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電磁場(EMFs)を理解する

資料出所:The RoSPA Occupational Safety and Health Journal
「OS&H」|2004年2月号 p.18
(仮訳 国際安全衛生センター)



この記事では、ピーター・エリス(Peter Ellis)が電磁場(electromagnetic fields: EMFs)とは何かを説くとともに、こうした形の非電離放射線を放出する電気機器の種類を述べる。さらに、電磁場が健康に及ぼしうる急性および慢性の影響を述べ、欧州連合(EU)の電磁場に関する指令案を考察する。

 電磁場とは電磁波の一つの形であり、最大周波数は300GHzで、多くの家庭や職場に存在する。電力が使用されれば、かならず電磁場が生じる。電化製品は低周波電磁場を、通信機器や送信器は高周波電磁場を生み出す。

電磁場を生み出す電気機器の種類を以下に挙げる。
  • ラジオ、テレビ、CDプレーヤー、コンピュータ、電子レンジ、電気ポット、携帯電話
  • プラスチック溶接機、高周波加熱・乾燥機器、医療用診断機器、誘導電気炉、ティグ/ミグ/被覆アーク溶接機
  • テレビ・ラジオ放送用マストアンテナ、店舗および空港のセキュリティ探知装置、携帯電話基地局

電磁場の健康に対する潜在的影響力

 電磁場が人体に及ぼす作用は、周波数によって異なる。例えば携帯電話の生み出すような高周波電磁場では、全身および局部が加熱され、体温上昇につながる可能性がある。こうした急性効果はすでに立証されているが、実際にそれが起こるのは、強度の被暴があった場合に限られ、きわめて稀である。低周波電磁場では、中枢神経系の機能に急性効果が現れ、末梢神経や筋肉が刺激される可能性がある。さらに、誘導性の物体に触れると、感電性ショックや熱傷といった急性効果が生じる場合もある。
 健康への慢性効果としては、時とともに細胞にわずかな変化が生じ、癌の原因となる可能性がある。ただし、安全衛生・地方自治体執行連絡委員会(Safety/Local Authorities Enforcement Liaison Committee: HELA)が2002年9月に公表した地方自治体回覧(Local Authority Circular: LAC)報告書では、送電システムの生み出す50Hzの電磁場のような極低周波電磁場と癌のリスクに関する最新の研究を分析している。
 LAC報告書のもとになったのは、電磁場と癌のリスクに関する科学的証拠を検証した放射線防護委員会(National Radiological Protection Board: NRPB)の1992年の報告書である。この報告書では、発癌性の証拠は被暴制限に関する既存ガイドラインの変更を促すほど十分ではなく、せいぜい、さらなる研究を正当化する程度にすぎない、と結論づけている。
 この報告書が公表されて以来、数多くの研究結果や文献検討結果が発表されてきた。同時に、極低周波電磁場が健康に悪影響を及ぼすと断言する報道や宣伝も盛んになってきた。これを受けて、HELAの諮問グループは、極低周波電磁場の被暴に関する実験データや疫学的データを広範囲にわたり洗い直してきた。
 2001年3月、HELAは極低周波電磁場だけを取り上げた報告書を発表した。同報告書の主な結論は、以下の通りである。
 「研究室における実験では、極低周波電磁場が癌を誘発し得るという十分な証拠は得られなかった。また、人間疫学的研究においても、極低周波電磁場が癌全般の原因となることを示す結果は得られなかった。
 ただし、子どもにおいては、長期にわたる高度の電磁場被暴と白血病のわずかなリスクとの間に関連性があるという、一定の疫学的証拠が得られた。実際には、英国の人々がこれほど高度の被暴に直面することはまずない。成人における発癌性の明確な証拠がなく、動物や単離した細胞の実験でも妥当な理由が示されていない現段階では、電磁場が小児白血病を引き起こすと確実に結論づけるほど、強力な疫学的証拠があるとは言えない。
 とはいえ、さらなる研究により、こうした研究結果が単なる偶然あるいは現在認識されていない何らかの人為的影響の結果であることが示されない限り、長期にわたる高度の電磁場被暴が小児白血病のリスクを増大させる可能性は捨てきれない」
 ただし、同報告書では、職業被暴を受けた成人においては、電磁場被暴と腫瘍発生との間に因果関係は認められなかったと明記している。

