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職場の輸送用設備
(解説:ピーター・エリス)

資料出所:The RoSPA Occupational Safety and Health Journal
「OS&H」|2003年12月号 p.38
(仮訳 国際安全衛生センター)



 様々な職場におけるリスクアセスメントのシリーズの一環として、ピーター・エリスが職場における車両のリスクアセスメントの際に行うべき標準的なプロセスについて説明する。職場の車両に関連する主なハザードを示しながら、被害にあうのは誰か、そして従業員その他の安全と健康に対するリスクをコントロールするための対策について解説する。

 「職場の輸送用設備」とは、職場(公道を走行する場合を除く。)において、事業者、自営業者、または訪問者が使用する車両または移動式設備をいう。

 職場の運送による災害が、死亡、骨折、手足の切断の原因となることも考えられる。通常、このような災害には、移動中の車両に衝突されたり、轢かれたりすることや、車輌から落ちたり車両から落下してきた物(一般的には積荷の一部)に撃突されること、車両の転覆事故などが含まれる。
 事業者や労働安全衛生の専門家で、職場の運送によるリスクを自分たちの労働安全衛生マネジメントシステムにまだ完全には組み入れていない人々も多い。しかし、対策を取るべき、多くの職場の運送による災害がまぎれもなく存在していることは疑う余地がない。
 職場の運送によるリスクアセスメントは、HSCが「活性化」構想として優先した8つの分野のひとつに挙げられている。
以下の諸規則では、事業者に対するさまざまな責務が制定されている。
「1974年労働安全衛生法(HSW法)(Health and Safety at Work etc Act 1974)」
「1999年労働安全衛生管理規則(Management of Health and Safety at Work Regulations 1999)」
「1992年労働安全衛生福祉規則(Workplace (Health, Safety and Welfare) Regulations 1992)」
「1998年作業用機器使用規則(Provision and Use of Work Equipment Regulations 1998)」
 最も重要なことは、安全衛生上の要件を遵守するためにはどのような対策が必要となるかを特定し、その対策を効果的に処理できるリスクアセスメントを実施するという、法的義務が事業者に課せられていることである。またこれとは別に、安全衛生上のリスクを生じず、安全な車両を供給するという法的義務が製造業者と販売会社にも課されている。この義務の中には、車両を安全に使用するための取り扱い説明書を供給することも含まれている。

  ハザードの特定:整備不良

 整備不良の車両は、災害発生の可能性を増大させる。

被災者は誰か

 職場において動いている車両と接触するおそれのある人々。

推奨する管理対策

毎日、車両運転前に車両周りを歩き、不具合がないか確認すること。
運転者が2名以上となる場合は、それぞれの運転者が運転前に車両点検を行うこと。
簡単な点検としては、点検チェック・リスト方式によること。
車両の修理を実施できるのは、有資格者に限定すること。
週ごとにメンテナンス(50時間走行後)を行うこと。
最低半年に一度、すべての可動パーツを徹底的に検査すること。
タイヤの磨耗度とタイヤ空気圧は定期的に監視すること。
ホイール・アーチに正しいタイヤ空気圧値をマーキングしておき、タイヤ圧ゲージを車両内に載せておくこと。
タイヤ圧が不良であると、ステアリング操作とブレーキ操作に悪影響を及ぼすこと。
車両ブレーキは適正で十分な効力があること。
車両の全重量と最大積荷量が標示されていること。
車両には、後退時に運転者が後部を確認できる装置や警報装置を設置するとともに、誘導者、合図者などを配置すること。
事業者は、その従業員が移動式機器に乗る場所では、転覆によるリスクを最小限にすることを確保すること。
制動時には十分注意して、積荷が落ち、車両を倒す原因とならないようにすること。
特に車両リフト使用中や、傾斜路面や傾斜した床面に駐車中の職場の車両は、必ずブレーキをかけるか輪止めをすること。
職場の車両のエンジン始動時は、必ずブレーキをかけた状態で、ギアをニュートラルに入れて行うこと。
フォークリフトなどの職場の車両は、横すべりしないような構造として安定させること。それでも制御できない転倒のおそれがある場合は、車両内の作業者の安全を守るのに十分な空間が車両内に設けられていること。
移動式作業機器が転倒した場合に、作業機器内の作業者が押しつぶされないような適切な装置を車両に装備すること。これにより安全上のリスク全般が増大すると思われる場合や、移動式作業機器を操作する上で実際的でないと思われる場合は、この措置は適用しないこと。
従業員に対して、上記のすべてについて通知、教育、訓練が適切になされなければならないこと。

  ハザードの特定:職場のレイアウトと設計の不備

 走行通路が明示されていない場合、歩行者と運転者の傷害リスクが増大する。

被災者は誰か

 職場の移動車両と接触するおそれのある人々。

推奨する管理対策

職場の運送の問題は、職場設計の初期段階で考慮し、事後に初めて対処するようなことをしてはならない。
職場は、車両が後退する必要を減らすように設計すること。
安全標識には、車が後退してくるというおそれがあるという警告、すべての運転者が速度を落とさなければならないこと、車を後退させる時(後退前と後退中)には、通路に誰もいないことを確認することなどを掲示しておくこと。
通路の一般ルールとしては、「左側通行」とすること。
警笛を鳴らすことで、通行の優先権を得るということではないことに留意すること。
出入り口前では停止すること。出入り口前では警笛を鳴らし、ゆっくりと進むこと。
床は、床材の緩み、穴、亀裂などの状態を点検すること。
職場では、従業員、顧客、訪問者、その他の人々に安全な駐車場を提供すること。
従業員に対して、上記のすべてについて通知、教育、訓練が適切になされなければならないこと。

