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労働組合の安全代表

資料出所:The RoSPA Occupational Safety and Health Journal
「OS&H」|2003年2月号 p.36-40
(仮訳 国際安全衛生センター)



 大多数の安全代表によると、ストレスは職場の安全衛生の主要関心事である。TUC(英国労働組合会議)が1996年、1998年及び2000年に行った調査によると、組合代表のそれぞれ68%、77%及び66%にとってストレスが関心事の第1位であった。女性の組合代表になるとさらに顕著で、88%が女性に対する安全関心事の第1位としてストレスをあげている。

 Mervyn Daweにとってこれは驚くにあたらない。彼がUnison(訳注:公共部門労組)支部幹事兼Severn健康支部スタッフ側議長になる前でさえも、仕事から起きるストレスを直接経験しているからだ。「私は精神科の看護師だった。当時の重要問題の1つは交替勤務だった。午前7時30分から午後9時まで働かなければならない日もあった。若いスタッフ看護師だったが、それでさえ、これは危険だと思った。そのシフトの終わりには、完全に疲れてしまう。私がはじめて組合安全代表になった時に最初に取り上げた問題の一つがこれだった。」

 そのころでさえ、Mervynが経営者側に対してとったアプローチには、労使関係全体への彼のアプローチを性格付けている特徴があった。「私は対決よりも協力を強く信奉している。長い目で見れば、経営者側と対決するよりも協力することで、より多くを達成できると思う。」

 声高に要求を行う代わりに、Mervynは静かにデータを組み立てて、それに代弁させることがいいと考えている。交替勤務についての議論も例外ではなかった。「災害統計を見ると、長い勤務の終わりの方になるにつれて、スタッフが冷静さを失い、間違いを起こし、患者を適切に扱うことができなくなることが起こりやすいことがわかる。」

 こういう証拠はこの場合非常に重要であった。説得する必要があったのは管理者だけではなかったのである。「スタッフ自身、特により年配の者が、長時間勤務を好むケースもあった。」

 これはいつも仕事第一という考えからくるものもあるし、長い勤務をすると休みも多く取れるということからもきていると、Mervynは考えている。「しかし、我々のデータによると長時間勤務は、スタッフにとってだけでなく患者にとっても危険だ。」

 患者自身が精神障害のために治療を受けているという事実は、彼らの弱みでもあるが、患者自身ももちろんストレスの主原因となりうるのだ。

 「窓から椅子を投げ続けていた1人の患者がいた」とMervynは回想する。それで彼は解決策を見つけようと経営者側と協力した。残念ながら、最初の解決策は成功しなかった。

  「我々は窓ガラスをアクリル樹脂と交換した。 しかし、これは一つのハザードを他のハザードに置換したにすぎないと気付いた。窓に向かって投げた椅子が部屋に跳ね返るのである。これで、椅子を投げている患者を含め、患者もスタッフもいっそう大きなリスクにさらされることになった。」

 この問題は、結局、患者を治療することによって解決した。治療は、多くの学問領域にわたる看護師と精神医によるチームアプローチで可能となった。

 より最近、また、この協力的アプローチが実を結んだ。作業負荷が職場のストレスの主原因といわれるが、人間関係の摩擦もまた重要な要因であることもある。このような認識のもとに仲裁サービスが提供されている。

 人事部のEileen Greavesが次のように説明する。「仲裁サービスは、争っている人たちに、その違いを話し合いで解決する機会を与えるものだ。ミーティングの前に、それぞれの側に、自分の言いたいことと、ミーティングから得たいと願うことを要約してフォームに記入して貰う。ミーティングは訓練を受けた調停者に司会進行をして貰う。この調停者はトラストの職員から選んだボランティアである。」

 Eileen Greavesは、くい違いが首尾よく解決されたケースの例を挙げた。「パートで働いている秘書が、自分の女性管理者が自分を差別していると思った。各種コースに出席する機会を与えられず、結果として自分の専門性の開発が被害を被っていると思った。女性管理者の方も言い分があった。秘書は彼女からすると苦痛の種であり、トレーニングを割り当てる時に考課を検討すると不満なものもあった。」

 たまたまEileen 自身がミーティングを調停することになった。最初のミーティングで女性管理者はできるだけ客観的に自分の立場を説明しようとした。しかし、秘書は、女性管理者が自分を扱った(と思っている)やり方のために女性管理者が苦しむようにすることに熱心であるように見えた。

