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職場の騒音
Noise at work

資料出所:The RoSPA Occupational Safety and Health Journal
「OS&H」|2003年4月号 p.34
(仮訳 国際安全衛生センター)



現行の職場騒音規則の要求事項を概観し、欧州議会・理事会(European Parliament and Council)により最近採択された「物理的因子に関する指令(Physical Agents Directive)」が、将来制定される規則に及ぼす影響について、ピーター・エリスが論評する。

 「1989年職場騒音規則(Noise at Work Regulations 1989)」では、騒音による危険のアセスメントと管理にかかわる義務の枠組みが規定された。当該規則では3つのアクション・レベルが規定されている。第1アクション・レベルは日常的な繰り返し騒音暴露レベルが85dB(A)、第2アクション・レベルは日常的な繰り返し騒音暴露レベルが90dB(A)、第3アクション・レベルはピーク騒音レベルが140dB(A)または200パスカルと規定され、射撃音や爆発性の騒音など不意の騒音への関連づけが考えられるものとなっている。
 騒音暴露レベルが85dB(A)以上になりそうな場合、事業者は「職場騒音規則」に基づく法的義務により、適正で十分な騒音アセスメントを実施しなければならない。この評価は、2メートル以内で他人に大声で話さねばならないか、他人の声を聞き取りにくい場合はいつでも実施されねばならない。当該アセスメントは「適任者(competent person)」が実施しなければならない。当該「適任者」とは、許容できない騒音レベルに暴露されている作業員を特定し、事業者に騒音に関する十分な情報を提供して必要措置を講じさせることのできる者である。
 対象となる騒音アセスメントにかかわる作業内容に大きな変化があった場合、または当該アセスメントの有効性に疑義を呈する理由があるときはいつでも、騒音アセスメントを見直さねばならない。「職場騒音規則」では、騒音アセスメントに関わる適切な記録の保管とアセスメント見直しの実施を事業者が確実に行うことが義務付けられている。

「物理的因子に関する指令」

 「物理的因子に関する指令」の「騒音」セクション(「振動」にも適用できるセクション)は2002年12月/2003年1月に欧州議会・理事会により採択され、同時期に「EC官報(Official Journal of the European Communities)」に掲載された。
 英国では遅くとも2005年12月/2006年1月までに新職場騒音規則の採用、施行を実施しなければならない。「1989年職場騒音規則」からの主な変更点は、現在の騒音アクション・レベルを下げることである。事業者は事業場の騒音を音源でさらに低減し、聴力保護具を着用することで作業員が暴露されている騒音レベルを、現在の法律規定で規定されているレベル以下に低減できる必要がある、ということを意味する。現在の高い方のアクション・レベルは90dB(A)から85dB(A)へ、また低い方は85dB(A)から80dB(A)へ低減される。許容限界値は87dB(A)となる。

難聴

 騒音により内耳の有毛細胞や神経は損傷を受け、いわゆる知覚神経の難聴となる可能性がある。80dB(A)超の繰り返される騒音により、内耳の小さな有毛細胞は急速に振動する。有毛細胞はその反応域値を上方に修正することで急速な振動を起こすため、弱音にはもはや反応しなくなる。このような状況で、一過性難聴(temporary hearing loss)が生じる。一過性難聴になると、聴力が回復するまで数時間を要する。この現象は一時的聴力損失(一時[的]閾値移動)(temporary threshold shift)として知られている。作業員が先のレベルを超える騒音に常に繰り返し暴露されていると、一時的聴力損失は最終的には永久〔的〕聴力損失(permanent threshold shift)となる。有毛細胞は一度損傷を受けると修復されないので、永久〔的〕聴力損失は不可逆的な現象である。
 騒音は難聴を引き起こすだけではなく耳鳴り(tinnitus)としてしられるような状態になる。この状態では耳の中で音がこだまして不快な状態になる。耳鳴りは有毛細胞が音にたいして過度に共鳴するものと説明されているが、実際には耳の中でのエコー現象であり、正常な聴力の人の場合、このエコーは聞こえなくなる。
 難聴は「リクルートメント(recruitment)」と呼ばれる状態も引き起こす。すなわち、難聴になるとだんだん声が大きくなるのである。この現象では普通の大きさの音がゆがみ、この症状を患っている人間は相手には「もっと大きな声で話してください」と言う一方、話しかけた相手からは、「叫ばないように」と注意されてしまう。
 騒音が原因の難聴により、難聴を患っている人間は人とのつながりがとだえてしまうということもある。現在語られていることを聞き取れないため、会話に入れず、社会的な交流はさらに困難になる。職業性難聴は、警告音を聞き逃すなど、事業場における他の安全衛生上のリスクを招く原因ともなる。

