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火災安全
Fire

資料出所:The RoSPA Occupational Safety and Health Journal
2003年10月号 p.40-42
(仮訳 国際安全衛生センター)



 英国で現在施行されている火災安全にかかわる主要な法令とその修正案にピーター・エリスが焦点を当て、事業場において適切で十分な火災リスクアセスメントを実施すべき英国の事業者の責務について述べる。かかる法令から、「火災安全−事業者向けガイド(FIRE SAFETY - An employer's guide)」に示されたガイダンスに基づく火災リスクアセスメント実施時にどのような調査をするべきかについて、実用的な勧告を得ることができる。

現行の火災安全法令
 建造物内で作業する従業員の安全にかかわる火災関連の主要法令を以下に掲げる。老人ホームなどにかかわる規則や可燃物の保管、使用にかかわる規則など、ここで挙げる以外にも多くの火災規則が存在するが、今回は割愛する。
 英国における、住居以外の建造物の火災安全については、「1971年火災予防法(FPA:Fire Precautions Act 1971)」と、それを修正する「1974年労働安全衛生法(HSW法:Health and Safety at Work etc. Act 1974)」、「1987年火災安全及びスポーツ活動の場の安全法(Fire Safety and Safety of Places of Sport Act 1987)」並びに「1989年火災予防(工場、事務所、店舗、鉄道施設)令(Fire Precautions (Factories, Offices, Shops and Railway Premises) Order 1989)」によりその大半が管理されている。
 「火災予防法(FPA)」の基本要件は、一定の基準を満たす全ての事業場が、地方の消防当局が発行する有効な火災認証を取得済みであることである。
 「1976年火災認証(特殊施設)規則(Fire Certificates (Special Premises) Regulations 1976)」は、高い可燃性を有する物質と液体が大量に保管されている施設を対象とした規則である。この規則に則り、イギリス安全衛生庁(Health and Safety Executive: HSE)は火災防止認証書を発行する。ただし、火災の際の適切な避難方策が施設に備えられており、適切な予防措置がとられている場合に限り認証書は発行される。
 HSW法も、合理的に実施可能な範囲で、従業員及び事業場を使用したり立ち入ったりする可能性があるその他の人々の安全、衛生、福祉を確保することを事業者に義務付けている。事業者に課せられたこれらの責務は、火災の危険にも関係がある。
 「1999年労働安全衛生管理規則(Management of Health and Safety at Work Regulations 1999)」では、HSW 法の下で安全衛生管理のために事業者が何をするべきかが更に明確に示されている。この規則は、「1997年職場の火災予防規則(Fire Precautions (Workplaces) Regulations 1997)」とともに、従業員に対する火災の危険性をその事業者が公式に予測・評価することを義務付けている。HSEではなく消防当局が、これらの規則により監督指導している。「修正職場の火災予防規則(Fire Precautions (Workplace) (Amendment) Regulations)」は1999年12月に施行され、「1997年職場の火災予防規則」で除外されていた事業者にも直接同様の責任履行を義務付けた。同規則の条項では、事業者が適切な火災安全対策を講じることで事業場の関係者の保護を保証することを義務付けている。これは、事業場の「火災リスクアセスメント」に基づく柔軟な取り組みである。

