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交替制勤務

資料出所:The RoSPA Occupational Safety and Health Journal
「OS&H」|2003年3月号 p.18
(仮訳 国際安全衛生センター)



我々自身もしばしば切迫した状況のなかで、必要な時に昼夜を問わず、料理を出して貰い、火事を消して貰い、家庭を守って貰い、請求書を払って貰い、質問に答えて貰うことを望んでいる。しかし、Elizabeth Gatesが取材したように、これには問題がある...

 Swansea大学 身体リズム・交替制勤務センター(University of Swansea Body Rhythms and Shiftwork Centre)のSimon Folkard教授は「人間は年中無休24時間営業が十分できるほどは進化していないのだ。」と語る。しかし、時には公衆や雇い主から、あたかもそれだけ十分進化しているように行動することが要求されるのだ。

 Merseyside警察業務計画ユニット(Merseyside Police Work Scheduling Unit : MPWSU)のヘッド、Carl Mason巡査部長が次のように説明する。「私も21年前にToxtethでそういう目にあったが、もし暴徒に囲まれているような状況だったら、ちょっと時計を見て『おや、これで週48時間勤務が終わった』ということで、楯と警棒をしまって家に帰るというわけにはいかない。」

 その結果、それがモノだろうがサービスだろうが「成果」を提供する仕事では、次のようなことが要求される:
  • より多くの労働者を雇う(多くの事業者にとって経済的に好ましくないこと)
  • 今いる労働者により長時間働いて貰う(非人道的であり、また労働者やその労働者に関係を持つ一般の人の安全衛生に潜在的リスクがある)
  • 必要なときに必要なだけの人数が確保できる弾力的な業務パターンを工夫する
 三番目の選択肢は英国の通産省(DTI)が支持しているもので、同省のホームページでは、どのようにして弾力的な業務パターンで労働者の仕事と生活のバランスを望ましい状態に保ちながら、事業者が目標を達成することができるかについて、一つの区画を割いて示している。このような戦略の一つが交替制勤務である。

 事業者の観点から言えば、ベストの交替制勤務の形は、常に「需要」に基づいたものである。例えば、午前3時には7時間分の仕事があるが、午後2時には1時間分の仕事しかないとする。その場合は、交替制勤務を設計するときに午前3時には7人の人間がいるが、午後2時には1人が必要な仕事をやっているということにするだろう。このように需要のピークと底を特定することによって、例えばコールセンターは、驚くほど効率の良い(時々は悪名高いという場合もあるが)交替制システムを設計するのである。これは人的資源管理として知られている。

 しかし勤務当番表の設計が悪いと、死亡者を出すことさえあり、そのような場合に事業者はいくつかの訴因で起訴されることになる。例えば1974年労働安全衛生法(Health and Safety at Work Act 1974)第1章第2条「労働者を保護する事業者の義務」や第3条「一般の人に対する事業者の義務」が発動されることもあるだろう。この点はその後の労働安全衛生或いは公衆に対する安全衛生の法令でさらに詳細に規定されている。例えば1997年EU労働時間指令(European Union Working Time Directive 1997)を国内向けに制定した1998年英国労働時間規則(UK Working Time Regulations 1998)などである。

 例えば1999年に、輸送業において企業が初めて故殺(manslaughter)で有罪となった。これはRoy Bowles運輸の従業員であるAndrew CoxがM25のEssexルートで居眠り運転をしたものである。Coxは退役海兵のBarry Daviesが運転する廃棄物コンテナ用トラックの後部に追突した。そしてトラックは中央分離帯を超えて、セールスマンのPeter Morganのフォード・モンデオを押し潰した。DaviesもMorganも死亡した。しかし他にも5台の車両が巻き込まれていたから、死亡者はもっと増えてもおかしくなかった。