安全衛生法規

 英国には、従業員を電磁場から保護するための特別な法規制はない。しかし、1974年労働安全衛生法の第2条では「事業者は合理的に実行可能な範囲において、その全ての従業員の就労中の安全衛生および福利厚生を実現する義務を負う」と定めている。事業者に対して適切かつ十分なリスク評価実施を義務づけた1999年職業安全衛生管理規則(Management of Health and Safety at Work Regulations 1999)の第3条(regulation 3)では、これが明白に義務付けられている。
 国際非電離放射線防護委員会(International Commission on Non-Ionising Radiation Protection: ICNIRP)および英国の放射線防護委員会(National Radiological Protection Board: NRPB)は、電磁場被暴に対する基本指針を定めている。この指針では「基本制限(Basic Restrictions)」、つまり人体内に誘導される電流密度もしくはエネルギー吸収に関して被暴制限値を定めている。「基本制限」は、悪影響が予想される水準を下回る水準に設定されている。ただし、電流密度やエネルギー吸収は直接計測できないため、代わって「参考レベル(Reference Levels)」が用いられる。「参考レベル」は、発生源から生じる外的な電磁場強度を示すもので、計測可能である。
 計測された電磁場強度がしかるべき「参考レベル」を下回れば「基本制限」は超えていないことになる。一方、計測値が「参考レベル」を上回る場合には、「基本制限」を超えている場合と超えていない場合とがあり、さらなる調査が必要となる。
 現行制定法を遵守し、ICNIRPとNRPBの指針を実行すれば、従業員を電磁場の有害な影響から保護する一助となり、事業者が刑事告発や、不満を持つ従業員からの民事訴訟を避けるのにも役立つだろう。

EU電磁場指令

 現在提出されている欧州連合(EU)の電磁場指令案は、被暴の急性効果を根拠とし、ICNIRPの職業被暴に対するガイドラインを用いたもので、リスクアセスメント、被暴管理、健康監視および健康情報、指示と訓練に関する条項を含む。十分な科学的証拠のない低レベル被暴の長期的影響には、特に触れていない。この指令案では、ICNIRPの「参考レベル」を「行動値(Action Values)」、「基本制限」を「制限値(Limit Values)」と言い換えている。
 「制限値」は既に証明された健康への影響と生物学的検討事項を直接の根拠としている。これらの「制限値」を遵守すれば、電磁場被暴を受ける労働者をあらゆる既知の有害な健康への影響から確実に保護することになる。「行動値」とは、電界強度(E)、磁界強度(H)、磁束密度(B)、出力密度(S)といった直接計測可能なパラメータによって求められる値で、この値に達すると、同指令の定める一つまたは複数の措置をとることが必要とされる。「行動値」を遵守すれば、該当する「制限値」を確実に守ることになる。