火災安全法令案
 英政府管掌下のすべての火災安全政策・法令を主導しているのは、イギリス副首相府(Office of the Deputy Prime Minister: ODPM)である。スコットランドでは、スコットランド行政府(Scottish Executive)が火災安全政策と法令全般の管轄責任を有している。安全衛生委員会(Health and Safety Commission: HSC)と安全衛生庁(HSE)は、事業場の安全政策とその施行問題についてODPMや他の官庁と連携し、火災法令のあらゆる見直しにかかわってきている。
 ODPM は、建造物内の火災安全にかかわる法令の簡素化、合理化、及び集約化の試みとして火災安全法令を近代化するための青写真を発表した。新しい規制修正令(Regulatory Reform Order)は、2004年に施行される予定である。HSEは、この新政令が「1976年火災認証(特殊施設)規則(Fire Certificates (Special Premises) Regulations 1976)」を廃止することにも同意した。しかし、HSEは引き続き原子力施設におけるすべての火災予防の監督指導責任を有することに変わりはない。
 2003年7月、安全衛生火災予防規則の草案に諸大臣の承認が求められた。この規則は「2002年労働安全衛生管理及び火災予防規則(Management of Health and Safety at Work and Fire Precautions Regulations 2002)」と称される予定である。
 この規則により、「1999年労働安全衛生管理規則」の"民事責任の例外(civil liability exclusion)"を修正し、事業者が規則違反した結果生じた負傷や疾病について、その従業員が事業者に対し損害賠償請求をできるようにする。「1997年職場の火災予防規則」に関しても同様の修正をし、事業者がこの規則に違反した結果生じる負傷や疾病について、その従業員が事業者に対し損害賠償請求をできるようにする。
 新規則また、建造・修理中の船舶に対しても「1997年職場の火災予防規則」を施行し、HSEをその監督指導当局とすることが見込まれている。

火災リスクアセスメントの実施
 出版物「火災安全−事業者向けガイド(FIRE SAFETY - An employer's guide)」には、火災リスクアセスメントを適切かつ十分に実施するにあたって必要な5つのステップが以下のように説明されている。
1) 事業場の潜在的な火災の危険性の特定
2) 事業場で火災発生時に被害を受ける可能性のある人員の特定
3) 火災による危険度の評価、及び既存の火災防止策が十分であるかまた危険排除やリスク管理のためさらに講じるべき対策があるかの決定
4) 火災リスクアセスメントの評価結果と対応措置の詳細の記録
5) 火災リスクアセスメントの見直しと必要に応じた改定

ステップ1 事業場の潜在的な火災の危険性の特定
 アセスメントを成功させるには最低限で以下の3局面から火災リスク対策をすることである。
i ) 火災時の可燃物量の特定
ii ) 点火源となる可能性のあるものは何か
iii ) 火災発生時に何が起きるか

@)火災時の可燃物量の特定
 可燃材を特定し、総量を評価する。ひとつの火種からもうひとつに燃え移らせる要因となるようなボードや壁上の掲示物などほとんど目立たないものに留意すること。
 部屋の形状は重要である。そこは天井が高いか、または低いか。天井が低いと概して煙の上昇流の温度は高くなり、部屋内に火が早く回る。天井が高い(3メートル超)と煙の上昇流温度は低くなり、火の回りは遅くなる。

A)点火源となる可能性のあるものは何か
 点火源は必ずひとつはあるはずだが、潜在的な火種の数は非常に多い。電気コンセントと電気器具は点検すべきである。有資格の電気技師が配線と回路の保護システムをテストする必要がある。また、電気製品の定期保全手順、修理記録、回路の改造記録を明確にする必要もある。
 喫煙、電化製品の誤用と放火は依然として火災の主な原因となっている。建物のセキュリティが不備であったり、可燃物を放置していたりすると火災を起こさせる機会を人に与えかねない。業務請負業者の作業員は事業場に不慣れな場合が多いため、潜在的な火災リスクを周知している人が監督をしなければならない。

B)火災発生時に何が起きるか
 部屋間の仕切り壁の状況はどうなっているか。壁と天井間に隙間が開いていないか。壁は天井を超え、上階の床の下まで達しているか。天井と壁間に隙間が開いていると、部屋と部屋の継ぎ目から煙が広がる可能性がある。
 火の元である部屋内は火災により過圧となるため、煙と熱は他の空間に流れやすくなる。壁と壁の間や、上階の廊下に隣接する天井と壁間に隙間が開いていると、避難通路の安全性が損なわれる。
 廊下のドアやドアを閉める装置や中間ドアが、煙が廊下を伝播する速度を緩和する機能を正常に果たしているか、ドアは効率よく完全に閉まるか、ドアと壁間に隙間はできていないかを点検すること。
 建造物の外に脱出するための最寄りの非常口にいたるまでにはどれくらいの距離とするべきなのか。ほとんどの公認実施準則(Approved Code of Practice : ACoP)では、スタートポイントから安全な場所へ通じる最寄りの非常口までの移動可能距離は45メートルまでとしている。建造物によっては、これは入り口からロビーの階段までを意味する場合もある。現在の建造物の大半では、これは建造物自体から外に出るための出口を意味するはずである。