 Coxは、日常の働き方のせいでこの死亡事故を引き起こしたということである。毎週500ポンドを超える残業代を稼ぐために、彼は休みをとらずに60時間以上働くことがしばしばだった。かれはタコグラフを雇い主に見せなかった(雇い主も強いて見ようとしなかった)。また彼は、取締を受けたときに警官を欺く目的で、自分の車の中に実際に運転したより少ない時間を記録した予備のタコグラフを用意していた。

 その運送会社の役員であるStephen Bowlesと妹のJulie Bowlesも「自分たちの運転手の過重労働を見逃していた」として懲役刑判決を受けた(2年の執行猶予がついたが)。判決にあたって、ロンドンの刑事裁判官であるMichael Hyam判事は次のように語っている。「もしこの事件が教訓となって、運転手が労働時間規則、特に超過時間を守るようにするために企業の経営者が作っているシステムの改善がこの業界で行われれば、いくらかでもいいことがあったということになる。」

 通産省(DTI)によれば、労働時間規則(Working Time Regulations : WTR)はだれにでも適用される。しかし、これに対する1998年のガイダンスでは、特定のサービスとその規則の条文の間にどうしても避けられない矛盾が起こることを認めている。ガイダンスでは、これらのサービスに従事する者はいつそのようになるかを承知しておかなければならないとしている。

 Mason巡査部長は次のように説明する。「大部分の警察の仕事は予定が立って、労働時間規則が当てはまるものだ。例外は暴動や殺人事件の捜査の最初の24時間だ。このときはそこにいる人誰でもが必要だ。警察が特殊なケースではない。」

 業界を問わず、勤務スケジュールに関するリスクアセスメントの最適な方法を推奨するための研究が数多く行われてきた。民間航空局(Civil Aviation Authority)のために行われ、王立航空学会ヒューマンファクターグループ(Royal Aeronautical Society Human Factors Group)のホームページで公表された航空機整備作業についての勧告の中で、Folkard教授は、西オーストラリアの商業用乗物ドライバーのリスク管理プログラムで採用された包括的なアプローチを引用している。これは業務のスケジューリングだけでなく、仕事に対する個人の適性、作業環境、教育訓練、文書化、事故の管理なども考慮するものである。同教授によれば、勤務スケジュールは、もっと広いリスクマネジメントプログラムの一部分を形作るというのが理想だということである。
 
 警察の管理職も他の業種の管理職同様、リスクアセスメントを行ってリスクを除去するか減少させる責任があると、Carl Masonは考えている。

 例えば我々の祖先は、夜にはわざわざ洞窟の出口から外に行くことはしなかっただろう。何故なら、外界は敵が多すぎ、あまりにも暗く、また困難が多すぎたからだ。しかし現代の警察では、医学的な理由で免除されなければだれでもある段階で夜勤をしなければならない。

 Simon Folkardはその困難さを次のように説明している。「朝や昼の勤務に比較して夜勤はリスクが約30%増加する(ということが証拠で示されている)。少なくとも4日連続の夜勤とすると4日目の夜は1日目の夜に較べてリスクが45%高い。そして何日かの夜勤が終わった後で一晩寝ても、夜勤の間にたまった疲労は完全には消えないだろう。」

 夜勤割当計画が悪い場合の影響を物語るエピソードは多い。例えば、今捜査が行われているケースだが、夜勤の二人の警官が、入院している囚人を監視している間に眠ってしまった。暗くて静かな病室は、すでに疲れている彼らが居眠りするのに絶好の環境となってしまったのだ。彼らが眠っている間に囚人は消えていた。
 
