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労働時間規則

資料出所:The RoSPA Occupational Safety and Health Journal
「OS&H」|2003年3月号 p.26
(仮訳 国際安全衛生センター)



 安全衛生法制の根本原則の1つは、人々に働くことを要求する時間を制限することであった。伝統的に、女性と子供を工場や類似の職場で雇用する場合は、時間が制限されていた。しかし、よい安全衛生法は、すべての労働者が時間を超過して働くべきではないとしている。そこで労働時間規則ができるのだ。 Peter Ellisが、時間を超過して働くことが健康に及ぼす悪影響を強調しながら、その規則の効果を説明する。

 英国の労働時間は欧州連合(EU)のどの加盟国よりも長い。有給、無給の残業を含めた平均週労働時間は、1992年に43.4時間で、1983年より1時間多かった。また1992年に、EUで週48時間以上働いている男性労働者700万人のほとんど半分は、英国で雇用されている者だった。

 欧州連合(EU)の理事会は、労働者の安全衛生を改善するために、1993年11月23日に、労働時間指令(Working Time Directive)を採択した。英国では、1998年10月、1998年労働時間規則(Working Time Regulations 1998)が発効された。

安全衛生への効果

 超過勤務をさせることは、労働者の長期・短期の精神的・身体的な健康・安全を危険にさらすだけでなく、その同僚、また関係を持つ一般大衆をも危険にさらすことになる。

 医学的研究では、長時間睡眠をとらないと、70mgのアルコールと同じぐらい運動機能に悪影響を与えることがあることが判明した。多くの研修医は1週あたり72時間を超えて働いている。従って、彼らはしばしば極度の疲労に苦しみ、怒りっぽくなり、また集中できなくて過失をおかすという状態になっている。また病気の時でも働き続けることを自らに強いている(医療従事者の労働時間に関するEU指令の最近の改正については囲み記事参照)。

 バス・長距離バスの運転者、それ以外で13人以上の乗客を運ぶ車両の運転者、及び貨物車両の運転者の労働時間は、EUの輸送規則も含めた輸送法令で制限されている。しかし、政府は、他に仕事の一部として運転を行う運転者も、企業の安全衛生管理体系のなかに取り込もうと懸命である。

 政府のキャンペーンは飲酒運転、スピード違反の危険に対して行われることが非常に多い。しかし、環境運輸地方省(DETR)は衝突の原因の約10%は疲労であるとしている。業務で運転する運転者の多くは、雇い主が目標や締め切りに合わせるため、運転者にプレッシャーをかけすぎ、その結果、運転者は十分な休憩をとらず、疲労を感じても運転を続けるという事態をもたらしていると感じている。実際、運転に関する2001年RAC(Royal Automobile Club)リポートによると、アンケートを行った業務上の運転者の4%が、雇い主から長時間ハンドルを握るよう強制されたことがあると感じている。別の27%の運転者は、目的地に予定通り着くようにプレッシャーをかけられたと述べ、また8%が、雇い主が、休憩なしに長時間スピードを出して運転しないと達成できない非現実的な目標を設定していると述べている。

 Loughborough大学睡眠研究所(Loughborough Univrsity Sleep Research Laboratory)は、運転者の体内時計が睡眠に対し大きな影響を持っていることを示している。疲労による交通事故は、午前2時と午前6時の間、午後2時と午後4時の間にピークがある。時刻の方が何時間運転したかよりも重要であるようで、早期の事故の多くは運転開始後1時間または2時間以内に発生している。