 Eileen は、秘書によく考える時間を与えるためにミーティングを閉会した。

 次のミーティングはより前向きのものだった。女性管理者は、自分の行動の理由を完全に説明するためにいつも十分な時間をとっていたとは言えないことを認めた。秘書の方は、自分がパートで働いていたため、もっと事情がわかるようになるための議論の機会を逃していたことが問題の一部であったことに気がついた。そしてお互いのコミュニケーションを改善する責任があることを、双方が認めた。

 「彼らは今はうまくいっている。」とEileen は言っている。Mervynは仲裁プログラムに非常に熱心である。多くのケースで、問題をつぼみのうちにうまく摘み取っている。問題のなかには、この仲裁がなければエスカレートし、公的な仲裁又は懲罰手続きまで行きかねないものもあるのだ。

 「仲裁を受けた者で、違いを解決しただけでなく友達になったという二人を知っている。」とMervynは言っている。

 経営者側と組合の協力はストレスとの戦いで重要なだけではない。それは安全衛生のすべての領域にまで広がり、いまはマネジメントシステムに組み込まれている。しかし、1990年には事情はそうバラ色ではなかった。当時、NHS(国民保険サービス National Health Service)はまだ訴追から免除されていた。その結果、安全基準は、潜在的に可能であった水準より低かった。その後1992年に、訴追免除は撤廃された。Mervynの見方では、これは、「NHSに起こった最も重要な出来事」であった。

  その意味が完全に明らかになったのは、1995年に起こった画期的なケースであった。HSE(英国安全衛生庁)はSwindon National Healthトラストを抜き打ちで訪問をした。 それは単に日常的で自発的な訪問であった。監督官はトラストの安全衛生の仕組みで重大な欠陥を発見した。これはトレーニング、マニュアル・ハンドリング対策、遺体処理職員がホルムアルデヒドに暴露されることに対するリスクアセスメントがすべて不十分であったことである。また、このトラストはアスベストの調査は行っていたものの、発見できていなかった。

 その結果として行われた訴追によって、NHS全体に警鐘がならされることとなり、MervynのSevern健康トラストでもまったく新しいマネジメントシステムを確立することが決定した。彼らはすでに土台となるものを持っていた。すなわち、経営者側と組合の前向きな協力関係である。

 その土台が必須であることはやがて判明するが、それだけでは十分ではなかった。実のところ、うまくいっていることが逆効果であるという面さえあった。というのは組合の安全代表たちには非常によく情報が伝えられていたので、多くの管理者が安全衛生は組合の安全代表の責任とみなしたからである。

 トラストの安全課長であるVal Watsonは次のようにコメントしている。「あいにく、代表自身も自分の役割について混乱していた。彼らは、自分たちが安全を達成する『責任』をもつよう期待されていると感じていた。しかし、彼らは物事を進めるための権限も支配力もなかった。」

 安全に対する役割がきちんと決まっていないことが唯一の問題だったわけではない。Val Watsonはまた次のように述べている。「当時、トラストは完全に焦点が合った安全委員会の組織を持っていなかった。ローカルな安全衛生委員会はいくつかあった(「部門別(locality)」安全衛生委員会と名付けられていた)。ただ一番上の委員会、『トラスト・リスクマネジメント委員会』に直接つながっていなかったため、その有効性は損なわれていた。」

 そのような欠陥があったのだから、「6点セット規則(six pack 訳注:1992年に6本一括で制定された安全衛生関係の規則)」の実施や、ストレス、マニュアルハンドリング、反復性疲労障害、及び職場内暴力などの問題の出現がいずれも手に余る問題だったことは驚くにあたらない。

 明らかに変化が必要であった。トラストがとった最初の手段は役員級から安全衛生「チャンピオン」を任命することであった。次にはチャンピオンがフルタイムの安全課長の任命を提案した。これはその組織についての知識を持ち、安全衛生について専門知識をもつものであった。役員会はこの提案を支持して、安全衛生課長−Val Watsonが順当に任命された。

 彼女は、「私は『課長』という肩書で完全にハッピーだというわけではない。」と認める。「私は安全について助言するが、それを実施させる権限を持っていない。」

 彼女はトラストで安全衛生の組織的なモデルを開発しはじめた。 しかし、彼女は一人で働いたわけではない。「組合が熱心になることがこのモデルの成功のカギであろう。これを開発するためには組合が参加してもらうことが必須であった。」

 組合と協力して作業することは、その専門知識を活用する機会をトラストに与えただけではない。それは信頼も育てた。彼女は、「協力によって、管理的な課題が隠されているのではないかという疑念を和らげることができる。」と言い、最近の導入された単独作業者プログラムの例をあげる。

 可能な解決策の一つとして、危険にさらされる従業員には携帯電話を支給するというものがあった。「最初の問題は、皆がそれが必要だと思ったことだ!管理職たちは、労使関係が地雷原になることを感じて、即座に問題を棚上げしてしまった。」とValは語っている。