 「交替制勤務システムで、唯一のベストシステムというのはあるのだろうか?」とFolkard教授は自分の行ったCAAの研究の中で尋ねている。現在の研究を概括しながら、教授はこの質問をとりまく課題を次のように挙げている:
  • 恒常的/固定的なシステムがローテーションシステムより優れているだろうか?例えば一番普通のローテーションシステムは1週間でローテーションするやり方だが、これは偶然にも、交替制勤務者の身体リズムからいうと一番困難なものである。
  • ローテーションシステムにはいくつの交替が必要だろうか?
  • ローテーションの方向はどちらにすべきだろうか?
  • 交替制勤務者の休日は何日にすべきだろうか?
  • 夜勤は何日にすべきだろうか?
  • 勤務時間は何時間にして何時にスタートしたらいいだろうか?
  • 週に、或いは年に何時間か?残業はどれぐらい許されるか(他の仕事も含み)?(そしてFolkard教授は疲労に加え、職場の有害物への暴露の影響も考慮すべきだと警告している。)
 例えばMerseyside警察は、7日夜勤を行って6日休日というやり方で行っていた。しかし1999年に科学的研究と巡回警察官の経験に基づいた新しい交替制システムが導入された。これは警察活動に適したエルゴノミクス基準を満たしたもので次のような内容である:
  • 順ローテーション(午前−午後−夜)
  • 連続4夜勤を超えないこと
  • 4連続を超えて同様の業務を行わないこと
  • 連続の業務が合計して6を超えないこと
  • 行う業務は2つ以下でないこと
  • 少なくとも1週に1日の休日
  • 勤務の中間で少なくとも1回の休憩
  • 平均労働時間が34〜38時間であること
  • 休みの40%は晩と週末になっている、予期できるスケジュール
  • 開始時間は午前7時
 1999年に内務省警察研究賞金プログラム(Home Office Police Research Award Scheme)が、Merseiside警察に対し新しい交替制勤務システムの影響の研究を行うための資金を提供した。そしてその報告書「健康的な夜(Healthy Nights)」の内容が公表され、これは今内務省のホームページで見ることが出来る。個人ごとに知覚−反応レベルをテストする技術を利用し、自己申告で得られた情報を使ったものであるが、これにより新しいシステムが警官たちに歓迎されていることが判明した。結果は次のようなものである:
  • 年配の警官の疲労が少なくなった
  • カフェインの使用量が減少した
  • 警官たちが以前より健康に見えるようになった
 これが成功した更なる証拠として、Carl Masonが述べるように、自己申告の疲労レベルが相当程度減少したこと、病気欠勤率の減少を挙げることができる(絶対的に勤務スケジュールの変更と関係があるとはいえないが)。

 Mason巡査部長が説明する。「警察の仕事はどこでも同じだ。生命・財産の保護、犯罪の減少、社会秩序の維持だ。しかし様々な状況の下で勤務スケジュールを作らなければならない責任者には様々な問題が起こってくる。要は担当する警官のいろいろな状況をよく知り、理解することだ。」

 「例えば、我々の新しい勤務スケジュールについて議論するためにハンガリーから警察官が来るとする。彼らは「健康的な夜」に示したような警官たちへの配慮やその福祉に対する熱意に対して非常に感銘を受ける。だが、その後次のような質問がある:『しかし、収穫の季節にはどうするのか。』ハンガリーではすべてのことが(犯罪やその取り締まりも含めて)収穫のためにストップしてしまうのだ。」

 Merseysideのような例がある一方で、良くない勤務スケジュールは依然として存在し、身体的、精神的ストレスを引き起こしている。明らかに、英国の警察の中には、まだ労働時間の問題(従って勤務表の問題)に取り組んでいないところがあり、警察車両も含んだ多くの交通事故が深夜に(夜勤中に)起こるという結果になっている。

 これは特殊なケースではない。英国の産業では他にも事業者がぐずぐずしていて、害をもたらしている例がある。例えば1997年2月にMelvyn Bishop(「Baker Refractories」社で1979年から働いている。)が自殺をしようとした。別に個人的な問題はなく、精神的に参ってしまったのは仕事の再編成が原因の一つだった。今や労働者はもっと様々な仕事をすることが期待されるということであり、そのためによりを多く頭に詰め込むことが要求された。しかし同時に、新しい交替制勤務のパターンが1995〜1996年に導入されたことも関係していると思われた。このパターンでは、一つのシフトの時間が長く、またそのシフトの期間も長かった(シフト間の休日も長かったが)。