全般的な安全衛生法制

 1974年労働安全衛生法(Health and Safety at Work etc. Act 1974 : HSW Act)第2条(1)に、事業者の一般的な義務が規定されているが、それによると、仕事の場所がどこであれ、事業者は合理的に実施可能な範囲で労働者の健康と安全及び福祉を確保する義務がある。これは、労働者の健康と安全を守るため、事業者が労働者が働く時間を制限しなければならないことを意味する。さらに、労働安全衛生法の第3条では、事業者に対し、合理的に実施可能な範囲で、労働者以外の者をリスクにさらすことのない方法で事業を実施する義務を課している。これは例えば、長時間休憩なしで運転したために疲れてしまった企業の運転者が原因となって生じるリスクに、他の道路ユーザーがさらされるということが含まれる。

 1999年労働安全衛生管理規則(Management of Health and Safety at Work Regulations 1999 : MHSWR)は、事業者が次のものに対し適切かつ十分なリスクアセスメントを行わなければならないと述べている;
−就業中に労働者がさらされる安全衛生上のリスク
−自分の行為から又は事業を行うことから、若しくはそれらに関連して生ずる、自分が雇用している者以外の安全衛生に対するリスク
言い換えれば、事業者は自分の事業場のリスクアセスメントを行う場合、労働時間も含めなければならないのだ。

労働時間規則

 労働時間についての具体的な要求事項は、1999年労働時間規則、2001年労働時間(改正)規則で修正されたが、1998年労働時間規則に含まれている。安全衛生庁(HSE)と雇用裁判所(the Employment Tribunal)が、この規則の執行を担当する。HSEは、週労働時間の上限、夜間勤務、健康アセスメント、作業形態と記録に関する条項に対して責任を持つ。

 週労働時間の上限、夜間勤務、健康アセスメント、作業形態、毎日及び毎週の休憩時間、休日、年次休暇については、どんな仕事をするかを問わず以下のセクタに雇用されている労働者には適用されない。
  • 空輸
  • 鉄道輸送
  • 内陸の水路・湖沼での輸送
  • 道路輸送
  • 海上輸送
  • 海での漁業
  • 海でのその他の仕事、例えば石油・ガス産業の海上作業
定義

 労働者(a worker)とは、雇用契約をしている者、又は定期的に給料、賃金を支払われて、組織、企業(business)、若しくは個人のために働く者である。その雇用によって、普通、仕事が与えられ、いつどのように仕事をしたらよいか管理され、工具や他の設備が提供され、税金や、国民保険の掛け金が支払われる。これはエージェンシーワーカー(訳注:人材派遣による労働者)とフリーランサーの大多数を含んでいる。若年労働者(a young worker)とは学齢よりは上だが、18歳未満の者のことである。

労働時間の制限

 事業者は、労働者が平均週48時間を超えて働かないようにする義務を持っている。これは、連続した17週の参照期間について残業も含め計算しなければならない。

 労働者は48時間の制限を超えて働くことができる。しかし、文書で合意書を作成し労働者が署名しなければならない。これは「適用除外選択(opt-out)」と呼ばれ、更新される必要はない。労働者は希望するならいつでも適用除外選択の合意をキャンセルできるが、事業者に対し最低7日前に通知しなければならない。 もし事業者と労働者が合意すれば、その期間を最高3ヶ月にすることが出来る。

夜間勤務

 夜勤者とは、通常、最低3時間夜間に働く者である。夜間とは、午後11時と午前6時の間と定義されているが、労働者と事業者の合意でこれを変えることが出来る。

 夜勤者は、連続した17週の参照期間について、1日平均8時間(保証残業-guaranteed overtime-以外の残業を含まず)を超えて働いてはならない。ある状況の下では、これを長くすることが出来る。

 夜勤者の仕事が特別なハザードや、重い身体的・精神的な負担を伴う場合、1日の労働者の労働時間には8時間という絶対的な限界がある−これは平均ではない。特別なハザードがあると特定される仕事とは次のようなものである。
  • 労働協約(collective agreement)または個別合意(workforce agreement)の形により事業者と労働者が合意した仕事
  • 労働安全衛生管理規則1999の下で実施されたリスクアセスメントによって、重要なリスクがあると判断された仕事
夜勤者のための健康アセスメント