新指令に対する様々な見解

 多くの事業者団体は、電磁場が重大な危険性をもつという十分な証拠はないと主張している。また、2003年6月にEU加盟国間で協議された指令草案が、原案となったICNIRPガイドラインと異なっていたことにも、怒りを露わにしている。これら事業者団体に言わせれば、最も重要な違いは、ICNIRP指針の定める「基本制限」が指令案においては、超過すると刑事上の犯罪と見なされる水準にすりかわっていることである。
 エンジニアリング事業者連盟(The Engineering Employers' Federation: EEF)は、ブリュッセルにおいて関係官僚および政治家らと一連の会談を行っている。EEFの安全衛生環境顧問、スティーブ・ウォルターは次のように語る。「当連盟は、この指令案にはその導入を正当化するだけの根拠も、事業への影響を裏付ける証拠もないという、会員企業の懸念を声に出して訴えました。電磁場被暴によって従業員が病気になったり怪我をしているなどという事実はありません。イギリス安全衛生庁(HSE)は、この指令案に対する「規制インパクト評価(Regulation Impact Assessment: RIA)」のなかで、同指令案を採択してもなんら安全衛生上のメリットはないと結論づけています。つまり、これらの必要条件を導入しても、コストを増やすことにしかならないのです」
 EEFをはじめとする事業者団体は、英国製造業のきわめて脆弱な現状を懸念し、この指令は英国経済の重要なセクターである製造業に対する無用の負担になると見なしている。ウォルター氏はこうつけ加える。「新指令が製造業にどのような影響を与えるかについて、正確な情報が不足しています。そこでEEFでは、この指令案が溶接業界に及ぼす影響について自費で調査を行っています」
 一方、欧州の他の事業者団体は、現行の指令案が医療現場で用いられる磁気共鳴装置や溶接機の利用を妨げかねないと懸念している。また、送電網における重要な作業や電流が通じている電線の保守にも、支障が出てくる可能性があると見ている。さらに、塩素生産、プラスチック加工、誘導電気炉などの設備が閉鎖を余儀なくされる可能性もあり、その他あらゆる業界に、余計な適合性評価の負担を強いることになりかねないと、これら団体は考えている。
 欧州の企業を代表するある団体も、この指令案に不満を抱いている。というのも、この司令案が事業者に対し、被暴する従業員の健康監視を義務付けているからである。こうした義務付けには根本的に不備がある、とこの団体は主張する。なぜなら、現段階では、電磁場への急性暴露を特定できるような健康監視技術がないからである。したがって同団体は、法規制の導入以前にまず指針を示すよう求めている。
 労働組合会議(TUC)のスポークスパーソンは、HSEは「規制インパクト評価(RIA)」を実施したものの、この指令案が現行の形のまま発布されるとは誰も思っていない、と述べている。最終的な指令はかなりトーンダウンして、一部の事業者団体が示唆するような産業への悪影響のない形になるだろうと、彼は見ている。

指令の進展

 一方、HSEは、指令案に関する交渉の過程で、多くの成果が得られたと述べている。指令は、今では周知の急性効果だけを適用の対象とし、被暴の「制限値」と「行動値」は広く用いられているICNIRPの「基本制限」および「参考レベル」と同義となっている。また、被暴「制限値」を下回る被暴にはなんらリスクがないことが文中に明記され、必要な措置はすべて「行動値」ではなく「制限値」と関連付けられるべきであるとの認識が受け入れられている。こうした事実は、リスク緩和を重視する姿勢とともに、大幅なコスト削減をもたらす重要要因となっている。また、健康監視に関する詳細な要求条件も削除され、「適切な」健康監視を求める大まかな規定に代えられている。

まとめ

 EEFは、こうした指令案の変更は、従来案から見て改善であると考えているが、電磁場への急性暴露と健康障害との偶発的関連性を示す科学的証拠がない限り、法規制は不要であると、依然として感じている。さらに、英国に数多くある中小企業の多くにとって、従業員の電磁場への急性暴露を検出するための健康監視の実施は、コストがかかりすぎるとも考えている。
 指令案の文面は現在、欧州議会において二度目の検討がなされており、2003年11月3日に初の意見交換が行われた。HSEは今後も、指令の進展に関する情報を産業界に提供し続ける予定であり、間もなく「規制インパクト評価(RIA)」の改定版を配布する予定である。RIA改定版は、産業界にとっての大幅なコスト削減を示すことが期待される。

詳細情報

電磁場および労働者保護に関するさらに詳しい情報は、次の窓口まで。
HSE  カースティ・マーシャル(Kirsty Marshall)
電話0207-717-6254 FAX020-717-6199
電子メール Kirsty.Marshall@hse.gsi.gov.uk