 この変更はより新しくより効率的な作業方法を達成すべく考えられたもので、恐らく1992年にこの企業がアメリカの会社に買収されたことによるものらしい。しかしこの変更は組合とも合意していたし、大部分の労働者も受け入れ可能だと思っていた。Bishop氏の同僚のWilson氏は、その交替制勤務の別の組で同じ仕事をしていたが、特に問題なくこれに伴う業務内容の変化を乗り切ることができた。

 管理者のFairhurst氏も、Bishop氏の仕事には問題がなかったから、彼はちゃんとやっていると思っていた。「仕事はしっかり行われていたし、品質保証の手順も守られ、文書もできていた。」

 しかし、Bishop氏は当時40代半ばだったが、決してうまく対処できてはいなかった。彼は元の仕事を返して欲しかったし、また自分の作業パターンを主体的にコントロールしていると思いたかった。このコントロールを失ってしまったという感覚が、Leeds郡裁判所のKent-Jones判事がいうところの、仕事のストレスによる精神の崩壊につながったのである。

 しかし2002年2月に控訴審の裁判官たちは、責任に関する「Baker Refractories」社の控訴を認めたのである。このときにはBishop氏は「自分のやり方にとらわれ、順応が困難で、自分に期待される限定的な決定もできない、細心すぎる人間」と性格づけられたのである。

 この事例では、Bishop氏の苦悩の唯一の原因ではないにせよ、新しい交替制勤務システムが導入されたやり方は、仕事を個人に合わせることが出来ていなかった。Simon Folkardが指摘するように、「夜勤を何日かやった後、比較的年配(45歳以上)の男性労働者は、睡眠−覚醒のどちらもうまくいかず、このサイクルが困難になる。そして交替制勤務の許容度は下がるのである。」

 応用心理学科を卒業したMason巡査部長が、一般論としてコメントする:「要は『統制の位置(locus of control)』の問題だ。これが内的(internal)だと物事を受け入れるのがより容易である。しかしこれが外的(external)であって、統制を強いられると、不安、うつ、そして対処する方策が機能不全になることにより悪化した心理的結果につながることがある。」

 「そして業務スケジュールを作る者は、個人のニーズと組織のニーズをバランスさせなければならない。この二つにはあちらを立てればこちらが立たず的なところがある。例えば、事務所要員が巡回警官と同じ10時間のシフトを希望していた。仕事を片づけるためだ。しかしこれは不可能だった。事務所要員は9時から5時まではそこに必要だからだ。」

 彼は続ける。「一般的に、Merseysideの警官は、安全衛生上の理由から週48時間を超えて働くことはない。しかし、そのように編成するやり方が重要なのだ。我々は500通りの交替制勤務パターンを持っているが、それは我々がいろいろな役割をこなさなければならないからだ。VDTの前に長時間座っている無線担当がいる。また、武器を持った警官は、自分が何を目標に撃っているのかわかるように、また敵味方を識別できるように十分注意していなければならない。そして巡回中の警官は油断なく、また寛大で辛抱強くなければならない。彼らは一般の人への窓口であり、疲れて睡眠不足だからといって、一般の人に不機嫌な態度で接するわけにはいかない。また彼らの仕事を直ちに終わりにしてその週の残りは休みにするわけにもいかない。彼らは労働時間規則が述べているように適切な休みと回復の時間が必要なのだ。でなければ、正常に戻るのにより長い時間が必要となる。」

 Folkard教授が付け加える。「二つのシフトの間の休みは、その人が家に帰って、睡眠に備えて十分くつろぎ、たっぷり8時間の睡眠をとり、少なくとも1回食事をして、それで仕事に戻るぐらいの時間を確保することが賢明である。」