 事業者は、成人労働者に定期的に夜勤をさせる場合は、事前に労働者に対し無料の健康アセスメントを申し出ければならない。多くの場合、これは毎年行うことが適当である。労働者は無料の健康アセスメントの申し出を受けなくともよいが、事業者はそれを申し出なければならない。

 健康アセスメントに当たっては、行われる仕事の種類、本規則による労働者の労働時間の制限を考慮しなければならない。

 夜勤者が、夜勤が原因であるか又は夜勤により悪化する問題を持っていると登録医が考える場合は、事業者は、可能であればその労働者を昼の勤務に変更するべきである。

 妊娠中の女性、若年労働者の夜勤に対してはその体格、生育度合、経験を考慮して、その適性について特に配慮すべきである。若年労働者には、その健康状態からして可能であるというアセスメントがされない限り、「制限時間」すなわち、22:00から06:00までの仕事を割り当てるべきではない。そしてそれ以後、彼らが、「制限時間」に働く必要がある間は、そのアセスメントを定期的に行わなければならない。その仕事が特別の性質のものである場合は、若年労働者についてのこの要求事項は除外することができる。

各日及び各週の休憩時間

 事業者は、労働者が自分の権利である休みをとることが出来るよう、就業時間を設定しなければならない。

 労働者は、労働日の間に連続して11時間の休憩の時間を与えられる権利がある。若年労働者は、労働日である任意の24時間の間に連続した12時間が与えられる。この休憩はもし仕事が1日の間で分割されていたり、長く続かないものなら、連続したものでなくてもよい。若者労働者の各日の休憩の権利は、例外的な状況以外は、短縮したり、除外したりしてはならない。このような状況が起こる場合は、若年労働者に3週間以内に補償としての休憩を与えなければならない。

 労働者には週あたり完全な1日の休日が与えられる。この休日は2週間平均でもよく、2週間で2日の休日を取ることができるということである。この休日は年次有給休暇にプラスして取得されるものである。事業者は、労働者がそれらの休日を取ることができるようにしなければならないが、実際に取らせることは要求されていない。

若年労働者は各週2日の休日が与えられる。これは2週間で平均することはできない。

仕事中の休憩

 成人労働者は、労働時間が6時間を超える場合、休憩が与えられる。その時間や条件は個別合意又は労働協約で決めることができるが、そのような合意がない場合は、本規則では最低20分の連続した休憩が認められている。これは職場から離れて取ることができる。

 若年労働者が、連続して4時間30分を超えて働くことを要求される場合は30分の休憩をとる権利がある。この権利は、例外的な状況以外は、変更したり、除外したりしてはならない。このような状況が起こる場合は、その若年労働者に3週間以内に補償としての休憩を与えなければならない。

年次有給休暇

 労働者は、休暇年度ごとに4週間の有給休暇が与えられる。1週間の休暇であれば、労働者は職場から1週間離れることができるようにしなければならない。勤務している週と同じ時間とするべきで、例えば週5日勤務であれば20日間、週3日勤務であれば、12日間の権利がある。

 事業者は、逓増システム(accrual system)を採用することができる。これは、雇用の最初の年に取得可能な休暇の割合がその年の間、蓄積されていくものである。取得可能な休暇は、年間所定休暇の12分の1の割合で毎月事前に蓄積されていくものである。

 規則14、15、16は、年間の休暇に関して追加的な条項を規定している。

EU労働時間指令に関するNHSのためのガイダンス

 研修医に対するEU労働時間指令(EWTD)をNHS(訳注:英国の国民健康サービス)が遵守することを支援するためのガイダンスが健康大臣John Huttonにより発行された。

 労働時間規則の例外の一つに研修医がある。2004年8月に研修医もEWTDの対象となり、これが変更される。そうなった場合、研修医の週平均労働時間は58時間以下となる。