ステップ2 被害者は誰か
 潜在的な火災危険性を評価した後に、火災の危険により生命にかかわる被害がどの程度になるか判定する必要がある。この判定作業には、以下の事柄を明確にしなければならない。
避難経路と建造物からの非常出口が十分適切に備わっているか
袋小路に入り込むような「行き止まり」や「一方通行」があるか
火災報知用の設備があるか
 非常出口の数、幅、配置は、その出口を使用しなければならない最大人数と、そこに避難者が到達するまでの移動可能距離により決定する。移動可能距離は、2方向以上に避難口を設けられる空間では通常45メートル(障害物と備品の周囲を測定した時)とし、または避難口が1方向に制限される空間では18メートルとする。
 建設物に設置の警報の種類はどのようなものか。自動火災検知システムか、マニュアルの電気警報器か。自動火災検知システムでは自動的に火災が検知され、警報が鳴る。検知センサーヘッドの種類と火元への距離により検知システムの反応速度が決まる。マニュアルの電気警報器では従業員が火災を発見し、非常ボタンを覆うガラスを破って警報器を操作しなければならない。事業場に自動火災検知システムが設置されていれば、マニュアル式に比べ、早く警報を鳴らせることになる。

ステップ3 リスク評価
 ステップ1とステップ2は事業場の火災の危険と、その危険によりリスクを負う人の特定に役立つステップである。さて、ここでそのような人に対するリスク低減のために十分な対策を講じてきたかを明確にする必要が出てくる。このために、以下の質問を策定する。
既存の火災安全策は十分であるか。
点火源/燃料源の管理
火災探知/火災警報
避難対策
消防対策
火災予防のための保全と試験
火災安全にかかわるトレーニング
 この段階では、施設で発生する火災の危険度を低減するための改善策の実施が必要となってくるであろう。

ステップ4 評価結果と対応措置の記録
 従業員が5名以上の事業場で実施した火災リスクアセスメントの重大な評価結果は記録する必要がある。また、特にリスクが高いと特定された人の詳細も記録しなければならない。
 
ステップ5 火災リスクアセスメントの見直しと改定
 事業場に何らかの変更があった場合は火災リスクアセスメントを見直し、改定する必要がある。事業場に変更があると新しい火災の危険性が生じたり、事業場の人が被るリスクが増したりすることがあるからである。火災や"ニアミス"が起きると既存の火災リスクアセスメントが時代遅れや不十分である可能性があるので、リスクアセスメントを再実施する必要があることを認識しておく。

まとめ

 火災にかかわる新しい法令は、その大半がリスクアセスメント手法に基づいている。火災のリスクアセスメントの実施は実際よりずっと困難な仕事に見える。しかし、リスクアセスメントを実施し、最も大きなリスクを抱える分野を特定すると、事業者は、するべき事柄を明瞭に思い描くことができるようになる。火災発生のリスクを低減するために実践する管理対策は、事業場で働く従業員とその他の人の安全衛生を十分に確保できるものでなければならない。

詳細情報
「火災安全−事業者向けガイド(FIRE SAFETY - An employer's guide)」は、Stationery Office (Tel: 0870 600 5522)またはHSE(Tel: 01787 881165)で購入できる。価格は9.75ポンド。
火災予防及び火災関連の法令に関する更なる情報は、HSEのウェブサイトwww.hse.gov.ukで入手できる。


火災予に関する更なる情報は、HSEのウェブサイトのこちらでもご覧いただけます。