 Folkard教授によれば、労働者が出勤するときは十分に休んだ状態で行くべきであり、事業者としても当然そう期待している。これは交替制勤務者が第2の仕事をすることを妨げるものではない。例えばCarl Mason巡査部長は、ウイーンに本拠をおいてヨーロッパ全部を対象としているコンサルタント会社の交替制勤務専門の経営コンサルタントの仕事も行っている。これはMerseyside警察の利害とは対立しないもので、同警察とは全く関係がない。どんな形であれ(特に疲労のために)警察の仕事にマイナスにならないように二つの仕事をバランスさせるということは、同巡査部長の責任である。

 交替制システムで難しい第二の点は、Folkard教授が指摘するように、どのようにして導入するかである。
 
 Mason巡査部長は言う。「投票でシステムを決めようとは言えない。七面鳥がクリスマスに賛成投票するだろうか?しかし交渉は出来るようにしておかなければならない。」

 Merserside警察は、この国の警察の中では珍しく、各分署で人的資源管理者のポストがある。彼らの業務は、警察活動のコストを削減する一方で、毎日の要求や、イベントごとの要求に応えられるよう、十分な数の要員を確保するということである。彼らの目標は「経済的にベスト」ではあるが「最善のやり方」でもあるのだ。

 Carl Masonによれば「勤務表を作るときに分署の管理者は、情報による警察活動をベースとして、どこにニーズがあるかを判断できなければならない。古い『サイコロと鉛筆』方式で勤務表を作るのは不適当だ。新しいアプローチとは、例えばMerseyside警察が発見したところによると、Liverpool北署すなわち市の中心では金曜・土曜の午前4時頃は、Liverpool南署すなわち住宅地よりも多くの夜勤人数が要るということだ。しかしLiverpool南署では盗難の多い午後1時頃により多くの警官が必要だ。」

 人的資源管理者はこれを達成する方法を見つけることができる。そしてMerserside警察のこの新制度が成功したため、現在はその地域の、また全国の、或いは外国からの警察の管理者や管理担当者のために人的資源の管理について定期的に講習会を行っている。

 しかし予算面をきちんとやることだけがここでの課題ではない。交替制勤務は専門家がいうように健康にとって有害なこともあるのだ。

 王立航空学会のホームページに掲載された記事の中でFolkard教授は、交替制勤務に関する睡眠と疲労について論じているが、同時に胃腸、心臓血管、女性の生殖能力の障害への影響について考察している。そして、証拠によれば、交替制勤務、特に有害な夜勤がこれら全部を引き起こしている可能性があることを示している。

 同教授が説明する。「体温、血圧、心拍といった身体活動の多くは夜に一番低くなる。だから、夜働いて昼寝ようとする人がしばしばどちらもうまくできないと訴えるのは驚くに当たらない。24時間周期の身体リズムと合っていないのだ。」

 慢性的な疲労、不安、神経質、うつが続いて起こり、医学的な治療が必要となる場合もしばしばである。交替制勤務による心理的・感情的な動揺は、多くの交替制勤務者に仕事を辞めたいと思わせる最大の原因である。しかし交替制勤務はまた深刻な傷害や疾病の原因にもなり得ると同教授は語る。
 
 例えば、暴飲暴食のせいにされることもあるが、胃炎や消化性潰瘍などの胃腸障害は他の交替制勤務者に較べ夜勤者に多いのである。24時間リズムの混乱が、これらを悪化させる役割を果たしているようである。

 同様に交替制勤務者は昼だけの勤務者に較べて心臓血管の病気になるリスクが40%高い。Folkard教授がまとめたリスクファクターは次のとおりである:
  • 24時間リズムと眠ろうとする時刻のミスマッチ
  • 家庭生活、社会生活での問題
  • 生活習慣の問題−食事が悪い、タバコが多い、アルコールを多く摂る
  • ストレス−血圧、心拍数、コレステロールの上昇、ブドウ糖や脂質の代謝の変調という結果につながる
 再びMason巡査部長が言う。「つきつめればホルモンだ。交替制勤務では、覚醒させるためのコルチゾールホルモンと、睡眠に入るためのメラトニンが、自分がしようとしてることとは無関係に間違った時間に間違った量で体内を駆けめぐっているということだ。」