  ハザードの特定:歩行者の往来

 職場での運送関連災害で傷害を受けた人の70%は歩行者である。

被災者は誰か

 職場での歩行者。

推奨する管理対策

車両が広く稼動できるように、車両用に広い空間を設け、良好な視界を確保し、「歩行者専用通路」、「車両専用通路」を設けること。
職場の車両専用通路に歩行者が入れないようにするためのあらゆる措置を講じ、歩行者が車両専用通路に入らざるを得ない場合は、十分に歩行者の注意を喚起させること。
歩行者が付近にいる場合は、運転者は十分な注意を払うこと。
歩行者にはよく目立つ服装を供与すること。
すべての従業員に、つま先に鋼鉄製のキャップを内蔵した安全靴を供与し、車両や車両から落下する積荷から足を保護すること。
すべての従業員と訪問者に、保護帽を供与し、車両から落下する積荷から頭部を保護すること。
従業員に対して、上記のすべてについて通知、教育、訓練が適切になされなければならないこと。

  ハザードの特定:訓練を受けていない運転者

 不適任な運転者は、職場の運送災害のリスクを増大させるおそれがある。

被災者は誰か

 職場にいる人々。

推奨する管理対策

事業者は職場車両の運転者の適応性を、初期段階と長期にわたって確認すること。
雇用前、疾病、傷害から職場復帰した後、そして中高年の運転者に対しては、5年ごとに健康診断を実施することが望ましいこと。大規模事業場では、労働衛生部門が健康診断を実施することができるが、このような部門がない事業場では、それぞれのニーズに基づいて外部の労働衛生機関に依頼し、実施すること。外部の労働衛生機関の名称については、地域のHSEの労働衛生相談部(EMAS:Employment Medical Advisory Service)に問い合わせるとよい。
フォークリフトの運転者を選定する場合の健康面での重視事項は以下のとおりであること。
胴、首、手足が完全に動作し、通常の敏捷性を有していること。
安定した性格であること。
大半の場合、両眼の視力が一般的に有効なものであること(通常の視力が、75フィート離れた位置から車両のナンバープレートを読むのに必要な視力以上であること)。
聴力が正常であること。
一般的な自動車免許証を取得する資格がある場合を除き、てんかんの症状がないこと。
フォークリフトの運転者の選定基準は特にないが、選定される者は、応分の身体的、精神的適応性と知性があり、信頼するに足る十分な分別のある人が望ましいこと。しかしながら、運転者の適性を考える際に、ハンディキャップのある人や身体が不自由な人を除外してはならないこと。それぞれの場合の能力に応じて判断すべきであること。
従業員に対して、上記のすべてについて通知、教育、訓練が適切になされなければならないこと。

  ハザードの特定:コミュニケーション不足

 経営者と、運転者や歩行者である従業員の間のコミュニケーションが不足していると、職場の運送にかかわる傷害のリスクが高まる可能性がある。

被災者は誰か

 運転者や歩行者である従業員。

推奨する管理対策

運転するよう選出され、研修を受け、認定されているか、または、監督者のいる正式の研修を受講中でない限り、いずれの職場の車両も、運転してはならない。
運転者は、職場の車両を効率的に操作し、また自分たち自身、他の人々、車両、工場、設備の安全に留意しながら操作するのに必要な水準または技能に達するまでに訓練を受けていること。
すべての従業員は、車両の種類、またその車両に関係して施設内で発生しうる危険について知っていること。
すべての従業員は作業職場にて運送車両の通行があることを知っておくこと。また可能な限り、それら車両が通り過ぎるまで、その通路外にいるようにすること。
配送車の運転者には、ゆっくりと運転するようにし、後退前と後退中には通路に誰もいないことを確認するように指示をすること。
配送車の運転者には、速度を落として運転するようにし、後退前と後退中には通路に誰もいないことを確認するように指示をすること。
飲酒状態での運転、また、運転に支障を来すような違法なまたは処方された薬物を服用しての運転は厳禁されていることを運転者に周知徹底しておくこと。
可能な限り、飲酒・薬物服用については"ゼロ・トレランス"方針を導入し、このような運転者の飲酒・薬物服用を任意に検査する施設も設けること。
疲労は車両災害の原因になりうるため、運転者に指示を与え、車両運転を停止して定期的に休息をとるようにすること。
認定機関で、フォークリフトの運転訓練を行うこと。
フォークリフトは可能な限りフォークを下ろした状態で運転すること。
高い荷物で前方視野が遮られる場合には、登坂する場合を除き、後退運転すること。
積荷の側に人が立っている場合は、車両でその積荷をピックアップしてはならないこと。
作業職場にいるすべての従業員とその他の人々に、車両がつるしている積荷の下を歩かないよう指示すること。
運送する積荷が運送に適さない状態であったり、パレットに欠陥があったりする場合は、その積荷はその場に残し、運送しないこと。
斜面を下りる際には、ゆっくりと下りること。
運搬作業終了後直ちに、フォークリフトは所定の場所に駐車し、フォークは下ろして前方に傾け、エンジンを停止し、パーキングブレーキを掛け、キーは付けたままにしないで、安全な場所に保管すること。
すべての従業員は、すべての作業職場での運送上のハザードを知り、指示及び訓練を受けなければならないこと。
従業員に対して、上記のすべてについて通知、教育、訓練が適切になされなければならないこと。