 しかし、彼女は、この問題にはまともに立ち向かわなければならないと考えた。本当にリスクに接している人たちがいたのだ。例えば、家庭訪問をする地域看護師である。「明確なガイダンスが必要だと思った。それでリスクアセスメント手法を開発した。この手法の目的は、重大なリスクに接する可能性のある従業員を、管理者が特定できるよう支援することだ。またこの手法で管理者がリスクの優先順位をつけるのにも役立つ。こうやって、一番携帯電話をもたせたらよいと思われる従業員を正確に特定できた。」

 これは、「隠された課題」の疑いが浮上したかもしれない場面である。従業員は携帯電話の支給を単に経営者側の策略と見ないだろうか?管理者が従業員をチェックしやすくするための機器だと?「正直こういうことを考えていた管理者はいただろう。しかし、我々は、電話が純粋に単独作業者の保護のためだということを明確にした。このシステムが組合と協力して開発されたため、話し合いをすることができ、疑いを晴らすことができた。」Val Watsonは次のように結論付ける。「彼らは、単独作業へのアプローチが可能な限り科学的・客観的なものであったことを理解したのだ。」

 経営者側にもメリットはあった。「リスクアセスメント手法を実施してみると、単独作業者を保護することに役立つ対策がいろいろあることが分かった。携帯電話は単に一つの選択肢だった。我々には2000人の従業員がいた。携帯電話の支給は600だけだったが、我々は最もリスクの高い者に焦点をあててリソースを使ったということを確信した。」

 Valは、組合代表の情報に価値があると思っていることを認める。「Mervynと私は、互いのアイデアをキャッチボールしている。なかでもUnisonは専門性と知識の源泉だ。 特に彼らが重要だと考えるテーマにおいてそうだ。」しかし彼女は、組合の役割はアドバイスであるべきだとも信じている。実際、安全衛生において行動するのは厳密にライン管理の責任である。彼女が任命されて最初にしたことの一つは、この信念を反映するようにトラストの安全衛生方針を書き換えることであった。

 安全衛生の責任を明確にすると同時に、どのようにその責任を果たしていったらいいかのガイダンスを与えるために、Val Watsonは対策に関する本を開発した。それは事実上安全マニュアルである。トラスト全体の管理職に対して250部が配布された。


 この本は3つのセクションに分かれる。
組織的な仕組み及び事故報告
自己アセスメントとリスクアセスメント手法
具体的ガイダンス:このセクションでは管理者が自分の担当部署に固有の手順を入れることができる。例えばある種の機器の取り扱い方など。

 第一部は、地理的及び人事的な観点から管理の部分を定めている。Valも気づいたように、これは、言うは易く行なうは難しの類である。Valは言う。「例えば一般開業医(general practitioner: GP)の医院の部屋を使っている地域看護師を例にとる。医院の暖房はあつすぎるが、その部屋は幼児が使っているとする。看護師はトラストに雇われているが、その部屋の責任は医院にある。このような状況下での責任の定義は注意深く考えなければならないが、究極的には関係者間の協力に頼ることになるだろう。」

 典型的な健康トラストの規模の組織における管理的な複雑さを前提にすると、各部分の責任を定めていくのは悪夢といえるかも知れない。しかしValは、自分の仕事のこの部分は必須なものであると考えている。彼女は言う。「管理下にないことについて責任を問われるということはあり得ないと思う。」

 安全の責任を定めることと、その責任を持つべき人にそれにサインして貰うこととは全く別物であることもある。カギはあらゆる点で経営側と組合を巻き込むことだ。

 安全委員会の再活性化は、キーとなるステップであることが判明した。部門別委員会とトラストのリスク委員会の間の連携は強化された。これは、それぞれの部門別委員会から担当者をトラストのリスク委員会に出席させるよう構成を変更したことで達成された。委員会間のコミュニケーションは、Val自身がすべての委員会のメンバーであるため、さらに強化されている。

 個々の委員会の構成は見直されて、委員会には例えば組合安全代表、管理者の他に、例えば腰痛ドバイザーといった特別な専門知識を持った人が出席するようになっている。

 経営と組合の協力関係は、「ノー出勤デー(away-days)」に共同出席することによって強化されている。組合代表と管理職はトラストに出勤しないで、諸問題を検討し、ValとMervynから安全のプレゼンテーションを聞いて1日を過ごす。