騒音測定

 ある種の測定器を用いると騒音を測定できる。電子騒音計にはマイクロフォンが一つ搭載されており、音の波動を電流に変換する。生成された電流は音の強度の尺度として利用され、測定値は一定の標準時間における平均値として算出される。
 事業場の騒音測定器では一般的に「A」特性周波数重み付け(weighting)を行うことができる。「A」特性周波数重み付けは、人間の聴覚機構に最も効果的な周波数に対応するからである。騒音計には、「A」特性周波数重み付けの調整設定ができるため、騒音アセスメントはこの重み付け調整をした測定モードで実施する。
 騒音レベルは時間を経るにつれ変動する傾向があるため、変動を平均化して騒音レベル近似値を算出する方法が考案された。近似値は連続等価騒音レベルと表現され、dB(A)Leqという単位で表わされる。このような騒音計では、一定時間に伝わったエネルギー量を精確に読み取ることができる。個人に対する1日あたりの騒音暴露レベルは、A特性周波数重み付け音圧レベルの測定値(Leq)と騒音暴露時間で確定することができる。

難聴リスクの低減

 騒音暴露レベルを制限または制御する方法はさまざまである。騒音の少ない機械類を作業員に使用させる、騒音源からの音の発生量を低減させる、騒音源を囲いで仕切る、そして最後の手段として、聴力保護具を作業員に支給することなどである。

低騒音機械類の使用

 第2アクション・レベル以上の騒音を発する機械類を作業員に使用させず、騒音の少ない機械類に切り替えさせることができよう。しかし、難聴を患っている作業員全員に騒音の少ない機械類の操作を許可することは不可能であるため、この方法は非現実的かもしれない。その上、難聴を患っている作業員の騒音被曝レベルは依然として第二アクション・レベル以上のままである可能性もある。したがって、唯一確実に実行できる選択肢は、事業場で最も騒音の大きい作業設備・機材から着手してその騒音源での騒音を低減することである。

騒音源からの騒音量の低減

 作業設備・機材類が発する騒音の削減方法で事業者が取り組めるものは多様である。機械類にゴム製ストッパーやプラスチック覆いを施すことや、機械構成部位のガタツキ音を解消させることなどが考えられる。排気装置やジェットエンジンへの消音器の取り付け、低騒音のエアノズル、ジェットポンプによる排気装置、優れた空気力学的原理を利用した洗浄ガンの導入などの対策はすべて騒音源から騒音を低減させることになる。優良な事業者はすぐに機械保守の認定技術者を擁し、騒音を最低レベルに保持させることができるだろう。

騒音源を囲う

 騒音源を囲うことで、騒音レベルは著しく低減できる。この対策は、作業設備・機材の適切な囲い柵、覆いを提示してくれる、設備機材メーカー、サプライヤ、技術コンサルタントに相談することで実現できる場合がある。設備機材メーカーやサプライヤは、作業設備・機材が発生すると思われる騒音に関する情報を提示する法律上の義務がある。
 現場ごとで製造可能なオーダーメードの囲い柵、覆いは、旧型の機械類の騒音低減には対費用効果の高い効果的な方法であって、事業場全体の騒音を著しく低減できる方法でもある。騒音低減用の囲い柵、覆いを使用することで事業場全体の騒音は、約10dB(A)低減される。囲い柵、覆いの素材も多岐にわたり、薄板、ベニヤ板、強化ガラス/プラスチックなどがある。囲った内側に音がこもることを防ぐために吸音材を内側表面に装着する必要がある。ライナー材としては、ウレタンフォームで十分であろう。