 このガイダンスは、2002年夏にNHSや医療・看護・健康関係の専門家が集まってEWTD遵守の方法を検討した、二つの全国セミナーに基づいて作られたものである。

 勧告は次のようなものである:
  • 当番医師数の削減。現在は医師がオンコール体制(on call)で待機している時間が16時間までは休息時間となっているが、EWTDではこの待機の時間はすべて業務と見なされる。この対策で、オンコール体制での待機の医師は少なくなるが、より効率的に働いて貰うことになる。
  • 重複担当(cross cover)を増やす。医師をより効率的に使う方法の一つは、非常時担当として複数の専門領域を持って貰うことである。このために最も効果的な方法は、複数専門分野担当の救急チームを作ることである。
  • 種々のスタッフグループのための新しい業務パターン。EWTDは研修医に対する新しい業務パターンを要求するだろうが、これは研修医の周辺にいる医師以外のヘルスケア担当者の役割を拡大し活用することによって容易になる。
  • スタッフ数の増加に対するチーム作業・チーム結成。必要とされる新しい働き方を支援するために、政府は、病院コンサルタント、専門訓練医(specialist registrar)、看護師、及び関連の健康専門家の数を最高レベルにすることを約束するといっている。
  • ITをより効果的に活用する。業務改善に対してITはキーとなる要素である。コミュニケーションや情報へのアクセスを良くするだけでなく、例えばビデオ網や画像やその他の診断データを電子的に送信することで、専門的アドバイスへの遠隔地からのアクセスも支援する。
 このガイダンスは、EWTDにそって業務方法を刷新し、患者中心のサービスモデルを開発しようという、すでにNHSで行われている作業の上に作られている。全国セミナーの重要勧告に基づいた構造に基づき、関係者の積極的なフォローを受けて開発されてきた。それらの協力に加え、Academy of Royal Medical Colleges, BMA, NHS Confederation, Council of Post Graduate Medical Deansといった関係者からの広範囲の支援文書を受領した。

 John Huttonも、イングランドのNHSに対し、19の試験的プロジェクトの詳細を発表し、ここでこの指令を実施するための革新的な方法をテストすることになっている。これらの委託機関は、個々のサービス分野がEWTDに適応する上で、学習ネットワークとしてだけでなく、効果的で安全なやり方を示すことにおいても中心的な役割を果たすところである。

 試験的プロジェクトの分野としては、夜勤チーム、ヘルスケア担当者、看護師、医療支援技能者、全体システムサービスの再設計である。試験的プログラムを実施するところはその経験をオンラインも含めたいろいろなチャンネルでNHSの残りのところとも共有することになっている。

 John Huttonは次のように語った。「労働時間指令はNHSを刷新しようという、より大きなチャレンジの一部だ。ガイダンスと試験的プロジェクトで、種々の専門分野、種々の病院での有効な解決策が見つかるだろう。病院はそれぞれ違った問題を抱えているのだから、一つで全部間に合うような解決策はない。」

  「我々は能力を拡大し、質を高め、またいくつかのサービスを見直さなければならない。また、スタッフ、訓練、設備、情報技術といった投資を最大限に活用して、患者に対する医療を出来うる最高の水準にしなければならない。何にも増して、質が高く、地域に立脚したサービスが受けられるようにしなければならない。これを達成するようにガイダンスが作られているのだ。」

 「EWTDは Royal Colleges, BMA, NHS Confederation, 地域のNHS Trustが協力して初めて達成できるものだ。これらの機関は、我々が昨年夏に実施したセミナーに代表を出してくれていた。それで大きく前進することができ、NHS全体で適応するには何が必要かがわかってきた。このガイダンスはこれらキーとなる機関に支持されているものだ。」

 「EWTDは大きなチャレンジだ。しかし同時に21世紀のNHSにとって、臨床医にはもっとバランスのとれた、そして患者にとってはよりよい治療をするための大きな機会でもある。」