 Mervynは言う。「経営者はUnisonの安全出版物を好む傾向がある。非常にはっきりと書かれているからだと思う。」

 MervynとValは、組合と経営の協力を促進するためにいっしょに働いている。しかし、最近、組合代表にもっと「取り締まり(policing)」的役割を与える気運が起きてきた。オーストラリアでは、安全代表は暫定改善警告(PINS, Provisional Improvement Notices)を発行することが出来る。一つの例であるが、ビクトリア州が購入した280台の救急車のフロア高さは、既存の担架台車システムと互換性がなかった。組合が改善をしてもらおうと試みたがうまくいかなかった。最終的に安全代表はPIN(暫定改善警告)を発行した。これがビクトリア州でHSEに相当する機関の注意をひいた。正式な通知が発行されて、事業主は全車両を改造せざるを得なかった。

 2001年11月に、英国の組合安全代表は同様の権限を与えられ、組合改善警告(Union Improvement Notices)を発行できるようになった。これは、安全衛生法令に対する明らかな違反がある場合に、事業主に対する最終的な警告として使用される。警告のコピーはHSEに送付される。

 これらの展開に論評してMervynは次のように語っている。「管理者たちと仕事の上でいい関係を持っていれば、差止め権限は必要ではないかもしれない。安全代表と管理職は、事故調査、安全委員会、及び職場監督に一緒に取り組んでいる。共同のトレーニングも行っている。私達は共通の観点から働いている。現在の私達は信頼と献身によってもたらされたよい労働関係を持っていると信じている。」

 協調的アプローチは全トラストに亘って認知を得た。1999年にSevernトラストは、保健省から労使関係に対するBeacon賞を授与された。その1年後、Val Watsonは、TUC年次大会でSevernトラストモデルを発表するように依頼された。

 今日、ValとMervynは二人とも新しい挑戦を行っている。最近の再編でSevern健康トラストはもはや存在しない。Valは、現在、グロースターシャー共同トラスト及び3つの他の初期治療トラストに対する共通安全サービスの安全課長である。

 しかし、組織の構造は変わったけれども、彼女もMervynも基本的な安全マネジメントモデルは不変であるということを確信している。対策を書いた本の第1部は大幅に書き換えなければならないにしても!



1977年安全代表及び安全委員会規則(Safety Representatives and Safety Committees Regulations 1977: SRSC)

潜在的なハザードや危険事象の調査(規則4)
他の労働者からの苦情の調査(規則4)
職場巡視の実施(規則5)
巡視の実施/危険事象(規則6)
安全衛生に関して事業者に対し従業員を代表する(規則4)
事業者が保有している安全衛生に関する法定文書の検査(規則7)
決められた事項について「適切な時期」に協議を受ける権利(規則4)
規制当局の監督官から情報を受け、監督官との協議に関して労働者を代表する(規則4)
安全衛生に関する業務の遂行及び安全衛生訓練受講に対する有給休暇(規則4)


1996年安全衛生(労働者との協議)規則(Health and Safety (Consultation with Employees Regulations 1966: HSCE)

事業者は、代表をだしていない労働者と協議しなければならない
事業者は、労働者と直接協議するか、選出された代表者と協議するかについては裁量の自由を与えられる。
しかし、この規則によって選出された代表者はSRSCにより選ばれた代表者よりは、支援される度合いは少ない。即ち

職場の検査に関しては支援なし
災害調査に関しては支援なし
法定文書の検査に関しては支援なし
安全委員会を要求する権利なし
TUCの結論:HSCE規則は、組合のない企業の労働者は、代表されている度合いが低いということを意味している。



組合のない職場でも、組合安全代表のもつメリット享受するには
二つのイニシアチブ
巡回安全代表

もともとは農業を対象とした
輸送・一般労働者組合(Transport and General Workers Union)及び事業者と協力するHSEに支援された共同イニシアチブ
巡回安全代表を任命する
これらの代表者が組合代表のない会社を回って次のことを行う

共同の検査を行う
安全衛生文書例えばリスクアセスメントの検査
安全衛生問題を議論する
安全衛生に労働者が参画することの奨励
農場経営者や労働者に安全衛生・環境情報を提供する
職場安全アドバイザープロジェクト
輸送・一般労働者組合及び事業者と協力するHSEに支援された共同イニシアチブ
小規模の自動車・組み立て企業、土木、ホテル、厨房及びケータリング、ボランタリーセクターが対象
目的:組合代表のない職場における職場安全アドバイザーの価値の調査

職場の安全代表が組合から送り込まれ次のことを行う
安全衛生アセスメントを行う
リスク対策を助ける
安全衛生を向上させるため事業者と労働者の関係構築を助ける
全衛生・環境のトレーニングに関し、事業者と労働者を助ける