  ハザードの特定:整理整頓不備

 整理整頓が悪いために職場で運送時の災害が起こることがある。

被災者は誰か

 事業者が傷害のリスクを減ずる安全システムを施行していない職場で、運送車両に接することのあるすべての人々。

推奨する管理対策

職場での運送災害のリスクを減ずるための第一段階として、経営幹部がリスクアセスメントを行うこと。
リスクアセスメントにより定められた管理対策が実際に効果的に機能しているか管理者が確認すること。機能していない場合は、リスクアセスメントを再検討し、必要に応じて改訂すること。
職場はきちんと整理すること。障害物を取り除くことができない場合は、安全標識または柵などを設けることによって人々に警告すること。
清掃中、及びメンテナンス作業中、滑り、又はつまずきの危険を新たに発生させないようにすること。
油や水がこぼれ落ちた場合には、素早く清掃除去すること。迅速に除去できない場合には、安全標識を立てて他の人にこの危険を知らせること。
油ドラム缶用などに雫受けを付けて、油・グリースがこぼれるのを防ぐこと。
検査・テスト・調整・清掃といった必要なメンテナンス作業は、適切な周期で行うこと。状況がチェックできるように記録を保管しておくこと。
棚類は修理されて、良好かつ安全に固定された状態であること。
事業者は、その地方監督局に問い合わせ、職場での車両傷害の危険を減ずるための最新の安全指針を入手すること。
HSEから、「安全運転---より安全な職場(safe driver - safer workplace)」というタイトルの運転者安全評価CD-ROMが発行されていて、HSE BOOKS Tel 01787 881165 又はwww.hse.gov.ukで入手可能である。
従業員に対して、上記のすべてについて通知、教育、訓練が適切になされなければならないこと。

  ハザードの特定:人身事故

 職場での運送災害が原因で、毎年約2000件の大きな傷害事故が起きている。

被災者は誰か

 職場で運送車両と接するすべての人々。


推奨する管理対策

すべての傷害は、災害記録簿に記録し、その記録簿は、建物の本部に保管すること。救急医療箱の隣に保管するのもよい考えである。
従業員は、傷害を被った時には、「1979年社会保障(請求及び支払い)規則(Social Security (Claims and Payments) Regulations 1979)」に従って、記録をつけるという法的要件について知らされていること。
災害記録簿には次の情報が含まれていること。傷害を被った人のフルネーム・住所・職業・事故の日時・事故が起こった場所・傷害の原因と種類。
特定の法的要求により、さまざまな職場事故を報告、記録し、かつ、事故調査を行うこと。これらを以下に簡潔に述べる。
責任者は、「1995年負傷・疾病・危険事態報告規則(Reporting of Injuries, Diseases and Dangerous Occurences Regulations 1995 (RIDDOR))」に基づいて、職場で起こった特定の災害について報告すること。
ごく一般的にいえば、この規則は、安全衛生取締当局に報告すべき災害については、通常電話などによる最も迅速な方法で報告し、それから10日以内に書式F2508又はF2508Aにより文書で報告しなければならないと定めている。現在は、電子メール(www.hse.gov.uk)でも報告することができる。
救急士は、HSE公認の訓練コースで発行された証明書を持っていること。この資格により、救急士は、「1981年安全衛生(救急)規則(Health and Safety (First-Aid) Regulations 1981)」に規定の、救急士または「指名された者(Appointed Person)」としての処置を行うことができる。
この「指名された者」は、緊急の応急処置以外のいかなる応急処置もしてはならない。そして、この指名された者は、応急処置手順について、特別に訓練されている場合のみそれを行うことができる。指名された者は、基本的な応急処置のコースに出席すべきである。
指名された者は、十分な資格を持つ救急士の代わりとなるものではなく、救急士の不在時等を補完するのみである。
作業場での特別なハザードに対処するためには、通常の救急箱の中身に加えて、補足的な救急器具が必要となる場合もあるが、このような場合にも、救急士がそれらの使用に関して特別の訓練を受けていること。
補足的な器具類には、負傷者を運ぶ手段となるもの、毛布、エプロンおよびその他の適切な保護器具、はさみといったようなものが含まれる。そのような器具が必要と思われる場所では、救急箱の近くにそのような器具が保管されていること。
従業員はすべて、上記の場合において、適切な情報、指示及び訓練を受けなければならない。