聴力保護具

 聴力保護具は効果的な騒音管理策の代用として使用してはならない。一般的に聴力保護具は、他の手段による騒音被曝管理が完璧に実施されている上での、暫定措置とされている。
 事業者は、構内のどこであれ、作業員が第2アクション・レベル以上の騒音に暴露される可能性のある区域を「聴力保護具着用ゾーン(ear protection zone)」として指定すべきである。「聴力保護具着用ゾーン」は、英国国家規格BS 5278に規定の標識により、区分けし、識別しなければならない。当該標識には、当該区域が聴力保護具着用ゾーンであって、この区域内にいる間は作業員に個人聴力保護具の着用が義務付けられる旨の文章を記載しなければならない。
 HML法による聴力保護具減衰指数(Hearing Protect Attenuation Index)は、英国安全衛生庁(Health and Safety Executive : HSE)が改正版「『職場騒音規則(1989年)』へのガイダンス」(2000年発行)の中で公認している。この指数は、聴力保護具がどの程度作業員の聴力を保護するかの見極めに利用できよう。しかし、聴力保護具はどのような種類の物であれ、作業中つねに適正に着用してはじめて聴力保護の役目を完全に果たすことができるのである。適切に着用しなければ、保護具の効力は著しく阻害され、難聴を引き起こす可能性が生じる。
 聴力保護具はメーカーの取扱説明書に従って、着用、調整、保守、定期点検を実施しなければならない。聴力保護具はいくぶん余分に購入し、直射日光や直接の熱を避け、乾燥した冷暗所で保管されねばならない。こうすることで使用済みの保護具と新品を比較し、新品と交換すべき時期を特定することができる。
 過度の騒音暴露の危険性と聴力保護具を未着用だった場合の影響にかかわる十分な情報、指示、教育を、作業員は受けなければならない。また、自分が使用する保護具の適切な着用方法、洗浄・保守方法と、作業中の保護具常用の必要性に関する教育も受けなければならない。
聴力保護具を事業場で使用し始めたら、事業者側からひとり監督者を任命して、保護具使用の監督、管理を実施する。適切な資材・人材を配置して、使用要綱を確実に設定し、管理・整備すべきである。
 さらに、在庫管理を適切に実施して常に交換、予備品入手が可能であるようにする。最後に、事業者側が自ら聴力保護具を着用し、また、保護具着用が義務付けられている地域に入る訪問者にも必ず着用させることを通じて、事業者が要綱を遵守していることを実証すべきである。

騒音レベルの見直し

 技術的制御を実施した後に、現在第2アクション・レベル以上の騒音を発している作業設備・機材に対する騒音測定を多く実施することが推奨される。測定実施後もなお第2アクション・レベル以上の騒音を発するようであれば、作業員は引き続き聴力保護具の着用が義務付けられる。

記録

 このような騒音アセスメントの記録を保存して、安全衛生監督機関の監督時に、必要に応じて参照できるようにしておかねばならない。これは、従業員5人以上を擁する事業所に対するすべての種類のリスク・アセスメントについて共通の義務である。

詳細情報

  • 「職場の騒音の低減 - 『1989年職場騒音規則』へのガイダンス("Reducing Noise At Work - Guidance on the Noise at Work Regulations 1989")」(英文)2000年発行。HSEブックス。PO Box 1999, Sudbury, Suffolk, CO10 2WA、電話:01787 881165、FAX:01787 313995 URL: www.hsebooks.co.uk
  • 「物理的因子に関する指令(Physical Agents Directive)」に関してさらに詳しくは、www.hse.gov.uk/hthdir/notrames/noise/letter.htmを参照。

*The Noise at Work Regulations 1989 はこちらでご覧になれます。
*HSEの騒音に関するページはこちら