HSEは「監督指導方針」の見直しについての一般からの意見募集に引き続き、安全衛生に関する処罰について意見を求めている。これは、「企業の行動を変えさせるためにはもっと革新的な処罰が効果的だ」という多くの声に応えることをHSCが約束していることから来ている部分もある。
例えばHSCが考えている処罰は、
- 売り上げ、利益に連動する罰金、
- 一定期間、役員賞与の禁止、
- 管理職の停職(無給)、
- 改善努力に応じ、刑の執行猶予、
- 強制的安全衛生教育、
- 運転免許証のようなポイントシステムによる処罰、
- 特定の違反について固定した処罰(裁判を減らすため)、
- 福祉問題については操業停止命令の繰り延べ(直ちに停止させる方が事態を悪化させる場合)などがある。また社会奉仕命令(CSO)も考えている。
HSEは次の点について意見を求めている:
(1) どんな処罰が安全衛生法の執行に効果的か
(2) 新しい処罰が実行可能で、罪状に応じて適用できることをどうやって担保するか
(3) 現在の罰が適当かつ効果的で、新しい罰は必要ないか
(4) 法令遵守を継続させるためにはどんな罰がもっとも効果的か
RoSPAとしては、処罰の問題は、よりひろく、企業殺人に関する法改正や監督当局のより厳しい権限行使も含め、より広い文脈で考えるべき問題だと思う。
法人責任センター(CCA)などでは、大事故(特に上がまじめにやっていれば防げたもの)についてHSEが調査や訴追をきちんとやってないから「司法のギャップ」があると思っている。
RoSPAやBSC、IOSHは「厳しい監督指導は歓迎だが、事業者のモチベーションを上げるような広い取り組みも必要。法の厳しい適用はあくまで一つの手段」と考えている。
RoSPAは、これまで事業者に安全衛生のレベルを向上させる手段を議論してきた。それは、労働者の参画、保険会社がビジネスの観点から焦点を当てる、企業の顧客(政府も含め)から圧力をかけさせる、ビジネス助言サービスに安全衛生を取り入れるなどである。しかし、これらは政府がやっている「HSEのリソースを増やす」ということに対する代案ではない。それは依然として必要だ。
違反者に厳しく当たるのはよいが、当局が能力のすべてを訴追にかけてしまうと、情報、意識向上、助言などがおろそかになり全体の安全衛生は悪くなる。
RoSPAはずっと「改善を行わせる判決」について提唱してきた。これは例えば、単に罰金を課すのではなく徹底的に安全衛生管理を見直すよう要求するようなものである。HSE以外の外部の安全衛生専門家(複数)を裁判所が任命しこれにあたらせる。費用は違反した会社が負担する。安全衛生専門家はスーパーバイザーとして行動し、改善措置が期限内に行われたか、また今後何が必要かを裁判所に報告する。改善ができなかったところは猶予されていた罰金を払う。
最も重要なことは処罰が何を目的としているかについて合意することだ。反社会的ということで罰金や懲役を課すことか?見せしめ効果で抑止力とするのか?将来の行動変化を促すことか?
目的を達成するためには処罰が状況に合わせカスタムメイドされないといけない。また利害関係者(犠牲者だけでなく、現在・将来の従業員、地域)のことも考えなければならない。反社会的だとして巨額の罰金を科して倒産・失業となって何の得があるのか。
重要なことは裁判所が刑の根拠を説明することだ。安全衛生の場合といえども、そのアプローチは同程度の重大さを持つ他の違反の場合と同じでなければならない。いかに意図的でないとはいえ安全衛生法違反は犯罪であって運の悪い間違いではない。
見せしめは、特定の業界や特定の問題で、法令遵守への態度を変えさせることができるような場合は考えるべきだ。監督指導を無視するのが目に余るような場合は収監を考えてもいいだろう。
より軽い違反に対しても手段は罰金だけではない。社会奉仕命令(CSO)もある。
安全衛生法違反で有罪となったものに、利害関係者への情報提供及びウエブ等を通じての一般公開を義務付けることもできよう。有罪となった役員、責任者等の氏名も含め。
違反を繰り返す企業は「保護観察処分」とし、特定の危険有害業務だけでなく、操業を禁止することもありうるだろう。
企業を裁判所に突き出すことは時間を浪費し、HSE監督官の災害防止活動を阻害し、安全衛生に悪影響を与える。従って裁判所を経ないで、監督官が行政上の罰金を課すことができるような新しい仕組みができると大きな効果がある。
これを運転免許証のペナルティポイント方式(監督官、又は裁判官が課す)と結び付けてもいいだろう。このポイント制度を個人に適用することもできる。ポイントが限度を越えると、強制的外部監査を行ったり、「保護観察」としたりすることもできる。是正をよくやったところはポイントを減点する。
また別なやり方で、監督官に正式な警告権を付与する手もある。この場合、警告は将来訴訟手続きで証拠として使用する前提である。
一方、行政罰にせよ、ポイント・警告にせよ、監督官が裁判官と陪審の両方を兼ねると、自然法(natural justice)に反することになるので、十分な不服申し立て制度をつくる必要がある。
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