 労働時間規則には、夜間シフト勤務者には予備審査と健康への悪影響のモニタリングが行われるべきであると明記してある。一般的にこの責任はその組織の安全衛生担当者にある。産業医学学会/学部(Society / Faculty of Occupational Medicine)のガイダンスには、この仕事を頼まれるかもしれない安全衛生担当看護師と産業医のために最善事例が示されている。例えば、このアセスメントの頻度は年齢とともに増加させるべきで、45歳未満の者には3年ごと、60歳未満の者には2年ごと、それ以降は毎年ということが示されている。
 夜勤で悪化しそうな状況も列挙されている。糖尿病や心臓血管障害はほとんど確実であるとして含まれているが、ガイダンスはアルコールや薬物乱用にも警告を発している。

 交替制勤務が健康に及ぼす影響というのは常に変わりゆく課題であった。Folkard教授がいうように「歴史的には交替制勤務は基幹産業によく見られたが、もはやこれは正しくない。交替制勤務を行っている人の種類も変わってきた。例えば、現在、銀行員の30%は交替制勤務をしているし、人々はよりはっきりした考えを持ち、知性も高く、関心も持っている。」

 一般論として同教授は、教育・カウンセリングのプログラムを推奨しているが、これは「リスクに関する実際の傾向について注意を引くためだ。そう疲労度が高いわけでもないのにリスクが高そうな時によく用心して貰うためだ。また、夜勤に備えるための情報を提供し、交替制勤務、特に夜勤に関係すると見られる健康へのリスクについてガイダンスを与えることも重要だ。」

 Mason巡査部長も同意する。「これはカルチャーの問題だ。60年代、70年代のように仕事が終わったあと友達と一杯飲んでストレスを発散する古いカルチャーはもうなくなった。今は教育プログラムを提供するのだ。」

 MPWSUは1999年に「交替制勤務(Working Shifts)」という小冊子を作ったが、これは初めて交替制勤務をする新しい警官や、交替制勤務よりもっと有害かもしれないコーピングの方法を身につけてしまった人たちを支援する教育プログラムの一部とするものだ。睡眠用の部屋をどのように準備するか(明るすぎず、寒すぎず、うるさくなく、人が頻繁に来ない)、何を食べ、何を食べないかといった実用的な自助努力のためのアドバイスが書かれている。そして重要なアドバイスの一つは交替制勤務者の家族に関するものである。その支援なくしては交替制勤務者は、健康を損なう睡眠不足が避けられないだろう。家族の支援があれば、健康を保持するチャンスはぐっと高くなるのである。

交替制勤務者の家族のチェックリスト(抜粋)
  • 電話の電源を切る、または留守番電話とする
  • ドアチャイムを切り、ノッカーをはずす
  • 「夜勤者睡眠中」の表示を玄関に掲示する。ただし、後で仕事に出かけたのち、誰かが侵入しようと思うのでは?という心配があるならやめる
  • 白色雑音(white noise : 耳障りな音をブロックできる連続的な低レベルのノイズ)を試してみる
  • 可能であれば家事が睡眠時間以外でできるようにする
  • 家族や友人に交替制勤務の時間を知らせて、彼らが邪魔をしないよう、また自分が家族や友人のための時間がとれるようにする
 しかしSimon Folkard教授は、教育プログラムを提供するだけでは、良い結果は得られないと信じている。経営者が個別のアセスメントやモニタリング、そしてたぶんカウンセリングを推奨することで、非常に良い結果を生む。

 Merseyside管区が2002年に発行した労働時間規則の簡単なガイダンスのリーフレットによると、管理者は部下の安全と健康を監視する法的な義務があり、また労働時間規則の各規定が個々の部下とどのように関係しているかを理解しておかなければならない。リーフレットは「問題があることが分かったら、その個人と相談するべきである。その人は健康担当部署に行くか、外部の医学的アドバイスを受けるよう奨めるべきだろう。重要なことは、貴方が支援のための合理的な対策をすべてとってきたと見られることである。」