • エレベーターの詳細な検査報告書は、リフトの使用が終わるまで保管しておかなければならないこと。更にエレベーターの付属部品についても、詳細な検査報告書を2年間保管しておかなければならないこと。
  • 安全データーシート及び製造者・供給者マニュアルは、業務用機器と共に入手し、かつ取り扱い説明書を添付しておかなければならない。
  • ショッピングモールのスタッフに対して、上記の全てについて教育、訓練、通知が適切になされなければならない。

危険の特定:滑り、つまずき、墜落・転落

ショッピングモールでの危険には、使われている床のタイプ、濡れた床、階段、床に這わせた線等による滑り、つまずき、墜落・転落がある。

被害を受ける人

スタッフ、買い物客、その他の人々

推奨する管理対策
  • 整頓すること。もし障害物を取り除くことが出来ない場合は、それに気づかずにつまずきの原因となる恐れがあるので、安全標を出すか、柵などを設けることによって人々に警告すること。
  • 床は滑らない仕上げにして、定期的に穴、亀裂等をチェックすること。
  • 清掃中、及びメンテナンス作業中、滑り、又はつまずきの危険を新たに発生させないようにすること。
  • 床は、乾燥した状態に保つ。
  • 検査・テスト・調整・清掃といった必要なメンテナンス作業は、適切な周期で行うこと。状況がチェックできるように記録を保管しておくこと。
  • ショッピングモールは、スタッフ・買い物客・その他の人々に対して、引込み線が危険とならないようにしなければならない。もし、そのように出来ない場合には、床に安全に固定できるようゴムカバーで覆うこと等によって、引込み線を安全な位置に固定しなければならない。
  • 照明が十分であることを確かめること。
  • 照明があまりにも暗くなる前に取り替え、修繕、掃除すること。
  • ショッピングモールのスタッフに対して、上記の全てについて、訓練、教育、通知が適切になされなければならないこと。
危険の特定:傷害及び健康障害

  • ショッピングモール内では、色々な傷害がスタッフ・買い物客・その他の人々に発生する恐れがある。
  • スタッフ・買い物客は、ショッピングモール内で、病気にかかる恐れがある。
被害を受ける人

スタッフ、買い物客、その他の人々

推奨する管理対策
  • 救急員(first aid personnel)は、英国安全衛生庁(Health and Safety Executives : HSE)公認の訓練コースで発行された証明書を持っていなければならないこと。
  • 救急員が職場から遠くにいる状況下では、病気又は怪我をしたスタッフ又は買い物客が医師、又は看護師の助けを必要とする時に、使用者は、対応できる人を指名することができる。この「指名された者(appointed person)」は、緊急の応急処置(emergency first aid)以外のいかなる応急処置もしてはならない。そして、この指名された者は、応急処置(emergency first aid)の手順について、特別に訓練されている場合のみそれを行うことができる。指名された者は、基本的な応急処置のコースに出席すべきであること。
  • ショッピングモールと、救急隊との間の取り決め、例えば、負傷者に関する電話連絡、そして、救急車が建物に到着したらどこに駐車するかといった取り決めをしておかなければならないこと。
  • 通常の救急箱の中身に加えて、補足的な器具が必要となること。それには、負傷者を運ぶ器具等、毛布、エプロンおよびその他の適切な保護器具、はさみといったようなものが含まれる。そのような器具が必要と思われる場所では、救急箱の近くにそのような器具が保管されていなければならないこと。
  • 使用者はまた、汚れた手当て用品(ガーゼ、脱脂綿など)を安全に集めて処理するための、プラスチックの汚物処理袋を用意しておかなければならないこと。処理手順については、自治体の指導をあおぐこと。
  • 全ての傷害は、災害記録簿(accident book)に記録されなければならず、その記録簿は、建物の本部に保管されていなければならないこと。
  • スタッフは、傷害を被った時には、1979年社会保障(請求及び支払い)規則(Social Security (Claims and Payments) Regulations 1979)に従って、記録をつけるという法的要件について知らされていなければならないこと。
  • 災害記録簿には次の情報が含まれなければならないこと。傷害を被った人のフルネーム・住所・職業・事故の日時・事故が起こった場所・傷害の原因と種類。
  • 責任者は、1995年負傷・疾病・危険事態報告規則(Reporting of Injuries, Diseases and Dangerous Occurrences Regulations 1995 : RIDDOR95)に基づいて、職場で起こった特定の災害について報告しなければならないこと。
  • この規則は、安全衛生取締当局に報告すべき災害については、電話、e-mailなどによる最も迅速な方法で報告しなければならないと定めている。
  • ショッピングモールのスタッフに対して、上記の全てについて、訓練、教育、通知が適切になされなければならないこと。